「そこまでやるか!民主党政権 元官僚・後藤啓二弁護士が法的に考える」

そこまでやるか!民主党政権 元官僚・後藤啓二弁護士が法的に考える

2010年5月13日(木)

多数決で決められないこともある

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後藤 日本国憲法では、多数決によっても侵すことのできない基本的人権を保障し、三権分立制度を採用しているほか、裁判所に違憲立法審査権を認め、地方自治を保障するなど、多数決以外の方法による統治の仕組みを用意しています。憲法は一元的でなく多元的な権力を想定しているといえます。

花子 権力ですか。それもまた難しい話ですね。

後藤 三権分立という言葉は聞いたことがありますよね。

太郎 ありますよ。司法、行政、立法それぞれが独立しているんすよね。

後藤 司法権は裁判所にあり、行政権は内閣にあり、立法権は国会にあります。それぞれの権力が独立しているんです。

花子 それ、1カ所にすべての権利が集中するとどうなるんでしょう。

後藤 歴史上、苦い教訓があるんですよ。第2次世界大戦前のドイツでは、ナチスは選挙で第一党となり、ヒトラーは大統領から首相に指名され合法的に政権につきました。その後、議会で3分の2以上の多数により「全権委任法」を成立させ独裁を始めました。

太郎 全権委任法って何すか。

後藤 簡単に言うと、立法権を行政に渡すという法律です。

花子 議会での多数決によって作った法律で、三権分立を崩したということですか。

後藤 そうです。まさに多数決でも覆してはいけない、憲法で規定されるような大前提を覆したことになります。

太郎 「今日から6年2組では、算数の授業は全部体育にします」って学級会の多数決で決めちゃうようなもんすかね。昔やりましたけどね。先生困ってた。

花子 まあ、でも、普通それは通用しませんよね。でもその時代のドイツでは、教育基本法を無視して、算数の時間をサッカー三昧にしちゃったようなものなんですね。

後藤 それが適切な例えかどうか分かりませんが、しかし、前提を無視してルールを決めたという点ではその通りです。こうやってヒトラーは権力を一手に掌握したのです。彼は第2次世界大戦末期、ソ連軍がベルリンに侵攻して市街戦になった際、国民を助けて欲しいと部下から進言を受けます。このとき、ヒトラーが拒否したうえで何と答えたと言われているでしょう?知っていますか。

花子 いいえ、知りません。

後藤 「彼らが選んだ運命だ。自業自得だ」(映画『ヒトラー最期の12日間』より)です。これは注意するべきでしょう。

花子 そう言われると確かに、「選挙で勝ったから何をしてもいい」という考え方は独裁政権を彷彿とさせる気が。

太郎 でも、これまでの自民党政権にはそういった問題はなかったんすか? あったっしょ。自民党も、国民に選挙で選ばれ続けたことで、長く政権を担ってきじゃないすか。「多数決でも覆してはいけないことを覆した」例が、何かあるんじゃないすか。

後藤 私の感覚では、自民党は安定をいいことに、政権党としての仕事を官僚に任せすぎてサボタージュしてきたきらいがあります。

太郎 どういうことすか。

花子 むしろ、「多数決でやるべきことをやってこなかった」ということですか。

後藤 そうです。一方、民主党は政権党としてやっていいことの枠を超えているように見えます。

花子 枠っておっしゃいますけど、具体的にはそれ、なんですか。

後藤 それを理解するには、法というものを考えて欲しいと思います。日本は法治国家であり、法の支配の下に運営されています。


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著者プロフィール

後藤 啓二(ごとう・けいじ)

後藤 啓二弁護士、後藤コンプライアンス法律事務所代表。1959年神戸市生まれ。東京大学法学部卒業後、警察庁入庁。2005年に退官後、弁護士登録。著書に『企業コンプライアンス』(文春新書)、『日本の治安』(新潮新書)、「なぜ被害者より加害者を助けるのか」(産経新聞出版社)など。


このコラムについて

そこまでやるか!民主党政権 元官僚・後藤啓二弁護士が法的に考える

昨年の衆議院選で誕生した民主党政権。圧倒的過半数を確保することにより、与党は何をすることまでが許されるのか。法律や内規、またまた社会的な規範までも超越することができるのか。分かっているようで、よく分からない民主主義の基本に立ち返り、民主党政権のこれまでの行動を再考する。

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