湯谷昇羊 不屈の経営者【列伝】
【第11回】 2010年5月13日
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湯谷昇羊 [経済ジャーナリスト]

ナタデココ爆発的大ブーム終息で倒産寸前
新感覚の「東京ラスク」で成長、15店舗に
――東京ラスク グランバー社長 大川吉美

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 こうして03年1月、1号店の六本木店がオープンした。「グランバー」は、ようやく卸からメーカーになれた。店の売上げは順調だったが、大川はそれで満足はしていなかった。デパートの催事で試食販売させてもらうため、担当者のところへ日参した。ラスクは運良く、洋菓子店からも和菓子店からも競合先とみなされなかったため、催事への出店は難しくなかった。ここで試食したお客さんを中心に通販を強化した。

 松戸店、本郷店など多店舗展開していくなかで、05年はラスクだけで5億円を売り上げた。大川は、多くのお菓子屋さんに卸している商品の製造を止めようとしたが、お得意さんから怒られ、続けざるを得なかった。「店のカタログにうちの商品として印刷されているのに止めるとはけしからん」というわけだ。徐々に撤退し、すべて止めたのは09年10月のことだった。

「社員とその家族を幸せにする」
経営が最大のポリシー

 現在14店舗で売上は約11億4000万円。大川は30億円くらいまでラスク1品で行こうと思っている。これまでの経験から、利益を出している会社は、1品だけでやっている会社ばかりだったからだ。うなぎパイ、赤福、白い恋人等々だ。一生で1品に恵まれるのは幸せなことだとも思う。

10年4月、大川は那須に730坪の土地を購入、ラスクだけのお土産屋さん「那須ラスクファクトリー」をオープンさせた。那須には年間500万人の観光客が訪れる。観光客は容易にお土産物に財布の紐を緩める。この観光客が狙いだ。これが成功したら箱根、軽井沢に進出するつもりだ。
しかし、首都圏の店舗はあと5店舗出店して終了する。大川は、「お菓子は家業だから企業になってはよくないと思う。拡大ばかりに目を向けず、安心・安全マニュアルの徹底、社員教育を徹底して、しっかり家業を育てたい」と語る。

 92年の経営危機で、従業員をリストラせざるをえなかったときの辛さが、今も大川の脳裏に焼き付いている。このため大川の最大のポリシーは、「社員と社員の家族を幸せにすることを1番に考えること」なのである。

【企業データ】
●会社名   株式会社グランバー 東京ラスク
●設立年月日 1984年7月
●代表者   代表取締役社長:大川吉美
●事業内容  菓子製造販売
●資本金   2850万円
●売上高   11億4000万円(平成21年度)
●従業員数  120名
●本社所在地 千葉県松戸市栗山543-2

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湯谷昇羊 [経済ジャーナリスト]

経済ジャーナリスト。鳥取市出身、1952年生まれ。法政大学経済学部卒業。1986年にダイヤモンド社入社、2004年週刊ダイヤモンド編集長。2007年営業局長兼論説委員、同年取締役。2008年同社退社。2000年に立命館大学客員教授として教鞭をとる。主な著書に、「迷走する銀行」、「生保危機の真実」、「会社再建」(いずれもダイヤモンド社刊)、「サムライカード、世界へ」(文春新書)などがある。最新刊は「立石一真評伝 『できません』と云うな」(ダイヤモンド社刊)。


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