格差社会の中心で友愛を叫ぶ
【第20回】 2010年5月14日
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西川敦子 [フリーライター]

低収入、ストレス病の夫が捨てられる!?
家族崩壊を招く「謎のうつ100万人時代」

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 苦しいときこそ妻が味方になってくれるはず、と男性は信じて疑わない。そこで「近頃、よく眠れないんだよね」「もしかしたらうつ病になったのかな」などと妻に相談を持ちかける。だが、打ち明けられた方は“引く”だけだという。

 さらに「産業医のところへ行ってきたよ」「精神科を受診した」などと夫から告白されれば、ただちに離婚準備をスタートする。荷物をまとめたり、子どもの転校準備の手続きをしたりと水面下で活動を続け、準備万端整ったある日、突然姿をくらますのだ。

 「経済情勢が悪化し、メンタルヘルスの悪化が失業に結びつきやすくなっている。そのせいで、昔に比べ『うつ病なら離婚もいたしかたない』という空気になっています」(澁川さん)

 もちろん、夫を支えて頑張る妻も少なくないだろう。しかし、うつ状態の夫と同居し続けることは、生易しいことではない。妻にまでうつの気分が伝染したり、お互い言葉の暴力で傷ついたりする。しかも夫が休職すれば、その間に受給できる傷病手当金は従来の給与の3分の2。住宅ローンや教育費が家計に重くのしかかってくる。

 実家に戻って両親に子どもを預けフルタイムで働けば、少なくとも家事や育児のストレスはかなり軽減される。家賃も払わなくてすむ。愚痴っぽい夫に縛られるより、そのほうがずっとましと考える女性は多いのかもしれない。

 相談者には「慰謝料なんてどうせうちのダンナには支払えっこない。それより、手遅れになる前に一刻も早く離婚したいんです。あまり重症化すると、別れるに別れられなくなるから」などの声が多く、かなりドライに現実を受け止めている様子がうかがえるという。

 「ただし精神疾患が離婚の理由になるのは、回復する見込みがない場合のみ。うつ病や適応障害などで認められるケースはまずない、と考えた方がいい。暴力をふるったとか、不貞があった、などの事情があれば別ですが。そのあたりの事情を把握している妻たちは、別の理由を見つけて離婚に持ち込みます」(澁川さん)

家族イデオロギー
崩壊時代に突入

 「つらいときはお互いに助け合い、思いやるのが夫婦であり家族だ」「夫を支え、子どもを慈しむのが妻として当然の務めだ」

 こうした考え方が生まれたのは、じつはそう昔のことではないようだ。

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西川敦子 [フリーライター]

1967年生まれ。上智大学外国語学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、独立。週刊ダイヤモンド、人事関連雑誌、女性誌などで、メンタルヘルスや介護、医療、格差問題、独立・起業などをテーマに取材、執筆を続ける。西川氏の連載「『うつ』のち、晴れ」「働く男女の『取扱説明書』」「『婚迷時代』の男たち」は、ダイヤモンド・オンラインで人気連載に。


格差社会の中心で友愛を叫ぶ

現代社会でなおも広がり続ける「格差」。この連載では、人々の生の声を拾い、悲惨で理不尽な状況に苦しむ姿などから格差の現状を伝えていく。果たして現政権が唱える「友愛」の光はここにも届くのか――

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