集団予防接種で注射器が使い回しされたためB型肝炎ウイルスに感染した患者らが、国に賠償を求めている集団訴訟で、鳩山政権が和解協議のテーブルに着くことを決めた。裁判所の勧告に応じるものだ。
B型肝炎は国内の感染者が最大140万人に上ると推計される。ウイルスがここまで広がった原因は、感染防止策を怠った国の予防接種行政にある。
国の責任は、2006年に別の訴訟で出た最高裁判決で確定し、昨年成立した肝炎対策基本法の前文にも明記された。政府が補償に踏みだすのは当然のことだ。幅広い救済を急がなくてはならない。
B型ウイルスは主に血液を介して感染する。ウイルスが肝臓にすみついてしまう持続感染者(キャリアー)の多くは、母子感染や乳幼児期の感染とされる。
慢性肝炎を発症するのはキャリアーの1割ほどだが、早めの適切な治療が欠かせない。放置すると肝硬変などに進むおそれがある。
1980年代の半ばごろまでは、乳幼児の集団予防接種で注射器の使い回しが容認されていた。母子感染を防ぐ対策も十分に取られていなかった。この間に予防接種を受けた人は、感染のリスクがゼロではない。
いまその世代が中高年に差しかかっている。患者のなかには肝硬変や肝臓がんを発症し、亡くなった人もいる。
かつての自民党政権は国の過失を認めず、被害救済にも後ろ向きだった。集団訴訟が全国で起きたのは、最高裁判決後も広く救済に取り組もうとしない政府の不誠実な対応ゆえである。
鳩山政権は協議に臨むことは決めたものの、救済の対象者の範囲や賠償額については慎重な姿勢を崩さない。感染者のすそ野が広く、補償に巨額の財源が必要となるからだ。
患者が多いからといって賠償額を抑えるのは許されない。救済まで時間がかかったのは、主に国のかたくなな姿勢による。被害の認定にも柔軟さが求められる。
国の台所事情は厳しい。けれど、B型肝炎被害の広さと深刻さを国民が知れば、患者の救済を優先することに、納得が得られるのではないか。
B型ウイルスに感染していても、自覚症状がなく気づいていない人が少なくない。ウイルス検査の受診を呼びかけ、早期の治療につなげる。医療費の助成をはじめ患者が安心して療養できる環境を整える。政府の責務である。