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天声人語

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2010年5月12日(水)付

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 「地球を覆うほどの愛で頑張りたい」。満面の笑みで、これを照れずに言える人は少ない。そこらを買われたか、柔道の谷亮子さんが民主党から参院選に出馬する。「ついで」にできるはずがない五輪と国政の掛け持ち。どちらに打ち込む人も心穏やかではあるまい▼民主党は元体操選手や落語家、女優、歌手などを担ぐ。自民党も元プロ野球の堀内恒夫さんらを立て、読売巨人軍の後輩中畑清さんは「たちあがれ日本」から出るという▼バラエティー番組ができそうな顔ぶれである。一つ道で技や芸を磨き、名を遂げた皆さんは、己の経験を世のためにと願うのだろう。ただ、その手だてが講演や執筆ではなく、議員バッジでなければならぬ理由を知りたい▼自民を見限り、民主に裏切られた数千万人が票を握りしめてさまよう夏。谷さんの横の小沢幹事長が「百万、千万の味方を得たような」と語ったのは、もしや票数の話か。ご本人の志がどうあれ、比例区の著名人は得票かさ上げの定石とされている▼各界を見渡せば、谷さんのように何かを託したくなる好人物がいる。しかし今ほど、政治家にプロの意識と手腕が必要な時はない。国を立て直す情熱を政策に練り上げ、国民に説く知と技である。さわやかな笑顔はオマケでいい▼政界は解体修理の途にある。有権者もひと皮むける好機なのに、またぞろ笑顔や知名度が決め手という選挙では痛い。政権選択やマニフェストが鍛えたかに見えた政治も、たるむ時は早い。とびきりのオマケを前に、「なんだかなあ」と考え込む。

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