いきなり寒さがやってきて、山の木々は一斉に木の葉を落とし始めた。うちの庭は山盛りの枯れ葉を敷き詰めたようになり芝生のハゲチョロビーがきれいに隠れてちょうどいい。それにしても今朝方の冷え込みは凄(すご)かった。この季節、ベッドの上に羊モコモコの敷布団を重ね、上からはタオルケットと毛布と保温性バッチリのかけ布団をかぶって寝ているのに、それでも寒さで目が覚めてしまったほどだ。そうだ、夕べはフリースも着て寝たのだったっけ。
雪でも降ったのではないかと、期待半分不安半分でカーテンを開けたが、景色はいつもと変わらなかった。風は無いらしい。枯れ葉一つ微動だにしない。あー、息が白い。
こんな朝は、熱いみそ汁をすするにかぎる。実は私、世の健康ブームとはうらはらに朝食は一切とらない主義。これは幼稚園の頃からの習慣で、食べるとかえって一日中胃がもたれて不調なのである。ただ一つの例外が母の作ってくれるアツアツのみそ汁なのだ。朝の場合、私は具を一切入れず、汁だけをお椀(わん)一杯飲む。まず寝起きの胃がポワンと温まり、やがて体中がホカホカしてくるあの心地よさ。日本人に生まれた幸せを感じる。みそ汁を飲む場所だが、冬場は食卓ではなく、2階の自室のトイレと決まっている。そこには愛してやまない足湯セットがある。朝、便器に腰かけて足湯しながらアツアツのみそ汁を飲む極楽的快感。ちょっと行儀悪いが一石二鳥、いや三鳥の朝を迎えることができる。東京とは比較にならないほど寒い寒い田舎の冬を越すうちに身についた習慣なのである。
みそ汁に使うみそはもちろん自家製のもの。冬が終わっても、活躍の場は無くならない。真夏には、いつも小さな器に入れて持ち歩き、外食先でこっそり野菜などにつけて食べる。これで夏バテを防ぐことができているようだ。みそは高温多湿の気候でも腐らずにいてくれるからとても助かる。それは生きている食べ物だからだ。四季によって味、香りが変化し熟成していきながら、食べた者に元気を与える。昔は馬がお産した後、大鍋いっぱいのみそ汁を飲ませたという。ガボッガボッと大きな音をたてて、おいしそうに飲んだそうだ。
(タレント・エッセイスト)