苦しいときこそ妻が味方になってくれるはず、と男性は信じて疑わない。そこで「近頃、よく眠れないんだよね」「もしかしたらうつ病になったのかな」などと妻に相談を持ちかける。だが、打ち明けられた方は“引く”だけだという。
さらに「産業医のところへ行ってきたよ」「精神科を受診した」などと夫から告白されれば、ただちに離婚準備をスタートする。荷物をまとめたり、子どもの転校準備の手続きをしたりと水面下で活動を続け、準備万端整ったある日、突然姿をくらますのだ。
「経済情勢が悪化し、メンタルヘルスの悪化が失業に結びつきやすくなっている。そのせいで、昔に比べ『うつ病なら離婚もいたしかたない』という空気になっています」(澁川さん)
もちろん、夫を支えて頑張る妻も少なくないだろう。しかし、うつ状態の夫と同居し続けることは、生易しいことではない。妻にまでうつの気分が伝染したり、お互い言葉の暴力で傷ついたりする。しかも夫が休職すれば、その間に受給できる傷病手当金は従来の給与の3分の2。住宅ローンや教育費が家計に重くのしかかってくる。
実家に戻って両親に子どもを預けフルタイムで働けば、少なくとも家事や育児のストレスはかなり軽減される。家賃も払わなくてすむ。愚痴っぽい夫に縛られるより、そのほうがずっとましと考える女性は多いのかもしれない。
相談者には「慰謝料なんてどうせうちのダンナには支払えっこない。それより、手遅れになる前に一刻も早く離婚したいんです。あまり重症化すると、別れるに別れられなくなるから」などの声が多く、かなりドライに現実を受け止めている様子がうかがえるという。
「ただし精神疾患が離婚の理由になるのは、回復する見込みがない場合のみ。うつ病や適応障害などで認められるケースはまずない、と考えた方がいい。暴力をふるったとか、不貞があった、などの事情があれば別ですが。そのあたりの事情を把握している妻たちは、別の理由を見つけて離婚に持ち込みます」(澁川さん)
家族イデオロギー
崩壊時代に突入
「つらいときはお互いに助け合い、思いやるのが夫婦であり家族だ」「夫を支え、子どもを慈しむのが妻として当然の務めだ」
こうした考え方が生まれたのは、じつはそう昔のことではないようだ。