鳩山氏は「がっかりするほど、らしかった」と英誌 もっと議論すべきなのは
○「普天間の愚行」と
普天間問題を戦略的に論じたものと言えば、11日付の『ウォールストリート・ジャーナル』に、ブッシュ政権下で国家安全保障会議(NSC)不拡散問題担当部長を務めたキャロリン・レディー氏の寄稿が掲載されていました。
現在は日本で研究活動中のレディー氏いわく、首相が自分で決めた「5月末」の締め切りを自ら守るにしろ破るにしろ、「普天間飛行場の愚行(= folly)」から学び取れることはすでにいくつかある、と。「愚行=folly」と呼んだのは文脈からして明らかに、勝手に「県外」と言い出して勝手に締め切りを定めながら果たせずに空回りした感のある鳩山政権の行いです。
『エコノミスト』いわくが「farce = 茶番」ならば、『ウォールストリート・ジャーナル』では「folly = 愚行」なわけです。いやはや。
レディー氏によると、この難局は日本に防衛力を増強せよという「目覚ましの音(=wake-up call)」なのだと。まず「鳩山氏自身が認めているように、日本の抑止力にとって米軍の存在がいかに重要か首相は十分には理解していなかったのだ」と。 そして、「日本では4万7000人もの駐留米兵が、自分の国ではない国の安全のために戦おうとしている。そういう状態の日本で日本人が現状に対して安穏と した状態 (= complacent) になるのはたやすい」ことだろうと。
私がさらに超訳しますと、このくだりの奥には要するに、日本の皆さんは自分の国を他人に守って もらいながら文句ばかりでお気楽なことだが、そろそろ自分で何とかしましょうね——という本音が透けて見える気がします。気のせいかもしれませんが。
○なぜ沖縄に米軍基地があるのか
レディー氏は続けます。要約しますと、「普天間の愚行」によって日本の防衛力増強が検討課題として浮上しているほか、憲法9条論議も浮上している。さらにアメリカにとっては、日米同盟の有用性そのものを再検討する時期が来ているのかもしれないと。日本は決してアメリカが期待するような、東アジア安全保障の要にはならないのだからと。米軍艦が公海上で北朝鮮に攻撃されても、日本は米軍を助けられないのだ。別にだからといって日本との同盟関係を全て諦めろというのではないが、米軍の人員や作戦リソースを同盟パートナーのためにどれだけ割くかどうかは、相手国の能力や「政治的意志(political will)」と応分にしなくてはならない。よって場合によってアメリカは、東アジア安全保障の要となるパートナーを、日本ではなく、韓国やオーストラリア、インドといったほかの民主国家から選ばなくてはならなくなるのかもしれないと。
これをまたしても超訳しますと、ガタガタ言うだけでやることやらないし、アメリカを守ることもできない日本より、もっとやる気があって頼りになる国をパートナーにしてみてもいいんじゃない?という風になります。「JAPAN」に対してこれといった思い入れのないプラグマティックなアメリカ人を自分に憑依させてこの文章を読むと、なるほどもっともだ——と言いたくなる自分がいます。残念なことに。
ところで、このレディー氏が「日本の代わり」候補として名前を挙げたオーストラリアですが、その豪政府系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」のアナリスト、サイモン・スミス氏が、北東アジア地域の秩序について、日刊紙『オーストラリアン』に寄稿していました。
「私たちの地域における戦略的重心は北東アジアだ。その北東アジアは現在、数多の問題を抱えているが、短期的にイライラする問題と長期的に悩ましい問題を区別し、地域安定を脅かす課題とも区別することが重要だ」という書き出しで、中国の軍備増強(海軍による挑発行為など)が地域の勢力均衡を変化させていると指摘。
いわく、北東アジアで米国の役割が減退すれば地域紛争の可能性が高まると米政府は考えているが、巨大な財政赤字を抱えながらイラクとアフガンという二つの戦争を戦う米国には、アジアの安全保障を自前で増強する余力はない。そしてアジアにおける米国益は、ほかのどの国よりも日本を通じて、さりげなく実現した方が、アメリカ自身にとっても好ましい。ゆえに普天間問題で米政府とやりあってきた日本は今回の経験から、アジアにおいて、そして日米同盟において「日本がより大きな役割を演じることに、米政府も決してやぶさかではないのだ」と気づくだろう——と。
アジア安全保障における日本のプレゼンス拡大をアメリカは実は望んでいる——という点で、このスミス氏と、上述のレディー氏は一致しました。ただし「それは徐々に変化する段階的な移行でなくてはならない」と、スミス氏。つまり、「普天間は最低でも県外」といきなり爆弾発言を放ってはいけないのだということでしょう。
なぜ日本に、沖縄に、米軍基地があるのか。東アジア安全保障の枠組みの中で、日本や沖縄はどういう役割を果たしているのか。もっと言えば、日本が実現すべき抑止力とは何か。沖縄の負担と苦しみを軽減すべしという絶対善のテーマと切っても切り離せないこの戦略議論を、私たち日本人は十分に尽くしてきたでしょうか? それを十分にせず、むやみに「どこがいいか」と移設先探しの議論ばかりが先行 した(と私は思っている)普天間移設問題。レディー氏の主張には必ずしも全て賛成するわけではありませんが、東アジアを戦略的にとらえているアメリカ国防関係者の冷静な視線として、参考になると思います。愚行と呼ばれようが。
◇本日の言葉いろいろ
・bombshell = 爆弾、爆弾発言、お色気美人
・farce = 茶番、滑稽劇、ファルス
・gravitas = 重み、風格
・change of heart = 変心
・ominous = 不穏な、不吉な、重々しい
・folly = 愚行、馬鹿げたこと
・wake-up call = 目覚ましの音
・political will = 政治的意志
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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。実は奥田民生とも。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。
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