きょうの社説 2010年5月13日

◎普天間政府案 安全保障の視点はどこへ
 普天間移設に関する政府原案は、キャンプ・シュワブ沿岸の名護市辺野古移設をうたう 現行計画と基本的には同じと見てよいのだろう。埋め立て方式が海底にクイを打つ桟橋方式に変更となり、建設地が浅瀬に移動するものの、現行計画と違う内容にするための苦肉の策でしかない。在沖米軍の訓練の一部を県外に移す案は、沖縄の負担軽減を強調し、地元や同県民をなだめる政治的な目的以外に考えられない。

 残念なことに、普天間移設についての論議のなかで、鳩山政権から安全保障に対する発 言は、ほとんど出なかった。首相は県外移設断念の意向を伝えた際、在沖米海兵隊の役割についての理解が浅かったという趣旨の発言をした。安全保障の最高責任者でありながら、その自覚と責任がごっそり抜け落ちているかのような言動には、背筋が寒くなる思いがする。

 日本の周辺では、北朝鮮が核保有を宣言し、弾道ミサイルを日本に向けている。先日の 韓国の哨戒艦沈没事件では、北朝鮮の関与が指摘され、軍事的緊張が高まっている。中国は急ピッチで軍備の増強を進め、沖縄周辺に艦艇や航空機をしきりに出没させている。

 米軍がフィリピンのスービック海軍基地とクラーク空軍基地から撤収した直後、周辺各 国が領有を主張していた南沙諸島に、中国軍が上陸し、占拠したのは記憶に新しい。米軍の抑止力がなければ、東アジアの安定は保てないのである。それなのに、普天間移設の論議では、安全保障の問題が片隅に追いやられてしまった。民主党の言う「政治主導」の危なっかしさ、底の浅さが透けて見えるようだ。

 桟橋をつくる政府原案は、かつて米軍に拒否されたものと同じである。滑走路と水面の 間に空間ができることから、テロ攻撃などに弱く、建設費も浅瀬の埋め立ての2倍近くかかる。日照が遮断される関係で、サンゴなどへの影響も避けられない。訓練移転などの負担軽減策も鹿児島県・徳之島の受け入れは難しい状況だ。

 政府原案は、「埋め立ては自然への冒涜(ぼうとく)」「最低でも県外」と言い続けた 首相発言と、現実とのつじつま合わせの産物なのだろう。

◎金沢・ナンシー合意 創造的な都市連携の一歩
 金沢市とフランスの姉妹都市ナンシー市が「ものづくり交流合意書」に調印した。金沢 市がクラフト(工芸)分野で登録されたユネスコの「創造都市ネットワーク」は、文字通り創造的な文化活動を行っている都市のネットワークを生かして、文化の産業化を推進することに大きな狙いがある。ナンシー市との交流合意書の取り交わしは、その具体的な一歩ともいえる。地域のものづくり、芸術文化活動を担う人材の育成や新たなビジネスにつながる成果を望みたい。

 金沢市は今年度、ユネスコの認定を受けた「創造都市推進プログラム」と、より広範な 「ものづくり戦略」をスタートさせた。いずれも2014年度までの5カ年計画で、文化と創造的ネットワークが共通のキーワードである。

 金沢市はナンシー市の呼びかけに応じて日仏自治体交流会議の中心的役割を担っており 、仏自治体の間で認知度も高まっている。合意書を交わしたナンシー市だけでなく、会議に参加した他の自治体とのつながりも深め、金沢の文化産業、ものづくり産業の振興に役立ててもらいたい。

 ものづくり交流合意書に基づく今後の活動として、学生の企業研修や工芸職人の交流、 建築関係の高等教育機関の提携などが予定されているという。

 ナンシー市はガラス工芸や「アールヌーボー」という芸術運動の中心地として知られる 。金大、金沢美大と国立ナンシー美術学校との学術交流や卯辰山工芸工房への研究生受け入れなど、金沢との交流の歴史は35年を超える。

 ユネスコの創造都市は「創造的な文化の営みと革新的な産業活動の連環によって元気の ある都市」と定義づけられる。ナンシー市もそうした都市の一つといえ、互いにものづくり産業を通じて都市の持続的発展をめざすという合意書は当を得たものである。

 「ものづくりは人づくり」とも言われ、創造都市推進プログラムの柱の一つになってい る。ナンシー市との交流は、ものづくりをめざす若い人たちに良い刺激と励みを与えることになろう。