カズ落選の教訓

　サッカー担当を離れて今年で１０年。最近では、もう名前と顔が一致しない代表選手がいるほど疎くなってしまいましたが、Ｗ杯南アフリカ大会の日本代表選手２３人が発表され、久々に１０年以上前のいろんな記憶が蘇って来ました。

　岡田監督はほぼ妥当な選考をしたようですが、唯一のサプライズは昨年９月の右頚骨骨折から公式戦出場のないＧＫ川口能活選手（３４）の選出でしょう。

　「リーダーシップ、選手に一目置かれている存在はどうしてもチームに必要だと考えた」というのが岡田監督が選出した理由。

　これには１９９８年のフランス大会で、精神的支柱となると思われていたＦＷ三浦知良選手を外した一件が反映されているようです。

　

　１９９８年当時、静岡支局で清水エスパルスの担当をしていた私も、あの時は驚きました。メンバー発表をするときの岡田監督の「外れるのはカズ、三浦カズ」という言葉。確かに、もうあの時点で全盛期は過ぎており、パフォーマンスの質は低下していました。あの時の岡田さんの決断を「結果にこだわるために鬼になったのだろう」と解釈しました。

　そして翌年の１９９９年。新天地を求めて、ヴェルディから名門チーム、クロアチア・ザグレブに移籍したカズさんを取材するため、帯同した記者が私でした。当時はイタリアのペルージャにいた中田英寿選手の全盛期。イタリアとクロアチアを往復し、遠征試合のときはトルコ、フランス、スロベニア、スペイン、オランダ・・・とヨーロッパ中を追い掛け回しました。まだ２０代だったので体力も今以上にありましたが、それでもハードでしたね。

　当時、マスコミ嫌い絶頂期の中田選手とは最後まで血の通った付き合いはできなかったけど、カズさんには暖かく受け入れていただきました。

　本人も失意から立ち上がるために海外に移籍し、その活躍ぶりを報じに来た記者を大事にしたいというお気持ちがあったんでしょうね。

　クロアチアでも日本のエースストライカーの移籍は注目され、それにくっついて来た我々、日本のスポーツ記者まで好奇の目で見られましたね。クロアチアの新聞には「カズ追っかけ記者がこの日は〇人来ていた」とか、そんなような記事が毎日載っていました。

　記者も人間ですから、ずっと一人の選手に密着しているとだんだん情が移って来るんですね。日々の練習や生活を追いかけながら何度か一緒に食事に行くこともあり、「甲斐くん何してるの？」とカズさんの方から電話をしてくれるようなこともありました。

　そして１９９９年２月１７日、カズさんのクロアチアデビュー戦。ザグレブのホームゲームでムラドスト１２７というチームを迎え撃ちました。どんな結果になろうと一面で報じることが決まっており、胸が高鳴る中、試合を見守りました。

　前半、ザグレブがＰＫのチャンス。それをカズさんが蹴ることになりました。「デビュー戦ゴール」という華々しい見出しが頭に浮かんだ直後、カズさんが蹴ったボールは左に外れてしまいました。試合は３－０で勝ちましたが、カズさんは得点に絡むことができませんでした。

　この時は次があるさ、と軽く考えていたのですが、これが後になって決定的なミスだったことに気づくんですね。監督も徐々にカズさん中心にチームを組むことを考えなくなってきて、徐々に得点チャンスも減りました。毎試合初ゴールを待望していたのですが、この年の６月にザグレブを離れるまで、結局得点シーンを見ることができませんでした。

　この後、カズさんは、Ｊリーグに戻り、京都パープルサンガに移籍しました。復帰後に挨拶に行ったときにも喜んでいただけたのが本当に嬉しかった。「自分が一番辛い時期を見届けた記者」と思っていただけたようです。

　２００２年日韓Ｗ杯、２３人の中にカズさんの名前はありませんでした。２００６年ドイツ杯でも、やはりありませんでした。

　そして２０１０年。カズさんの名前はなく、あったのは川口選手の名前でした。ここには岡田監督が１２年間、背負ってきたものと決別したい、という思いがあったように感じたのは私だけでしょうか。

　以前カズさんと話したときに「現役である以上、Ｗ杯への思いは変わらない」と話していたことを今でも覚えています。

　今回の発表後、カズさんがテレビのインタビューで「もしかしたら、みたいなワクワク感はあった」と話していたのは、本心だと思います。

　「２０１４年は母国のブラジルだから。楽しみにしているよ」と語る４３歳の目が、私には少年のように輝いて見えました。

　１０年以上前の懐かしい気持ちが蘇り、久々にカズさんから元気をもらいました。