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天声人語

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2010年5月9日(日)付

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 夜空に浮かぶ月の生い立ちには諸説ある。地球と一緒に生まれた双子説。他の星が地球に衝突してできた巨大衝突説。別の所にあった月が地球の引力につかまった捕獲説……。だが詩人まど・みちおさんの「説」は、ちょっと変わっている▼「太陽と地球」という詩はこう始まる。〈まだ 若かったころのこと/太陽は 気がつきました/わが子 地球について/ひとつだけ どうしても/知ることのできないことが あるのを〉▼〈それは 地球の夜です/地球の夜に/どうか安らかな眠りがありますように/どうか幸せな夢があふれますように/祈りをこめて 太陽は/地球の そばに/月を つかわしました〉。地球の夜を見守るために、月はやさしい光を与えられたのだという。100歳の詩人の軽やかな想像である▼わが子である地球の寝顔を、夜ごとに月に聞く。まどさんの描く太陽は父親よりも母親のイメージだ。父が「背中」で語るなら、母は「まなざし」で包む。きょうは母の日。感謝とは、まなざしを送り返すことに他ならない▼天に星あれば、地には花と言うべきか。きのう、花屋の軒先は道までカーネーションがあふれていた。寒さで生育が遅れたが、連休の好天で取り戻したそうだ。母なる太陽から地球のお母さんたちへの、心づくしかもしれない▼〈母さんと呼ばれ続けて母になる〉。教育・心理カウンセラー富田富士也さんが、胸にしみる川柳を月刊誌に寄せていた。何万遍となく呼ばせてもらったその人に、さて、きょうはどんな感謝を届けようか。

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