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アニメーション「動絵狐狸達引(うごきえこりのたてひき)
     アニメーション作家(匿名)著
製作:P.C.L.漫画部 大石郁雄 
作画:大石郁雄・市野正二・前田浩・山口 淳 
録音:杉井 幸一 
昭和八年(1933年)十二月三十日 封切
 「動絵狐狸達引」は、狐と狸の化かし合いという古典的な題材を荒唐無稽に展開させている。ダイナミックなアクションをはじめ、大俯瞰(だいふかん)というような奇抜な構図を駆使したり、1カットを一分以上見せるなどして、表現やテンポにも変化を持たせている。従来の日本アニメでは見られなかった、キャラクターのアニメ的変形は特に目を引く。
 この作品は、すでに日本で公開されていたディズニーやフライシャーのように、スピーディーでハチャメチャな展開をする作品へと近づいた作りになっている。アメリカアニメのセンスが随所に感じられ、当時の日本漫画映画界に“かつて見られなかった斬新なアニメの登場”という印象を与えた。
 それまでも大石郁雄の作品はアメリカアニメに強い影響を受けていたが「鼠の留守番」「吃驚仰天真珠大王」などに登場するミッキーやフェリックス風のキャラクターの動きは、お世辞にも上手いとは言えない。そのような中作られたこの新作は、大石らのスタッフにとっても画期的なものとなった。
「吃驚仰天真珠大王」より
 当時のアニメは、セルに描かれたものを取り替えながら撮影するのではなく、主に「切り抜き法」と呼ばれる技法を使っていた。動画用紙に描いたキャラクターを切り抜き、背景の上で置き替えてアニメーション撮影する。この方法はセルの場合と比べて一枚一枚を背景画の上で同じ位置に置き替えなければならないなど、撮影には細心の注意と手間、そして時間がかかった。しかし海外で広く使われていたセルは 、当時とても高価なものであった。
 セルを使用したアニメーションは、撮影時の苦労が軽減されるだけでなく、キャラクターの動きも滑らかになることがある。しかしこの作品の出来は、それらのセル作品になんら劣る点も無い。逆に透明なセルを使用したアニメは、部分的に薄暗くなってしまう場合がある。
 特にこの作品は、舞台設定上、墨絵のような薄暗いトーンで描かれ不気味な雰囲気を出している。それまでの大石のアニメ作品には濃淡が少なかったが、この作品ではネガフィルムを使用することにより深い階調を出し、撮影時から画のトーンを大切にしている。
 また、音声が入っている初期の本格的なアニメ作品である事も無視できない。それまではトーキーといっても講堂などでレコードと一緒に映画を楽しむ方式や、音楽や映画説明の音楽伴奏程度の音があてられているといったものが主流であった。しかし劇場を持つ映画会社ではトーキー作品の製作が始まり、この作品もフィルムのサウンドトラックで音の再生をしている。そのため上映中に音がズレる事は無い。劇中には音を計算に入れた場面が多くあり、動きと音、セリフをシンクロさせるといったこだわりもみられる。だが、まだまだトーキー設備の整っている劇場は少なく、サイレント用の字幕版も合わせて製作されていた。
 当時のアニメのレベルと比較する事ができなければこの作品の画期的な出現を評価する事は難しい。それまでのアニメは今見るとおとなしく、画面変化が少ない印象を受けるが、この作品はそれまでのものから脱皮したかのように、タイトルの古風な印象からかけ離れたつくりとなっている。この格段の違いを見せた作品の登場は別の作家達にも大きな影響を与え、後に「日の丸太郎」シリーズや「証城寺の狸囃子」などの類似作品(これらもまた面白い)が生み出されている。そして東宝の前身でもある京都のJOスタジオとP.C.L.で製作されたアニメーションは確実に日本アニメ表現技術向上の牽引車の一つとなる。
 だが、大石郁雄、市野正二らはこれら数本のアニメを製作した後、東宝にて娯楽というよりは主に教育映画などの図解アニメに携わるようになっていく。
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