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「在日米軍だけでなく、在韓米軍も中東を中心に世界展開のために使おうというのです。朝鮮半島の戦略的重要性は非常に減りました」~1月14日孫崎享外務省国際情報局長インタビュー7

 前回までのエントリーの続き。1月14日孫崎氏インタビュー。



孫崎「ということですから、そういう位置づけであることを、今までアメリカの人達はそんなに言わなかった。それをあんなに明確に言うわけですから、影響大きいんですね。やっぱりね、クリントンがそれを使ったというのはね」


岩上「明白でしたね。(岡田・クリントン会談の)セッティングがされている時に、あの論文が出たんで、毎回、外相記者会見も行っている流れですから、私、なんとなく流れは見えていた。それを訳していた時に、クリントンの発言が出たので」


孫崎「私もあれは、すぐに訳して、とにかく鳩山さんが読めるように、読んでいるかどうか分かりませんけれども、手配をしたんです。ええ」


岩上「そうですか。先生の訳と照らし合わせて、訳が正しいかどうか自信がないんですが。(笑)ちょっとこれどういう訳かなあと思っている所もあります。そのコピーはお持ちなんですか」


孫崎「いや、コピーは持っているけども、間違ったなんて言われたら(笑)。単なる訳ですから。あったということが重要だと思って。多分すぐ目を通されたんじゃないかと思いますけどね」


岩上「この辺野古のところですけれども、今重要な問題ですからお聞きしたいんですけど。米国が辺野古を急ぐ理由は、これMV-22、これ、いわゆる垂直に上昇する、、オスプレイの配備が迫っていると。アメリカはどうしてもオスプレイをあそこに持っていきたい。それを、『朝まで生テレビ』でですね、元旦の時に、どうしてもアメリカはオスプレイを配備したいんだよねって、森本敏さんが話したんですよ。

 今までは聞いてもオスプレイの話はしてくれなかったのにと、社民党の代議士がぼやいていたんですけど。(米軍は)オスプレイを絶対に必要とするから、これはどうしても必要なんだって。その時にすっとみんな、それはどこに向かって何に使うの、と聞いたら、『中東』ってポロッと言ったんですよ」


孫崎「森本さんが?」


岩上「はい。まさに先生がおっしゃっているように、日米安保のために使うんじゃないんですね。日米同盟の、要するにアメリカの国際戦略として中東に向かって出撃するための、中東への出撃基地、日本の安全保障とは関係ない話なんですね。

 アメリカの国際戦略のために、どうしてもあそこを使いたいんで、それでオスプレイが必要だと。極東の有事が起こったらどうたらこうたらという話は全然関係なかった。でも、そこはみんな気づいてなくてですね、そこをスルーされちゃったんですよ。そこは本当は焦点になるところだったのに」


孫崎「それは面白いのは、あれですよ。補強材料からいくと、在韓米軍の司令官が在韓米軍も世界戦略に使うということ言ってますよね。朝鮮半島じゃなくて」


岩上「ほー。指揮権というのも、でも、韓国側に渡したんですよね。撤退していくわけですよね」


孫崎「撤退していくんですが、在韓米軍はいるんですよね。今のいる在韓米軍も、世界的に使うと。だからそれは非常に重要な意味合いを持っていて、さっきの日本にいるものが何の目的のためにいるかという時に、韓国にいるアメリカ軍ですら、世界展開しているわけですからね」


岩上「本当だと、北朝鮮に対して、これと38度線で向かい合う。だけどそんなことは、すっかりもう置いておいて、中東に行ったり」


孫崎「中東に行くことを、これから重要視しますということを言っているわけですよね。だから、世界戦略であることは間違いないし、アメリカの世界戦略の中で朝鮮半島の重要性っていうのは非常に減ってきましたよね。もう結局、アフガニスタン、イラク、イラン、イエメン、とかあの辺が本当に中心になりましたよね」


岩上「日本の保守勢力、保守の論客は、やはり北朝鮮の危機というものを重視する傾向にあります、本当はもしかしたらやっぱり北朝鮮は怖いかもしれない、ミサイルもあるし核も作るかもしれない。拉致問題も残っているし、やっぱりその問題は絶対に解決しなければいけないと思っております。

 となると、アメリカが北朝鮮を軽視していくと言いますか、敵視しない方向に進んでいくというのを、どう解釈したら良いか、とまどいを覚えるわけですね。

 厳然として金正日体制があり、あそこで飢餓があり、全体主義の体制が残り、ミサイルがあって、核が作られていて、拉致被害者がまだ残っている。だけどアメリカは、もうそれは危機じゃないというふうにすませていく。

 日本はずっとアメリカに追随してきたわけですから、ややこしい。日本の何と言うんですかね、ナショナリズムの方向性としたら、北朝鮮とはやっぱり事を構えていくという姿勢が他方にある。でも右というか、保守というか、ナショナリストというのは、ナショナリストでありながら、実は全部アメリカにくっついてきたという歴史がある。親米保守です。親米保守と、それから、文字通り日本のナショナリズムを支える層と、本来だったら割れていかなきゃいけないと思うんですよ。これはどういう風に考えたらいいんでしょう」


孫崎「これはね、私の本の中で、北朝鮮の核の問題にちょっと言及しているんですけれども、そこで豪州の人の引用があります。北朝鮮は何のために核開発をしているのかと、その時に、世界で核攻撃をされるかもしれないと、一番味わってきたのは誰だったのかと。それは北朝鮮なわけですよね。それは朝鮮戦争から始まってね、それから後も在韓米軍がいる。常に核がある。演習も核を想定している。それから……」


岩上「日本にも、持ち込まれていましたし」


孫崎「ええ、その後のブッシュ政権でも2002年に、アメリカの戦略が発表になって、そこでやっぱり核を使う、ということが入ってきている。だから少なくとも世界中で、北朝鮮ぐらいに、アメリカの核に怯えた国はないわけですよね。そうすると、当然のことながら、核を持って抑止したいという気持ちが出てくるのも自然なわけですよね。逆に言うと、どういうことかと。もしも北朝鮮に対する、北朝鮮が受けている核攻撃があるという脅威がなくなれば、北朝鮮が核を一生懸命にやらなきゃならないというインセンティブも下がるかもしれない。分からない、これは分からない。

だけど、可能性としては、アメリカに対抗するために核を持ちたいというわけで、アメリカの方が北朝鮮は別にたいした国じゃないと、あんな政権誰がいても構わないと、もう相手にしないと、これから我々が相手にするのは、中東だけだと。ということになると、核の脅威というのは減っていく可能性があるんですよね」


岩上「なるほど。これは議論が分かれるところだと思うんですけど。どうあれ、彼らは、ちょっと我々の常識を超えた動き方をするんじゃないかという日本人は多いと思います」


孫崎「そういうことです」


岩上「私も、北朝鮮に関してはやっぱり油断ができないというふうに……」


孫崎「その時にもう一つ私が引用した台詞というのは、それに対するある種の答えは、キッシンジャーは『核兵器と外交政策』(駿河台出版社)の中でこういう事を言ったわけです。『どの国も核を持った国は、自分の政権がつぶされるという恐れがない以上、核兵器は使わない。逆に、自分の政権がつぶされると分かった時には核兵器を使う』。

 というのは、核兵器を使えば相手は当然のごとく反撃をするわけですから、そうすると自分の国はなくなるわけですね。核兵器を使うということは、自分の国がなくなるという前提で核兵器を使わなくていけない。ということだと、核兵器というものは、政権の存続とものすごい密接したものであって、密接しない時に核兵器を使うという話はもうなくなりましたと。

 だから、我々がやるべきなのは、相手の国に対して、政権を揺さぶるということは止めると。ということが一番の外交政策だということを、キッシンジャーは1956年に書いているわけです。

 その考え方というのは、多分、アメリカの戦略論は色々ありますけれども、最も信頼できる戦略論でしょうから、そういう意味では、我々がこうではないかというよりは、より信頼できるものの考え方であると言っていいんじゃないかと思いますね」


岩上「そうすると、オバマ大統領の言い出した『核なき世界』という、あれも理想論というよりは、おそらくは国際戦略のからんだ、スローガンなんだと思うんですけれども。いきなり『核なき世界』と言ったって、そんなことは実現するのは難しいと思いますけれども」


孫崎「私はオバマの提言というのは、ちょっと懐疑的に見ているんです。なぜかというと『核なき世界』ということによって、何を目指しているかというと、北朝鮮の核とイランの核をなくすると。核不拡散の論理なんですよ。だけど、自分の国が核政策をどうするか、それに対しては、2月に出るというのに2月に出ない。3月まで延期になっている。そこの一番大きいところは、何が問題になっているかというと、核の第一撃使用をするか、しないか、というところで議論がまとまっていない」


岩上「先制使用ですね」


孫崎「先制使用。ということですから、もしもオバマが本来、核をなきものにするというのが絶対に正しいということがあれば、核保有国である国が、先制使用をしないということに踏み切らざるを得ないわけですね。それはやらないと思いますよ」


岩上「あれは核不拡散の論理でいけば、Non Nuclear World ではなくて Few だと思うと僕は書いたんですよ核なき世界ではなく、核少なき世界。そう言いかえたらどうだと」


孫崎「ああ、なるほど。そういうことでしょうね。本当に。自分たちが、持っている人たちまで、ない方向に動かしているかと言えば、全然動かしていない」


岩上「逆に、少なくなっていった時に持っている人間の価値は高まりますから」


孫崎「そういうことですよね」

岩上「1945年時点で核は2発しかなかったんで。その2発はものすごい政治的影響力を持ったんですよね。だから当然少なくなったほうが有利。あともう一つ、核の少ない、あるいは核のない世界が生まれると、通常戦争可能な世界が出現しますよね」


孫崎「そうですよね」


岩上「これを目指しているのかと……」
(続く)

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