きょうの社説 2010年5月16日

◎教員の大量採用 質確保の工夫も問われる
 石川、富山県教委の来年度の教員採用数は、今年度より100人規模で増加し、それぞ れ350人、300人程度になる。今後の教員大量退職に備え、今から採用を増やし、年齢構成のバランスを保つ狙いだが、優秀な人材を確保するには採用増に見合った受験者数が必要である。

 かつて10倍を超える難関だった両県の採用倍率も、最近は5倍台で推移し、富山は今 年度、4・7倍に下がった。採用側にすれば、これ以上の落ち込みは避けたいところだろう。全国的にみれば、倍率が2、3倍台に低下した首都圏など大都市部は、地方試験を拡大し、人材獲得に必死になっている。このままではUターン希望者も奪われかねない状況である。

 石川県教委は今年、富山、新潟県に加え、京都の大学でも採用説明会を開催する予定だ が、教員争奪戦の激しさを考えれば、人材を求めて外へ積極的に出ていくのは当然である。大量採用を続けるからには、それに応じた質の確保も課題である。適性を見極める選考試験や、採用後の研修の在り方にも一段の工夫が求められている。

 教員の採用は、団塊ジュニア世代が大量入学した時代に大幅に増えた。その時期に採用 された世代はこれから退職期を迎えるため、来年度の採用数は、石川県教委が過去20年で最多、富山県教委も過去20年では1991年度の408人に次ぐ規模となった。

 教員選考の難しさは、知識が豊富であることと、それを子どもたちに理解させる力が必 ずしも一致しない点にある。模擬授業で「教える力」を見極めるなど評価手法の改善が進んだが、受験者が以前ほど集まらなければ、人物の見極めは一層重要になる。

 神奈川県教委は今夏の小学校教員採用試験で、青森、山形、愛媛、沖縄県教委と連携し 、4県で昨年実施された1次試験合格者を対象に、神奈川県の1次試験を免除する。小学校教員の倍率が2・4倍に落ち込み、他県の人材に頼らざるを得ない異例の措置である。

 そうした大都市部の危機感は、地方の人材確保にも確実に影響を及ぼし始めている。地 元の大学も県教委と認識を共有し、人材定着で歩調を合わせてほしい。

◎ネット選挙 語る力が疎かになる恐れ
 インターネットを利用した選挙活動の解禁で与野党が大筋合意し、夏の参院選から導入 される見通しとなった。今国会で公選法を改正し、ホームページ(HP)とブログに限って選挙期間中も更新を認める方向である。

 いまや国会議員の多くがHPを開設し、日々の活動報告や政策への見解を示している。 そうした内容を最も知りたい選挙期間中に、有権者が情報を得られにくいのは不自然である。ネット選挙の解禁は時代の流れでもあろう。

 選挙でのネット活用は、若い世代の政治への関心を高め、投票率アップにつながる、選 挙にカネが掛からなくなるなど、さまざまな利点が強調されている。だが、今の政治状況をみれば、ネット解禁で政治家の言葉がますます軽くなり、政治の劣化を招かないか、負の側面も心配せざるを得ない。

 普天間問題で迷走する鳩山由紀夫首相の一連の言動や、小沢一郎民主党幹事長の政治と カネの問題に関する説明をみても、ナマの言葉で国民を説得し、信頼を得る「言語力」が政治家の最も大事な資質であることをあらためて感じる。

 ネット時代になっても、議員が言葉の力で政治を動かしていくことに変わりない。ネッ トの手軽さに依存した選挙戦術に偏るあまり、大衆の前で語る力や演説力を磨く努力が疎かになっては本末転倒である。ネット選挙にしても、訴えかける言葉の中身が問われていることを認識する必要がある。

 今の政治活動はメールや「つぶやき」と称される簡易投稿サイト・ツイッターも当たり 前になっている。これらのツールについては、他人がなりすます恐れがあるとして対策を講じるまで選挙での解禁が見送られる方向だが、いずれ認められるとしても、伝える中身が空疎な身辺雑記や投票呼び掛けだけにとどまっていては寂しい。

 米国ではネット選挙が当たり前だが、それがうまく機能しているのは、候補者同士のデ ィベートが政治文化として定着し、「演説社会」の土壌の上にネット選挙が成り立っているからである。今の日本の政治に、そうした基盤がどこまで整っているだろうか。