もうすこし、金融のことについて感じたことを書いてみたいと思います。 日本で想像していた以上に英米での金融(とくに投資銀行業務)への風当たりは強いのではないかと感じました。ワタクシがニューヨークにいた21日に突然オバマ大統領が新たな金融の規制法案を発表しました。すでに日本でも大きく取り上げられているとおり、政府から救済を受ける可能性のある金融機関についてはいわゆるプロップトレーディング(自己資本を使った自己資金での収益目的取引)やヘッジファンド、PEなどへの投資を制限するというものです。翌日のウォールストリートジャーナルの記事はこの法案の背景を割りと詳しく説明しています。 いうまでもなくこの法案作成の中心的役割を果たしたのは元連銀議長で82歳のボルカー氏です。氏は80年代インフレファイターとして名をはせ、アメリカが15%もの政策金利を実行していた時代の立役者です。ボルカー氏はバブルというものに対してちょっと前のグリンスパンドクトリン(バブルは起こるまでわからず予防は無理)という立場とは異なる考えの持ち主なのだと思います。彼によれば「大きすぎてつぶせない」金融機関のプロップトレードこそこの問題の本質であり根源であるということです。ボルカーはバイデン副大統領とは旧来の友人関係であり、積極的に政権に提案しやすい立場にありました。もちろん現政権内でも比較的金融界寄りのガイトナー財務長官やサマーズ氏などは、それは問題だけれども本質とまではいえないという立場なのですが、ボルカー氏はアクシルロッド上院議員などの有力者の協力を得てかれらを時間をかけて説得したということのようです。 投資銀行側の対応も金融危機対応における自らの立場という点ではかなり事態を深刻に受け止めていると思われます。今回ある投資銀行のロンドンとNYの拠点を訪問したのですが、入ったときになにかしら強烈な違和感がある。その違和感がなんなのか、すぐに気がつきました。それはその会社名がビルの入り口はもちろん、受付にも入館証にもどこにも書かれていないことです。もちろん欧米では過激な人も多いしアメリカでは平気でみんな銃をもってますから、このご時世リスク管理として当然ということなのかもしれないのですが、社名すら表に出せないぐらい、いま緊張感が高いということでもあるのだと思います。とはいえ、高額報酬の復活とかそういう話も出てきて国民から見たら本当に反省しているのかねぇという感じなんだろうと思います。そういう気持ちに今回の法案はうまく取り入る可能性はあります。 景気が多少上向いてはいるとはいえ、雇用は失われたままで人々はまだ不安にかられています。ワタクシがNYでいたころは見かけなかったのですが、今回金曜日の夕方に見た光景は、マンハッタンの中の教会の横にできた行列でした。おそらくシェルターか食事かそういうものを求める人々の列ではないかと思います。あるエコノミストと話しているなかで、ワタクシが「それでもあまり景気が悪いように見えないね」と言うと、彼は「まあNYはそうかもね。でもフロリダやカリフォルニアの南のほうへ行ってごらん、すごいから。」と言ってました。やはり米国全体で捉えた場合まだまだ人々はまったく立ち直っていない。そのなかでやはりスケープゴートは必要になってくる。 間の悪いことにマサチューセッツで民主党がまさかの敗北です。今回の金融規制法案はかなり前から準備されていたようではありますが、このタイミングで出したことで、オバマ政権がこちらで人気取りを図っているのではないかという新たなポピュリスト疑惑を生むことになりました。人気取りと見られることは最終的にあまりプラスに働かない可能性はあります。 ところで外部者として、ちょっと冷静に考えてみたら、実はこれらの議論が少なくともアメリカに関しては奇異に映るのではないかと思ったりもします。なぜなら、アメリカという国は製造業がいまいちでどちらかというとソフト中心の競争力で支配力を保ってきた。その産業の代表が投資銀行をはじめとする金融業界だったと思うからです。つまり、納税者の利益とかいうけれど、実際にこれまで納税者はそうした金融が海外で荒稼ぎしてきたことのメリットを直接間接に受けてきたではないか、という言い方は成り立つのではないか。たまたまやりすぎて危機を生みだしたということで、外国人であ我々がアメリカを批判するのは正当でもアメリカ人が納税者風を吹かせて金融を非難するのはバランスを欠いているのではないか、という気が少しします。批判するのは大事だけれど、じゃあこれからアメリカはどうやって食っていくの?農業国にでもなる?という厳しい議論をやっていかなければならないでしょう。その辺、これからどのようになるのか興味深いところです。 これからも不動産の問題はまだ尾を引きそうです。マンハッタンではまだまだ優良物件への人気が高く、あまり影響は受けていないと見られます。しかしちょっと郊外に出れば、かなりやばそうな状況にいっぱい出くわします。 今回の旅でもコネチカットにある金融の町スタンフォードに行く機会があったのですが、建設途中のビルがかなり見られました。地元の人に聞くとなかなか工事が進んでいないのだそうです。これらの物件は2006−7年の景気のよかったころ、マンハッタンには高くてすめない金融で働くような若い人々が比較的手ごろに入手できるようこうした土地に建てられ始めたものだといいます。この地にはUBSやRBSの拠点がありますしそういうところで働く若い人々が買ってくれるはずでした。ところが大幅な業界の人員削減によっていったい誰が入居するのか、誰も知らないようです。コネチカットやその近くのグリニッチなどはヘッジファンドの人々の聖地みたいなところがあって、本気でヘッジファンドつぶしがはじまったら、ますます厳しいだろうなぁと思ってしまいました。 マンハッタンのダウンタウンにある某投資銀行の窓からもやはり眼下に建設中の居住用高層ビルがいくつも建設されているのが見えます。案内してくれた受付嬢「すごいでしょ?誰が住むんだかねー」とか話していました。 政府による規制が読みづらい上、不動産では実際どうなっているのか把握が困難になっている、この状況におけるキーワードはやはり「不確実性」だと思います。つまりボラティリティー。市場はようやくこのオバマ政権の元でアメリカが持つ不確実性に気づき始めたのではないでしょうか?その結論がVIXなり為替のボラティリティーの上昇ということに結びついた気がします。 |
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現地の雰囲気を詳細に伝えていただき、大変参考になります。 |
40歳無職 2010/01/25 08:00 |
面白いリポートありがとうございます |
七さん 2010/01/26 12:00 |
>つまり、納税者の利益とかいうけれど、実際にこれまで納税者はそうした金融が海外で荒稼ぎしてきたことのメリットを直接間接に受けてきたではないか、という言い方は成り立つのではないか。たまたまやりすぎて危機を生みだしたということで、・・・ |
348ts 2010/01/29 17:12 |
40歳無職さん、どうもです。人気取りをやり始めると際限がなくなるうえ、どこかでほかの政策と矛盾が生じるような気がします。その意味でおっしゃるように最終的には市場の回復は果たせない可能性が強いと思います。 |
厭債害債 2010/01/30 08:27 |
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