A君は1年間の内勤を経て、期待に胸を膨らませて課長の営業に同行していました。この課長、客先では「夢が大事ですよ」と言っていますが、同行中はいつも素っ気ない態度で、喫茶店では長時間マンガを読みふける始末です。A君には仕事をサボることが信じられません。そこである日、思い切って課長に聞いてみました。
「お客様には『夢が大事だ』と仰っていますが、課長の夢は何ですか?」
すると課長はこう答えたそうです。
「ああ、俺か? 俺には夢なんてないよ」
この時、A君は退社を決意したそうです。このままでは仕事を身に付けることもできず、いずれは課長と同じようになってしまうのではないか、と感じたからです。A君が退社を決意した本当の引き金は、課長の心ない一言にあったのです。
逆に、このような話もあります。
私の顧問先に、地域密着営業を行う機械工具商社があります。この会社の社長はかなり教育熱心で、新入社員のフォローのために「家庭訪問」を行うほどです。さらに、新入社員1人1人に「職場相談員」として先輩社員を付け、外部研修なども活用して若手を育成しています。私がお付き合いして5年以上になりますが、その間、若手社員は1人も辞めていません。
ある日、ここの社長にライバル会社の社長から電話がかかってきました。同じ業界団体に加入しているので、トップ同士は知り合いです。
その電話で、ライバル会社の社長は「おたくの会社は社員が辞めないそうだけど、いくら給料を払っているのか?」と聞いてきたそうです。このライバル会社では、いくら給料を上げると言っても若手社員がすぐに辞めてしまうとのこと。この会社では「営業はセンスだ!」という考え方の社長のもと、教育らしい教育はほとんど行われていないようです。
営業組織のトップが「営業はセンスだ!」などと言って教育を行わなければ、よほど営業向きの人材でない限り、一人前に育つことはありません。ひと昔前のように日本経済が大きく伸びていた時代なら、放ったらかしでも何とかなったかもしれません。しかし今は時代が違います。組織のリーダー、すなわち営業マネジャーがきちんと教育しなければ、若手社員は将来の見通しが立たなくなり、会社を辞めてしまうのです。