プロゴルファー横峯さくら選手がツアーで初勝利した日は、筆者には苦い記憶として刻まれている。
05年4月17日、熊本空港CC。現地から運動面に原稿を送った。ところが、しばらくして記事を差し替えろと本社がいう。社会面と内容にダブりがあるらしい。社会部記者がどんな原稿を出したのか知らない。時計を見た。締め切りまで30分しかない。
スポーツ記事はプレーをどう見、どう感じたかで、おのずと切り口は決まる。二つも三つも切り口はない。
思案した。で、私は自販機の前に立っていた。タバコの。紫煙に“天啓”を求めた。この瞬間、3カ月目に入っていた私の禁煙生活は音を立てて崩れた。
天啓? ひらめきもしなかった。あの時の原稿の代償を今も払い続けているのだから、浅慮を嘆くしかない。
横峯選手がツアーで得た賞金を口蹄疫(こうていえき)禍の県に寄付するという。みずみずしく、あどけない笑顔の19歳だった。あれから5年。駄目な中年男は、支局の裏庭で煙をはきながら、この差を思う。【籔田尚之】
毎日新聞 2010年5月15日 地方版