優秀だが、人づき合いの悪い部下がいた。人とつき合ってつまらないおしゃべりをするのは時間のムダと、さっさとひとりで帰ってしまう。
あるとき、部長が彼に話しかけた。
「キミは寺田寅彦という物理学者を知っているかね」
「ええ、『天災は忘れた頃にやってくる』という名言を残した人ですね」
「そのとおり。ところで、この人の随筆のなかに、こんな言葉がある。
『頭のいい人は足の早い旅人に似ている。人より先に目的地につくこともできるが、途中の道端にある肝心なものを見落とす恐れがある』これをキミにプレゼントしよう」
日頃から、よい比喩の採集を心がけよう。ここぞという場面で、狙い定めて適切な比喩を放てば、一瞬にして相手を説得することも可能になる。
「たとえ話」を生かして
場面を浮かばせる
一口に、「たとえ話」といっても、いろいろあるが、共通するのは、場面がありありと浮かび、わかりやすく説得力に富む点だろう。
本書でも、これまで随所に「たとえ話」を使ってきた。すなわち、
・主張の裏打ちとして
・メリットを強調するため
・聞き手の共感を得ようと
引用するのだが、最終的には説得が目的である。日本人は、なかなか「質問」をしない。もっと質問するように説得する際、「たとえ話」を使うとどうなるか。
スペイン語を勉強している日本の女性が、スペイン人の先生から、
「辞書の引き方、知っていますか」
「はい、知っています」
「それでは人間の辞書を引いたことありますか」
「人間の辞書ってなんですか」
「私のことです。紙の辞書より正確だし、会話の能力を向上させるのにも役に立ちますよ」
スペイン人の先生は、おもしろいたとえ話を使って、もっと質問するように、日本の若い女性を説得しているのである。
よくできた「たとえ話」はあなたの言いたいことを代弁してくれ、人をその気にさせる働きをしてもくれるのだ。