(2010年5月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
先週末、米国はギリシャをまじまじと見て、おびえた。これほど小さな経済国が欧州全土を苦境に陥らせ、ユーロさえをも爆発させかねないなんて、本来あり得ないはずなのに、実際そうなっている。
かつて米国の金融危機として始まったものが、欧州を景気後退に陥れた。今度は欧州がお返しをしようとしているのだろうか。欧州の問題は自分たちが抱える問題について一体何を物語っているのか、と米国人は考え始めた。
EUの景気落ち込みを懸念する米
今の混乱の原因であるギリシャの国家財政は、より広範なソブリン債危機の不安を誘発し、米国政府の借り入れに関する懸念を高じさせた。もっと目先のことを言えば、投資家は今、もし欧州連合(EU)がこの問題への対応でしくじり続けたらどうなるか、と問うている。
そうなれば、第2の欧州の銀行危機が起きるのか。そして、それは米国の金融システムにも感染するのか。仮にその答えがノーであっても、米国の景気回復は今も脆弱(ぜいじゃく)だ。EUの需要が再び落ち込むようなことがあれば、米国経済は影響を免れない。
こうした懸念は行き過ぎる場合もあるが、どれも根拠のない懸念ではない。いずれにせよ不安というものは、たとえ筋が通っていなくても、悪い状況を一段と悪化させ、結果的に正しかったことを証明し得るものだ。
一連の警鐘の中で最も根拠が薄いのは、ギリシャは米国の財政問題の前兆だというものだろう。
悲観的な向きは、米国はギリシャではないかもしれないが、カリフォルニア州はギリシャかもしれないと言う。何しろ、カリフォルニアは資金繰りに窮して、最近、職員に対して現金ではなく「IOU(借用書)」で支払いをせざるを得なかった州だ(これはデフォルトでないとすれば、それに次ぐ次善策だろう)。
ギリシャが今EUにしていることを、カリフォルニア州が米国にする可能性はないのだろうか。
カリフォルニア問題はギリシャと同じではない
可能性は低いというのが、その答えだ。カリフォルニア州の方がギリシャより経済規模が大きい。その意味では、カリフォルニア問題の方が規模が大きいとも言えるが、同州が抱える債務と財政赤字はギリシャと比べたら取るに足らない。
その他の防衛策や安全弁(明らかに欧州に欠落しているもの)も手元にある。積極的な連邦政府、従順な中央銀行、どう考えても切り離せない通貨といったものだ。
もっとも、ギリシャとの対比を完全に退けることはできない。政府が能力を超えた借り入れを行う国は、いずれその代償を払わなければならない。もし忘れている人がいたら(米国では忘れた人がいる)、ギリシャがその教訓を教えてくれている。
しかし現在、米国にとってより大きな心配の種は、欧州が米国の行方を暗示しているということではなく、ギリシャ問題の2次的な影響と、緊急事態の広がりがまだ弱い景気回復の芽を摘んでしまう展開だ。
こうした影響は、反対の作用を及ぼしている。安全を求めて欧州市場から逃避する動きは、投資家を米国債に連れ戻し、金利を押し下げる。その一方で、これはユーロを下落させるため、米国の輸出品は重要な市場で競争力を失うことになる。
米の銀行・ノンバンクへの波及も
もし、欧州の景気回復――欧州の回復は米国と比べると遅くて弱い――が完全についえたら、米国はその影響を免れないだろう。
もう1つ大きなリスクが、金融面での感染だ。ギリシャがデフォルト(債務不履行)したと仮定しよう。そうなれば、欧州の銀行システム全体に損失が広がる。ほかの欧州諸国にもデフォルトの圧力がかかるかもしれない。ポルトガルとスペインが筆頭格だが、それ以外の国にも広がる可能性がある。
米国の銀行やノンバンクが、直接的、あるいはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などのデリバティブ(金融派生商品)を通じて、これらのリスクにどれほどさらされているのかは、実際にデフォルトが起きるまではっきりしないかもしれない。
金融の荒波が再び生じようものなら、もはや財政出動の余地のない米国政府、銀行救済の意欲を使い果たした国にぶち当たることになる。
これまで米国は、ギリシャは欧州の問題であり、問題解決はEUに任せればいいと思いたがってきた。だが、いずれの想定も間違っていることが判明した。最近、米政権はギリシャの混乱の早期解決を要請したと述べている。また、ギリシャに新規融資を提供する救済策に国際通貨基金(IMF)が関与することになったため、米国はこの問題について公式な立場を得ることになった。
それでも、問題は一向に解決に近づいていない。
EUとIMFがまとめたギリシャの調整計画は、ギリシャが単独で問題の代償をすべて負担しなければならないとした当初のEUの姿勢よりは良い。だが、それも多少ましな程度にすぎない。欧州と国際社会の納税者も、これで負担を負わされることになった。しかし、ギリシャの債権者は負担を免れており、それは間違っている。こうした理由もあって、新たな計画は古い計画と同じくらい見当違いだ。
ギリシャのデフォルトは起きる
ピーターソン国際経済研究所のアーヴィンド・サブラマニアン氏が先週本紙(英フィナンシャル・タイムズ)への寄稿で論じたように、この計画は、壊滅的な緊縮財政が3年間続いた末に、大打撃を受けたギリシャ経済が今よりずっと大きな公的債務を支えなければならないことを示唆している(それも物事が首尾よく運んだ場合の話だ)。
この計画は、何も解決しない。これは良くて問題を先送りする行為であり、先送りにしても見込みの薄い策だ。
デフォルトの可能性はかつてないほど高まっているように見える。多少は秩序を保てることを願って、デフォルトを計画することはできる。もっとも、計画的なデフォルトを行う絶好のチャンスは既に逃してしまったが…。あるいは、現実を否認し続けて、その間、問題をさらに悪化させ、無計画なデフォルトが起きる可能性もある。
この皮肉に留意してほしい。常識的に考えれば、経営が傾いた銀行やノンバンクには、早期の問題解決メカニズムが必要だ。カギは、問題に先手を打つことにある。だが、似たような論理は、窮状に陥った政府にも当てはまる。債権者との痛みの分担が絡む場合は、なおのことだ。明らかに、この教訓は再び一から学び直す必要がある。
これ以上に難しいのは、ギリシャがデフォルトしたら欧州の難局は解決されるのか、という問題である。筆者は、解決されないと思っている。
ギリシャは、巨額の基礎的財政赤字を抱えている。少なくとも債務再編の後しばらくは、貸し手を見つけるのに苦労するはずだ。このため、仮に債務をチャラにできたところで、ギリシャは良くて多大な苦痛を伴い、最悪の場合、政治的に実行不能な緊縮財政の時期に直面する。需要を下支えする中央銀行もなく、切り下げるべき自国通貨も持たないからだ。
EUは、何が何でもデフォルトは回避しなければならないと述べている。筆者の考えでは、デフォルトは起きる。また、EUは、ユーロからの離脱は選択肢にないと述べている。筆者は、これも当てにはしない。いずれにせよ、米国は覚悟しておいた方がいい。
By Clive Crook
(翻訳協力 JBpress)
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