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じれったい高校生BL 変わる世界(館野とお子)

2010年5月14日

  • 筆者 松尾慈子

写真変わる世界[作]館野とお子

 最近、腐女子(女オタクの俗称)のあいだで話題になっているのは、大阪府と東京都の青少年健全育成条例だ。18歳未満の登場人物の性行為を描いたものは18歳未満への販売を禁止するとする東京都の改正案はまだ継続審議。だが、大阪府は先月、少年同士の恋愛を題材にした「ボーイズラブ(BL)」を扱ったマンガが掲載された8雑誌を「有害図書」に指定し、18歳未満への販売や閲覧を禁止することを決めた。

 マンガの中の性表現を規制し、青少年から遠ざければ、子供たちの性への興味が封じられるのだろうか? 子供たちが小説やマンガで性を疑似体験する機会も与えられず、いきなり自分の体で現実の性に向き合わされる方が、よほど大変だと思うのだが。そして、なぜ少女たちは、男女の恋愛ではなく、わざわざBLを読むのかを考えて欲しい。自らの女性性を受け入れがたく思う思春期の少女たちに、BLは自らの性とは関係ないところで、性についてのいろいろなあり方を示してくれるのだ。私はBLのおかげで自らの性を肯定的に受け止められるようになった、と思う。

 ところで、指定された8雑誌とは「麗人」(竹書房)「Chara Selection」(徳間書店)各5月号、「Daria」(フロンティアワークス)6月号などだった。「麗人」は分かるが、私にとって、ほかのいくつかは「これが対象?」と疑問だった。「これなら、指定されなかったアレとかアレの方がよほど……」と思ったのだが、きっと大阪府の調査期間が短かったのね。大阪府では「性行為などを掲載するページ数が総ページ数の10分の1、または10ページ以上を占める」ものなどを有害図書に指定しているそうだが、10ページって厳しいよねえ。

 というわけで、本書は有害図書に指定された雑誌「Daria」の掲載作。著者の館野はコミックスがでるたびに私が「ああ、まだ商業誌に描いてたんだ」思うほど寡作だが、「好きだ」とか「愛してる」のストレートな言葉がない、静かな恋愛模様を描くのが得意で、独特の雰囲気をもっているので、私のお気に入りの作家の一人だ。今回は高校を舞台にして、3組の男同士の恋を描いている。相手の心を読みかねてイライラするのは10代の恋の定番だが、館野作品の場合には言葉がないぶん、じれったさも倍増。メーンのカップルである剣道部の主将・皆川と池田のやりとりは特にじれったく、なんとも10代らしくて切なくなってしまう。愛情を直球で示す皆川に対して、約束をすっぽかしたりメールの返事をしなかったりと冷たくする池田。ラストで池田が心情を吐露するセリフは、へそまがりでそれでも愛情があふれていて、ちょっとうるっとしてしまう。

 元々、館野は性描写が希薄なんだが、数えてみると本作品での性描写はジャスト10ページだった。その気になれば、この作品も大阪府の指定にされかねないわけだが、全然そんな作品ではない。もちろん数あるマンガの中には、激しい性描写があり、青少年にみせるべきでないものも多々あるのは知っているが、どれもこれも子供たちから遠ざけるのはやはり無理があるというか、かえって害をなすのではないかと思うのだ。条例が恣意(しい)的に運用されないよう祈るばかりだ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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