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今週のサイエンスはこちらハイライト

「今週のハイライト」は、米国科学振興協会(AAAS)の広報部門が報道関係者向けに作成したニュースを日本語に翻訳したものです。サイエンス誌に掲載された論文・記事とは表現が異なる場合もあり、その正確性、通用性、完全性について、保証をするものでもありません。正確な情報を得るためには、必ず原文をご覧ください。

2010年 5月 14日

本誌は http://www.sciencemag.org/current.dtl をご覧下さい。
電子版は http://www.sciencemag.org/sciencexpress/recent.dtl をご覧下さい。

地球の気候変動によるトカゲの絶滅

Global Climate Change Driving Lizards to Extinction

数十年にわたりメキシコで行われたトカゲの調査から、国際研究チームは、気温上昇によってメキシコのトカゲの個体群の12%が絶滅したことを明らかにした。この発見を基に作られた絶滅モデルからは、この生態学的に重要な生物の厳しい未来も予想されている。2080年までに、すべてのトカゲの種の20%が絶滅する可能性があるという。Barry Sinervoと共同研究者らがメキシコ200ヵ所で行ったトカゲの詳細な調査によると、これらの地域の気温が急速に変わったためにトカゲが適応できなかったことが示されている。人間が地球温暖化を遅らせることができれば、2080年の研究者らの予想は変わるかもしれないが、トカゲは絶滅の危機に瀕しており、その急激な減少は数十年続くと思われる。彼らが予想するモデルを、世界中から集められたデータを用いて調整するために、Sinervoらは、日光を浴びるトカゲの体温を模倣する小さな電子装置を使った。この温度モデル装置を、メキシコでトカゲの個体群が生存している地域と既に絶滅してしまった地域両方の日差しの強いエリアに4ヵ月間置いた。トカゲがどの程度の太陽に耐えうるかという理解に基づいたこのモデルは5大陸においてトカゲ個体群が最近絶滅した場所を正確に予測した。またこの絶滅パターンが今後どのくらい続くかという情報も研究者らに提供することができた。Perspective記事では、Raymond Hueyらがこの発見について詳細に説明している。

"Erosion of Lizard Diversity by Climate Change and Altered Thermal Niches," by B. Sinervo; E. Bastiaans at University of California, Santa Cruz in Santa Cruz, CA; F. Méndez-de-la-Cruz; M.-V. Santa Cruz; R. Lara-Resendiz; N. Martínez-Méndez; R.N. Meza-Lázaro at Universidad Nacional Autónoma de México in Mexico City, Mexico; D.B. Miles at Ohio University in Athens, OH; B. Heulin at CNRS in Paimpont, France; M.L. Calderón-Espinosa at Universidad Nacional de Colombia in Sede Bogotá, Colombia; H. Gadsden at Instituto de Ecología, A.C. in Chihuahua, México; L.J. Avila; M. Morando at Centro Nacional Patagónico, CENPAT-CONICET in Puerto Madryn, Argentina; I.J. De la Riva at Museo Nacional de Ciencias Naturales, CSIC in Madrid, Spain; P.V. Sepulveda at Universidad de Concepción in Concepción, Chile; C.F.D. Rocha at Universidade do Estado do Rio de Janeiro in Rio de Janiero, Brazil; N. Ibargüengoytía at INIBIOMA-CONICET in Río Negro, Argentina; N. Ibargüengoytía at Centro Regional Universitario Bariloche, Universidad Nacional del Comahue in Río Negro, Argentina; C.A. Puntriano at Museo de Historia Natural, Universidad Nacional Mayor de San Marcos in Lima, Perú; M. Massot at Université Pierre et Marie Curie–Paris 6 in Paris, France; M. Massot at CNRS in Paris, France B. Sinervo; V. Lepetz; J. Clobert at Station d'Ecologie Expérimentale du CNRS in Saint-Girons, France; T. A. Oksanen at Centre of Excellence in Evolutionary Research in Jyväskylä, Finland; T. A. Oksanen at University of Jyväskylä in Jyväskylä, Finland; D.G. Chapple at Monash University in Clayton, VIC, Australia; A.M. Bauer at Villanova University in Villanova, PA; W.R. Branch at Bayworld in Humewood, South Africa; J.W. Sites Jr. at Brigham Young University in Provo, UT; V. Lepetz at Laboratoire d'Etude Environnementales des Systèmes Anthropisés (LEESA) in Angers, France.

Bt綿花の意外な結末

The Unintended Consequences of Bt Cotton

Bacillus thuringiensisという土壌細菌由来のタンパク質を発現する遺伝子組み換え作物、Bt作物は、害虫を駆除し、また新たに殺虫剤を必要とすることなく収穫量を上げることができる。しかし、中国北部で10年間にわたり実施された現地調査から、Bt綿花の栽培によりこの地域の害虫の個体群数のバランスが崩れ、以前はきわめて少数であった害虫、カメムシが近年急増していることが明らかになった。Yanhui Luらは、現地調査のデータを収集し、栽培されたBt綿花の意外な結末を示す徹底調査の結果を初めて発表した。Luらは、同地域での遺伝子組み換え作物導入後、従来の殺虫剤使用が減少したためにカメムシの個体群数が最近になって急増したことを示唆している。Luらは、カメムシが多様な植物を食べるため、葡萄、林檎、桃、梨などのほかの植物にとっても新たな脅威となっていると述べている。この観察結果は、ある特定の害虫を限定して標的とした駆除戦略が、標的外の害虫を急増させる可能性を警告するものである。著者らは、地域全体を対象とする戦略を実施する前に、同じような可能性がないかどうかを検討する必要性を訴えている。

"Mirid Bug Outbreaks in Multiple Crops Correlated with Wide-scale Adoption of Bt Cotton in China," by Y. Lu; K. Wu; H. Feng; K.A.G. Wyckhuys; Y. Guo at Chinese Academy of Agricultural Sciences in Beijing, China; Y. Lu; K. Wu; H. Feng; K.A.G. Wyckhuys; Y. Guo at State Key Laboratory for Biology of Plant Diseases and Insect Pests in Beijing, China; Y. Jiang; B. Xia; P. Li at National Agro-Technical Extension and Service Center in Beijing, China; K.A.G. Wyckhuys at Universidad Jorge Tadeo Lozano in Chia, Colombia.

羽ばたかない ―― 初期鳥類は飛行能力が低かった

No Flap—Earliest Birds Were Poor Flyers

鳥類の羽根の化石に関する新たな研究により、古鳥類である始祖鳥(Archaeopteryx)および孔子鳥(Confuciusornis)は羽ばたき飛行ができず、滑空で精一杯であったことが判明した。羽ばたき飛行を続けるには、羽根は割れたり折れ曲がったりせずに鳥の体重を支えられるだけの強度が必要である。現生鳥類の場合、羽軸で羽根を縦方向に硬化させて強度を出し、軽量化のために羽軸は中空になっている。約1億4千年前の後期ジュラ紀に生息していた始祖鳥が羽ばたき飛行ができたか否かについては、さまざまな議論が交わされてきた。そういった議論では、約1億年前の白亜紀初期の孔子鳥については、調査可能な化石が多いにもかかわらず注意が向けられることはなかった。Robert NuddsとGareth Dykeは始祖鳥と孔子鳥の化石を調査し、それら古鳥類の羽軸が現生鳥類の羽軸よりも細かったことを発見した。飛行中に羽根に掛かるさまざまな力を計算した結果、仮に羽軸が中空でなかったとしても、辛うじて滑空に耐えられる程度の強度しかなかったと結論付けている。以上のことから、羽ばたき飛行の登場はおそらくそれら鳥類の進化史後半であったと考えられる。

"Narrow Primary Feather Rachises in Confuciusornis and Archaeopteryx Suggest Poor Flight Ability," by R.L. Nudds at University of Manchester in Manchester, UK; G.J. Dyke at University College Dublin in Dublin, Ireland.

チベット人が高地でも楽に呼吸できるようにする遺伝子

Genes That Help Tibetans Breathe Easy at High Altitudes

新たな研究から、チベット人が極めて高緯度の土地でも生存できる理由のひとつとして、血中ヘモグロビン値を低く抑える2種類の遺伝子を持っていることが明らかになった。チベット高原は、ヒトにとって最も過酷な居住環境である。低地居住者がこの地域を訪れると、体内の酸素不足によって高山病を発症し、心臓や脳の致命的な炎症に罹る恐れがある。低酸素症に対する体の反応をさらに詳しく解明できれば、高山病をはじめとする低酸素症関連疾患の治療に役立つ重要なヒントを得ることができるであろう。 Tatum Simonsonらは、チベット人の高地適応に関与してきたと思われる遺伝子領域を特定するため、彼らのゲノム変異パターンを低地に住む中国人および日本人のものと比較した(中国人と日本人のデータは、世界の様々な集団の遺伝的類似点・差異点をまとめた国際HapMapプロジェクトから採用)。研究チームはまず既知の機能から、高地への適応に何らかの役割を果たしているように見える遺伝子の差異を探した。続いて、チベット人集団では頻発するが低地居住者集団では少ない(ゆえに高地での生存に有利な遺伝子が含まれるため、チベット人の間に広まったと考えられる)DNA変異パターンを含むゲノム断片を探した。遺伝子EGLN1およびPPARAなど、ごくわずかな遺伝子が両カテゴリーに認められ、チベット人の低ヘモグロビン値に寄与していると考えられた。このようにチベット人ではヘモグロビン値が低いため、チベット人以外が高緯度状態に置かれた時には高ヘモグロビン値が続いて合併症をきたすが、その発症を相殺しているのではないか、と著者らは述べている。

"Genetic Evidence for High-Altitude Adaptation in Tibet," by T.S. Simonson; C.D. Huff; D.J. Witherspoon; J. Xing; L.B. Jorde; F.R. Lorenzo; J.T. Prchal at University of Utah School of Medicine in Salt Lake City, UT; Y. Yang; H. Yun; G. Qin; Z. Bai; R. Ge at Qinghai University Medical School in Qinghai, China.

Translational Medicine 5月12日号: 目が冴えて眠れなくなる隠された理由

More than Meets the Eye to Staying Awake, Alert

パソコンやTVスクリーンのちらつく光のそばで眠りに付く前によく考えなければならないことがある。夜遅くに、通常の室内照明やコンピュータ、その他の電子機器の薄暗い光に曝されると、概日リズムが妨害され、朝起きるのが一層困難になる可能性がある。これは、新たな研究から得られた結果の1つで、われわれのこれまでの考えに反して、眼の内部で物を見るために働く細胞が、概日リズムの調節にも関与し得ることを示している。この結果は、睡眠障害または季節性うつ病の治療における光療法のデザイン方法に影響を及ぼす可能性がある。これまでの研究から、ヒトやその他の哺乳動物の眼の内部には非像形成細胞(non-image forming)が存在することが示されている。これらの細胞は、視覚に用いられる桿体細胞と錐体細胞とは異なる部位に位置し、睡眠覚醒周期のリセット、ホルモン分泌、脳に対する警告などのいくつかの光調節過程に関与する、メラノプシンと呼ばれる青色光を吸収する色素を含有している。 これらの青色光に反応する非像形成眼細胞の存在が示されたため、多くの人が青色光だけが非像形成作用を刺激すると考えるようになり、青色光を照射する機器や青色光を遮断する特殊眼鏡など、青色光を治療に用いるための多数の装置や技術が開発されてきた。今回Joshua Gooleyらは、その他の種類の光も、照明条件によって、青色光と同様もしくはそれ以上に作用する可能性を示した。同研究では、正常被験者を2種類の異なる波長の光に曝露させた。一方の波長は色覚細胞によって検知される緑色光に、もう一方は青色光に反応する非像形成細胞によって検知される青色光に設定した。同研究者らは意外にも、青色光に反応する細胞だけが非像形成反応を誘導するという予想された結果とは異なり、薄暗い照明下または短時間では、緑色光が青色光と同様に作用することを発見した。このことは、像形成を担う桿体細胞と錐体細胞が、概日リズムの調節に関与する能力を備えていることを示している。したがって、光療法を改良する取り組みにおいて、概日リズム、ホルモン、および覚醒状態に対する光の作用の予測する場合、青色光だけでなく、その他の可視波長(特に薄暗い照明環境)または短時間の曝露についても検討するべきである。

"Spectral Responses of the Human Circadian System Depend on the Irradiance and Duration of Exposure to Light," by J.J. Gooley; S.M. Rajaratnam; R.E. Kronauer; C.A. Czeisler; S.W. Lockley at Brigham and Women's Hospital in Boston, MA; J.J. Gooley; S.M. Rajaratnam; R.E. Kronauer; C.A. Czeisler; S.W. Lockley at Harvard Medical School in Boston, MA; J.J. Gooley; S.M. Rajaratnam; R.E. Kronauer; C.A. Czeisler; S.W. Lockley at Duke-NUS Graduate Medical School, Singapore in Singapore, Singapore; S.M. Rajaratnam at Monash University in Clayton, VIC, Australia; G.C. Brainard at Thomas Jefferson University in Philadelphia, PA; R.E. Kronauer at Harvard University in Cambridge, MA.
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