きょうのコラム「時鐘」 2010年5月16日

 うれしいことに、華やかな子供歌舞伎の伝統が当地では息づいている。先月の砺波市出町に続き、お旅まつりの小松で華麗な舞台が演じられている

芝居のシの字の心得のない者でも、なぜか心引かれる。ことしのお旅まつりの演目は、武士の悲劇を主題にした一幕と切ない悲恋物語。忠義と裏切り、道ならぬ愛と悲しみという複雑な人間模様を、子供たちが演じる

PTAから「子供に見せたくない芝居」と、ヤリ玉に挙がる中身である。が、脈々と続く伝統は、「それがどうした」と意に介さない。逆に、裏切りや悲恋の「迫真の演技」を指導する。もっと背伸びして演じてみろ、と励ます

子供役者たちは、大人になってもせりふを大概覚えているという。理解できぬまま口にした言葉の意味が、時がたってから分かってくる。そうして会得する美しい日本語の世界もある。大人の教材を使ったすてきな課外授業である。食べやすい食材だけが栄養になるわけではない

お子さま向けがあふれる時代である。だからこそ、歯が立たないような芝居に挑み、懸命に背伸びする子供役者に引かれるのだろうか。