2010年5月2日(日) 東奥日報 社説



■ 認知度高め安全な運行を/八戸のドクターカー

 「劇的救命! その先の笑顔のために」。4月に発行された八戸市の広報「はちのへ」の表紙に、ドクターカーを囲む八戸市民病院救命救急センターの医師たちの写真が載っている。

 同病院を拠点にドクターカーの運行が始まったのは3月29日。医師が車に乗り込んで現場に駆けつけ、一刻も早く重症患者の治療を開始し、救命率の向上を図るために導入した。

 写真に添えた言葉「その先の笑顔のために」という医師らの決意が頼もしい。

 そのドクターカーが4月13日夜、交通事故に遭い、修理のため運行できない状態が続いている。

 現場に向かうドクターカーと乗用車が交差点で出合い頭に衝突した事故だった。八戸警察署によると、ドクターカーは赤信号で交差点に進入し、黄信号で左方向から進入してきた乗用車と衝突したという。双方にけが人がなかったのは不幸中の幸いである。

 個々の事故にはそれぞれ個別の原因があり、一概に論じることはできない。ただ、八戸市民病院の幹部は全体的な状況として「ドクターカーの運行が始まったばかりであり、『緊急自動車』であるという認知度はまだ低いのではないか」という見方を示している。

 ドクターカーは、消防車や救急車、パトカーなどと同様に、道路交通法でいう「緊急自動車」である。緊急走行する際は、赤色灯をつけ、サイレンを鳴らす。

 救急車などに道を譲るのと同じく、ドクターカーが安全かつ迅速に救命の使命を果たせるよう、あらゆるドライバーがさらに理解を深める必要がある。

 事故を教訓に、病院側も対策を進めている。ドクターカーの運転手は3人の交代制だが、うち1人は緊急自動車の運転経験者を新たに採用する。サイレンの音がより聞こえやすくなるよう調整するなど、車への工夫も加える。認知度アップへ、市の広報などを通じたPRにも努める方針だ。

 八戸のドクターカーの運行は、八戸市と周辺の8市町村でつくる八戸圏域定住自立圏の事業だ。3月29日の運行開始から事故前日の4月12日までの15日間の出動は21回。平均で1日1回以上出動している。

 広報「はちのへ」の表紙写真には、八戸市民病院のドクターカーとドクターヘリが並んで写っている。同病院は県のドクターヘリ運航の暫定拠点でもある。患者を救うため、空でも陸でも現場へと飛び出す医師らスタッフの志と熱意には、率直に敬意を表したい。

 ヘリの運航拠点は2011年4月にも青森市の県立中央病院に移される予定だが、「県病で1機運航」とする県側と、「2機にし八戸でも運航継続を」と希望する八戸市側との議論が今後、本格化する見込みだ。

 ヘリは全県的な議論になるが、ドクターカーは地域単位で導入が可能である。「八戸以外の地域でも導入してほしい」と願う県民の声はあるだろう。

 八戸のドクターカーは今月上旬〜中旬に運行を再開する見込み。八戸の取り組みは県内でのモデルになるはずであり、そのためにも安全でスムーズな運行体制の確立が期待される。医師らが願う通り、患者らの「その先の笑顔のために」。


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