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【芸能・社会】

父・佐田啓二と発“共演”中井貴惠 「同じセリフ演じたと思うと感慨深い」

2010年5月12日 紙面から

「『貴惠が何かバカなことをやってるよ』って話してるんじゃないでしょうか」と小津監督、父・佐田の2人へ思いをはせる中井貴惠=東京都内で

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 女優で絵本作家としても活躍中の中井貴惠(52)が、2006年から取り組んでいる「音語り」と題した朗読パフォーマンスの新作で、天国の父・佐田啓二と初めて“父娘共演”する。

 15日に取り上げるのは、名匠小津安二郎監督の「秋日和」(1960年)。映画の台本を潤色して、ジャズピアノとセッションしながら約1時間の語りを聴かせる。会場は、小津監督の出身地、東京・深川にある江東区古石場文化センター。監督の常設展がある、いわば聖地だ。

 昨年、初めて小津作品を朗読した「晩春」の初演から約1年。同じ会場で、第2弾に挑む。しかも今回は、父親の出演作。「弟(中井貴一)が父の役を演じることはあっても、私がやるなんて思ってもみませんでした」と貴惠。朗読ならではの巡り合わせだ。何度かリハーサルを重ね、「同じセリフを演じたんだなと思うと感慨深いものがあります」と話した。

 「秋日和」は、自分が結婚すれば一人きりとなってしまう父親を気遣う娘の心情と、それを知りながらも幸せな結婚を願う父親の情愛を描いた「晩春」の母娘版ともいえる内容(原節子、司葉子主演)。スター俳優だった佐田が演じたのは脇役だった。が、「この人がやるとこういう感じになるんだ、という不思議な魅力のある俳優」と感じたという。

 今回の朗読では、男3人(佐分利信、中村伸郎、北竜二)がストーリーを運ぶため「すみ分けが非常に難しい」。昨年、神保町シアターで佐田特集が組まれたときにあらためて観賞した際、「会場が笑いの渦で、あぁこれは喜劇なんだなと思いました」(貴惠)。その雰囲気を生かしながら前回同様、ト書きも読んで、映画のシーンが浮かんでくるような演出になる。

 小津監督は、佐田夫妻の仲人を務め、家族ぐるみの交流だったのはよく知られている。佐田家には「小津部屋」まであったほど。今、家族の中で貴惠だけが“酒豪”なのも「小津さんのせい」と貴惠は笑う。

 映画人やファンにとって「神様のような人」の作品を朗読という形で表現することにはプレッシャーもあった。「晩春」「秋日和」などの原作を書いた小説家・里見〓の四男で鎌倉文学館館長の山内静夫さん(84)が小津作品の製作担当だった縁で相談したところ背中を押してくれた。

 朗読の前の第1部では、山内さんと小津監督の思い出も語る。大好きだった小津のおじちゃまと作品への敬意を込めて貴惠は、「私にしかできないことでもあると思うので、できるだけ多くの方に伝えていきたい」と話している。

 公演の問い合わせは、古石場文化センター=(電)03−5620−0224。

 ◆佐田啓二 京都出身で、早大政治経済学部在学中、俳優佐野周二宅に下宿した縁で松竹大船撮影所に入社。木下恵介監督「不死鳥」でいきなり田中絹代の相手役に抜てきされスターに。高橋貞二、鶴田浩二と松竹戦後の三羽烏と言われた。「鐘の鳴る丘」「君の名は」「喜びも悲しみも幾歳月」「秋刀魚の味」など戦後を代表する作品に出演。小津作品には4作に出た。64年、交通事故で他界(享年37)。

 ◆小津安二郎 1903年東京・深川生まれ。父親は豪商の番頭だった。9歳の時父の故郷、三重県松阪市に転居。旧制宇治山田中学時代に映画に熱中。代用教員を経て上京、親類のつてで松竹キネマ蒲田撮影所に入社。「懺悔の刃」で初監督。「晩春」「麦秋」「東京物語」など名作を撮る。62年に映画監督として初めて日本芸術院会員に。63年に誕生日と同じ12月12日にがんのため死去。海外の多くの映画人に影響を与え、今もリスペクトの対象となっている。

※〓は弓へんに亨

 

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