きょうのコラム「時鐘」 2010年5月14日

 佐々成政の立山踏破「さらさら越え」は、厳冬ではなく夏だった。地元史家が唱える異説は、歴史の謎解きを楽しくさせる

大河ドラマ「利家とまつ」では、通説の冬の苦難が演じられた。成政は盟友の前田利家とたもとを分かち、徳川家康と結ぼうとする。劇中、一寸先は闇ではなく「光ですぞ」と家臣に励まされる場面もあった

夏であっても、さらさら越えは命懸けだったろう。が、たどり着いた浜松城の家康は、成政に力を貸そうとはしなかった。無駄骨に終わった立山越えが、成政の悲劇の始まりだったとされる

戦国武将を愛する女性「歴女」たちは、成功した男たちより、懸命に生きて悲運に倒れた武将に心引かれるという。それなら、成政も立派に資格がある。立山越えの夏冬論議が、成政人気の呼び水になってほしいと思う

それにしても、昨今は歴女にとって、いささか切ない。「命を懸ける」「一寸先には光」と、いまも政治家を筆頭に男たちは言うのである。そう口には出すが、さらさら越えの苦難に腹を据えて挑むかどうかは疑わしい。戦国の世の肝っ玉の方が、よほど太かった。