光回線:競争促進へどうなる?分離 「NTT再編」綱引き

2010年4月26日 20時41分 更新:4月27日 0時54分

通信大手3事業者の主張
通信大手3事業者の主張

 「2015年をめどに超高速ブロードバンド(大容量通信)100%普及」を掲げた原口一博総務相の「光の道」構想を巡り、大容量通信の基盤となる光回線をNTTグループから分離するかどうかの再編論議が本格化している。光回線分離によって他社がより安い料金で光回線を利用できれば、普及率向上が見込め、ソフトバンクやKDDIが分離を求めているが、NTTは反対している。原口総務相は5月中旬に方向性を出したい考えだが、調整は難航も予想される。【望月麻紀】

 光回線の人口カバー率は約9割に達しているが、実際の利用率は約3割に過ぎない。NTTは全国の光回線の74%を保有し、圧倒的なシェアを占める。光回線を持たない通信事業者はNTT東日本や西日本から光回線を有料で借りて、サービスを展開しており、「光回線を借りるコストが負担となって、顧客の利用料が下がらず利用率も高まらない」と「NTT独占」への不満が出ていた。

 このため、「NTTから光回線を分離すれば、事業者間の競争が促進され、光回線を借りるコストも低下し、顧客の利用料も下がって利用率が向上する」とのNTT再編論が浮上。学識者らで構成する総務省の作業部会が今年3月から本格的な議論を進めてきた。

 作業部会は今月20日に事業者から意見を聴取し、ソフトバンクの孫正義社長は「NTTの光回線を構造的に分社化しないと公平なサービス提供はできない」と述べ、NTTグループから光回線を切り出し、完全分社化する「構造分離」を主張した。KDDIの小野寺正社長は「構造分離」に同調しつつも、「構造分離だけでは、光回線を利用したサービスでNTTの市場支配力は低下しない」と指摘し、NTTの持ち株会社廃止による競争促進を求めた。

 一方、NTTの三浦惺社長は「(光回線を分離して)インフラ整備に競争がなければ、サービス向上やコスト削減努力が進まず、光回線の普及をかえって阻害する」と反論。利用率向上には行政や教育、医療などでの利活用充実を主張した。

 また、「光の道」構想を巡っても、NTTの三浦社長が「(光回線の普及が遅れ、整備に費用がかかる)山間部は公設民営で整備してほしい」と、NTTの光回線維持を前提に政府の財政支援を求めた。これに対し、ソフトバンクの孫社長は「NTTから光回線を分離して、NTTが電話回線に投入する予定の維持管理費を、電話回線から光回線に張り替える事業に回せば、公金ゼロでも利用率100%は可能」と唱えた。

 ◇先行投資2兆7000億円「みすみす手放せない」

 作業部会は27日の会合で20日の意見聴取を総括し、連休明けに複数の案を示す見通し。案は「構造分離」のほか▽光回線事業は分離するが、NTTグループ内にとどめる「機能分離」▽貸出料の算出根拠透明化のため光回線事業の会計開示制度を拡充--などとみられる。

 原口総務相は方向性は明言していないが、会計制度拡充にとどめることには否定的と言われ、総務省内では「機能分離の方向で探るのではないか」との見方が出ている。「機能分離」は、英BTグループ(旧ブリティッシュ・テレコム)が06年に実施した手法だ。

 だが、NTT幹部は「機能分離でも、分離された組織には貸出先から料金引き下げ圧力が強まる。安く貸して、設備投資をしなくなり、日本のブロードバンド環境を衰退させる」と指摘する。NTTは光回線整備に約2.7兆円を先行投資。民営化前の独占事業で得た収益も源泉であることが分離論の背景にあるが、NTTには「民営化後の経営努力の成果であり、みすみす手放すわけにはいかない」との意見も強い。

 さらに、総務省内には「参院選を前に、民主党の支持基盤であるNTT労組(組合員18万人)の意向をよそに分離の結論を出せるだろうか」との指摘もある。NTT再編は06年にも竹中平蔵総務相(当時)の「通信と放送の在り方に関する懇談会」で光回線分離や持ち株会社廃止が検討された。だが、自民党郵政族らの反対で結論が先送りされた経緯があり、原口総務相の判断が焦点となる。

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