「築地離れ」加速、老朽化で大口取引先が敬遠
移転問題に揺れる東京・築地市場(中央区)など都内の3市場で営業する水産卸売9社が、2008年度の総合決算で経常赤字に転落したことが、都の調査でわかった。
都内の水産市場が現在の3市場体制となった1989年度以降初めて。築地市場が都内の水産物取扱量の9割以上を占めていることなどから、都では「老朽化している築地市場の不振が赤字の大きな要因」と分析している。
都は毎年、市場の状況を把握するため、9社分を集計した総合決算を出して、分析している。
今春まとまった最新の総合決算によると、都内の築地、大田、足立の3市場で営業する水産卸売9社の08年度総売上高は、約5654億7000万円で、前年度を約4%下回った。経常利益は計約7億5000万円の赤字で、前年度(約26億6000万円の黒字)を大きく下回り、89年度以来、初の赤字となった。都は個別会社の業績などは明らかにしていない。
築地市場の水産物取扱量は減少傾向にあり、9社の売上高も年々減っている。都や市場関係者は、赤字転落の要因として、老朽化した築地市場に大口取引を行う機能が乏しく、大手スーパーが取引を避けている現状などを指摘している。また、長引く不況も影響しているという。
こうした状況に、卸売会社から水産物を買い取り、市場内で小口販売する仲卸業者も経営状態が悪化。都によると、08年には築地市場の水産仲卸業者の44%が経常赤字となった。85年度に1135あった業者数も09年度は760に減少した。都では、「築地離れ」の事態打開の切り札として、江東区豊洲地区への移転を計画しているが、土壌汚染問題などを理由に都議会第1党の民主党などが反発。3月の都議会で移転の関連予算は可決されたものの、築地市場の再整備も検討することになり、事実上の凍結状態に陥っている。
卸売会社側からの依頼で今年3月に市場の改革案をまとめた高木勇樹・元農林水産省次官は「築地市場には、大量供給と加工、物流機能が大きく不足している」と指摘している。
◆漁協から直接仕入れ「市場外」増加◆
築地市場の夕暮れの風景に異変が起きている。夜明け前から動き出す市場は長年、昼過ぎには閑散としていたが、ここ数年は夕方まで卸売会社の明かりがつくようになった。「中央魚類」の小川征英・営業本部長は「最近の社員は未明に始まる競りを見守った後、夕方までスーパーへの営業活動をする」と語る。
東京、神奈川で展開する京急ストア(東京)は3年前、一部の魚を除き、築地での仕入れから撤退した。担当部長は「神奈川などほかの市場で1業者に発注すれば魚がそろう」と話す。別のスーパーの担当者も「多くの店舗に、切り身などに加工した魚を一斉に運ぶ必要があるが、築地ではそれができない」と指摘する。
卸売会社は従来、市場内の競りなどを通じて、小口販売を担う仲卸業者と取引するのが主流だった。だが、「築地離れ」に拍車がかかり、卸売会社は新たな取引相手を開拓する必要に迫られている。
小売側が市場を通さずに漁協などから直接仕入れる「市場外取引」も増加。農林水産省の推計では、89年度に74・6%だった全国の水産物の市場経由率は、06年度には62・1%に低下している。
渡辺達朗・専修大教授(流通政策論)は「機能不全に陥っている築地市場の改革には一刻の猶予もない」と強調。一方で、「市場のあり方自体を考え直さなければ、新市場でも同じ問題が繰り返される」とも警告している。(武藤修一)
◆築地市場=1935年に日本橋の魚市場が移転して開場した。敷地面積は約23万平方メートル。水産物と青果物を扱っており、水産物の取扱量は年間約54万トン(2009年)と国内最大。
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