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ゲルマニウムに関する情報
近年、「免疫力を高める」、「鎮痛・抗炎症作用がある」、「抗酸化作用がある」などという謳い文句で、ゲルマニウムを含むいわゆる健康食品が販売されています。「無機ゲルマニウムには毒性があるが、有機ゲルマニウムは安全である」といった宣伝もされているようです。そこで、ゲルマニウムについて、現時点で分かる範囲の情報を作成してみました。[文中の( )つき番号は、文末の参考文献一覧に該当します。]
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目次
1. ゲルマニウムとは
・無機ゲルマニウム
・有機ゲルマニウム
2. ゲルマニウムの代謝
3. ゲルマニウムの毒性
4. ゲルマニウムの効果
5. ゲルマニウム含有食品による健康被害
6. 行政上の取り扱い
7. まとめ
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1.ゲルマニウムとは(1)(2)(3)
ゲルマニウムは原子番号32、原子量72.59の灰白色の物質で、物質的な特性は金属と非金属の中間に位置します。天然では単独で存在せず、主にケイ酸塩中のケイ素と置換して分布します。土壌中には0.6-1.0ppm程度含まれ、海水中には0.06ppb存在します。塩酸、希硫酸には溶けず、熱濃硫酸、硝酸に溶けます。半導体材料の原料として用いられる他、歯科材料や精密機械などの合金として用いられます。食品に含まれるゲルマニウムには大きく分けて無機ゲルマニウムと有機ゲルマニウムがあります。
■無機ゲルマニウム
無機ゲルマニウムとは、炭素を含まないゲルマニウム化合物のことです。いくつか種類がありますが、いわゆる健康食品に含まれている無機ゲルマニウムとしては、酸化ゲルマニウム(二酸化ゲルマニウム(GeO2))がよく知られており、健康障害との因果関係を示すデータが報告されています。
■有機ゲルマニウム(4)
有機化合物とは、炭素原子(C)を構造の基本骨格にもつ化合物のことです。したがって有機ゲルマニウムとは、炭素を含むゲルマニウム化合物のことです。有機ゲルマニウムには様々な形態がありますが、医薬品として承認されているのはプロパゲルマニウムだけです。全ての情報を収集出来ていない可能性がありますが、プロパゲルマニウム以外の有機ゲルマニウムについては、その有効性の科学的根拠はほとんど見当たりません。
・プロパゲルマニウム
有機ゲルマニウムのうち、医薬品として承認されているのは「プロパゲルマニウム(Propagermanium);3-oxygermylpropionic acid polymer」で、示性式は[(O1/2)3GeCH2CH2COOH]n です。プロパゲルマニウムは白色の結晶性粉末で、においはなく、わずかな酸味があります。水に溶けにくく、1g溶かすのに150-210mLの水が必要で、有機溶媒にはほとんど溶けません。
・その他の有機ゲルマニウム
サプリメントなどで用いられている有機ゲルマニウムは、非常に水に溶けやすいとされ、またある種の植物やミネラルウォーターに含まれるとされています。例えば、朝鮮ニンジン、アロエ、ニンニクなどの薬用植物には高濃度のゲルマニウムが含まれるとされています。しかし、実際にはppb(10億分の1)レベルしか含まれていません(5)(PMID:7460098)。
2.ゲルマニウムの代謝(3)(4)
ヒトの身体にゲルマニウムが必要なのかどうかは、まだ証明されていませんし、摂取不足による影響などの報告も現時点では見当たらず、食事摂取基準も定められていません。私たちは普段の生活の中で、わずかなゲルマニウムを摂取していますが、そのほとんどは食品由来です。多くの食品中のゲルマニウム濃度は自然界に存在するレベル、つまり、土壌中の0.6-1.0ppmと同程度ですが、一部の缶詰食品では高いことが知られています(ツナ:2.2ppm、ベークドビーンズ:5.8ppm)。食品からの1日摂取量は370-3700μgとの報告があります。職業的な暴露の場合を除けば、飲料水や環境大気からのゲルマニウム摂取はごくわずかです。
食品から摂取された無機ゲルマニウム化合物は、体内で吸収されやすく、全身に広く分布し、脾臓に最も高濃度に存在します。無機ゲルマニウムは主に腎臓から排泄され、半減期(体内からその半分量が除去される期間)は、1-4日とされています。
医薬品としての有機ゲルマニウム(プロパゲルマニウム)はB型慢性肝炎の治療に使用されており、1日の服用量はプロパゲルマニウムとして30mg(10mg×3回)です。プロパゲルマニウムの吸収については該当資料が見あたりませんが、30mgを経口摂取したときの半減期は2.4時間で、24時間後までに尿中に41.9%、72時間後までに糞中に50.1%が排泄されるとされます。
サプリメントとして用いられている有機ゲルマニウムの体内動態については、一般に明らかにされておらず、構造によって身体に及ぼす影響や吸収、排泄も異なると考えられるため、詳細はわかりません。ゲルマニウム-132については、ラットとヒトでの体内動態がよく似ており、経口摂取したゲルマニウム-132の約30%が吸収され、全身に広く分布した後85%が腎臓で排泄されるという報告があります(5)。
3.ゲルマニウムの毒性
■無機ゲルマニウム
無機化合物を経口摂取した場合は毒性が低いとされていますが、二酸化ゲルマニウム(GeO2)については、その摂取により不可逆的な腎障害を引き起こすことが知られています(ゲルマニウム摂取量は16-328gを4-36ヶ月間)(3)。
ヒトにおける経口摂取時の二酸化ゲルマニウムのTDLo(最小中毒量:toxic dose lowest)は男性で1,614mg/kg/22週、女性では1,660mg/kg/17週で、毒性の症状としては食欲不振、悪心、嘔吐、尿細管の変性(急性腎不全、急性尿細管壊死)が報告されています(8)。
■有機ゲルマニウム
●プロパゲルマニウム
医薬品の有機ゲルマニウム(プロパゲルマニウム)には「慢性肝炎が急性憎悪することがあり、死亡例が報告されている」という警告文の記載があります。また、副作用として発疹や蕁麻疹などの過敏症、食欲不振、腹痛、吐き気、下痢、便秘、胃もたれ、口内炎などの消化器症状、うつ症状、肝機能異常、月経異常、脱毛などが知られています(4)。
●トリエチルゲルマニウム酢酸塩(triethyl germanium acetate, acetoxytriethylgermane;C8H18GeO2)
ラットに経口投与した時のLD50(50%致死用量)は20mg/kgで、体重減少あるいは体重増加の減少が見られたという情報があります(8)。
●Tetra(2-carboxy-2-aminiethylmercapto)germanium (C12H24GeN4O8S4)
ラットに経口投与した時のTDLo(最小中毒量:toxic dose lowest)は22,863mg/kg/30日であったという情報があります(8)。
●bis(pyridine-2,6-dicarboxylato-mu-O,O')-germanium (C14H6GeN2O8)
マウスに腹腔内投与した時のLD50(50%致死用量)は900mg/kgで、毒性の詳細については不明です(8)。
●Chlorotributylgermanium (C12H27ClGe)
ラットに経口投与した時のLD50(50%致死用量)は1,970mg/kg、腹腔内投与時のTDLo(最小中毒量:toxic dose lowest)は1,970mg/kg、マウスに経口投与した時のLD50(50%致死用量)は1,280mg/kg、腹腔内投与時のTDLo(最小中毒量:toxic dose lowest)は1,280mg/kgであったという情報があります(8)。
●(L-Cysteinr)tetrahydroxygermanium (Cysteine-germanic acid;C3H11GeNO6S)
生殖毒性が知られています(8)。TDLo(最小中毒量:toxic dose lowest)はラットに皮下投与した時で70mg/kg、マウスに皮下投与した時で42mg/kgという情報があります(8)。
●Triethylgermanium iodide (C6H15GeI)
マウスに静脈内投与した時のLD50(50%致死用量)は56mg/kgという情報があります(8)。
●Tetraethylgermanium (C8H20Ge)
ラットのLD50(50%致死用量)は経口投与時で700mg/kg、腹腔内投与時で780mg/kg、静脈内投与時で460mg/kg、マウスのLD50(50%致死用量)は経口投与時で2,870mg/kg、腹腔内投与時で3,580mg/kgという情報があります(8)。
●Tetraisopropylgermanium (C12H28Ge)
ラットのLD50(50%致死用量)は経口投与時で2g/kg、腹腔内投与時で430mg/kg、マウスのLD50(50%致死用量)は経口投与時で2,180mg/kg、腹腔内投与時で620mg/kgという情報があります(8)。
●tetramethlgermanium (C4H12Ge)
マウスの致死用量は2,500mg/m3/10ヶ月以上という情報があります(8)。
●Triethylallylgermanium (C9H20Ge)
ラットに腹腔内投与した時のLD50(50%致死用量)は22mg/kg、TDLo(最小中毒量:toxic dose lowest)は経口投与で330mg/kg、マウスのLD50(50%致死用量)は経口投与時で770mg/kg、腹腔内投与時は114mg/kgという情報があります(8)。
●Triethylpropylgermanium (C9H22Ge)
ラットのLD50(50%致死用量)は経口投与時で4,700mg/kg、腹腔内投与時で1,430mg/kg、マウスのLD50(50%致死用量)は経口投与時で10g/kg以上、腹腔内投与時で4,290mg/kgという情報があります(8)。
●スピロゲルマニウム
高用量において胚吸収を引き起こすことが知られています(3)。
●ジメチルゲルマニウムオキサイドなど有機誘導体
催奇形性があることが知られています(3)。
4.ゲルマニウムの効果(4)
医薬品の有機ゲルマニウム(プロパゲルマニウム)の効能・効果は、HBe抗原陽性B型慢性肝炎におけるウイルスマーカーの改善です。動物実験においてB型慢性肝炎の際の、ウイルス感染防御作用、免疫賦活作用、肝障害に対する作用が証明されています。
5.ゲルマニウム含有食品による健康被害
ゲルマニウム含有製品の摂取との関連が疑われる健康被害は、無機ゲルマニウム、有機ゲルマニウムのいずれにおいても報告されています。個々の詳しい内容は、素材情報の「ゲルマニウム」の項目を参照してください。
■無機ゲルマニウムによる健康被害
・二酸化ゲルマニウムの摂取による健康被害が13名、詳細不明の無機ゲルマニウム摂取によるものが6名報告され、そのうち3名が死亡。
■有機ゲルマニウムによる健康被害
・germanium lactate-citrateを含む製品の摂取による健康被害が3名報告され、そのうち1名が死亡。
■有機と無機の区別が明記されていない、もしくは不明のもの
・ゲルマニウム含有水の摂取による健康被害が5名(2名死亡)。ゲルマニウム薬の摂取によるものが2名(1名死亡)。その他詳細不明のゲルマニウム含有製品によるものが49名(重複の可能性あり)。
6.行政上の取り扱い
ゲルマニウムは、医薬品の範囲に関する基準(6)において「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に分類され、食品として販売することができます。ただし、酸化ゲルマニウム(無機ゲルマニウム)を含有させた食品を継続的に摂取して健康障害が発生した事例があったことから、ゲルマニウムを添加した食品の取り扱いとして、行政関係者に厚生労働省より通知(衛新第一二号)が出されています。
その通知には、医療関係者、食品関係事業者、摂食者等に対しては、「酸化ゲルマニウムを含有した食品が継続的に摂取されることは避けるよう注意喚起すること」、食品関係事業者に対しては、「ゲルマニウムを食品の原材料として使用する場合は、予め長期間の摂取が健康に及ぼす影響などの安全性を確認して使用するよう指導すること」、という事項が明記されています(7)。
7.まとめ
無機ゲルマニウム(二酸化ゲルマニウム)を含むいわゆる健康食品の摂取で重大な健康被害が起きたことから、「無機とは異なり、有機ゲルマニウムは安全である」として、それを含む製品が販売されています。しかし、有機ゲルマニウムとして販売されていた製品の中にも、成分分析によって無機ゲルマニウムを含有したものが存在していたことが明らかにされたり、有機ゲルマニウムそのものにも毒性があることが報告されたりしています。
ゲルマニウムが濃縮されたり、高濃度に添加されたりしている"いわゆる健康食品"を摂取した場合、無機・有機に関わりなく生死に関わる副作用が起きる可能性が否定できません。特に"いわゆる健康食品"では、品質の不確かな製品、表示内容と内容物が一致していない製品も流通しているという問題があります。したがって、消費者の方が巷の不確かな情報を頼りにしてゲルマニウムが添加された製品を積極的に利用することは、現時点ではあまりおすすめできません。
ゲルマニウムの効能については、医薬品として承認されているプロパゲルマニウムを除き、その科学的根拠のある有効性・安全性の情報はほとんど見当たりません。また、ゲルマニウムを通常の食品以外の濃縮物や添加物として摂取した場合、生死に関わるような重篤な副作用も起こります。このようなことから、有機ゲルマニウムという表示をした製品であっても、消費者の方が自己判断で安易に利用することは安全ではないと考えられます。法的には食品として販売することができますが、そもそもゲルマニウムの不足による身体への影響や必要性も現時点では証明されていません。そのため、特にゲルマニウムが濃縮された製品を積極的に摂取しない方が賢明と思われます。製品の利用には個々人の様々な考え方がありますが、もし利用する場合は、リスク(副作用など)とベネフィット(良い効果)の関係を考慮し、冷静に対応してください。
(Ver.090115)
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