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きょうの社説 2010年5月12日
◎増えるDV相談 不十分な自治体の支援体制
2009年度に石川県内の関係機関に寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)
の相談件数が過去最多となった。夫婦や恋人間の暴力であるDVに関する認識の広がりを示すものでもあるが、DV被害者に対する自治体の相談・支援体制はまだまだ十分とは言えない。配偶者暴力防止・被害者保護法(DV防止法)は、配偶者暴力相談センターの設置とD V防止基本計画の策定を都道府県だけでなく、市町村にも求めている。しかし、市町村の場合は「努力義務」にとどまっているため、県内の市町で実際にDV法の要請にこたえているのは、今年度から基本計画を実施に移した金沢市などごく一部に限られている。 総務省は昨年、DV防止に関する行政機関の政策評価で、取り組みが不十分として改善 勧告を行ったところであり、支援体制の拡充に向けた自治体のさらなる努力が求められる。 DVに関する相談、被害届の増加は全国的な傾向であり、昨年1年間に全国の警察が認 知したDVは前年比11・7%増の約2万8100件に上る。このうち、DV防止法に基づいて裁判所が接近禁止などの保護命令を出したケースは約2400件を数える。 DVの深刻さは、DV防止法違反にとどまらず、傷害や暴行など刑事事件としての摘発 が1700件近くあり、殺人・殺人未遂事件も44件あったことだ。大事に至る前にDVを防ぎ、被害者を保護する関係機関の取り組みの重要性をあらためて示す数字である。 しかし、行政側は財政や人材の制約もあり、十分な対応をとれないでいる。総務省の政 策評価では▽啓発活動や医療関係者向けの研修が不十分▽夜間や休日の相談体制、関係機関の連携が不十分▽被害者を優先的に公営住宅に入居させる仕組みの未整備、などさまざまな問題点が指摘された。 県内の市町には相談窓口はあっても、県の相談支援センターと類似の機能を持つ相談室 を開いているのは金沢市ぐらいという。DVの専門的知識を持った職員の確保など各市町の体制強化の努力と県の後押しを望みたい。
◎パロマ有罪判決 消費者庁は教訓生かせ
パロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器による中毒死事故で、東京地裁が元社長らに言い渡
した有罪判決は、ガス器具メーカーが消費者の安全を確保すべき重大な責任を負っていることを明確に認定した。公判では、製品自体の欠陥でなく、修理業者の不正改造で起きた事故がメーカートップ の過失に当たるかどうかが問われた。事故の直接的な責任は修理業者だろうが、自社の製品にかかわる事故が続発すれば、それを食い止める責任ある対応がメーカー側に求められるというのが裁判所の判断である。起訴対象となった2005年の事故以前にも、同様の中毒死事故が多発していた事の重大さを考えれば理解できる判決である。 パロマの事故をめぐっては、経済産業省(旧通産省)で事故情報が共有されず、対応の 遅れが被害を広げた。そうした縦割り行政の弊害が消費者庁発足のきっかけとなり、製品事故を収集、集約する仕組みは徐々に整ってきた。 だが、判決が示したような安全配慮義務の幅広いとらえ方は企業の側にどこまで浸透し ているだろうか。その認識が欠けていれば事故を未然に防ぐような情報も十分に集まってこない。企業のみならず、消費者庁も判決の教訓を重く受け止め、企業への指導・監督を含め、消費者行政の司令塔にふさわしい機能を整えてもらいたい。 パロマの裁判では、業務上過失致死傷罪の時効にかからない2005年の事故で元社長 と元品質管理部長が起訴された。元社長らは「事故は予見できず、回避もできなかった」と主張したが、判決は「事故の危険性について注意喚起し、点検や回収を行う注意義務があった」と認定し、対策を講じれば事故は防げたと結論づけた。 過去には、トラックの欠陥で運転手が死亡した事故で三菱自動車元社長、自動回転扉で 子供が死亡した事故でメーカーやビル運営会社の役員が業務上過失致死罪で有罪となっている。企業の安全対策のハードルを上げる司法の流れは市民感覚にも沿ったものだろう。経営者にはこれまで以上に危機管理の意識が求められている。
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