全体の論旨は「銀行には決済という公的役割が託されている」から「大きく価格変動する証券の保有が規制されるのは理にかなう」というものだ。そこで株を保有することについての疑問がまず述べられている。会計基準を非難するのが筋違いかどうかは、銀行だけの問題ではないからともかく、銀行が株を持ち続けるリスク、それはまあわかる。しかし勢いで、「国債保有に制限を」といいはじめるあたりからわけがわからなくなった。 そもそも、銀行が国債を買うという状況は、大機小機でも書いてあるとおり融資ニーズの不足が大きな原因であり、その前提は景気の不振である。その状況で、景気対策で国債が増発されているのはほとんどの先進国で見られる現象だ。不況のなかで不良債権を増やせない銀行の安全運用ニーズと国債増発ニーズがうまくマッチしていまの低金利環境(日本だけではない)が維持されているとはいえないか? 個人向け国債も出してはいるが、今すぐに個人が国債の主な引受け手となることは望み薄だ。生保や年金などの機関投資家はそもそも資金の増加がなかなか見込めない中で目一杯購入している。銀行が買ってくれているおかげで市場がなんとか持っている部分がある。 銀行が国債を保有するリスクについても本文は理解不足と思われる記述が目立つ。「銀行が国債保有から収益を得るためには、長短の金利差を利用するしかない」というのは(ディーリング部分を除けば)原則的に正しいが、「このような国債保有では、金利の予測能力が問われる」というのはちょっと飛躍がある。大口定期でもたとえば5年モノだと0.3%程度国債よりも金利は低い。普通預金でもコア預金とか言う概念もあるから、低利のコア部分との金利差は依然として大きい。銀行は国債保有からわずかでも確実に業務純益を上げられる。長短金利が逆転すると問題だが、そのような機会はあってもきわめて短期間の例外的なもので、短期調達で中長期運用することで少なくともマイナスになることは少ない(十分かどうかは別)。すなわちそもそも「金利予測能力」はそれほど問題にならない。(図はTIBOR3ヶ月と5年国債との金利差をとったものだが、マイナスになっているのはほとんど例外的な期間だけである) 「日本の金利水準は低位安定にあるから国債を保有することで、銀行は着実に長短の金利差を収益に変換できた。」としているが、ここで筆者の言う金利は短期金利であろう。筆者は「この安定的な状況が永続しないのは明らかだ」と述べており、将来短期金利が上がるという見通しを抱いているようだ。まあ景気回復でインフレが高進し実質金利が低すぎるような状況にでもなればそうなるだろう。しかし、まず現在そのような予想を向こう2年間にわたって立てている人は少ない。OISカーブによる金利引き上げの折込みはほとんど出ていないし、そもそもそれ以前に日本の経済成長の未来図が描けていない。銀行にそれでも国債をやめて無理やり資金需要のない主体に貸し込むかリスクの高い主体に貸し込むことを強要しようというのだろうか?サブプライムローンでもやれというのか(不動産とか商品とかはもちろん論旨からしてだめですよねぇ)。 さらに「(金利予測の)能力において銀行に優位性はないだろう」としているが、そもそも優位性が必要ではないという論点を除いても、何を根拠にそのように述べているのか?優位性のある主体はどこなのか?ということについての筆者の考えが良くわからない。一応メガバンクをはじめとしてそうそうたるシンクタンクや運用部隊を持っており、運用実績も長い。銀行に能力がないとしたら誰がその能力を持っているのだろう。 結論は「銀行の国債保有量の規制」を提案しているように読める。日銀が国債を買っているこのご時世に、そのような規制が現実味を帯びたら、金利の市場がどのようになるのか筆者は想像できているのだろうか?中長期金利が急騰しても買い手が不在となったとき、国の赤字はどのようになっていくか、筆者には想像できているのだろうか? ただ、あえて筆者の言わんとすることを慮れば、銀行が国債ばかり買っていて、それで銀行といえるんですか?という問題意識かもしれないと思う。それはある意味正論であり、金融機関の再編は近い将来避けて通れないとは思う。このまま行けば下手すれば中長期金利もつぶれてしまいかねないから、そのとき銀行はどうするのか、ということは常に考えておかねばならないだろう。しかし、それにしても市場の需給バランスを全体としてみれば、現在のような不況の世の中で、使い道のない資金が銀行に滞留し、消去法的な国債投資を通じて社会に再配分されることはある程度やむをえないように思えるのだが。 できれば、銀行はどういう運用をすればいいのかその点をはっきり述べていただければもっと建設的な議論になったと思う。 |
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タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
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内 容 | ニックネーム/日時 |
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大機小機の本文を読んでないのでアレなんですが、 |
39歳無職 2009/08/20 20:09 |
読んでて「さてこの人の素性はなんだろう」と思ってしまいました。読みようによっては運用を生業としている会社はみんなペテンだ、とも読めますよね。 |
ttori 2009/08/20 20:40 |
39歳無職さん、どうもです。ワタクシも最初は自分が何かこれまですごく大きな勘違いをしていたのではないかとこれを読んで随分考えました。それほど大胆。 |
厭債害債 2009/08/20 23:56 |
初カキコになります。よろしくお願いします 。 |
呑気な男 2009/08/21 08:36 |
大機小機自体は興味があるときしか読んでいませんが、20日の内容は読みました。おかしかったので切り抜きしてます(笑) |
ハピクロ 2009/08/21 09:00 |
追加ですみません。 |
ハピクロ 2009/08/21 09:06 |
大機小機、時々その筋のブロガーに話題になりますが、それを見るにつけ、あのコーナーが匿名なのは日経新聞の社会的影響力から考えると、ふさわしくないのではないかと思います。 |
なみすと 2009/08/21 14:16 |
呑気な男さんコメントありがとうございます。最近ではIASBが保有区分の簡素化を議論しようとしています。そういった動きに触発された論文である可能性はあります。 |
厭債害債 2009/08/21 17:50 |
簡単に言えば、国債を買うんじゃなくて、銀行は実物経済の中で成長しそうな存在にちゃんと融資しろ。 |
kazzt 2009/08/22 01:17 |
たとえ言いたいことがkazztさんの通りだとしても,文章のプロならもっと論旨を明快に言いたいことを矛盾無く掛けるはずです。銀行業務への理解だけでなく文章構成力の問題もありそうです。また,そのまま載せてしまうデスクもデスクだと思います。 |
EURO SELLER 2009/08/22 07:15 |
EURO SELLERさんの |
まつよし 2009/08/22 09:20 |
kazztさんどうもです。本文にも書いた通り、ご指摘の件はある意味その通りなのです。ただいまこの目の前の(そして過去何年も続いている)需要不足のなかで銀行ができることが限られている、というのが実情ではないかと思います。銀行は多角化ではなく仲介機能に徹するということも指導されているはずで、その中で収益を鳥に行かなければならないとしたら、国債だって買わなければなりません。 |
厭債害債 2009/08/22 10:35 |
需要不足で苦しんでいるのは金融だけじゃないよ。 |
kazzt 2009/08/23 01:27 |
kazztさんどうもです。どのようなご職業かは存じ上げないのですが、銀行や保険といった業種も現場レベルでは大変苦しんでいるはずです。たぶんご指摘の「苦しんでいない金融屋」というイメージもわからないわけではないですが、そうした人々は、一部の国の一握りの人々だと考えます。少なくともルールすら握れない日本の金融がいまやモデルをいじって楽して儲けることはできませんし、逆に金融屋でない個人がそういう方向に走る傾向が大きいように思えます。(たとえばFXの流行、デイトレの流行、誤発注で儲けた人がヒーローになったりすること)。逆に銀行や保険の現場の人々はまさに需要不足のなかで苦しみまくっているとおもわれます。 |
厭債害債 2009/08/23 12:23 |
kazztみたいな金融のことなんもわからないようなやつが書いた記事なんだろうな笑 |
りょう 2009/08/24 08:50 |
りょうさん、どうもです。個人的にはkazztさんのような異なる立場からの意見も歓迎しております。 |
厭債害債 2009/08/24 09:11 |
確かに国債を買うことが全面的に駄目だと言う気は無いです。 |
kazzt 2009/08/26 22:52 |
kazztさんどうもです。問題意識はワタクシも同感ですが、銀行はシステム不安を避けるという意味もあり、現在はリスクのとり方や資本の充実が厳しくコントロールされる業界です。今後もその傾向は強まる可能性があります。国債しか買わない銀行はいらないというのはまったくごもっともですが、現在ある銀行が突然死しないためにも国債での運用はやむをえない部分があると考えています。未来をひらく産業の芽への資金供給はかつては銀行がやってましたが、今では銀行などから飛び出したPB、PE、ベンチャーキャピタルなどがもっぱら担っていて、銀行などがそういうところのファイナンスをつけることでリスクの分散を図る、という構図でしょうか。 |
厭債害債 2009/08/27 09:29 |
確かに銀行そのものの可能性の芽を外部に出しすぎてしまってますね。 |
kazzt 2009/08/30 10:52 |
kazztさんどうもです。そういった問題意識はワタクシも同じです。結局のところ、いまの経済環境ではオーバーバンキングの問題が顕在化していることにくわえ、国債の大量消化の必要性ということがあります。ここからいじらないことには現状の仕組みはなかなか変わらない。少なくとも短期的には、預かったお金について収益を確保していくという意味で、銀行にとって国債は不可避な選択肢となっているのが事実でしょうね。 |
厭債害債 2009/09/02 09:42 |
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