三菱UFJが1兆円規模の増資をすると日経新聞が報じていた。これまでも世界中で資本調達は活発であり、なんだか慣れっこになってしまった感があるが、やはりこれは重い。 債券投資家としては、銀行増資は悪い話ではない。銀行システム安定の材料だし、個別銀行の債務履行のバッファーが大きくなるわけだから、原則的には安全性が増す(原則的には、と書いたのは、やはりその時の状況によるとしか言いようがないからであるが)。とりわけ、これまでバランスシートの右側のかなり下のほうにあった優先出資証券や劣後債券の投資家にとっては、さらにリスクの引き受け手が下に入ってくれる形となるので、安心感は増すはずだ。しかしながら、株も運用する年金や一般機関投資家としての立場からはやはり迷惑千万としか言いようがないと思う。とりわけ、最近のような普通株増資については直接的なダイリューションと需給の悪化が同時に来るわけであるから、個別株にとってだけでなく市場への下押し要因となる。 それでもなお、金融機関が強行するのは、規制の問題が大きいとおもう。この時代の資本増強が普通株を中心とするコア資本で埋めるように要求され、また必要とされる水準が金融危機の反省から上昇しているのだから。しかしこれらの規制に関連してあまり議論されないのは、「資本コスト」の問題である。株式は決まった利息支払い義務はないが、その分株主は収益を配当の形で(しかもリスクをとっているのだから債券利回りよりも高く)払ってくれることを期待する。それが長期にわたって期待できないのであれば、株を買う意味はないわけであるから、株の期待リターンは常に債券より高くなければならない。株のリスクプレミアム(安全資産に対する上乗せ期待リターン)はたぶんゼロ以下になることはない。最近は劣後債みたいなものも発行されているが、それらよりも高い利回りが本来必要とされているのである。逆にいえば新株を発行する段階で、企業は株主にそうした高いリターンを期待してください、と言っていることになる。 通常の企業ならいざ知らず、金融機関がそのようなコミットをすることは本来かなり危険なことである。増資した1兆円については、三菱UFJの劣後や優先出資よりも高いリターンを期待してもらうことになるとすれば、これらの増資したお金は相当高いリターンがあげられる投資を反対側で行わなければならないからだ。結局このお金はそれなりに無理することになり、本来今回の金融危機の反省として行われる金融機関のリスク削減という趣旨からは反することにならないか?もちろん、BIS基準とかは資産側のリスク度を考慮してリスクウェイトを決めるのでそれを適用してなお自己資本比率を高く保つのだが、格付けなどを悪用?したサブプライム投資や証券化商品投資でこうした基準が僭脱されていたことはご存じの通り。反省が本当に生かされるのだろうか。 安全というところに重点を置けば、どうしても巨額の調達で得たキャッシュの運用先の多くは固定利付資産、とくに国債などが多くなってしまう。株主には当面低配当で泣いてもらう。国債の需給は安定し、機関投資家の株式離れも進む。これを財務省とつるんだ金融庁が絵を描いたとしたら、たいしたものだと思う。 そういえば、先週後半の国債市場の戻りは、郵貯を使ったPKOという説が多く出されている。その直前さんざん金利上昇懸念を(一部外資系を巻き込んで)あおっておいてかなり効果的な介入となったようだ。さらにその直前、おもしろいことがあったようだ。一部機関投資家向けに、当局から金利上昇時のインパクトについてヒアリングが入ったようなのだ。これまでは金利についての項目がなかったとのことであり、いよいよ気にし始めたという感じだったのこと。さらに保険会社の新しいソルベンシーマージンでは外貨建債券より円建て債券の価格変動リスクを高く見るという案がでているという。やはり安心できない時代にそろそろ入りつつあることは監督当局も十分認識し始めたということではないかと思う。PKOをその文脈でとらえれば、なかなか興味深いものがある。 話がそれたけれども、機関投資家にとって、銀行増資はますます株を持ちにくくしてくれる厄介な出来事だ。そして本来持ってはいけない時に買わされることになる。まっとうな株がますます持てなくなる。ポートフォリオの構成がゆがむ。問題はこれらの行動が、金融機関の自主的な経営判断ではなく、画一的な規制に基づき行われているということだ。金融監督上、どうしても必要なら、民間レベルでの(あいまいな)BIS規制ではなく、当面公的資本という究極のPKOが株の方で出るべきではないか?つまり増資を国が引き受けて実質国営化すべきではないか?なにをばかな?といわれるかもしれないけれど、この増資を民間に任せると、確実に株は死ぬ。監督当局はそのような指導をしているという自覚はあるのだろうか? |
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三井住友FG、8000億円増資 〜2010/1/5日経夕刊より
また三井住友FGが増資を発表しました。しかも8000億円。使途はというと金融危機に伴い、世界的に厳格化される自己資本比率規制に対応する形&... ...続きを見る |
Keiのオフショア投資ブログ 2010/01/06 10:52 |
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このニュースには大変驚きました。 |
39歳無職 2009/11/15 09:22 |
私は逆の懸念をもっています。1兆円もの増資をしても、株主構成に大きな変化がなく、収益へのプレッシャーがなければ、経済情勢を言い訳に低い収益性で我慢してもらう一方、公的資金を受け入れさせると「公的資金返済」を旗印にして収益を手っ取り早くあげるためリスクの高い取引に傾倒しないか、あるいは公的資本を原資とした貸し剥がしを考えないか。 |
a-kun 2009/11/15 13:18 |
39歳無職さん、どうもです。銀行の資本充実が非常に重要であり、数値目標が早急に達成されなければならない、というルールが決められるのであれば、そして、そうしなければならないほど金融システムが重要ならば、世界で重要な決済機能の主体は国有化してしまえば?という半ばヤケクソのエントリーでした。まさに、それが本当に良いことなのかは疑問ですが、この増資の嵐と規制強化がミックスされて事態は一時的にせよ日本の株式市場にとって悪い方向に向かっていることを懸念します。 |
厭債害債 2009/11/17 06:00 |
まーそんな中で三國事務所がなくなったということのほうが、私にとっては衝撃でしたね。ひとつの時代が終わった気がします。 |
karu 2009/11/19 00:04 |
すみませんこの前の発言は一人ごとです。 |
karu 2009/11/19 00:11 |
なので話題のロイターのバンジージャンプ記事。うーん後ろで早く飛べよといってる従業員が本邦規制当局のバイト野郎,当然後ろには河のワニと結託したスイス人が「まだ国際基準に行く勇気はないのか」といって最後は無理やりつき落とす。当然綱には切り傷が。河の底でまってるはワニ(外資)ですか。 |
karu 2009/11/21 00:43 |
株屋的なことをいうと、通常エクイティファイナンスは「将来の収益拡大」(エクイティストーリー)を示すものなんですが、規制強化で”今の”BSを支えるために資本が必要、というのは辛いですね、、、。IB復活(というかSales&trading復活)で結局MUFGはMSの主要収益源へのアクセスを手放した(発表では”東京もグローバルトレーディングに組み込まれていて、、とか”規制うんぬん”とか理由付けされてますが)形になってしまいましたし。スタンスも出資方法&比率も中途半端な出資だったのが響きましたね、、、。 |
ttori 2009/11/21 18:53 |
横レスですけど、 |
39歳無職 2009/11/22 08:46 |
karuさんどうもです。おっしゃる通り、いろいろな意味で後ろ向きなんですね。そもそものMS出資の経緯もはたして?とか思っていますが。 |
厭債害債 2009/11/24 06:29 |
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