西日本新聞

沖縄「返還」から38年 負担と犠牲、いつまで強いる

2010年5月15日 10:45 カテゴリー:コラム > 社説

 戦後27年間続いた米軍による占領・支配から沖縄が日本に復帰して、きょうで38年になる。

 平和憲法を持つ祖国への復帰は、沖縄の人々にとって「基地の島」から脱することをも意味していた。

 しかし、在日米軍基地の多くを押しつけられている沖縄の状況は、いつまでたってもほとんど変わらない。

 14年前に日米が合意した米軍普天間飛行場の返還が実現せず、政治の中で迷走している現実は、沖縄の苦悩がいまも続くことを実感させる。

 「祖国復帰」の日に「平和で豊かな沖縄の建設に努めなければならない」と誓った当時の首相の決意のむなしさと、「普天間」問題で「沖縄のみなさんの思いは大切にしたい」と言い続ける現首相の言葉の軽さが、38年の時を超えていま重なり合う。

 ▼「普天間」が問うもの

 昨年9月の政権交代以来、迷走を続ける普天間飛行場の移設計画見直し問題が、ようやく動きだした。

 基地返還に伴う代替施設の移設先を決めかねていた政府が今週、新たな移設案を米側に提示し、日米の協議が実質的にスタートした。

 米海兵隊の基地キャンプ・シュワブがある名護市辺野古周辺を移設地域とし、沖合に「くい打ち桟橋工法」で代替滑走路を建設するというのが、米政府に提示した移設案の柱だ。

 これに鹿児島県・徳之島などへの普天間の基地機能分散や、空軍を含む在沖米軍の全国の自衛隊基地や演習場への訓練移転など「沖縄の負担軽減」をパッケージとして提案している。

 何のことはない。自民党政権が2006年に米政府と合意した辺野古沿岸部を埋め立てる現行計画と大差ない。既存の日米合意案の修正である。

 この移設案なら、現行計画をベストという米側の理解が得られるかもしれない。少なくとも日米両政府で当面の協議対象になり得る案ではある。

 政府はそう考えているのだろうが、米側は徳之島などへの基地機能の分散に難色を示している。この案で日米が早期合意するのは困難だろう。

 にもかかわらず、移設案提示を急いだ背景には、日米協議をスタートさせることで、鳩山由紀夫首相が約束した「5月末決着」の意味合いをぼかし、首相の政治責任を回避したいという政権維持への思惑もありそうだ。

 だとすれば、姑息(こそく)だ。しかも、かつて検討された辺野古への移設である。首相の「最低でも県外」の言葉を信じ、鳩山政権に期待してきた沖縄県民の落胆と怒りは計り知れない。

 鳩山首相も沖縄の民意が国外・県外移設であることは重々承知しているはずだ。移設候補地に挙げた名護市や徳之島の首長からは直接、受け入れ拒否を伝えられている。

 それでも辺野古に舞い戻った。5月末決着を意識して、米政府の意向を優先して結論を急いだのであれば、民意無視である。沖縄県民の思いを踏みにじる行為と言わざるを得ない。

 「沖縄の思いを大切に」と言いながら進めてきた鳩山政権の普天間移設見直し作業は、何のため、誰のためのものだったのか、疑いたくなる。

 首相の言葉と行動のこの「落差」が沖縄の不信と怒りを一層募らせる。それは同時に、本土に暮らす私たちに向けられたものでもある。

 国の安全保障負担を押しつけていながら、基地問題を自らの問題として考えることをどこかで避けている本土への抗議と受け止めるべきだろう。

 日本人がいま享受している「平和な日常」は、沖縄の犠牲と負担の上に築かれている。それに気づかないふりをしているとすれば、意図しなくとも沖縄への差別となる。そのことに私たちは気づいているのか。

     ×     ×

 「普天間」問題は本来、市街地にある「世界一危険な米軍飛行場」の返還問題であり、政治的には長年、国が沖縄に強いてきた過酷な基地負担を軽減する象徴的な意味を持つ。

 政権交代を踏まえて前政権時代の日米合意の経緯や内容を検証し、新たな方途として国外・県外移設の可能性を探るという現政権が目指す方向性は、恐らく間違ってはいない。

 首相に求められるのは、現行案の修正での性急な決着ではない。

 日米同盟の根幹をなす在日米軍の抑止力をどう維持し、日本としてそのコストをどう分担するか。日米安保の根本を米政権と一から議論し直し、普天間移設問題の解を見いだす政治の力量と政治指導者としての気概だ。

 もちろん、「普天間」問題で試されているのは首相や政権だけではない。与野党やメディア、国民の「沖縄観」も同時に問われている。

 沖縄に押しつけてきた安保負担は本来、日本人すべてが共有すべき負担であるはずだ。5月15日を国民一人一人がそのことを問い直す日にしたい。

     ◇     ◇

 太平洋戦争の沖縄戦末期の1945年6月、沖縄根拠地隊司令官だった大田実少将は海軍次官にあてた電報の最後に、こう記して自決した。

 「沖縄県民斯(カ)ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜(タマワ)ランコトヲ」

 沖縄の現状を考えるとき、私たちが忘れてはならない言葉だろう。

=2010/05/15付 西日本新聞朝刊=

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