【社会】毛髪中の水銀、4倍超 捕鯨の地、和歌山・太地町民2010年5月10日 朝刊 古式捕鯨発祥の地でクジラやイルカ漁で知られる和歌山県太地町の住民延べ1137人を対象に、毛髪中のメチル水銀濃度を調べた初の調査結果が9日公表された。濃度は国内のクジラ類をほとんど食べない他の14地域の平均と比べ、男性で約4・5倍、女性で約4倍に達していたが、メチル水銀中毒の可能性を疑わせる健康被害はなかった。 「水銀と住民の健康影響に関する調査」は同町の依頼で、国立水俣病総合研究センターが昨年6月から今年2月までのうち夏季と冬季の2回実施。夏季の調査では、調査した住民の水銀濃度の平均値は、男性11・0ppm(国内14地域の平均2・47ppm)、女性は6・63ppm(同1・64ppm)だった。最大値は男性が139ppm、女性が79・9ppm。神経症状が出る可能性がある下限値とされる50ppmを上回った住民は32人いた。 同センターは、町民から魚介類の摂取に関するアンケートもしており、岡本浩二所長は「太地町住民の濃度が高いのは、クジラやイルカの摂取と関連するだろう」と述べた。 同センターは、濃度の高かった住民を中心に、神経内科検診や二点識別覚検査、上肢運動機能評価システムを用いた検査などを行ったが、「水銀濃度と関係する神経所見はなかった」と話す。 対象は、本人や家族が調査を希望したゼロ歳児から90歳代までの男女で、60、70歳代が約60%を占め、平均年齢は50歳代だった。 結果は同町公民館で住民らに公表され、三軒一高町長は「健康被害がなかったことが科学的に証明されて安心した。今後、専門家を入れ、さらに調査を続けていきたい」と話した。 メチル水銀 有機水銀の一つ。自然環境中に存在し、食物連鎖を通じて魚介類などに残留、蓄積しやすい。食物連鎖の上位にある大型魚などには比較的多く含まれるという。体内に大量に入ると、中枢神経に障害などを起こす恐れがある。水俣病の原因物質。
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