2010年05月10日 (月)時論公論 「瀬戸際に立つ鳩山政権」

 今晩は。今月のNHKの世論調査で鳩山内閣の支持率が21%。赤信号とされる10%台まであと一歩のラインに落ち込みました。致命傷になったのは普天間問題の拙劣な対応です。今月末までに決着しなければ、責任を問う声がさらに強まるでしょう。しかし、民主党内では、参議院選挙は苦戦が必至だという見方が広がっているにもかかわらず、鳩山総理大臣の進退問題だけは何とか避けたいという声が大勢を占めています。一体どんなシナリオがあるというのか。今夜はこの問題について考えて見たいと思います。

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 まず、支持率をどう見るかです。政権発足直後の内閣支持率は72%。小泉政権に次ぐ高い数字でした。それが今月は21%ですから、8か月で実に51ポイントの落ち込みです。同じ8か月目の時点で比べると、1年で倒れて行った小泉政権の後の3つの政権をはるかに上回る、まさに底が抜けたような下がり方です。

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 潮目が変わったのは1月でした。この月、無党派層の中で支持と不支持が逆転。民主党の政党支持率もそこから落ち込みが激しくなりました。内閣支持率を下支えていた民主党支持者の大きな塊まで崩れ始めたことで支持率低下に歯止めがかからなくなりました。小沢幹事長の周辺に対する検察の捜査が政局の焦点だった頃です。自民党政権時代と変わらない政治とカネの問題が、有権者の民主党離れにつながったことは明らかです。
 しかし、そこまでなら小沢代表の辞任で事態が収拾された去年と似たような展開をたどることもあり得ました。それを複雑にしたのが、普天間問題です。内閣支持率はこの1か月でさらに11ポイントも下がりました。普天間問題に対する鳩山総理大臣の稚拙な対応が、国民から、総理大臣としての資質に欠けるのではないかという厳しい視線を浴びる結果になって、支持率は赤信号目前まで落ち込んでしまったのです。

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 このように、鳩山政権に対する今の逆風は、他ならぬ総理大臣と与党の幹事長という、政権のど真ん中にいる2人の政治家が震源地になっている点で極めて深刻です。今月の世論調査では「小沢幹事長は幹事長を辞任すべきだ」と答えた人が66%。検察審査会が「小沢氏は起訴相当、起訴すべきだ」と議決したことが響いて、3月の調査より世論の風当たりはさらに厳しくなりました。時間がたてば世論も沈静化するだろうという小沢幹事長周辺の見方は完全に裏目に出ています。

 鳩山総理大臣についても、「普天間問題が今月末までに決着できなければ退陣すべきだ」と答えた人が40%に上りました。鳩山総理大臣は先週、沖縄県や徳之島の関係者に対する説得工作を試みました。自ら事態の打開に動くことで国民の批判を和らげる狙いもあったようですが、実際には、「総理大臣が言う腹案には何の展望もない」ということが世の中に分かっただけでした。これが響いて、世論は先月より厳しさを増しています。辞任を求める声は、まだ小沢幹事長ほど圧倒的ではありませんが、このまま今月末を迎えれば、鳩山総理大臣の政治責任を問う声は一段と大きくなるでしょう。

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 このように、民主党は政権中枢の複雑骨折で身動きが取れない状況です。参議院選挙に与える影響を考えれば、党内から「体制を一新すべきだ」という声が出て来ても不思議ではありません。実際、今月の世論調査では「民主党が参議院選挙で単独過半数を取るのは望ましくない」と答えた人が58%に上りました。先月より5ポイント増えています。単独過半数には参議院選挙で60議席取ることが必要ですが、党内ではいま選挙をやったら40議席台、連立与党を合わせても過半数に届かないのではないかという見方をする議員が少なくありません。
 しかし、それにもかかわらず、民主党内からは体制を一新すべきだという声は表向きほとんど聞こえて来ません。それは何故でしょうか。1つの理由は、支持率が下がったから総理大臣を変えるというやり方では自民党政権と同じになってしまう。それだけは避けるべきだという党内に共通した判断があることです。しかし、現実はそれだけではありません。その背景には、党内の小沢幹事長を支持する勢力と小沢幹事長とは距離を置く勢力の、思惑の違い、参議院選挙の後までにらんだ複雑な駆け引きがあるようなのです。

 まず、小沢幹事長と距離を置く勢力は何を考えているのでしょうか。枝野行政刷新担当大臣や前原国土交通大臣らは、「普天間問題は今月末を超えても継続協議にすべきだ。鳩山総理大臣は辞めるべきではない」と昨日から一斉に声を上げ始めました。それは何故かと言うと、鳩山総理大臣が辞めれば、後継を選ぶ民主党の代表選挙が行われます。代表選挙では党内の多数を握る小沢支持勢力が優位に立って、結果的に小沢氏の影響力が今よりさらに強まるのではないか。小沢幹事長と距離を置く勢力はそこを警戒しています。
それならば、たとえ厳しい結果が予想されても今の体制のまま参議院選挙に臨んで、その結果を受けて、選挙後、小沢幹事長の責任を追及した方が小沢氏の影響力を排除しやすいのではないか。反小沢勢力ではそういうシナリオまで描いているようです。

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一方の小沢幹事長を支持する勢力です。こちらが警戒していたのは、鳩山総理大臣が内閣改造に打って出て、政治とカネの問題を抱えた小沢幹事長を更迭することでした。そうなれば小沢氏の求心力に陰りが生じたでしょう。反小沢勢力が期待したシナリオです。しかし、その鳩山総理自身が普天間問題で厳しい立場に置かれました。情勢の変化を受けて、小沢氏を支持する勢力は「鳩山総理に小沢幹事長は切れない。2人は一蓮托生だ」として、やはり、このまま参議院選挙に臨むしかないという流れを作ろうとしています。
 そうなれば選挙は厳しい結果になる可能性があるということは、小沢支持勢力も認めています。しかし、仮に、与党が過半数を割り込む事態になっても、他の党に手を伸ばして参議院の多数派工作ができるのは小沢幹事長しかいないとして、選挙後もあくまで小沢氏中心の党運営を目指して行くのが、小沢支持勢力の基本戦略です。

 このように、小沢・反小沢、どちらの勢力も、同床異夢ではありますけれども、今の体制のままで参議院選挙に臨むしかないという方向に流れ始めています。そういう空気を読んだのでしょう。鳩山総理大臣も、けさになって「普天間問題の決着とは5月末までに一定の方向を出すことだ」と、これまでよりハードルを下げるかのような発言を始めました。


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「参議院選挙は今の体制で」という判断は、衆議院での絶対多数がある限り、政権を手放すことはないということが大前提になっています。しかし、日本の現状は、政権の機能不全をこれ以上許して置けるほど甘くはありません。日米関係を長く見て来た人ほど、同盟関係の空洞化を心配しています。鳩山政権は「経済の成長戦略」や「財政の中期フレーム」を来月決めなければなりませんが、いい加減なものに終わったら、日本に対する国際社会の評価はますます厳しいものになるだろうと言われています。ただ「政権を維持できればいい」というだけでは、政権末期の自民党と同じだと言われないでしょうか。

 それだけではありません。民主党の若手の議員は、大型連休中、地元で有権者から大変厳しい声を浴びせられたようです。そういう状況では、内閣支持率は参議院選挙前に、森内閣や麻生内閣と同じ10%台に落ち込むことが十分あり得るでしょう。現実が視野に入って来て、「選挙に勝てない」という声が一段と現実味を帯びて来れば、体制刷新を求める声が、「小沢・反小沢」というこれまでの党内構図を押し切って、一気に広がる可能性もあると見て置いた方がいいと思います。
 そうなれば政局は混乱するかも知れません。党内の対立を上手く治めながら、政権が置かれた状況をリセットして、目前の政策課題に政治力を集中できるような態勢を作れるのかどうか。民主党の政党としての統治能力が厳しく問われる場面が続くでしょう。

投稿者:影山 日出夫 | 投稿時間:23:57

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