湯谷昇羊 不屈の経営者【列伝】
【第11回】 2010年5月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
湯谷昇羊 [経済ジャーナリスト]

ナタデココ爆発的大ブーム終息で倒産寸前
新感覚の「東京ラスク」で成長、15店舗に
――東京ラスク グランバー社長 大川吉美

previous page
3
nextpage

 しかし、スイートポテトも10年くらいしかもたなかった。スイートポテトは半生のため、土壌菌により発酵したり、穴が開いたりした。これがクレームになった。当時、雪印乳業の乳製品による集団食中毒事件などが起きており、消費者が過敏に反応していた。年600万個のうち、不良品が1個出ても大問題になった。スイートポテトの売上は半減した。大川は夜眠れなくなった。

 02年、売上は4億円にまで落ち込み大赤字、大川は会社の売却まで考えたが、買ってくれるところは現れない。

「下請けはもうやめた!」
再起をかけたのは新触感のラスク

 スイートポテトに代わる新製品作りが大きな課題になった。模索を続ける中で、大川はレストランでラスクに出会う。ワインが好きだった大川は、ワインのつまみを食べていると、カナッペが載せてあるのがガーリックラスクだった。「これを袋に入れたら商品になるな」「進物にも使えるな」と直感した。

 当時、ネットで売っているところはあった。大川は、今度は自分の店を出店し、自分で売ることを考えた。利益幅の少ない下請けをやめ、自前の商品の製造・販売をやろうと思った。ラスクとは2度焼きという意味で、売っている多くの店が、売れ残りのパンを焼いていたので硬かった。大川は口溶けがよく、歯触りのいいラスクを作りたかった。パン作りの職人に来てもらい試行錯誤を繰り返した。

 原料には徹底的にこだわった。それまでのラスクといえばマーガリンを使っていたが、大川は最高のバターを使った。北海道乳業が函館中心の酪農家の牛乳を使って作る最高のバターを仕入れた。小麦粉もいろいろ試した末、2~3種類の厳選したものをブレンドした。パン職人と議論を繰り返し、試作を重ね、ようやく思うようなラスクが焼き上がったのは3ヵ月後の02年6月だった。シュガー、ごま、ガーリックの3種類を作った。それまでの機械が使えたものの、それでも初年度5000万円の投資が必要だった(最終的には4億円の投資を行なった)。

 東京からの贈り物として使えるように、大川は商品名を最初から「東京ラスク」に決めていた。東京はマーケットも大きい。次はパッケージや商品名等のデザイン。これは知り合いのデザイナーに依頼した。出店場所もおしゃれな街と決めていた。するとそのデザイナーの事務所の1階が空いているという。場所は六本木なので、申し分ない。

previous page
3
nextpage
上枠
下枠
underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング
ベストセラー書籍iPhoneアプリ登場
ダイヤモンド社から、あの『もしドラ』をはじめ、話題のベストセラー書籍3冊のiPhone向け電子書籍が発行されました。
オンラインの顧客体験を分析せよ
売り逃しはないか!? 顧客の体験を追跡しECサイトの問題点を洗い出すことで機会損失を最小化する

話題の記事

週刊ダイヤモンド

詳しくはこちら

特大号・特別定価号を含め、1年間(50冊)市価概算34,500円が、定期購読サービスをご利用いただくと25,000円(送料込み)。9,500円、約13冊分お得です。さらに3年購読なら最大49%OFF。

ハーバード・ビジネス・レビュー

詳しくはこちら

1冊2,000円が、通常3年購読で1,333円(送料込み)。割引率約33%、およそ12冊分もお得です。
特集によっては、品切れも発生します。定期購読なら買い逃しがありません。

ZAi

詳しくはこちら

年間12冊を定期購読すると、市販価格8,400円が7,150円(税・送料込み)でお得です。お近くに書店がない場合、または売り切れ等による買い逃しがなく、発売日にお手元へ送料無料でお届けします。
※別冊・臨時増刊号は含みません。

Diamond money!

詳しくはこちら

偶数月の1日発売(隔月刊)。1年購読(6冊)すると、市販価格 5,880円→4,700円(税・送料込)で、20%の割引!
※別冊・臨時増刊号は含みません。

Keyword
Information

湯谷昇羊 [経済ジャーナリスト]

経済ジャーナリスト。鳥取市出身、1952年生まれ。法政大学経済学部卒業。1986年にダイヤモンド社入社、2004年週刊ダイヤモンド編集長。2007年営業局長兼論説委員、同年取締役。2008年同社退社。2000年に立命館大学客員教授として教鞭をとる。主な著書に、「迷走する銀行」、「生保危機の真実」、「会社再建」(いずれもダイヤモンド社刊)、「サムライカード、世界へ」(文春新書)などがある。最新刊は「立石一真評伝 『できません』と云うな」(ダイヤモンド社刊)。


湯谷昇羊 不屈の経営者【列伝】

経済危機後の今も好調・堅調な業績をあげる経営者たち――。しかし、彼らは順風満帆にこの地位を築いてきたわけではない。どのように逆境を乗り越え、成功を導いてきたのか。経営者たちの「不屈の精神」に迫る。

「湯谷昇羊 不屈の経営者【列伝】」

⇒バックナンバー一覧