10年前であれば、政治の話をする機会はそれほどなかった。しかし、2004年の小泉劇場以来、好む好まざるを別に、家や職場、盛り場で、政治について見聞きし、語る機会が増えている。
例えば、民主党幹事長の小沢一郎氏を巡る政治資金規正法違反疑惑では、東京地検特捜部は氏を事情聴取した。鳩山由紀夫首相に関しても偽装献金事件で脱税疑惑まで浮上し、秘書らは起訴され有罪が確定した。その後、検察は小沢氏、そして鳩山首相の起訴には持ち込めず、そして検察審査会は小沢氏については「起訴相当」、鳩山氏は「不起訴相当」と判断を下すというねじれが起こっている。そして、小沢氏には再度の事情聴取が検討されているという。いずれにせよ、鳩山首相、小沢氏のふたりとも、十分な説明責任を果たしたとは見なされていない。
誰しもが、この問題について考えたり語ったりしたことがあるはずだ。しかし、どれだけの人が根本的に、こういった動きの、いったいどこが問題なのかを理解しているだろうか。例えば、説明責任に関して言えば、小沢氏も鳩山首相も「国民は理解してくれているはず。選挙で選んでくれたのだから」といった意味のことを発言するに留まっている。確かに民主党は選挙で大勝したのだから、それが民意と言えなくもないような気がするが、果たしてどうなのか――政策の中身も大いに関心があるが、その前に、はじめての民主党政権の政治姿勢、権力の行使の仕方に、戸惑っている方も多いのではないか。
今回は、23年間の警察官僚経験を経て現在は弁護士の後藤啓二氏に登場いただき、国家とは、政治とは、政権とは、簡単に言うと、どんなもので、どんな風になっているのかを、入社15年目の会社員・花子と、入社5年目の会社員・太郎が学びます。
後藤 まずですね、政権党は、「選挙で勝ったから何をしてもいい」わけではありませんよ。
太郎 あ、そうなんすか。
花子 そう言いたくなることもあるけど、でも、実際に私たちが選挙で選んだわけだし、と思考がループするんですよね。「何をしてもいいのではない」と言い切れる根拠はどこにあるんですか。
後藤 まず、日本は民主主義国家であるということです。民主主義ってなんだか知っていますか。
花子 え。民主主義ですか。きちんと考えたことがないですね。
太郎 ノリとしては「みんなで決める」的な?
花子 すみません、教えてください。
後藤 民主主義とは一般に「民意によって政治を行うこと」とされています。日本のような間接民主制をとる国では、民意は選挙によって明らかにされるものと見なされています。多数決ルールで民意が決定されると言っていいでしょう。これに基づくと、選挙で勝った党の政策が民意である、と一応は言えます。
太郎 なら、「『選挙で勝ったから何をしてもいい』わけではない」って言えなくないっすか?
花子 そうよねえ。だって、選挙で勝った民主党の政策が、民意ってことなんですよね?
後藤 そこには盲点があります。まず、先の衆議院選挙の投票率は69.28%です(小選挙区、以下同)。そして、民主党の得票率は47.4%です。かけ算をすると、約33%。国民の3割ちょっとが民主党を支持しただけとも言えるのです。
太郎 へえ、意外と少ないすね。
後藤 そうです。圧勝したはずの政権党を支持しなかった国民も多いのです。また、投票をした人もすべてを委ねたわけではないですよね。ですから、すべてを多数決で解決しようとすると、政権党を支持しない国民はもちろん、その他の人も含めて、多くの権利や利益を不当に害する恐れがあります。それなのにすべてを多数決で決められるとなると、多数党の独裁を認めることになりかねません。
花子 けれど、多数決でもして決めないと物事が進まないという側面もありますよね。どこまでは多数決で決めてよくて、どこからはまずいのかがよくわからないんですが。