はじめて石川梨華さんにお会いしたのは2010年一月。 きりっとした真っ直ぐな眼が印象的で、へたれ塩はその 強い眼力(めぢから)に射抜かれるような気後れがして、 あんまし目を合わせられなかったことをおぼえています
華やかで責任感があって凛々しいなァっておもいました
オトムギ史上「最高かっこいいフライヤー」との評判を もらった宣伝チラシ。お渡しする全員が石川梨華さんを 知っていて、好きで、「たのしみ」と言ってくれました
うおぉッさすが超トップアイドル。おいらは観客全員が 喜んでくれる『石川梨華』を書くんだゼ!そんなふうに 気負っていた塩駄は、きっと「肩かちんこちん」でした
お蔵(おくら)入りにさせていただいた幻の第一稿では、 梨華さんに想定してた役は「虎縞怜子(コジマレイコ)」 という名の、劇中でいちばん強い存在「虎」のイメージ。 虎縞怜子は、日本を代表する超クールで取っつきにくい カリスマ映画スター役の斉藤佑介さんが唯一絶対服従の 敏腕マネージャー。へなちょこで甘ちゃんでやさばかな 「脚本家の卵」役の宮原将護さんが、虎のレイコに対峙 して成長していく的なストーリーをかんがえていました
でもすすまない。なぜかエンジンブレーキがはずれない
そんななか、迎えた稽古初日。ただただ公演に前向きに 集まってくれた(別現場で本番中の斉藤佑介さんを除く) 全員の出演者。忙しいなか集まってくれたマネジメント 各位さまに対し15ページそこそこの薄っぺらい脚本を お渡しして読み合わせ稽古を開始した塩田はわれながら 格好わるかった。おもいっきし、情(なさけ)なかった
あっというまに終了の(そりゃそうだ)読み合わせの後、 「本日解散」を告げた塩を、石川さんが真っ直ぐに視て 歩いてきました。絶対めちゃくちゃ失望させているはず。 「この現場どうなってるんですか?」くらい言われても まったくしかたないなァと思いつつ、なけなしの責任を まっとうすべく、あれこれ言葉を(力のない言いわけを) あたまのなかで探していた塩に、梨華さんは言いました
「塩田さん。今、あたしにできることを教えてください。 レイコのために、今、なにをやっておけばいいですか?」
その瞬間、『タイガーブリージング』のヨコハマの台詞 「すごかった。あーみさんの目から光がぶわーっ!って なってて、オレは、吸い込まれるとおもった」 とおなじ感覚におちいった
初参加のオトムギ。でたらめな作家。不安要素は山ほど あるのに、こころの重点はそこではなく、今回の公演を 本番を、たのしみに待っているお客さまに向かっている。 公演の成功にまっすぐ向かっている
『タイガーブリージング』劇中ナサケの台詞 「今、あたしにしかできないって思ったら、なんだって やっちまうんだ・・いるか?そんなオンナ?」 とおなじ感覚を予感した
ア・・オレ、まちがってた。タイゾウ、ぼさっとしてた。 オレ、今この瞬間、自分自身が石川梨華に感じてるもの、 もらってるものを、書かなくちゃいけないんだ
「人生は一期一会(いちごいちえ)。」たった一度しか ご一緒できないかも知れないんなら、今もらったおもい、 書きたい!・・間に合うかな?・・できるか?オレに?
「できるさ」って思わせてくれたのはりっちゃんでした
帰り道、愛車ブルーベリー(紺色 TOYOTAマークX)の ステアリングを、きょぱッきょぱんッ、と切り返しつつ、
この芝居の虎は石川梨華じゃねえ。虎というトラウマを、 困難を、ものともせず超えていく存在であるべきなんだ。 それなら、虎は誰だ?・・いちばん虎っぽくないやつだ。 最高にさわやかで誰っからも好かれるやつだ。その瞬間、 (その日から二週間くらい前に遡る)アクトリーグB戦、 起承転結の「承」で、親友宮原将護が垣間見せてくれた 凶暴で荒々しい予感の片鱗が脳裏に浮かんだ。その瞬間、 「誰も視たこと無いおっかない将護を、それに真っ直ぐ に立ち向かう梨華を、あの『ぶわーっとした』目の光を、 横顔じゃなくて、真っ直ぐド正面で視せたい」とおもい、 首都高をおりる頃には、以前『ラフカット2008』に 脚本を提供させてもらった自作『寝たら罰金』が、この 「客席に対し真っ直ぐ向かえる」という要請(ようせい) にぴったりなんだってとこまで、同時多発的にわかった。 家に着き次第、池田稔に電話して「ぜんぶ書き直したい。 いいか?」って聴いたら「いいよ」って、たったひと言、 すごく安心できる口調で、言ってくれた。オレは、その とてつもなく安心できる頼もしい実感から、梨華さんも おっかない虎に対峙するにあたって(今の塩だみたいに) 深呼吸できる拠り所(よりどころ)って絶対に必要だナ っておもった時、もう斉藤佑介さんの笑顔が浮かんでた
そうして生まれた作品が、お客様が観劇してくださった 今回の芝居です
りっちゃんが書かせてくれた、『タイガーブリージング』
こころから感謝します
http://www.gekidan-online.com/blog/tiger/
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Date: 2010/05/12(WED)
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