きょうの社説 2010年5月15日

◎加賀藩文化圏 二つの「歴史都市」で支えたい
 高岡市が歴史まちづくり法に基づく「歴史都市」認定を今年度内に目指す方針を固め、 庁内にプロジェクトチームを発足させることになった。実現すれば、第1号認定の金沢市と合わせ、二つの「歴史都市」を中心に、「加賀藩文化圏」を盛り立てる形が新たに整うことになる。

 加賀藩以来の多彩な文化に磨きをかけ、その魅力を効果的に発信するためには、歴史背 景を同じくする都市がスクラムを組み、いわゆる「チーム加賀藩」の力を結集することが大事である。金沢、高岡両市はその両輪となろう。

 「歴史都市」は全国ですでに16都市が認定されている。高岡市の文化財群や、整備が 進む町並み景観は、他の地域の認定都市と比べても決してひけを取らない。金沢市も一層の連携を視野に入れ、高岡の取り組みを後押ししたい。

 歴史まちづくり法では、「歴史的風致」という新たな概念が盛り込まれている。「地域 固有の歴史や伝統」を背景に、歴史上価値の高い建造物や町並みと、そこで育まれた文化や生活が一体的に維持された環境を指す。

 高岡市はこれから認定に必要な「歴史的風致維持向上計画」を練り上げる。昨年は開町 400年という大きな節目を経験し、加賀藩2代藩主前田利長から始まる歴史を再確認した。本格化する計画の策定は、市民の間で関心が高まった歴史の視点から、地域の将来像を再構築することにほかならない。策定作業を通して、金沢との共通点も一層鮮明になるだろう。

 「歴史都市」認定でかぎを握るのは、歴史に培われた祭礼行事の存在である。高岡市に は国の重要有形無形民俗文化財の御車山(みくるまやま)祭がある。高岡開町以来の歩みを映し出す鏡ともいえ、年に一度の開催ながら、地域への誇りや愛着を高める原動力になっている。「歴史的風致」の構成要素としては申し分ない存在感である。

 城跡の整備や町家再生、国重要伝統的建造物群保存地区の拡大など、金沢、高岡市の街 づくりの方向性は重なり合う点が多い。県境を超えた都市間連携を強化し、歴史土壌を生かした地域づくりで競い合う関係を育てていきたい。

◎改正貸金業法 「借金難民」対策も必要
 改正貸金業法が6月18日から完全施行されると、新たな融資が受けられない「借金難 民」が多数生まれる可能性がある。大阪府の調査では、消費者金融の利用者のうち、2人に1人がこの規制に引っ掛かるという。借入残高が年収の3分の1を超える貸し付けを禁じた「総量規制」が多重債務者の増加を防ぐ一方で、行き場を失った人たちが闇金業者に走るようであれば、何のための法改正か分からなくなる。

 法人向け融資は総量規制の対象外で、個人事業者の場合も事業・収支・資金計画を提出 し、返済能力があると認められる場合は、年収の3分の1を超えて新たな借り入れを行うことができる。だが、失業や病気などで生活に困窮し、今すぐにお金が必要な個人への安全網は十分とはいえない。小口で緊急の資金ニーズに対応する仕組みがぜひとも必要だ。

 貸金業法は、消費者金融など貸金業者の業務について定めた法律で、取り立て行為の規 制や罰則強化などが既に導入されており、6月からは貸出金利の上限引き下げと総量規制が施行される。

 消費者金融各社は、完全施行に備えて既に審査を厳しくし、融資を絞り込んでいる。銀 行や信用金庫は、消費者金融のように、小口資金を無担保で貸し出すための審査能力や債権回収のノウハウを十分に持っておらず、資金の新たな貸し手にはなりにくい。

 このため、草の根金融への期待が高まっており、民間非営利団体「NPOバンク」が全 国で続々と誕生している。石川県でも先月、北陸初のNPOバンク「ピースバンクいしかわ」が発足した。

 NPOバンクは、支援をしたいという住民が資金を出し合って、無担保で融資を行う組 織で、低金利などの要件を満たせば、総量規制の適用から除外されることになっている。貸し手と借り手の信頼関係に基づく融資のシステムは、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏がバングラデシュの農村で貧困層に無担保融資を続けてきたグラミン銀行の業務とよく似ている。まだまだ小さな存在だが、官民一体で大きく育てたい。