2010年5月12日 2時30分 更新:5月12日 2時30分
民主党の山岡賢次国対委員長(67)が秘書給与の肩代わり疑惑を報じた週刊新潮の記事で名誉を傷つけられたとして発行元の新潮社(東京都新宿区)などに1000万円の賠償を求めた東京地裁=大段(おおだん)亨裁判官=の訴訟で、山岡氏側が訴訟を打ち切る「請求放棄」を申し立てていたことが分かった。10日の弁論準備手続きで地裁に申し立てが認められ、訴訟は終結した。請求放棄は法的に山岡氏側の敗訴確定と同じ効力を持つだけに、説明を求める声が上がりそうだ。
新潮社によると、山岡氏側は4月30日付で地裁に「請求放棄書」を提出した。放棄書には「請求すべてを都合により放棄する」とだけ書かれていた。10日の準備手続きで山岡氏側は「都合」の詳細について言及しなかったという。
訴訟は09年3月12日号の記事を巡るもの。山岡氏が00年12月、栃木県真岡(もおか)市長選で初当選を目指す福田武隼(たけとし)氏(68)に「うちの秘書は秋から選挙の応援をしている。費用として600万円を支払ってほしい」と要求。交渉の結果減額し、01年1月以降、福田氏側が送金を打ち切るまでの27カ月間、毎月15万円総額405万円をコンサルタント料として山岡氏側に送金した、などと報じた。福田氏は01年4月当選し09年5月まで市長を務めた。
記事が事実なら政治資金収支報告書に405万円を寄付として記載しなければならないが記載はなく、政治資金規正法違反の疑いがある(公訴時効成立)。さらに秘書は国から給与が支給される公設秘書で、福田氏側から給与を受け取れば「二重取り」の形になる。
山岡氏側は「秘書給与の肩代わりを求めた事実はなく事実無根」と主張し、賠償に加え謝罪広告掲載を求め、09年3月12日提訴した。4日後の16日には「虚偽であることが裁判で明らかになると確信している。進展があった際は改めて報告する」などとするプレスリリースを公表していた。
新潮社編集部は請求放棄について「歓迎すべきこと」としつつ「都合が悪くなると逃げ出すのは公党の責任ある立場にある人物としてはもちろん、人間としても恥ずかしい」としている。一方、山岡氏の事務所は毎日新聞の取材に対し「弁護士に任せており事務所としては回答できない」とし、山岡氏の弁護士事務所は「弁護士が不在で回答できない」としている。【太田誠一、渡辺暢】
福田武隼前真岡市長の話 提訴は追及から逃げるための口実だったのではないか。新潮社には私や妻が資料を提供しており、山岡氏は反論できず一方的に訴訟を打ち切ったのだろう。あまりにもでたらめでその場しのぎの対応だ。
【ことば】請求放棄
民事訴訟で原告自らが請求に理由がなかったことを意思表示する手続き。請求棄却の確定判決と同じ効力を持ち再び同じ訴訟を起こすことはできない。被告の同意は不要。同種の手続きとして「訴えの取り下げ」があるが、今回のように実質的審理に入った後は被告の同意が必要で、提訴自体が無かったことになり、再度同じ訴訟を提起できる。