以下は、ひとつの「仮定」に立った試みの考察です。（「考察」の名に値しないけれども。）
安田貞治神父著『現代の奇跡 秋田の聖母マリア ー 聖母像の涙とメッセージ ー』聖体奉仕会, 昭和六十一年刊（現在絶版、下記【訂正】参照) を、たまたま古本屋で見つけて購入し、読んでみました。もっとも、私は昔、この本の全文を掲載していた「秋田の聖母マリア・名もなく貧しき会」というサイト（現在閉鎖）で読んでいますので、これは再読ということになります。今回気になったことを書いてみます。
ちなみに、私はこの物語がかなり好きです。でも、「好きだからこそ困る」ことが、今回出て来ました。以前読んだ時はカトリック信者になっていたかどうか、よく覚えていませんが（耄碌）、とにかく典礼問題、そして「すべての民の御母」についてなど、よく知らなかったかも知れません。ごく素朴に読んで感銘を受けていたのかも知れません。
以下、この物語からの引用、そしてそこから気づくことを列挙してみます。
1. このご出現はノヴス・オルド環境の中でのものである。シスター笹川は御聖体を手で受けている。
司祭の居ない山の修院では、初金曜のミサも、町の教会か他の修道院に出向かねばならなかった。この日は市内のＳ修道院であずかった。聖体拝領の際、姉妹笹川は一瞬ためらったが、痛む手を包帯のまま開いて、他の人と同様に拝領をすませた。（P63）
｢他の人と同様に」とありますから、手による御聖体拝領が行なわれていたということです。また、シスター笹川が「一瞬ためらった」とあるのは、修道女らしく自分の左手の状態（聖痕のような、血が噴き出し、激痛を伴う傷）を人目から隠したいと思ったからであって、彼女の脳裡に「手による御聖体拝領はいけないことだ」という考えがあったからではありません。
最も堪えがたかった激痛の時は、時間としては一瞬のものであったかもしれないが、痛みの烈しさからは、とても長い忍耐のひとときに感じられた。
聖体拝領の際は、そのころの習慣で、姉妹たちは手でお受けしたが、彼女はどうにも手を開くことができず、直接口に拝領した。（P87）
この出来事の日付は1974年7月26日。そして、日本の司教協議会の申請に応えて使徒座が聖体を手に授けることを許可したのは、1970年6月27日（参照）。だから、この出来事があった時には、聖体奉仕会でも御聖体を手で拝領することが既に「習慣」となっていたのでしょう。（典礼暦はまだ昔のものを使っていたようですが。）
成相明人神父様はこのシスター笹川の手による御聖体拝領のことを、こうおっしゃっています：
マリア像の涙、シスター笹川の左手にできた不思議な傷のことなどを考えるとき、わたしは日本に当時導入された手で受ける聖体拝領のことを思わずにはいられません。http://hvri.catholic.ac/okada.htm
でも、どうなんだろうか。少なくともこの本を読む限りでは、はっきりとはわからない。
でも、こういう箇所がある。
七時から始まったミサが“聖変化”にまで進んだとき、手の痛みはまた耐えがたい烈しさを加えた。血がふき出てきたようで、疼痛は手の甲まで突き刺さってきた感じであった。（P88）
何故、ことさら「聖変化」の時に、左手の痛みが一段と烈しくなるのでしょう。（それが本当に「ことさら」であるならばですが。）
この女の方は、こののち、まる九年間にわたってしばしば姉妹笹川に現れ、何かと教え導き、ときには、忠告や叱責さえ与えることになる。（P38）
真夜中ごろ、姉妹笹川は突然「起きなさい、起きなさい」と呼びさまされた。まぎれもない守護の天使の声であった。
とび起きてドアを開くと、何か焦げくさい異様な臭いが廊下にたち込めている。臭いをたどって階下に降り、台所に入った瞬間、火の玉のように真赤に燃えさかっているヤカンが目についた。
（中略）
実は守護の天使にこのように実生活の上でも助けられることは、以後もたびたび起こるのである。（P109）
｢やがて御聖体拝領の時になっても、なお呆然と居すわっていると、いつもの守護の天使がうながすように寄って来て、御祭壇のほうへ導かれました。その時、ありありと認めたのは、前に進む姉妹たちの右肩に寄り添うようにして、それぞれの守護の天使が（本人よりいくらか小柄な感じで）付き添っていたことです。わたしの天使と同じように、いかにも身近に、やさしく守り導いておられる様子です。これを目撃して、どんな委しい神学的説明よりも、ひと目で守護の天使の存在の意義を深くさとらされた思いがしました。」（P129 - シスター笹川。以下「 」内は同様にシスター笹川）
私が疑問なのは、シスター笹川に「何かと教え導き、ときには、忠告や叱責さえ与え」、ガスコンロの火にかけっぱなしにされた赤熱するカヤンの危険を真夜中にシスターを叩き起こすことをもって教えてくれる守護の天使様が、また、御聖体拝領のまさにその現場でシスターに（他の姉妹の一人びとりにも）ピッタリと付き添って下さる守護の天使様が、もしも、手による御聖体拝領が事実、汚聖であり、もしくは少なくとも不敬であるならば、どうしてそのことをシスターに教えてくれないのだろうか？ ということです。
考えられる理由。
- 守護の天使様は、修道女としてのシスターの心を保護した。
それは、もし手による御聖体拝領が汚聖あるいは少なくとも不敬であることをシスターに教えると、シスターは教会との、そして長上との関係において、ひどく混乱するだろうから。それは修道女の生活にとってはまさに破壊的なことになるだろうから。修道女としての「従順」は、全く行き場を失うだろうから。そうなるとシスターの信仰そのものが危うくなるから。 - 守護の天使様は、地上の教会の秩序を重んじる。
それは、地上の教会の秩序は天主様が定めたものだから。特に教皇様、教会の最高教導職に「あなたが地上でつなぐものはみな天でもつながれ、あなたが地上でとくものはみな、天でもとかれるだろう」(マテオ16：19) といわれるほどの権威を与えたのは、天主様御自身だから。だから、天主様から「そうせよ」と言われていないのにそれを勝手に人間に教えることは、一種の重大な規則違反である。それは、たとえ手による御聖体拝領が事実、汚聖であり、あるいは少なくとも不敬であったとしても、そうである。 - 守護の天使様は、もし手による御聖体拝領が汚聖あるいは少なくとも不敬であることを笹川シスターに教え、笹川シスターに語らせてしまうと、教会当局によってこの御出現のメッセージが「その全体において全く受け入れられないもの」とされてしまうこと、全く見向きもされなくなる可能性があることを、知っているから。
- 守護の天使様は、確かに汚聖あるいは不敬のことをシスターに教えたのだが、この御出現を知らせる本が出版される際、それは削除された。（あり得ない。）
以上が、「手による御聖体拝領が汚聖であるか不敬である場合」の考えられる理由ではないでしょうか。
他の理由も考えられるでしょうか。つまり、ただ単純に、「手による御聖体拝領は汚聖でないし、また "それ自体で不敬である" とさえ必ずしも言えない」と。
私は、やはり、あまりそうは思えません。（頑固）
2. ノヴス・オルド環境の中で、御聖体からまばゆい光が放出され、天使達は礼拝する。
手による御聖体拝領が旧典礼の中で行なわれたということはないでしょう。では、この祭壇はノヴス・オルドの祭壇です。そして、こう書かれています。
｢長上の言葉通りに、聖櫃の扉を開こうと、そっと近づきましたところ、突然、聖櫃からまばゆいふしぎな光が現れ、それに射すくめられて、おもわずその場にひれ伏しました。
もちろん、聖櫃を開く勇気はありませんでした。およそ一時間もそうしていたでしょうか。何かの威光に打ちひしがれたように、光が見えなくなっても畏れとおののきから、頭を上げることができませんでした。」（P19）
祈りの姿勢で祭壇の奥の聖櫃に近づくと、たちまち、あの同じまばゆい光に打たれた。おもわず一歩さがり、ひれ伏して礼拝しつつ、「ああ、これは錯覚でも夢でもない。御聖体にましますイエズス様が、御自身をお示しくださったのだ」と確信し、その畏るべき光が消え失せたのちも、ゆかに伏していた。（P20）
｢しばらくすると、以前に三回見たのと同じまばゆい光が御聖体から放射され、その光芒を包むかのように霞か煙のようなものが祭壇のまわりにただよっていました。そして祭壇をかこんで無数の天使たちのような姿が現れ、一せいに御聖体のほうに向かって礼拝していました。」（P27）
｢その後念祷に入って、暫くたつと、昨日と同様に御聖体からの烈しい光を感じました。思わずひれ伏して礼拝し、目をあげてみると、また霞か煙のようなやわらかい光線が祭壇を包んでおりました。その中に無数の天使たちが出現し、光り輝く御聖体に向かって『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな』と賛美する高く澄んだ声が私の聞こえない耳にひびいてきました。」（P35）
｢朝六時半からはじまった御ミサが、“聖変化”にまで進んだとき、急にまばゆい光があらわれました。それは前に（六月十二日から三日間）御聖櫃から放射されるのを見た、あの威光の輝きのような光でした。それが、まぎれもなく御聖体からさし出る、イエズス様の御存在の尊い光輝とさとらされて、まるで射すくめられたように、『わが主よ、わが神よ』と心にくり返しました。
その瞬間、輝く御聖体に向かって礼拝している天使たちの姿が見えました。御祭壇を半円形にかこむかたちで、こちらに背を向けてひざまずいている感じで、八人並んで見えます。（中略）わたしはおどろいて、目の錯覚か、とまばたきしたり目をこすったりしましたが、八体の姿は依然うやうやしく御聖体を礼拝しています。」（P127〜128）
ですから、「ノヴス・オルド・ミサというものがミサとして完全ではない」ということが真実であるとしても、尚、この物語からはこう言えるのではないでしょうか。
- ノヴス・オルド・ミサの場合でも、少なくともその規定に忠実に捧げられた中で聖変化された御聖体からは、このように燦然たる光が、事実-----この物語が事実（真実）であれば-----放出されるものであり、それは全くもって礼拝に値する。
- 事実、天使様達もこのようにうやうやしく礼拝している。天使様達が事実-----この物語が事実（真実）であれば-----このように礼拝している御ミサを、人間が「それは不敬であるから、それに与ってはいけない」と言えるものだろうか。カトリック信者が主日の義務を果たそうとしてそのミサの行なわれる教会に向かい、一方天使様達は現にそのミサでそれらの信者達一人びとりに付き添うのがこの物語の言うように真実だとしたら、人は、それでも、「そのミサは不敬だから、行く必要はないし、むしろ行ってはならない」と言えるだろうか。
- 私達はこれによって少しは、私達の眼前で-----ノヴス・オルド・ミサの中で-----行なわれていることに、"希望" くらいは持ってもいいのではないか。
- 何故なら、ノヴス・オルドでも間違いなく、主はおいでになるだろうから。
これらすべては、あくまで、「この物語が真実であり、真理に沿ったものだとすれば」という「仮定」に立ってのことです。
でも、教皇様の自発教令が出て、聖伝のミサへの道が少し明るくなって来たという時に、やおらこんなコーサツを始める私は、余程のひねくれ者なのでしょうか。
そして・・・やはり言わなければならないと思います。
SSPX、私はこの修道会とその司祭に心から感謝します。私達の信仰がどのように脅かされているかを私によく見せてくれたからです。また司祭には、私は個人的にも大変お世話になったからです。でも、私は今、この「秋田の聖母」のことではSSPXに少し苦情をいいたいような気がしています。私達に「行ってはならぬ」あるいは「行かない方が良い」と言うSSPXが、秋田の聖母のメッセージを真実のものとして打ち出し、私達に紹介していながら、それでいて上のようなことにチッとも触れないのは、何だか良くない、フェアーでないことのように思えるのです。「しかしながら、涜聖の重大さ如何に関わらず、新しいミサはそれでも涜聖であり続けます。」http://immaculata.web.infoseek.co.jp/manila/manila354.html しかしSSPXが秋田の聖母を認めている限りにおいて、この表現は少なくとも「極端」ではないでしょうか。あるいはカトリック信者に警鐘を鳴らさんとする熱意のために少なくとも「最上の公平さ」を欠いてしまっているというか、「最上のバランス」を欠いて（「欠いている」とは人を貶めるような表現で申し訳ないですが、しかしそのような気持ちはありません）「真理」の方にではなく「自説」の方に若干〈傾いて〉しまっているというか... そんな "雰囲気" を少し感じてしまいます。何故なら、果たして「涜聖」であるミサの聖変化の時に「まばゆい光」があらわれるものでしょうか。「涜聖」であるミサにおいて天使様達が、跪いてうやうやしく礼拝していたり、御聖体拝領の際信者の一人びとりに付き添ったりするものでしょうか。秋田の聖母のメッセージを伝えようとするなら、メッセージだけでなくこの物語〈全体〉にも、この物語が含む全ての要素にも、言及すべきではないでしょうか。
私は「裏切り者」かな... （そんなセクト化した捉え方は一番嫌いなんだけれども...）