牛や豚など、蹄(ひづめ)のある家畜の伝染病である口蹄疫(こうていえき)が宮崎県で猛威をふるっている。処分が必要な牛や豚は7万頭を超え、92年ぶりで国内発生した前回(2000年)の約740頭と比べ、けた違いに被害が拡大してしまった。
感染の疑いは、同県中央部だけでなく、熊本、鹿児島両県に隣接する地域でも報告されている。発生した場合、感染の拡大を防ぐため、一定の地域で牛や豚を動かさないようにしたり、区域外に移動できなくする措置がとられる。
しかし、ウイルスは人や車に付着して運ばれるケースもあるため、被害は、県外も含めさらに広がる可能性がある。
また、南九州は子牛の産地でもある。本州など各地に出荷されており、被害の影響は広範囲に及ぶ。
発生地では自衛隊も出動し、処分された家畜の埋設を行っている。しかし、人手のほか、埋めるための土地の確保も十分でない。さらに、人の移動による感染拡大を防ぐため、消毒や立ち入り制限措置がとられ、地域の経済活動にも大きな影響が出ている。
前回の感染の際には、家畜の飼料に使われた中国産のわらが感染源と疑われ、その後、輸入の際に殺菌する措置がとられるようになった。しかし、こうした措置だけでは万全ではなかった。
最初に感染の疑いが確認された日の10日ほど前に、口の中がただれた牛が見つかったものの、口蹄疫ではないと判断された。その間に感染が広がっていったことになる。
今回のウイルスは、韓国と香港で今年発生したウイルスと遺伝子が極めて似ているようだ。国境を超えた往来が頻繁に行われている状況下では、人や物にウイルスが付着して持ち込まれる可能性も高くなる。
ウイルスは感染するたびに変異するため、どちらから流入したのか、特定は難しいというが、周辺諸国で発生している場合、もっと敏感な対応が必要だったのではないだろうか。今回の反省点としたい。
自民党など野党は、初動の遅れが被害を拡大させたという地元の声を背景に、鳩山政権への追及姿勢を強めている。感染が拡大しているさなかに、赤松広隆農相が外遊していたことも追及の材料だ。
夏の参院選を控え、鳩山政権の新たな失点としたい自民党など野党と、防戦に追われる政権側という構図となっている。
しかし、被害の拡大は深刻で、政争の具にしていい状況ではない。感染の拡大を止め、被害を受けた畜産農家の救済に全力をつくしてもらいたい。
毎日新聞 2010年5月13日 2時30分