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【from Editor】「看護婦さん」

2010.5.15 07:43
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 4月、父を亡くした。三晩、病室に泊まり込み、改めて思い知ったのは、看護師の仕事の過酷さ、ありがたさだった。

 死を迎える1日前、父の心臓が止まった。呼吸もなくなりかけた。駆けつけた看護婦さんは「会わせたい人はいるのかい」といった。「いま、こちらに向かっている」と答えると、「よっしゃ」と父の胸を何度もたたき、大声で呼びかけ続けた。やがて、鼓動は戻った。呼吸も戻った。「へへ、呼び戻してやったぜ」。以後、蘇生(そせい)すること十数度。「こんなに素直に連れ戻される人も珍しいねえ。三途(さんず)の川を渡る船賃が払えないんじゃないのかい」。大して面白い冗談とも思えなかったが、憔悴(しょうすい)していた母の表情に笑みが戻った。

 「じゃあこのまま、小銭を渡すのをやめましょうかね」

 途中、何度も、もういいのに、と思った。奇跡なんて信じちゃいなかったが、実際に起きることがあるから、その言葉もあるのだろう。看護婦さんの「まだ頑張れるよね」の声とともに、何度目かの蘇生後、長く意識をなくし、中空をさまようだけだった父の眼球がはっきりと動きだし、周囲の顔の動きを追った。涙まで流し、こちらの手を握り返した。

 意思を持った父と別れることができたのは、看護婦さんのおかげだった。

 父が入院した病院では、看護師の勤務は午前8時半〜午後5時15分の日勤帯、午後4時半〜午前1時15分の準夜帯、午前0時半〜9時15分の深夜帯の3交代制。深夜帯では1人で13人の患者を受け持っていた。時間や労働量ばかりではない。下の世話から遺体の処置まで、きれい事ではすまない仕事も多い。「何から何までお世話になりました」と礼をいうと、「何から何までお世話するのが仕事ですから」と、見事な答えが返ってきた。

 厚生労働省がまとめた100床あたりの看護職員数は、米国の223人、英国の224人に対し、日本は54人。また、日本の看護師、准看護師に男性が占める割合は、5%弱という。

 「看護師」と表記しなくてはならないことは知っている。だが、あえて本稿では「看護婦さん」と使い分けた。看護の世界で、質、量ともに、男性の存在が女性に伍(ご)するようになったとき、「看護師」という言葉をもっと自然に使えるようになるだろうか。実感の伴わない言葉は、新聞に載せても、ただの単語でしかない。(編集長 別府育郎)

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