最近の国債金利上昇は久しぶりに「悪い金利上昇」の予感がする。 景気動向や短期金利の低位安定見通しとは無関係に上昇しているからだ。本当のところがどうであれ、特に投機筋からは材料にされやすいし、過去のVaRショックや資金運用部ショックといった例でもわかるように、意外に国債の市場は脆弱である。今回は様々な観点から日本国債を狙いやすい状況が生まれている。 現実に国(ソブリン)のクレジット・デフォルト・スワップのレートは最近日本だけが特異な動きになっている。もともとそれほど流動性のない市場ではあり、マニピュレートされている可能性を否定できないものの、かなり目立って上昇を続けている。この動きはやはり民主党が選挙で勝ってから顕著になっている。 現実に日本の政府債務の悪化度合いは諸外国に比べて著しい事は疑いがない。1990年には政府債務の対GDP比は60%ちょっとであり、イタリアとか諸外国の事を笑っている余裕があった。いまや先進国の中でダントツの170%にまで増えている。 しかも今後事態はさらに悪化する事が予想されている。すでに国会論議などでも明らかになっているように、税収減と歳出増がミックスされて出てくるからだ。 税収に関してはやはり名目GDPが伸びないと名目収益も上がらないから期待できないが、当面需給ギャップにより大幅な名目成長は期待薄だ。そもそも人口が減っていて潜在成長率が低い(先日下方修正もされましたが)状況でそれを埋め合わせるのは並大抵ではない。デフレ傾向も続いており、名目成長には明らかにネガティブだ。増税も、基本的に民主党は4年間消費税をあげないつもりのようだ。民主党政権のもとではさらにガソリン税を下げたりするのだから、タバコ税ぐらいではまったく焼け石に水だろう。個人所得税や法人税の引き上げは(様々な空洞化を招くという意味で)論外だろう。実効法人税率はすでに先進国でも相当高い水準だ。 一方で歳出だが、減る方向性は見出しがたい。子供手当て、公立高校無料化、高速道無料化などで負担は増えるだろう。無駄を減らす努力は見せているものの、事業仕分けには小沢一郎氏が乗り気ではないようだから、道筋が付くまで時間がかかりそうだ。結局当面の間は歳出は増え税収が減るという状況が続く可能性が高い。このことが海外勢の格好の攻撃材料になっている。 市場参加者としての立場からは、国債の金利がどうなるか興味深いところだ。これまでは行き場のないお金が国債に流れ込んでいたため、財政赤字を国民の貯蓄でファイナンスするという循環が働いてきた。しかも、低金利政策が長続きした結果、国債の利払い費用は低く抑えられている。JPモルガンによると、対名目GDPでの利払い費用はアメリカ2.9%、ユーロ圏3.0%に比べて日本はまだ2.6%であり、これがこれまでファイナンスが何とかなってきた理由のひとつである。ところが、一定のレベルからはこういう循環は通用しなくなる。国民の貯蓄は減っている。老齢化社会においては、貯蓄が食いつぶされていくから今後も貯蓄率は下がるかもしれず、それが間接的に金融機関を通じて国債の買いにまわる額は(可処分所得が増えない限り)減っていくだろう。これまで長いゾーンの国債の低金利を支えてきた条件のいくつかが失われていく可能性がある。 もちろん、市場が上がるとか下がるとかはどの時間フレームで見るかにより根本的に異なる。1−2年の短期ではまだ好需給が続く可能性が高い。デフレの下で不況となれば短期金利が上がるのはずいぶん先であり、国債の1%前後の金利でも投資せざるを得ない人々が一杯居る。しかし上に書いたような構造的な問題は、本来(もともと根っこにある人口動態の問題同様)もっと早くから考えられていなければならなかったにもかかわらず、今回の金融危機後の不況を通じて久しぶりにクローズアップされ、顕在化してきそうな予感がする。 いぜんお話を伺ったあるジャーナリストの方は、消費税引き上げは4年を待てないのではないか、とおっしゃっていたが、まあ(焼け石に水であっても)早めに手を打つに越した事はない。もちろん不況マインドが残る中であるが、すでに消費者はかなり生活を切り詰めているので、消費に下方硬直性が出ているような感じがするから、景気へのマイナスはそれほど大きくないかもしれない。消費税の逆進性が問題になるが、弱者に優しい給付を一方で進めるのなら、反対側ではそういう弱者に厳しい政策をも本当はやらなければならない時期なのかもしれない。 (一部ポジショントーク入ってます、あしからず) |
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フィッチ「国債発行44兆円大幅超なら格付け見直しも」
英米系格付け会社フィッチ・レーティングスのソブリン部門統括責任者、デイビッド・ライリー氏は日本経済新聞に対し、来年度の国債発行額が新政権がめどとする44兆円を大幅に上回った場合、「中長期的な財政安定への取り組み不足が浮き彫りになる」との認識を示しました。財政規律が失われたとの判断につながり、日本国債の格付け見直しの要因になると語りました。フィッチによる日本国債の格付けは上から4番目の「ダブルAマイナス」で、方向性については「安定的」としています。 ***♪この道♪ ...続きを見る |
歌は世につれ世は歌につれ・・・みたいな。 2009/11/17 00:20 |
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>>「悪い金利上昇」の予感がする |
39歳無職 2009/11/10 18:39 |
39歳無職さん、どうもです。やはり今回の事態は民主党の政策のあやふやさが不振を招いた面は否定できないと思いますね。せめて、つらい事もきちんとやる姿勢を見せて欲しいと思います。 |
厭債害債 2009/11/11 08:57 |
日本国債の金利上昇は、米国債と同じ動きをしているだけです。よく観察してください。 |
通りすがり 2009/11/11 19:09 |
通りすがりさん、コメントありがとうございます。現場感覚としては、日本国債と米国債とはやや異なる動きだと思います。同じように見えるのは、たまたま財政問題という同じ要因がリスクとして認識されているからではないかと思います。本文でも示したように日本のCDSの上昇はやや際立っています。もちろん、投機的な仕掛けという側面は否定できないですが、現場の人間として昔より財政のリスクを相場のリスクとして認識し始める人が増えていることは事実ですね。 |
厭債害債 2009/11/11 23:36 |
>これまで長いゾーンの国債の低金利を支えてきた条件>のいくつかが失われていく可能性がある。 |
abc 2009/11/12 16:19 |
abcさんコメントありがとうございます。市場の低金利を支えているのは必ずしもインフレ期待の低さだけではなく、やむにやまれぬ「需給」が結構大きいと思います。需給は単純に言えば国債の発行額と投資家のネット買入額との差であり、いまはまだ様々な理由で買入額が上回る状況ですが、インフレにならずにむしろ不況の長期化で貯蓄が減り一方で政府支出の増大をうえめるための国債増発が続けば、金利は上がるかもしれません。インフレはその結果通貨の信任が落ちることで結果として生まれる可能性はあると思います。 |
厭債害債 2009/11/12 21:20 |
基本的に財政リスクは数の問題なく、時の政府の財政金融政策に対する期待度合いです。という意味では昨日の「事業仕分け」の異様光景を見て海外の機関投資家はJGBは買わないでしょうね。 |
かる 2009/11/12 23:37 |
かるさんどうもです。たしかに事業仕分けはちょっとパフォーマンスの色合いが強い気がします。直接民主主義の実験みたいである意味興味深いですが。 |
厭債害債 2009/11/17 05:49 |
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