四月のラプソティ |
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詩聖の季節――四月のラプソティ ――昔々、闇に落ちた神は一人の娘を愛しました、ですが娘は人の身、天命になり天寿を全うしました。しかし闇に落ちた神は嘆き悲しみ自らを生み出した父なる神に懇願しました。 “生き返らせてくれ”と切々と訴えました、父は首を振りこう言いました。 “人と神は違う、それを覚悟もせず愛したお前が愚かなのだ”ですが闇に落ちた神がそれを理解することはなく、いつしか父を憎み、憎悪の炎は人へとも移り変わり、闇に落ちた神はすべてを取り戻すべく、すべてをかけ父と人と戦いました――戦いは闇に落ちた神の破滅で終わりました。しかし、――闇に散った神は人あらざる身、十二の破片になり十二の魔神と十二の神器を作りました。そしてまた戦になりました、父なる神は四人の戦乙女に四個の使命を与え。 “真なるこの世を彩る存在たちよ、使命を持って災いを封じよ”それは異なる世界でのお話。 そう物語は終わりました。終わりなき厄災より〜普通に迷惑なんだよ!と断ったはずが―― 序章〜四月一日の出会い―― ルォォォォォォォォォォ! 獣が吼える、風が唸る、まるで別世界の様な夜空には満月、新緑の満月が煌々に輝き新緑の月光を大地に行き届かせる、水溜まりは深紅に染まり鮮血のように鮮やかな紅。 「はっ、驚くねぇビックリショータイムか?」 ――呟いた一人の青年、歳は二十歳前後の長身の日本人――容姿は灰褐色のウルフヘッドの時雨髪、黒曜石の双眸の片目には眼帯があり隻眼とわかる、眼帯からはみ出る幾何学的な煌めくタトゥー、どうみても筋者の青年、衣類は指先からつま先まで漆黒の一色、ロングコートの内側に見え隠れする、日本刀に拳銃二丁、どう考えてもまともな者ではない――名は暁 時雨。 物陰から蠢く影が青年に近寄る――青年は苦笑して、次には冷笑を浮かべ嘲笑う。 「新手の刺客か、って化け物には意味ねぇか、マッ近寄れば」 影は魔物の様で、亡者のような骸骨の姿に歪な武具を纏う。彼が嘲笑う声を止め、懐から拳銃を取り出す――具現降喚機が正式名称の特殊な装備、機能を説明するなら長くなる、ので省略。 拳銃型の特殊機材を起動させ懐に戻す、それだけで彼が纏う雰囲気から何までががらりと変わる――うっすらと彼に重なる筋骨隆々の巨躯、両肩にボルトがあり周囲の浮く八枚の金属板と繋がる、顔は鉄仮面で覆われ双眸は漆黒、口元の顎が突き出すが縁だけで中身がない。 影の魔物が意外に素早い動きで、距離を詰め歪な剣で斬り掛かる、それを指先から手首までの金属のグローブで受け――ギンと金属音が新緑の月夜に響く。 青年の反対側の拳に紫電が走る。刹那で影の魔物の腹に掌が当たり。 爆雷のドン――明流雷掌と言う生体電気などを加圧し、収束した後にぶつける氣の術。 派手な一撃で、影の魔物の上半身と下半身を繋ぐ、背骨から纏う防具まで爆散する。一撃で倒れた魔物に青年は一別し、周囲を確認する、暗視ゴーグルなどないので月明かりだけの闇夜の世界では、殆どの建物で影になり確認できないほどに漆黒だ――青年が舌打ちする。 「おーい誰か居るかぁ!」 「!――居るぞ」 ――舌っ足らずな呂律の回らない裏返りそうな上声は、一応女性の声だと思える。 返答したら「向かいます!」と帰ってきたが、そう遠くなく、どちらかといえば建物、ビル群の屋上のような上空から聞こえ――(こんな時間にビルの屋上)青年は?の困惑の表情になる。 次の時、上空から物が落ちてきた、もの凄い破砕音、その闇の中に落ちた物。 青年は十分非常識の固まり、この異様な世界も十分非常識だ、落ちた人なら非常識極まりない。 「一応確認するが、生きているか化け物の同類?」 「痛いです。でも慣れてます」 慣れの問題だろうか、ビルから飛び降りれば常識という良識では死亡する。しかし声の主はムクリと起きあがりゾンビのようにノロノロと近寄る、どちらかといえば痛みで動きが鈍った。 新緑の月夜の月明かり、落ちた〈もの〉がやっと光届く場所の中、彩る光一応人の形。 金髪の片側ロール、真っ赤な大きな瞳、長い耳、白いやや日焼けした健康的な肌色、顔はお淑やかそうな美人、首から下は金属の甲冑の上半身、肩から指先まで金属の防具、甲冑からはみ出るブラウスの裾、腰に剣、中央が開いたロングスカートの蒼が一枚、内側に純白のフリルスカート。彼は驚かない。漆黒の外皮の内側は真紅のコウモリの羽が、一対背中に生るに驚いた。 「あのぅここどこです?」 先程の声の主、独特の声、ファンタジックな格好、本物の剣を腰に帯び、異様な羽。 答えなかったので、女性がムムと口をへの字にして怒る。青年が苦笑し。 「先ほど化け物と遭遇した以外知らない世界」 「じゃ迷子さん?」 「と言うか新入り?いっそ地獄の右隣の御左さん」 「そうですか同じですね♪」 彼は結論づけた。世の中に善人悪人が居るとして、目の前に善人かもしれないが、馬鹿はいる。 「同じなら意味があるか?」 「特にないですねぇ」 「ではなぜ嬉しそうにする?」 「同じだからです」 「つまり知りもしない世界に迷い込んで、同類を見つけて喜んだ?」 彼は別に責めているわけでもないが、彼女は被害者意識が強いようで泣き顔になる―― 「別に責める訳じゃない、喜ぶ箇所が見あたらないだけだ」 「虐めているようです」 「じゃ褒めるよ、美人な片側ロールの似合う花屋さん」 「微妙に悪意を感じます」 ――なかなか鋭いと彼は思い、変人には変人なりの生き方があるのだと納得する、言い換えよう変態、彼は十分変態だ、それ以外なら筋者か殺し屋、もしくは任侠道の人生まっしぐら。 「じゃ笑顔が似合いそうなヒマワリさん」 彼女の泣きそうな被害者の怯える表情から、本当に笑顔の似合う嬉しそうな満面の笑顔になる。 「いい人ですね」 今度は笑顔からポロポロと涙する――(変な女)彼は他人のペースにはまらないマイペースな性格だった、こういう性格の者は大抵クール&ドライ+善悪だけで動かない。 音が木霊する、近くの音源、種類としては連続した銃声、影の魔物に銃が通じるか疑問が残る。 「えーと・・何の音でしょ?」 「爆発の音がする武器だ。要すれば銃」 「へー」 「おおーい!」 いきなりの彼の大声に、彼女はビクリと震え、おっかなびっくりに彼を凝視する。 「ヒマワリさんよこれから銃声の所に向かう、どうする?」 「どうして向かうのですか?」 「普通の銃でくたばるような化け物じゃない、何――義侠心というやつで人助けさ」 「向かいましょう!」 音の方角に向かい走る、彼女は痛みを堪え走る、それでも彼に並ぶ速さタフネス・ウーマン。 銃声は途絶えた、その時に彼と彼女は間に合った。一人の中年男性が女子高生を庇いナイフで防いでいる、だが致命傷の傷が数カ所、女子高生は間に合ったが男性は終わりだ、もう一つの意味で男性は終わりでもあった。彼が懐から拳銃型の特殊機材を取り出し操作、発動する。 彼に重なる鉄仮面の片手にロケットランチャーが生まれ、影の魔物に赤外線照準の砲口を向ける、砲声の爆音、ロケットが飛び出し、高速に燃料を消費し緋色の尾が引く、直ぐに被弾し影の魔物に爆発したロケットから、ネットが飛び出し絡み付く―― 「一応間に合ったようだな」 「いえ男性は間に合いません、手遅れです」 「どのみちそう言う末路しか無かった男だ。最後に希望を紡いだ、せめて楽にしてやる」 彼が二人に接近する、男性はすでに分かっているようで力無く道路に崩れる、足下には血の池。 「今からモルヒネを打つ、悪いが医者じゃない、それに助からない傷が多すぎる分かるな?」 「悪いな」 彼が懐から医療品を取り出し、手慣れた動きで注射する、それで痛みだけは抑えられる。 「何というか皮肉だな、だが好かったのだと思う」 「ああ、悪い最後ではない、あんたは立派に希望を守り未来を紡いだ、それは尊い、それで」 「そうだなどのみち最後らしいからな」 男性が懐から手紙を取り出す、遺書と彼には思える、そういう生き方を選ぶ、選ばないは別にして、そんな道でも最後に己を捨てるのは難しく、困難で人として立派な最後――受け取った。 「どうする?」 「少女は無事か?」 彼女が介抱するが無事のようで、むしろ男性からの飛び散った血が制服を染める。 「無事のようだ」 「そうかそれは良かった、最後にこんな終わりは予想外だ、しかし悔やむことではない」 「今日会うはずだったのだろう、何か言づてはあるか?」 「隻眼の死に神にしては優しいな」 「まああんたが最後に見捨てたら確かに殺しただろう。しっかしな、死に場所を心得た最後だ」 「なぜこの仕事を」 「古巣と別れた女房からの頼みだ」 「確か産業スパイと妨害の組織ヴィーナスか、奥さんは嫌いか?」 「何つうか四年連れ添ったが、不釣り合いなぐらい出来た女房でね、組織から引退の条件で別れた、まあ年齢を誤魔化していたことは今更と思うが、元気らしい、今は丁度高校生」 「そうかこんな家業をすると荒むが、割と人はいる、化け物と同じ人は腐るほど居るが」 「いいのか時間はないぞ?」 「子供の性別は知っているか?」 「写真がある」 「そうかどうなる?」 「そうだなあんたは最後に選んだ、それに花を添えられないか?」 「お人好しだな」 「世の中善い奴ばかりじゃない、悪い奴だらけでもない、それで成り立つ世の中だ」 「甘ったれた業界じゃないが」 「一応確認する、手紙は見ない方がいいか?」 「なるほど同じ最後の男か、皮肉だな、一応見ないでもいい」 「わかった見ないでおく」 「最後は長いようだな」 「いやそうでもない、もう両目に光がない」 「そうか最後に誇れる死に様だ、良かった」 「安心しろ、娘さんは何もない、どのみち単なる高校生だろ、少し厳しい事を聞いて、泣くぐらいだ、それにそこの女子高生もどうにかするさ」 「あんた最後に人間に出会えるか少し想い出す」 タイムアウトは長い想い出の追憶で終わった、静寂が痛すぎて静貧と悲しげな最後。男の死に顔は、それはとても誇らしげで、満足そうで、自分のやったことに対する後悔の欠片もない見事な顔だ――(いい顔だ、まるでおとぎ話のようだ、じゃぁな――) 「背負います」 「一人で立てるだろう?」 「いえ亡くなった方です、亡骸を遺族に渡します。化け物なんかに食わせません」 「わかった」 彼女が亡骸を背負い、彼が女子高生を背負う、影の魔物は易々と徘徊はしておらず、当てもなく様変わりした世界を歩く、時折聞こえる獣の鳴き声、風の唸る音、どれ程歩いただろうか永遠と続く様変わりした世界、時折雨が降る、霧雨で新緑の煌めきになる宝石のように―― 「大丈夫かヒマワリさん」 「隻眼さんこそ苦しそうですが」 「どこかで休もうどうも妙」 近間公園のベンチに座り、休憩する、誇らしげな亡骸を丁重にベンチに置き、彼女は立つ。 「どうも体力が削られるようだ、再生が追いつかない、こりままだと全滅だ」 「では彼女はこのままだと」 「引き延ばすことはできる、ただ根本的な解決にはならない」 彼の術らしく女子高生の体に淡い光りが宿り、弱々しかった声は健やかな寝息になる。彼女にも同じように淡い光が宿り癒す、自らにも同じく癒す――それを青年は易々と行う、だが彼女の表情は厳しく悲しく嘆きように怒る複雑な様々な感情が彩る顔になる。青年は苦笑する。 「傷も体力も癒せる、だが血は出来ない、この男は出血多量で死んだ。本来なら致命傷で動けなかった、それに人を生き返らせる術などないのだよ」 ――彼女は悲しみながら「ごめんなさい」と呟いた――青年は良くあることらしく頷く。 「なあヒマワリさん、今更だが名乗るか?」 「斎賀・フランソワ・クレア・フォルネーゼ・アーシェス、通り名はヒマワリさんです」 青年は知らない由緒正しい家柄なのだろう、長い名前は東洋にはない、西洋にはあると思うと推測する、彼女、ヒマワリさんを気に入ったようで、通り名にするほどの気に入りようだ。 色々な彼女の表情、行動、見たり言動を聞いたり、善人かもしれないが馬鹿で――彼でも思う正しさ、強さ、弱さ、明るさ、奥行きのある性格、一見馬鹿のようで知れば滅多にいない高潔な純粋爛漫、確かに馬鹿かもしれないが、その高潔さ、純真さ、天真爛漫の陽気さは心温まる。 「暁 時雨、通り名は暁だ」 「はい暁さん」 「変な世界に迷い込んだ変な夜だ」 「そうでね、出会って別れての二回です」 「一応大学生で、一人暮らしで、流行らないバーの経営者兼ウェイターだ」 「ヒマワリは一応高校生です、永いことそうです」 「そうか長いことか」 「いろいろありました、さまざまな人に出会い別れました」 「そうか。長ければそうかもしれないな。必然か、まるで数奇な始まりのようだ」 「暁さんは」 「中学を卒業して、高校生になる頃に産業スパイの組織に引き込まれ、別れた女房と結婚して、高校生の時は技術泥棒、犯罪計画の末端戦闘員、裏表を使い分け暮らしていた、色々あって引退することにした、丁度今頃の大学生になる春だった」 「そうですか、いろいろですね」 「ヒマワリさん寝ていろ、少し兵隊を作る」 「はい」 ヒマワリは疲れていた様で、ベンチにもたれながら、直ぐに健やかな安息の顔で寝息を立てた。 拳銃型特殊機材を操作し一つの機能を使う――降喚と言う特殊なウィルスで電子化された魔を実体化させる。青年のカスタムが激しく標準的ではないが、実体化した魔は動物の姿を真似て漆黒の鴉、子猫の黒猫、銀色の銀狐の三匹、戦闘能力は高く青年の古巣では最終的なランクの神話級、ただ青年の激しいカスタムで戦闘に関係する数値より、知性等の知能を高めた。 「見張りだ」 三匹が返答し配置に着く、彼は眠らず道具を納め、瞳だけを閉じ静寂に抱擁される音に任せる。 どれぐらい時が過ぎたのだろうと思うほどに、長い時間が過ぎ去った。未だ爛々とした満月に宝石を散りばめたような星空、雲一つない満点の夜空、新緑の満月は煌々と照らす―― 二人を癒し、自らも癒す、その内飢えることは明白にも思える、ただこの世界に食糧があるのかは謎に思えるが有れば良し、無ければ飢えて死ぬ、癒しも飢えまでは無理は熟知している。 女子高生が目覚め静かに周囲を確認する、あるのは異世界のような新緑の月明かり、照明灯や時計が止まった月明かりだけの風景、左側には満足そうな誇らしげな表情の亡骸、それに女子高生の動きが止まる、ジッと見つめる、そして何ともいえない困惑した顔で涙する。 「その男はあんたを庇って死んだわけだ、その命、無駄にするなよ」 青年の重低音の低い声、そして告げられた事に女子高生は何度も頷き、感謝の言葉を口にした。 「暁 時雨だ、通称暁」 「朱鷺瀬川 沙耶、瀬川」 「よろしくな瀬川、泣きやんだら食料、飲料水の確保と、生きているだけで体力が消耗する」 「よろしく暁」 女子高生は156程度の身長、45に至らない体重、砂時計体型の豊かにプロポーションは目を見張ることもあり、素晴らしい腰回りは人目を引くに値する、長くのびた足はモデルのようなすらりとしている、碧眼のやや空色に近い瞳は、大きく緩やかにつり上がった猫の様な瞳の双眸、白金のプラチナの髪はツインテールで腰元まで届く、ウサギの耳の帽子を被り、血に染まった制服を着込む、さぞもてると思えるが、容姿を利用する気はない様な凛とした雰囲気。 「ここは?」 「みての通り、未知の世界に迷い込んだ迷子を襲う、影の魔物が居る世界」 「暁は何者?」 「バツイチの一応大学生、流行らないバーに経営者兼ウェイター」 「じゃあの重なる陽炎のようなものは?」 「様々な呼び名があるが、正式名称は具現化人格、それを使い戦う」 「それは化け物と?」 「いや。人と」 「殺し屋さん?」 「いや。古巣から引退した、単なる引退者」 「この人は」 「どっかの組織を裏切り逃亡し、この世界に迷い込み、君を庇い尊厳ある最後を遂げた」 「暁は追っ手?」 「そんな所だ、その男は裏の賞金首だ、そんな一面もある」 「じゃ賞金狙いで追ったの?」 「いや古巣から頼まれて追跡」 「じゃ殺す気だったの?」 「さあな――我が身可愛さに見殺しにすれば殺し、もし違えば家族と逃がす予定だった」 「そっか。善い殺し屋さんなんだ」 「そうか」 「それでどうするの?」 「熟睡中の一人が起きたら食料、飲料水の確保、減った体力は癒す術がある」 瀬川がハンカチで涙を拭き、視力が悪い様でローフレームの大きなサイズのメガネを着ける。 「読書ばかりしていたから視力が悪くなって、別にゲーマーじゃないですよ?」 瀬川がハキハキと説明する、メガネを着けると知的な屋内系の少女に見え、どこかの令嬢そう。 「そうか――ゲームなんて何年もしていないな」 「じゃ昔はゲームとかしていたのですか?殺し屋さんなのに」 「後数日で21になる、言っただろ大学生だと」 「てっきりヤクンガンかと」 「ヤングガン?それって女子高生の秘密の伝説とかか?」 「学生殺し屋のことです」 「そりゃ居そうだな、裏家業は大抵そう思えない人々が多い」 「そうなのですか?」 「俺の格好はバーがコスプレ衣装だからだ、趣味」 「本当ですか!」 「食いついたよ、とはいえ店員はオレ一人だがな」 「それは客が引きますよ」 「そう言うわけで流行らないわけ」 「バイトとか雇いませんか?私なんかどうです?」 「もしかしてレイヤー?」 「昔から裁縫が得意で、友達の頼まれ作っています、でも自分で着てみたいななんて」 「なるほど、ひとまず保留、この世界から切り抜けてからだ」 「バイト料&コスプレ♪」 「一応店員候補がそちらさん」 指さす先に彼女が健やかに眠る、確かにコスプレといえばそうだろう、甲冑姿に加え背中にコウモリの羽の上半身、蒼いスカートの中からフリルスカート、何のコスプレかはわからないが。 「綺麗な人ですね――お人形さんみたい」 「いい女なんだが頭がお花畑だ」 「そう言う女性なのですか?」 「性格だろう、良くも悪くもいい女と思うぞ、ここまで弱音も愚痴も零さず、躯を運んだ」 「その私はどうすればいいのでしょうか?」 「精一杯自分であれ、押しつぶされるな、己を誇り己を押し通せ、それがデザインだろ、まあ戦う術は教えられるが、どうする?」 「なんか暁さんの様になれますか?」 「自分らしい自分になるな、最後に決めるのは自分だ、それにオレはお手本にならない」 「ではバイト&コスプレ制作&弟子にしてください、後セクハラパワセクは止めてください」 「構わないぞ、頭がいいな」 「よく言われます、後料理とか家事全般が得意です、でも一番は裁縫です二番が読書、その」 「いきなり強くなることはない、まあいいか」 青年が懐からもう一つの拳銃を取り出す、それを自分に頭部に当て引き金を引く、銃声、銃火、弾けるウルフヘッドの頭部、それから砕け散る蒼々とした硬質な破片、その一つ一つが可能性であり、破片という可能性が渦巻き、一つの形をなすそう青年の半身と呼べる、重なる存在。 「これが初心者用の発動機だ、別名初心者入門編、もしくは拳銃型具現器」 青年の半身が元の陽炎の様に戻る、青年が女子高生に渡す、使い方も分かったかもしれないが、かなりの覚悟がないと引き金を引くのは難しい、それが最初の難関――後は慣れだ。 「覚悟ができたら使え」 「自殺かと思いました」 「だろうなぁ・・まあオレも最初は正気じゃないと思ったね」 「その暁さんはどれぐらいと言うか、こう基準を持つとしたらどれ程のレベルですか?」 青年が拳銃型特殊機材を取り出し、ステータス項目チェックの表示にし、立体画像表示で映る。 様々な能力数値の総合したレベルは1〜100までの、レベル50、特徴的な個人技能からの戦闘能力は標準の者を遙かに追い越し、群を抜く、その圧倒的な桁違いな数値、今までの功績からの査定結果によれば青年は無駄を嫌い、詐術を多用し自らも戦う具現降喚氣剣術士。 「暁さんはその凄腕の方ですか?」 「どうかなオレの師は強かったし、それに古巣にはレベル80代の凄腕も居た」 「じゃ中の上?」 「いや中堅どころかな」 「あのどれぐらいでレベルは上がりますか?」 「そうだな戦いまくれば強くなるな、要は経験を積む、ただ強くなりたいなら鍛えないと弱い」 「じゃレベルが上でも、下のレベルの者に負けるなんて」 「早々にはないがちらほら聞くな」 「ではレベルは絶対ではなく、実力さえあれば勝ち目はあるのですね?」 「まああると言えばあるな、無いに等しいが」 「そのレベルは下がる?」 「そうだな下がりはするな、だが重要なのはコンディションだ、絶好調とか全力が発揮できるなら、下回るレベルの者に敗北する場合もある、滅多にないがありはする」 「要すればレベルが上の者が絶不調で、下回る者が絶好調の場合?」 「それを現実にあり得るのは、相手が実戦経験もない、ド素人の箱入りさんだけだ」 頭で理解しようとした少女は、かなり衝撃的な顔になりドンと落ち込み、見事にまで直情的らしい、知的でクールな風貌にしてはギャップが激しい。青年はフォローを入れるべきか悩んだ。 「まあレベル10までは素人の領域だ、ステータスの上下で一喜一憂するものだが、高レベルの者に勝とうとするのが間違いだ、大体レベル±5が苦戦する」 「世の中厳しいですね、まあそうでしょうが、レベル1と仮定するならレベル6ですか」 自虐的に少女は笑う、少し問題がありそうな性格なのか、自虐ネタを連発する、そして落ち込み続ける、へこみそうなほどに落ち込み、ブツブツと浸るように丸くなる。 クールで知的そうな容姿――性格は直情的で凹凸が激しい、落ち込むと自分で追い込むように後ろ向きになる、相当落ち込むと暗い、その暗さと後ろ向きさは天性的な短所だ。 (若いなぁ、あんな頃があった、もう何年か) もう一人の彼女が目を覚ます、大きく背伸びし羽を動かしノビノビとした寝起き――落ち込み中の瀬川は、全く眼中になくブツブツと呟き続ける――それをヒマワリは不思議そうに眺める。 「おはようございます瀬川さん」 「何だ知り合いか?」 「睡眠中でも周囲の音を覚えているんです、特技です」 隻眼の青年が「へー」と感心する、少なくても凄い記憶能力として自慢できる――話しかけられた瀬川は余計自虐的になり根暗な事を連発する、それにヒマワリがにこにこと聞く。 (良い天然コンビだな、いやはや) ――しばらく自虐中の瀬川の呟きを、ヒマワリが聞く時間が過ぎる。 「腹、減らないか?」 「そう言う下品なことは駄目かと思います」 「でもお腹空くよ、それに喉が渇く」 「あのマスターの言葉が下品で、貴方の言葉は優しく聞こえがいいです」 「おいおい差別か?」 「品性の問題です!」 「へいへいお腹空いたぁ」 先ほどまで見事なまでの自虐ネタ連発、後ろ向きな状態から激怒で顔を紅潮し、頭から蒸気が出そうな怒りようだ、しかもからかわれその激怒する怒りはレッドゾーン、見事な直情型性格。 「わかった食糧確保、飲料水確保、ヒマワリは必要な物があるか?」 「輸血パックです」 「その落ち期待していた、やっぱり吸血鬼か」 「へー吸血鬼と分かるのですかぁ?」 「ああ背中」 ヒマワリが振り向く「ありゃ?」と呟き、困惑する顔で泣きそうになる――今度は瀬川があやし、瀬川に懐いたようで一応名乗り、瀬川も名乗る――(天然か、やはり貴重な) 「ヒマワリ、家の店で働かないか、今なら相応の日給を払う」 「いいですよ、それにホームレスですし」 「じゃ住み込みだな」 「ダ、ダメです!そんなはしたない!マスター下心が見え見えです!不埒です!」 「おいおい年配者を労れよ、吸血鬼だぞ?」 「それに暁さんはバツイチです。所でそろそろ出発しませんか?」 瀬川はかなりの葛藤の中で、彼の言葉を反芻し決断した。 「それが一番と思います」 「では出発だ」 「ええ」 「はい」 ヒマワリが誇らしげに微笑する男の亡骸を背負い、庇い守られ男の死に際を看取る事もなかった少女は深々とお辞儀した、そして小さく「いずれ」と呟いた――彼女なりに決意があった。 使い魔を拳銃型特殊機材に帰還させ、道具を収納し出発する、彼なりに後尾に位置し二人の背後を守る、二人は寡黙になり公園から近いコンビニに向かう――そこに影の魔物群。 「通せんぼか、片づける」 青年が駆け抜ける、右手を日本刀の柄の上に置き、抜刀術の構えから剣士なら切望する一刀。 歪な武具を纏う骸骨が武器の歪な剣で受ける――剣は砕け横一閃の刀身が骸骨の鎧ごと真っ二つにする、その一刀は踊るように変化し、次の相手を上段から真っ二つ、駆け抜ける青年が舞うように回転し、剣を構える骸骨の一体に、右斜めの袈裟斬りで一刀に斬り裂く―― 圧倒的な一刀で舞い流れるように影の魔物を一掃した、すべてを一刀の一閃――二人が近寄り。 「マスター凄い、もの凄く強いです!流れるように倒すなんて」 「暁さん凄いですね、斬る時に気功法の硬頸を使った」 「特技でね、さっさと確保するぞ」 「硬頸とは?」 「はい気功法の一種で柔体以外を破壊する術です、別名鎧切りとも呼ばれます」 「昔取った杵柄というものだ」 青年がコンビニはいる、月明かりの中で中は薄暗いが、飲み物から食べ物まで豊富にある、好きな物を取り適当に外に運び出す、こんな時に金を支払うとか、太るからとは言わず食べ飲み干し、ゴミを捨て、輸血パックのありそうな病院に向かう、――輸血パックを確保し、今度は装備類を確保するために、青年の古巣組織の兵器保管庫に入り使えそうな物をとり、青年がそれぞれに合う様に組み立て、扱い方を説明し説明書を取り渡し、青年のバーに向かう。 バーの建物は五階建ての家屋の地下、地上一階に渡りあり都心とは思えない広さに高さ、二人が一発で気に入り、使っていない部屋が沢山ありそれぞれが勝手に使用する。 二人が装備類の説明書を熟読している間に青年は出かけ、恨みのある大手の銀行から大金を頂き、ついでに借用書などを焼き払い意気揚々と帰宅し、金を隠しついでに古巣に売り払える技術などを開発する企業の書類を盗み、散々悪事を働く、それを青年は毛ほども罪悪感はない。 二人が質問を抱えバーでグラスを磨く彼の元にくる。最初に―― 「攻撃型と決定しているわけではないのです、成長し計8個のスキルを覚えます、そしてスキルは成長し変化します、それは個人の素質が影響し多くが強いスキルに変わります。ただ時として発動できない自動効果スキルや、あまり意味のないスキルにもなります、それは個人の要素と成長する過程の使いようです、また応用する領域に達すれば高い実力を発揮する珍しい大器晩成型もあります、成長は多様で早熟、晩成とあります。 またパーソナルは合計3種存在します、一つはお二人が発動した発動タイプ、もしくはアルカナと呼び、違うのは継承タイプ、これは発動できず研鑽を積む事でスキルを継承します、影響タイプは個人に対し様々な影響を与えます」 律儀に訂正し、丁寧に講義する、それは専門家の奥深さの知識や、経験からの分かり易い内容講義を続ける、彼の専門分野は幅広く、極める者特有の饒舌な、何よりも分かり易く話す姿勢は教師の様に、ただ押しつけるように所がない、どこまでも知識を教えるそれにだけに言える パーソナル一つとっても相当な勉強がいり、ゲートになると専門家でない限り知るよしもない事が多く、それに加え応用から実践に至るまでは相当な時間がいる。 パーソナルの汎用的な知識は入門編で多くみられ、上達しランクが上がれば専門的な法則体系や、成長自体の制御、他にも覚えることは多く、使うだけでは上達しないのも納得することだ。 また使用する拳銃型の具現器にも要因があり、使用する弾薬も重要な要因の一つだ。 「質問等はありますか?」 それぞれは入門編を閲覧中、用語的にも専門用語は少ない、また入門編でパーソナルの常識的な知識も多く、汎用的なことから幅広い情報量、ただふれられない分野もあり 「えーと、基本的に攻撃、回復、アップ、ダウン、状態変化をS系統、自動効果スキルなどは?」 「自動効果スキルはSの強化系、属性耐性系、またアップ系などの自動発動もあります、中には発動者に影響を及ぼし自動回復、自動反撃などがあります」 「そうすると補佐的なスキルになりますが、それが変化するとどうなるのです?」 「そうですね、最初は一つの効果、二段階は強化、三段階は複数に跨る効果が多くです」 「そうすると、意図的に成長を誘導することも可能なら、自動効果スキルも可能なのですか?」 「いえ法則があり二段階で分かれます――複数系、単体系、個人スキルともいいますが、強くなると多様性を得るの二つです、また強くなる反面、弱体化する所が生まれる事もあります」 「じゃ成長するが、絶対に成長になるとは限らない?」 「ええ強みと弱みを得るのが普通です、一般的には多くても4個、自分は一つもないですが」 「じゃ成長次第では、パーソナルが発動するタイプから、自動効果スキルのみもあり得るのですか?」 「意図的に成長を限定すれば可能ではありますが、強みが全くなくなります、多様性を捨てる事になりますから。要すれば極端な成長はあまりメリットがなく、逆にデメリットになります」 「じゃ自動効果スキルは不必要な場合もある?」 「ええ実際自分には無意味なスキルですから」 「じゃ暁さんは8個のスキルのみ?」 「ただスキルに頼らない段階なモノで、発動者が成長すれば、スキルの上限の法則を突破することが一応可能なのです、ただ使用量が多いならスキルとしてパーソナルに組み込みますが、断っておきますが、人為的にどこまで可能かではなく、人為的に可能である範囲と可能とする使い手、可能とするパーソナルが揃って意味を持つのです」 「えーと、スキルの法則を突破する条件は何ですか?」 「詳しくは専門的すぎて省きますが条件になる要因はパーソナルが最高限界まで成長し、且つ自らが独力発動可能、この二つが揃って初めて人為的なスキル変更が可能になります、ただ中にはスキル変更を受け付けない、またスキル変更が可能ではないスキルに拒絶などがあります。以上のことから可能な範囲に限定され、パーソナルと己が組み合って初めて強化可能なのです」 「それに行き着くまでいったいどれぐらい必要ですか」 「才能、努力、何よりも指導する者の指導力、そして経験を積む事、この四つで統計すると最短は一年、多くの者が数年、自分は二年でした」 「大変ですね」 「熱中すれば苦になりませんよ、ただ人それぞれですから他人と比べるのはそこまで強い比較とはいえませんね、パーソナルはどこまでも個人の研鑽にある、個人的な要素が非常に強い」 「そうですね。なんかやる気がわきます」 「時折能力を試す必要もあるでしょう、ひとまずは最初の難関ですが実力をはかれです」 「えーと――どんな基準で?」 「簡単ですよ自分で勝てるか」 「でも癒し系しかなくて」 「上限の八個を完璧にマスターした後にいう言葉ですよ」 「勉強します」 「そうですね、ただ注意するのは最初から成長を制御しようとしない事です、不可能ですら」 「何故です」 「非常に簡単です。最初の上限は八個――それを覚えていくのが最初ですから」 「言い換えれば最初のスキルは決まっているのですか?」 「そうですね覚えるのはある意味決まって、最初ら辺に三段階のランクでいうと一番初めの方です、最初から超強力はまずないですね」 「とすると最初は弱い人が当たり前?」 「ええ最初は一つからですから熟練者からすれば雑魚です」 「よかった」 スキルが攻撃型では無いことを気にしていたらしくホッとした顔になる、物静かそうな少女はなぜなぜを連続する。そういって一つ一つの疑問を解消し、成長する、青年も惜しむことも面倒がることもなく話した、それが最もの良薬だ、疑問がなくなれば別の疑問がわく、そうやって学ぶことで多くを知り良い使い手になる。少なくても彼自身はそう信じる。 「実際の所本当に実戦で意味を持つかは、成長した後の話です、最初は全く使えない半身でも、成長すれば相当役に立つ話は多いですから、むしろ早熟より晩成が強いです」 「あの質問、どうやってパーソナル発動タイプのよく知るのですか?」 「非常に簡単ですステータス項目です」 「次覚えるスキルは知れないのですか?」 「知る方法は一応あります、専用の端末機で分析すれば、習得するスキルが閲覧できます、ただどんな性質にもいえますが、アルカナの法則を熟読すれば大抵のスキルは予想できます、また、アルカナから外れるスキルは覚えません、相性の問題です」 「へー、とすると暁さんはわかる?」 「覚えるレベルではないので、自分で組み込んでいますね、自分のパーソナル発動タイプの特質は兵器再現能力ですから、知っていれば使えますし」 「反則的に強くないですか?だって知識がそのまま武器になるのは」 「どうですかね物理攻撃無効タイプもいますし、何より兵器に限定される確かに兵器は強力です、しかし成長はしない、威力も向上しない、発展した技術に依存する、それも当人が理解できる範囲となるとそう多くはない、それにわかってしまえば無力化スキルを用意すればいい」 「とすると今までに発動タイプが無力な場合もあった?」 「ありますね、物理攻撃が効かない亡者系とか、幽鬼系とか」 「じゃどうするのですか」 「そうですね一番多いのは逃亡です」 「強い奴には強くても弱い奴には滅法弱い?」 「ええそれは一般常識の範囲です、科学兵器が無意味に相手もいますから」 「なるほどだから多様性を好む訳ですか」 「はいその通り、誤解されがちですが万能的なパーソナルは存在しません、多様性を捨てれば、必然的に多様性から敗北することもあるのです、多様性と強さを併せ持っても弱点は必ずあります、偶に防御専門も存在しますが完璧ではありません」 「それで実力をはかれか」 「戦える相手かどうかもわからず突っ込めば、死亡するのが目見えていますから」 「それは死にたくはない、まあ要は使いようですか」 「それも正解、使い方次第でいくらでも局面は変わります、初心者は己を知り相手を知る事」 ――実際強力無比なパーソナルが弱点を衝かれ敗北する事は多々ある。だからパーソナルは多様性を好み、また使い手も多様性を得るために様々な習得する事柄がある。パーソナル単一の技能では現代戦では戦死するためにいるようなお上りさん。ただ青年の特性は極めて特殊で、極めて高い実力を併せ持つ使い手によって、高い領域で完成された一つの答え。 彼の切り札である軍事兵器再現は、当人が知る限りと有効な場面において活躍する。そうするとある程度制限され、全く新しい兵器は彼が真っ先に警戒する切り札になる。 結局戦う手段かもしれないが生存する手段でもある、特に危険の多い者は熱心に学ぶ、そして向上心を忘れない、自らをよく知り臨機応変な戦い方で生き残る、極端な特化型は弱点から真っ先に倒される、特化は極めてリスクが大きくデメリットも多すぎ――実際に使用されない エイプリルフールタイムと三人が名付けた、時間は装備類からの戦闘初歩説明で終わった。 零時ですとラジオで告げられる、彼の携帯に電話が届き、組織からどういうことだとあった。 事情を説明するために彼の元上司がバーに来訪したスーツ姿のサラリーマンの様な男性―― ヒゲ面の中年オヤジの顔、白みがかった短髪の黒髪、サングラスを身につけたハードボイルドな雰囲気の四十代に届かない三十九前後の男性、暁にそっくりな父親のような男性。 「どういうことだ時雨」 時雨が説明し、男性は「馬鹿な」と話すが、現にそうでないと説明できない事に納得した。 「時雨戻らないか?」 「父さん、オレはああいう世界は苦手なんだ、だから」 「お前ほどの使い手がその若さで居たか?こんなバーより」 「もうイヤなんだ」 「全く天才なのに軟弱なそんな息子だったか?」 「元々父さんほど降喚には長けなかった、どのみち生き死にの毎日は耐えられない」 「馬鹿な102が負けるか、あり得んよ」 「あのぅ、よろしいですか?」 「済まないが今息子と話している」 「では息子さんが戻れるようにしたらどうです?」 「そうしたいが上は厄介払いできてよかった、だそうだ、現場の苦しさを全く理解しない!」 「その嫌われていた?」 「おおいにただ現場の者は絶対の信頼から、是非出世してほしいと懇願したほどだ」 「なぜ嫌われていたのですか?」 「分かるだろう、隻眼かもしれないが任務達成率四年間で100%、それも現場で全滅かの話なんて日常茶飯事の修羅場続き、上からは危険分子と睨まれ、下からは是非現場を共にした使い手、それも若く、性格もよし、勇者になれる武に人に集まる徳がある、引退させるのは正気じゃない、今の若い奴にはほとんど伝説を通り越し神話級の英雄だ」 「もの凄い使い手で慕われていたのですね」 「それはもう現場の下級からは、こいつがいれば死者は出ない保証人扱いだ」 「その一人息子?」 「息子は一人、娘が一人、娘は修行中だ、中学頃」 「その子離れできない父親のようです」 「いいか現場は常に死が伴侶だ、強い奴はいくらでも欲しい、早々いないぞ息子並の天才など」 「その子煩悩ですね」 「自慢の息子だ、それが」 ついに愚痴りそうなほどに、彼の父親兼元上司は酒を注文する、ただそれ程に評価された者が息子だと父親としては嬉しいどころではないだろう、跡を継がせる気満々でいたのは窺える。 強面のハードボイルドの男性はショットグラス片手に何度も戻れと話す、実際に現場をみた二人も共感するほどに恐ろしく強い、才能云々の前に圧倒的な神話級の使い手、それが二十歳。 彼が盗んだ書類を渡す、父親は「それは」とかなり重要な物らしく、よく調べ、即写真をとる。 彼が頼み、亡骸と賞金を遺族の一人娘に渡してほしいと。つまりこういった人情味が嫌われた 「やれやれ、世の中不思議なことが多い、あれ程非情さの業界で」 「それが好いところと思いますが」 「そうだ」 即答で返す、ウェイトレスの二人がついに吹き出す、子離れできない子煩悩な父親丸出し。 「裏業界では隻眼の死に神と呼ばれるか、死の詐術師、刺客はすべて返り討ち、圧倒的な強さで圧倒的な成果を叩き出した、それはもう嬉しくて泣いたぞ、それが」 「そうですよねこの若さで、これ程の神技の領域、息子なら跡を継がせたいと思うモノですよ」 「そうだ、それがこれからというときにもうイヤだで引退、愚痴りたくなるぞ」 「そうですよね、それはもう現場からすれば頼むから引退しないでと頼みますよ」 「そうだ二十歳で、これ程に成長する者なんぞ伝説にすらないぞ、組織でも最低教官の指揮官の地位を用意したが、裏家業そのものがイヤだと抜かしてこの馬鹿息子!」 酒云々の前に極普通に怒る、それに息子は苦笑し、つまみを出す――ウェイトレスの二人も愚痴につきあい、それはもう最高級の使い手が若くして引退は裏社会にそんな馬鹿なとあったそうだ。それはそうだろう、時雨程の若さと強さに人柄を併せ持つ者を探す方が、結論は皆無。 ――要すれば上からは大変嫌われた、才能と人柄に恵まれすぎた天性の武人、下級の者が将来現場を指揮する現場幹部になると思われる程に、必要なすべてを持っていると溺愛ぶりの父親。 裏社会でも武名轟く使い手の父親、その息子は若くして頭角を現し四年間で出世だけはしなかったが、慕われる人柄にあり得ないほどに強さを併せ持ち、その上に失敗なし、現場の死者0。 散々不甲斐ないとか軟弱者と怒り続けた、それは息子からすれば十分働いたから引退生活を満喫させてもらいますと内心の話、父親は見抜いているらしくこの馬鹿と怒る―― 父親が帰り、それはもう可哀想だと同情するほどに落ち込んでいた―― 「そりゃ怒るよ。だってねえ――若い強い人格者の三拍子、それが引退しますとは」 「ですが、ああいう父親からこんな時雨さんが生まれたのは納得し、育つのも納得です」 「ああいう世界はどうも苦手でね、それに上からは散々嫌がらせを受けた」 「そうでしょうね、上から徹底的に嫌われるタイプです」 「それが流行らないバーに一人授業員の経営者、そして一年遅れの大学生、それは怒るわ」 「一応月給の前払いはしておこう、当座の生活費にしてくれ」 二人は大金を期待しないのは熟知出来るほどに、客はいない見事に皆無だ、だが払われた万札は二十枚、二人が共に「ええ!」と漏らす――盗む前に高校一年生の頃からの貯金で金はある。 「裏家業は基本的に高い報酬が当たり前だぞ」 「俗に言う裏金?」 「まさか古巣は表産業にも食い込んでいる、そこから任務ごとに支払われる」 「時雨さんありがとうございます!」 「いいって従業員が確保できて、なんとかなりそうだ、こちらこそ頑張ってな」 「あのマスター、ご両親に仕送りは?」 「ああ二人とも下級幹部で年収数千万だ、いるかと送り返された」 「じゃエリートの坊ちゃん?」 「まあ執事やらメイドやら居たな、先祖代々組織に入るので曾祖父まで健在、オレの師はふらりと厄介になっているお客さんだ、とても強くてな剣術から氣の術まで赤ん坊の頃から習った」 「そりゃご両親からすれば」 「二人とも子煩悩でな、一族はそうやって暮らしたために、中学までは私立の名門校だ」 柄の悪そうなコスプレ趣味のウェイターが、裏社会で神話に聞くような武人、しかも名門の家柄、容姿はかなりの強面であるが、男映えする体格から何まで恵まれた青年。 言うなればエリートの一族から若くして神話級に育った生粋の武人――それが流行もしないバーの経営者兼唯一の従業員、両親や一族からすればふざけるなと怒鳴るのも分かる。 「妹さんは引退すると聞いてどうしました?」 「妹か『お兄様正気ですか?』だったかな」 「でしょうね、何をトチ狂ったかと疑われますよ」 「一年後高校生から組織にはいるが、クール&ドライな性格、ああ言う女の子は理想も高い」 「もしかしてブラコン?」 「そういう感じかな、組織にはいるまでは部屋も同じだったし、一緒に寝ないと不機嫌になるし、女房には小姑よろしくで厳しかった――ちなみにこの店は知らない」 「お兄ちゃん大好きっ子ですからね」 「小中高一貫学園だったから、小学校入学時から毎日クラスに押しかけていたな」 「じゃ結婚した高校一年生時修羅場?」 「別れさせるためにあの手この手と」 「妹さんからは、大好きなお兄ちゃんをとった疫病神ですか?」 「それ以上かな、滅多に怒らない大人しい妹だったが、結婚後は毎日激怒する状態」 二人が吹き出し、心地よい笑いがこだまする、広い店内でたった三人の談話が続く――遅くなり二人は眠り、彼も適当に店を閉めた、趣味な商売熱心とはいえないコスプレバーは閉店。 四月二日――一章紡がれ平日 ――よくよく考えると住み込み従業員はヒマワリにみで、瀬川は違うことに青年のマスターは気づいたが遅く、支払われた給与で身支度を整え、実家に住み込みで弟子入りしましたと告げ家出した後。実家から電話がかかり、応対する青年は丁寧な品性を窺えるウェイター口調―― 要すれば彼女は決断し、二人が引っ付かないように妨害することを決断した――大した行動力。 ちなみにテレビでは昨夜の事件が報道される、銀行に泥棒が入り怨恨らしく徹底した借用書などを焼き払い、有り金をすべて盗み、あろう事かパソコンなどをすべて破壊した跡。コンビニではいつの間にか盗まれた食べ物、飲み物がいつの間にかゴミ箱にある、事件は迷宮入り決定。 朝食は瀬川が作った創作料理、ヒマワリが美味しいと食べまくり、彼も食べる――舌の肥えた青年はここを改善した方がいいと指摘する、一々育ちがわかる青年。 朝食後、具現、降換、射撃、剣術、氣功、体術の訓練、それだけで午前中は終わる―― 昼食は青年が作り、シーフードパスタの自家製ソース――それが疲れ切った二人には美味しかったらしく青年が予想したとおりお代わりの催促、青年との昼食は静かな暖かみのある食事。 午後はバーの開店準備、その後に自由な時間、その合間の瀬川は裁縫に取りかかり、ヒマワリはノンビリと自室で必要かどうかは別にして学業に打ち込み、彼は使い魔に掃除、洗濯などを命じ、自分は趣味兼仕事のネットチェック、そう言うサイトがあり依頼を受ける窓口らしい。 伝言板に青年が出かけますと書き残し、遺族の少女に会いに行く―― 遺族の少女は女子高生の年齢で、すでに葬儀が執り行われている――青年は名乗らず看取った者と告げ、遺族の少女に預かった手紙を渡した、最後を話し、遺族の少女は泣き崩れた。 「殺した相手は死んだ」 少女は「そうですか」と泣き声で話し、彼は賞金首の最後までの話をした、あんな死に顔は彼女にとっても報われるような、非常に印象深い死に顔――それが遺族の少女の誇り。 青年は慣れている、幾度、そんな数えるような出来事ではない、青年の古巣では当たり前のような、そんな出来事、毎度、青年は告げてきた、同じような戦場を共にした者達の最後の語り。 「これからどうする」 「分かりません、ただ高校は卒業します」 「もし強くなりたくなれば紹介するが」 「強く?」 泣き腫らした少女の黒曜石の瞳に、何かが宿った様に青年を見上げる、声は戸惑うような響きではあるが、青年が頷くと少女も頷く、青年が組織を紹介し、彼女は組織に世話になる―― 帰りの道を辿る、こういった話が多く青年は引退した、耐え難かった、共に笑い合える者が死んでいくのが、最初はその復讐こそが唯一の救いであると信じた、しかしそれは信じるに値する暴力でしかないことに気づいた、正しいかもしれないが、気づいたとき青年は戦うことに疑問を持つようになった、それはいつしか青年を変えた、そう今のように。 ――この手合いには慣れている戦闘以外に興味を持たない戦闘狂、そんな少女が目の前にいる。 無表情に美形の顔、ある意味完璧な美を追い求めた結果かもしれないが、人間性が全く感じられない玲瓏とした顔立ち、幼い中学生程度の背丈かもしれないが、青年は一目で戦闘狂の戦士と見抜いた、力追い求めし者の末路と言う最後の姿のようだ。 「強くなったと思う?」 「力無き魂は虚、魂無き力は虚、力を追い求め、最後に仲間を庇って死んだ男の遺言だ」 「ならば立証してみなさい」 「それは死者の言葉を借りた単なる暴力だ」 「では力無き者はどうすればいいの?」 「では問う、正義の鉄槌で死んだ悪党が弱者だといえないのか?」 「では悪党に殺されるしかなかった者はどうするの?」 「可哀想な被害者じゃないか?」 「そう言い切れる?それを押し通せる?」 「誘おうとする者よオレに構うな、もう力の世界は疲れた」 「ふざけるな!」 先ほどまで人形のように無機質な声の主は感情を露わにし、激情しながら腰に帯びた剣を抜く。 「貴様は戦士だ!臆したか!臆病者が!」 「知らないのか?人間は臆病な生き物さ」 誘う者と青年が呼んだ少女は、青眼の構え。西洋剣術の断ち切る原理の剣の切っ先を向ける。 青年が抜刀する、片手で構えるようにゆらりと動く、少女が勇ましい獅子吼と共に剣を振り翳し斬り掛かる。刹那、青年が握る日本刀で打ち落とす、がぎん!―暗流武器壊しと呼ぶ武器を破壊し、研鑽を積んだ者の一撃は、握る手すら破壊する凶悪な通頸を引き起こす。 少女の顔が勇ましさに凛々しさを兼ね備える玲瓏とした顔に、苦痛の色が深く走る、青年の暗流の技で、少女は剣を落とさなかったのは、正しいが――握っていた腕は内部から出血し、まるで破砕寸前のようなボロボロの腕――青年が日本刀を黒塗りの鞘に納める。 「なぜだ!そこまで強くありながらなぜ戦わぬ!」 「言っただろ力の世界には疲れた、もう現役じゃない」 「では問う!なぜ鍛えようとする!?」 「弱いからだ、雛は卵の殻の中、だが雛は卵を破壊する、それは世界を破壊することに他ならない、しかしそうしなければ世界から出ることは叶わない、だから破壊し新たな世界に旅立つ、分かるだろう、雛は希望だ、希望は破壊なしにはあり得ないのだ、必要に羽ばたく力がいる」 「それ程の強さを持ちながらなぜだ――」 「一つ剣術の極みを話そう、刀に拘っては剣術といえぬ、力に拘ったの誘う者の負けだ」 「ふざけるな!」 「その思考の硬直こそが敗因なのだ」 「何度でも現れる、何度でも貴様を戦わせる、貴様が臆病者であろうが力はある、正しさもな」 「何度でも退ける、何度でも断る、オレは現役じゃない、臆病者で結構」 誘う者が消える。日本刀を握る手を離す、凍結した時が戻る。何事もない都心の人混み――誘う者は未練がましく幾度も現れては、その度に退けられ、青年を戦わせ様と何度も問い掛けた。 道の前に一人の女子か、男子学生がたっており、特徴的な容姿をしている。女性でいえばスレンダー、男性でいえば小柄な華奢とても中性的、衣類は黒衣、腰に特徴的な紅の布を巻き、薄紫の白みがかる短髪はボーイッシュと言うより関心すら無さそうだ。前髪を左手で掻き上げる。 鋭く細い切れ目は真紅の輝き紅玉のよう、猛禽類の美形がニヤリと笑いかけ。 「蒼穹が選んだのに、未だに戦わぬ臆病者が、笑えるほどに強いとはな」 「お前も誘う者か?」 「まさか貴様のような男は選ばぬ――この国でいう恥を知らぬな」 「失せろ嘲笑う者よ」 「いや断る、貴様にあれこれと言われる筋合いはない」 「そうかでは何の用だ」 「何年か・・蒼穹が選んだのは丁度この頃の、貴様が妻を娶る前の話だったな」 「まさかと思うがお喋りに現れたのか?」 「そのまさかだ、あり得るか?蒼穹が軽々と易々と退けられた、それがこんな男とは蒼穹があまりに哀れでな――我らを誘う者と呼び、我を嘲笑う者と呼ぶ、臆病者の恥知らずの戦士よ」 「そうか」 「そうさ強く、賢く、正しく、優しく、しかし肝心の魂が虚、勇敢さも勇猛さもない、その上に恥の上塗りを繰り返す恥知らず、侍よ――この場にいる者が殺されても貴様は見捨てるのか」 「オレは長い引退後の生活で十分だ」 「分からぬな、それ程に練り上げた希有な使い手、それが老い耄れのような世迷い言」 「幾らでも言えばいい、貴様らには従わない」 「そうか、しかし貴様はなぜ剣の意味を忘れた?」 「疲れた。笑い合う者が年追うごとに居なくなる、もう疲れた」 「それで疲れたが未だに剣を握る理由は?」 「必要になるからだ」 「そうか義理人情は忘れぬか、今日日流行らない任侠か?」 「義侠心や色々だ」 「そうか分からぬな――桜花乱舞の桜舞う季節は巡った。巡ったは紡がれる散りに行く定め」 「人あらざる者が古風な戯れ言か」 「詩聖に選ばれし志士、唯一貴様だけは戦わぬ、十二の禍々しい歪な人有らざる者、それと戦う定めと知り戦う者、唯一貴様だけは女々しい戯れ言ばかり、老い耄れと同じ侍か」 「生憎貴様らの人形にはならない」 「まさか人形が人を選ぶだけだ、我々は単なる陽炎だ」 「失せろ、死に誘う者よ」 「それを何という?」 「死に神だ、勇猛、勇敢を焚き付ける単なる死に神」 「貴様は、相当、我らのような者が嫌いのようだな」 「死に神の誘いに乗る、愚か者にはなれないよ」 「そうか、貴様は死地に赴く戦士を愚者扱いか」 「残念だがオレからすればそうだ、戦うだけがすべてと思う思量の狭さ」 「そうか。その割には武が余程好きなようだな」 「習慣かな」 「老い耄れのような隠者か、侍を封じ、静かに余生を送る生活」 「オレの生はオレが決める、最後まで主人公だからだ。戦いだけが答えと思う事なかれだ」 「わかった侍よ、貴様は本当に素晴らしい、好い人柄だ――先程の無礼は詫びよう。我が名は知らぬ方がよかろう。汝が選んだ生と我らが歩む生は違う、蒼穹はそれが分からぬのだ」 「そうか」 「また出会うだろう――汝の行き先に幸があらん事を」 「二度と会いたくないが、またいつか」 人混みに青年と同じような黒衣の者は消える――青年は変わらず歩む、争いとは縁のない沿岸のビル街、青年の住まい兼仕事場の五階建てビル、地下に降りたバーのドアを潜る。 コスプレバーに営業時間前に夕飯、青年が作りいっそレストランにした方が、客は入りそうな豊富なメニューの和洋折衷料理、どれも一般家庭で作られるメジャーな料理、それを惜しみもなく作る――二人の住み込み従業員の女子高生二人は味わって食べる。拳銃型特殊機材に使い魔を帰還させ、強面な青年は品の良さそうな穏やかな雰囲気と、慇懃な表情で食べる。 「マスター、ある意味バーテンダーかもしれないけど、帯刀、拳銃は隠した方が」 「ええ!瀬川、衝撃的な嫌がらせか?」 「いやだって普通の客は引くよ、よく考えてよ」 「何を言う日本刀、拳銃は欠かせない道具だ、何よりもヤクザのようで」 「いや本物のヤクザでも、そこまで堂々と着けないと思う」 「いいじゃないか任侠のようで、ちなみにタトゥーは家紋だ、そう言う風習の一族の証」 「本物としか思えないから言っているわけ、もう少し遊びを取り入れて」 「いや個性の演出とした拘りだ、まあチェーン類は着けるが」 「鎖を巻くのですか?」 「手首、腰、首に着ける装飾品の小物――マスター色は?」 「シルバーブラック、輝く灰色?」 「駄目だ!こんなんじゃお客は来ない!マスターを改造しないと」 「うんうん、いっそ」 「ヒマワリ、真剣に考えればコスプレバーのマスターが日本刀+拳銃+黒一色の喪服」 「殺し屋をイメージした」 「駄目だ!こんなんじゃ客は来ない、もうちょっと、よくよく考えるとバーの命運は私に託された?そうだ・・きっとそうだ!沙耶頑張る」 「後バーで露出度は少なめで、それは法律的にそうだから、違反したら本当に捕まるから」 「マスター好きなゲームキャラは?」 「エフエフ+のアー・ロン、ちなみに酒は飲まないから、それとタバコなどは男性のみ」 「ナイス、大昔のゲームマニアでよかった!沙耶付いている、行けるぞ」 「ああちなみにヒマワリは?」 「そうですねぇ、ヒマワリの格好は甲冑にロングスカートが定番です」 「それで好いのです!かなりファンタジー系、所でマスター」 「いやその統一性の無さは何?」 「素材費用は?」 「合法内の領域のみ、ただ高値の物は良い物だとは思わないぞ」 「ええもちろんです!安く質の良品な素材から作るのが王道です」 ――大人の青年は王道に(やはりそう言う性格か)要すれば作るからにはトコトン追求する追求者の性格、職人気質とも言える、相当な裁縫歴を物語る、もう一人の従業員は「王道?」と疑問符で答えられそうな直情型一直線の少女を見る、クールな風貌で興奮しておりブツブツと独り言を呟きあれこれと思案する、時々「駄目だ!」とか「沙耶ナイス!」とかかなり怖い。 食事が終わり、青年の使い魔がせっせと食器洗い、ある意味労働力と化している。それを二人はしげしげと真剣に観察し、青年にあれこれと解説を求める、結局降喚の講義。二人は静聴。 ――長いので省きます―― 開店時間、二人のウェイトレス、片方がファンタジー系の女性版なので、現代風のシックの学生服男子版をカスタムしたオリジナルに近い、元は彼の知らない二十一世紀のゲームの制服。 バーのカウンターでマスターは渋いウェイター制服、非常に似合い二人がベタ褒め。青年は大変不機嫌そうで、納得が全くいかないように、黙々と帯刀している刀を手入れする―― 青年がマスターのハズがすでに制服は裁縫担当が決定する、基本的なウェイトレスの要領が大変悪そうな片割れの羽付吸血鬼にはお会計&受付&衣装応募のアンケート配布――天職の様な住み込みに、青年の機嫌は益々不機嫌そうに、手入れから物を試し切り、かなりの迫力がある。 (乗っ取られた)と内心トホホと思い、仕方なしに言いそうな材料を切断する。元々適当に料理を出したり、つまみを作るのが青年の仕事だ――日本刀を包丁代わりはインパクト大。 ――開店したが、隻眼のタトゥーの顔、そんなマスターの店に堂々と入るのは強者だ。 夜の店などの営業時間。アナーキーなマスター見学に訪れる客は一応存在し、二人の従業員にかなり驚く。外見だけなら確かに受けそうな二人ではあるが、素性や性格が知れると客は引く。 ――写真撮影お断りと看板にある、その為に写真を撮る者は居ない。 まともな従業員、危ないマスター、人気が出るのはどう考えても従業員で、彼は気にも止めないが、ニコニコと応対する愛想のいいお淑やかそうな案内役、一人で広い店内の注文から何までを行う健気なウェイター。それを良くも悪くも雰囲気を出す年齢が窺えない年齢不詳の青年。 客がそこそこ入った店内の時刻をみて、青年が日本刀片手にカウンターから出る―― 「マスター?」 「毎日毎日足繁く通う、飛び込み道場破りがいてな」 「ええと真剣で?」 「これかこれは単なる模擬刀だ」 「え?」――店内の客はてっきり本物と思う、と言うより本当に料理の材料を調理する道具。 実際持ち主が刃先に指でなぞるが切れない、ツルツルと滑る、要すれば模擬刀で物を斬る達人。 「その落ち期待していました師匠!」 彼女はそう尊敬の眼差しで見つめ感動中――もう一人剣術の達人はニコニコと首を振る。 「それは刃で斬る刀ではなく、練習用の一応斬れることもない居合道の道具です」 「だが普通は斬れないぞ?」 「ええ斬れません、そもそも達人領域の者が使用しなければ、物を切断するなど無理難題です」 「達人かどうかは知らないが、まあ斬れはするな」 「マスターはどれぐらい強いのヒマワリ」 「そうですね剣の強さでいうなら、十代で達人になった少年が修行した後の強者です」 「へ、へー」 「落ち込まないでください瀬川さん」 「沙耶落ち込まない、せっかくの見稽古、是非拝見すべし」 「断っておくが本当に斬る少年だぞ?どこかのヤクザ者だ」 「やんちゃな坊やですね」 客も是非拝見したい達人VSヤクザ者の少年剣士、その少年は爆音を響かせ大型バイク系の改造車の騒音、それも一つではなく後続からゾロゾロと続く、だが店内に入ってきたのは一人の少年で、高校生程度の明らかに悪そうな印象を与える。真っ赤な髪はロン毛、耳に派手なピアス、体中に高価そうな装飾品、腰に帯びた日本刀――ある意味完成された悪そうな剣士の少年。 「毎度毎度懲りないな」 「あんた何者だよ、第一にあんた流れ者だろ、それなのに大金持って、店構えて、流行もしないコスプレ、それなのに家の者は全員が返り討ちなのに、あんたを探った連中はどうなった?」 「一応大学生の経営者だ、ちなみにバツイチだ」 「ふさげんじゃねぇ!家はこれで食っているんだ、それがてめぇ一人に伸されましたぁ?お笑いものだ!こっちは必死というのに、なんだその余裕綽々な練習用の刀は?」 「知らないのか?日本では真剣は帯刀しないぞ。確かテロリストが幕府を倒してからだ」 やたらと凄味のある少年は本当に逆上寸前、顔は真っ赤になり青年の余裕綽々な説明に、プチと音がしそうな顔で日本刀を抜く、それを案内役のヒマワリがいつの間にか首に剣を当てる。 「坊や、悪いことはダメだよ」 「悪いこと?てめぇが俺の首を切断することか?」 「坊や相手の力量もわからないの?」 「わかんねぇからきてんだよ」 「そう坊や、剣術の領域と仮定し、もし極めようとすれば最後は?」 「線が見える――とか聞くな」 「時雨はそこに行き着かないように調整する領域なの」 店内の静寂、あり得ない領域のあり得ない技法を使う、あり得ない限りなく極みの近い剣士。 もちろんそんな事が可能な者など聞かない、天性の才に調整すら可能とする技量、並ならぬレベルの達人ではない、仙人に限りなく近い化け物と同じ神業の剣士――少年は日本刀を納め 「邪魔したな」 少年も並ならぬ筋者、首に突き付けられている剣に一別もせず、あっさりと引き下がった。 店内に騒がしさが戻るとき、青年が一応住み込みの二人に告げる、一応耳にする話。 「悪ガキではあるがただ者じゃないんだ、そこら辺のチンピラとは格が違う、それに下っ端が勝手に集まるカリスマ性がある、何よりも地元から離れない昔気質のその筋系」 「なんかもの凄く悪でしたけど?」 「悪さを行うというか島が広いから、所場代で食っていける、それに表にも食い込むらしい」 「じゃこの辺の悪のボス?」 「いやその息子の次男だ」 「じゃ何、極道系とトラブル?」 「いや極道ではない、というか一年前引っ越した初日に出くわした高校生」 「じゃいったい何系なの」 「企業を取り締まる裏家業筋、そう言う事業で成功している一家はある、元々は単なる事業家」 「取り締まる?」 「あのな、談合とかで喜ぶのは国内系だ、言い換えれば外資系からは困る」 「じゃ裏の警察じゃない?」 「でもない外資系から資金をもらい、談合などの伝統裏方潰し屋」 「じゃ二度とこない?」 「いや来るだろうな、あの少年、学校では剣術系を総ナメした天才肌の剣士だ、つまりだオレ一人でメンツ丸つぶれ、あの少年も強くはなりたいだろう、必然的に挑戦に来る」 代わりにヒマワリがひらりと対峙する、西洋フェンシングの構え、ただ片手が違う――蟷螂拳などの指先、下半身は八卦掌の流れる流水の動き、青年が絶句し唖然とする。 「ヒマワリ、お前暗殺者か?」 「趣味です」 「致し方ないかお相手しよう」 青年に構えはそもそもない、わざと構えることはあっても基本的な抜刀術のみで、後は臨機応変に独自に作る流派、そういった独特の技法と、重点を置くセンスの才能をひたすら研鑽を積むことで独自性を保ち、且つ流派の使い手と認められる。元々は対暗殺者用に永い時集められた者の技を習得する無国籍の流派、それも極めて独特な表には知られない、おかしな技術体系を持つ、対戦する相手に応じて習得し戦う前までは理解できない、気づかない技が相手に応じて理解できるように古流独特の盗まれない技法で作られた、隠れて武徳を詰めの極意―― だからこそヒマワリも興味を示した、歴史的には失われた技を多用する青年だ。 流れるような恐ろしく速い突き技の連続、それを青年は日本刀で受け流す、神業の領域で剣の会話する二人、圧倒的な西洋的な突き技、東洋的な受け流しの防御技――青年が一歩踏み出す。 刹那の揺らぎ青年の指先が、彼女の剣を握る片手の柄を握る、その後に電撃的な巻き打ち。 それを僅かな半身のずらしで避ける、そこから打ち下ろす刀が真横の薙ぐ――それが決まり。 「やっぱり三弦ですか」 「詳しいな当たりだ」 「どうして?」 「ストップ!」 唐突に二人の世界に呆然と眺めていた――もう一人の店員が入り込む、せっかくのショータイムに客は不満そうだ、それを易々と理解できる領域でもない二人だが、確かに技を説明するのは賢くない、知っている技は失われた技の一つで、そういった技法の流れは廃れるであった。 「やっぱりこうなるじゃない」 「いや何が?」 「外野から説明しますと二人の世界にドップリ」 「あのな、もう少し師を信じろ、せめてこの手の者に手出ししない事は」 「信じられません!学生結婚でしょ?怪しい」 「そこまでいうか、というか男もいない歴更新中の者の言葉か?」 「それは落ち込みますよ?」 「その内出来ること間違いなし」 遅かった、フラフラとカウンターに向かい、奥に入り物音一つしない、説明しなくてもどうなったか二人は易々と想像でき、ヒマワリが向かう、マスターは致し方なく下手くそなウェイター、基本的に瀬川なしには店は効率的に動かない――客も不思議な店と言ったところ。 用心棒いらずと噂されるコスプレバー、恐ろしく強い店員、恐ろしく強い主人は裏に詳しい。 そんな噂の店に警察、地元の暇人兼腕自慢が時折来訪し、一目で化け物と呟き逃走。 自然に地元の武道系が集まり、マスターご自慢の料理は日替わりの適当料、付属にコスプレ。 妙な店の一言に尽きる――そこら辺の悪一丸になっても勝てそうにないマスター、変な店。 写真撮影禁止の為にスレイヤーは微妙に反応し、一応来訪する、復帰したコスプレ姿の瀬川、帰還した縁の下の力持ち、そのヒマワリが応対し、ある意味客層が偏る店―― 瀬川が必死にウェイターをして、時雨が精一杯作る、案内役のヒマワリも忙しそうで、大変そうな一日が十一時半に終わった、客は早すぎると言ったが在庫がの一言で客もわかった、客が入りすぎて商品が品薄になって、商売しようにも物がない、アンケートの結果からテーマを決めるのが楽しみになっている、商売が軌道に乗りマスターのファイトを楽しみにする客も多い。 疲れ切った三人、青年が品薄な在庫で料理を作り夜食、それを二人は楽しみにする様に食べた。 「割と商売になったよ、お疲れさん」 「はい楽しかったです、毎日働くのも良いですね」 「テーマはエフエフだ!不朽の名作今ここに、沙耶の裁縫をお客様は待っている」 「おそらく今日もエイプリルフールタイムが来る、休んで修行だ、まあ裁縫の時間もある」 青年が日給を渡し、素材費用を決める、瀬川は食べ終わると速攻でネットショッピング。ヒマワリはノビノビと輸血パックをストローで吸う。彼は材料を仕入れ明日のメニューを考える。 そんな時にあの少年が店内に入る、今度はホスト姿で、意外に似合う嫌みのない見栄えする。 「よう隻眼の死に神さん」 「弟子入りか?」 「いや商売が軌道に乗り挨拶というヤツだ、家は極道系じゃない、古かびた方法で儲けようとは思わない、しかしちと厄介な事が多くてな、家の縄張りでやらかしてくれる連中がいる、どうだい人を助けると思って、一仕事頼まれないか?」 「穏健派のマフィアも大変だな、それ程の仕事か?」 「ああ薄気味悪い話でな、家の者が探って音信不通になった」 「それは穏やかじゃないな」 「家の者が易々と殺されるとは思えねぇ、しかし消えた、どう考えてもまともじゃない、かといって自前の縄張りで、そんな危ない事を放るのもご先祖様に顔が立たない、参った話さ」 「ネットは使ったか?」 「証拠が残る、それに薄気味悪い、並の連中じゃ殺されにいくようなモノだ、かといってと困った話さ、どうだい」 「ひとまずは調査からかな、何か手掛かりは」 「それがなどうも妙なことが多くてな、話すと長いが、聖杯と言うキーワードらしい」 「聖杯?もしかして禁断の聖杯か?」 「知っているならよけいに頼むわ」 「しかしあれは伝説に語られる闇の神器だぞ、長いが要すればとある神の一部らしい」 「つうとオカルト系か?」 「いや古巣は知っているな?」 「ああヴィーナスからトラブルのことで情報提供があって、筋金入りエリートの神話級戦闘員の引退後隠居生活、勝てるはずもない。それに家はでかい、あんたとトラブって凄腕の喧嘩するのも正直お利口じゃない、何より別に何かするわけでもないし。家としては、そういった厄介な件が時々ある、だが今回はどこも尻込みした、名前の知れた連中も今回は危険すぎると」 「元々はヴィーナスが長年追っている伝説の秘宝だ、叡智を与えると逸話にはある」 「何でもする組織だな」 「まあトレジャーハンターもやる組織だ、意外に儲かる、それにオレも数件出くわしたが、何というか時々だが化け物と出会う、大抵亡者系の物理攻撃が効かない化け物だ」 「やべぇな、そんな化け物と戦える奴なんて」 「実際ヴィーナスは相当昔からある、そうだな戦国時代にはあった俗に言う忍一族。その中で時々伝説に語られる力を持つ者や、時々の化け物、オレの実家はそう言った化け物と戦った経験者が多い家系なんだ、ただ時々であるが禍々しい邪神、邪気纏う魔神の話を読むことがある」 「そうか、つうと長いときの伝説の化け物が実在する場合もある訳か、かてねぇ全滅だな」 「ああいった化け物と戦う術は、我が一族は封じの力と呼ぶ、だが近年技術的進歩から屠る力に変わった、丁度祖父の代だ、戦後の話だ、ただ伝説に語られる化け物と戦う者も時々いる」 「あんた化け物と勝てるか?」 「一応な、氣を通せば一撃で消え去る場合もある、ただ厄介なのは知られていない力を持つ場合が多くて、気を抜けば即死だろうの場合が多い、色々な伝説があるが聖杯の様な物は十二、十二の魔神、詩聖の者、そんな戦いが各地の伝説の中にある、確か終焉を謳う者に挑まん」 「そうか世紀末は終わったが、そんな連中もいるのか、化け物か」 「そう言った化け物を研究する組織や、狩る者は一応この国にも少ないが存在する、そうだ」 彼が予備の拳銃型具現器を少年の目の前に置く、少年は銃器類を知っているようで、何だと困惑する顔で手に取る、弾倉を確認するが弾丸が飛び出るような弾薬ではない。 「古巣の予備の武器だ頭部に当て引き金を引く、多様性の中で個性に沿った力が目覚める」 「正気か?」 「つまりだ開発した者が覚悟を決めた者のみが、使えるように工夫したわけだ」 「まあ化け物と喧嘩する組織らしいな、オカルトだぜ」 「いやかなり科学的な品物だ、実際に拳銃型だろ?」 「まあ頼んだ、店が多くて見回りも大変なんだわ」 「わかった」 少年が去る、青年は古巣に電話する、応対した父親が聖杯に食いついた――ヴィーナスの精鋭部隊を派遣する前に調査を依頼、本格的に表に現れる様な事件に発展しないよう注意があった。 並大抵の者が追えれば間違いなく迷宮入りの行方不明になる、それを少年が伝えたようで調べようとした者はなりを潜めた――化け物と一言で言うが化け物その物が多様で、多彩だ―― ヴィーナスの武器運搬担当者がそういった化け物と戦う装備を運び、特殊な機材が運ばれる。 青年の実家から頼まれた交流のある者が到着する、別名鬼狩りと呼ばれる日本の化け物を狩る生業の一族、その者はかなり強い方で、青年とは時々の仕事を組む、今回の聖杯伝説の一つは、厄災を狩る一族の者も突き動かした、つまりヴィーナスは近代化した忍一族が母胎。 防具などを当てにする者はおらず、銃器類に頼る者も居ない、それぞれに伝わる武器で戦う。 「久しぶりだねシグッチ」 明るくノリが良さそうな極普通の女子、日系のようで新緑のショートヘア、新緑の瞳、顔だけ見るなら可愛い系の少女、ただどう考えてもナンパに思える雰囲気だ。それでも強い力を持つ。 「化け物狩りは久しぶりか?」 「そうでもない、近年雑魚が各地で活性化してね、まるで誰かが作っているみたい」 「そうか、実は昨日なのだが妙な世界に迷い込んだ、影の魔物が襲いかかる場所」 「そう、やっぱりこの町呪われているの?」 「さあな、埋め立て地の町だ。もう被害は出ているらしい」 「そうまるで新天地の逆ね」 「ひとまず部屋は適当にしてくれ、今回は長引きそうだ」 「夜這いOKだよ」 「生憎女房一人で十分だ」 「いいねぇ――ええ旦那さんやあんな奥さんを愛するとは」 「気の合う相棒だ、嫌いになれないよ」 名前は吉岡チエ、通称チェル、相当な強者で今なお禍々しい厄災を狩る者、強者であるが今時の一年飛び級の大学生、とはいっても大学は表向きの肩書きだ。弟子の瀬川はびっくり、ヒマワリは変わらないが微妙に怯えている、そう言う筋の者と分かるらしい―― ゼロ時間になり三人のみの時間になる――一日で強者にはなれない、としてひたすら修行。 ヒマワリはホッとした顔で安堵しながらまたまだの術の鍛錬、初日の瀬川は直ぐに落ち込み、またブツブツと一人で自虐的になる、妙に個性がある二人だ、それを指導する青年も変わり者。 そんな時間を過ぎ、青年が実体化させた使い魔が見張り、シャワーを浴び眠りにつく。 青年が定期的に起き二人を癒し、自らも癒す、そういった癒しの術すら操る青年。 睡眠時間が終わり、シャワーを浴び私服姿で食事、賑やかな食事の時間が過ぎればそれぞれの自由時間だ――瀬川は裁縫に取りかかり、青年は一仕事、ヒマワリは散歩。 適応力がある三人はそれぞれの時間でタイムを終える頃、ヒマワリが帰還し。 「時雨さん、変わった建造物をみましたわ。何というか不思議なそうですねぇ、アニメの塔」 ヒマワリが困惑しながら話す、聞く青年は?の顔、そもそもアニメの塔では説明がつかない。 「明日どうにかしよう、今日は休め、ちと夜は夜で調べることがある」 「はい瀬川さん一人も少し心配ですし――」 「しかしゼロ時間の割にはもう一日あるようだ」 「おそらく、ただ老いる感じがありませんわ、歳を取らない不思議な世界」 「何なのだ、この妙な世界は」 「ヒマワリもさっぱり、それに世界中とすれば前人未踏の世界です」 「一応調査報告書を書き残した方がいいな」 「ええそれとお月様が欠けていましたわ」 「もすしかすると地下鉄や、色々調査する必要があるようだな」 「しかしこんな世界なんて吸血鬼ですら知らないでしょうね」 「妙な世界だ、刹那の一日なんて」 時間が過ぎ、店内にチェルが降りてくる、先ほどまでの年頃のそれは少女の顔はなく、真剣な新緑の瞳で二人を見比べる、まるでエイプリルフールタイムで二人の位置のズレを察知した。 「時雨妙な世界にいたの?」 「ああ妙なことにアニメの塔を見たそうだ」 「そう不思議ね、あたしが知覚した二人の気配が一瞬で変わった、そう説明するしかないわ」 「そろそろ行くぞ、ちなみに運転免許がない苦手でな」 「相変わらず乗り物が苦手なのね、どうして?あれ程に第一にレディファーストじゃない!」 「仕方ないだろ隻眼だ」 「まあいいわヴァンパィアのお姉さんは瀬川くんをよろしく、それと妙ことをするなら分かるわね?」 「虐めないでください!」 「どうも物の怪を信じられないのよ――そういうのを狩る一族出身だし」 「瀬川さんは大切なお友達です!」 「一々気にくわない女ね」 「オレの店で暴れるなよ」 「ナチュラルに勝ったからといって勝ち誇るなッスよ」 「意味不明なんです!」 「世代ギャップ?」 「のようね、あるのよねそう言う時代の意識って」 青年は漆黒のシャツ、ベスト、ネクタイ、スラックス、手袋、寒さからロングコート、日本刀は代わり日本刀に象られるが、魔物と戦う破邪神御刀のレプリカ+レプリカ小物を身に付ける。 車はレンタカーの黒いランボギーニ・カウンタサックLP500、一応ではある、二人乗りではあるが後部には偽装された四連装ガトリング・ガン、戦闘ヘリ等に搭載される破壊力抜群の自立照準兵器、他にも搭載可能な品物が満載、外見こその戦闘車両。チェルの一族に青年の一族が、お礼代わりに送ったレンタカー会社の車両をヴィーナスが改造した。本来は精鋭部隊用。 「毎度思うけどその黒一色の喪服姿何?」 「季節感?」 「ああそう要すれば黒以外が単に嫌いなだけでしょ」 「黒は芸術なのだ」 「あんなに頑張った周囲なのに、ファッションセンスが最悪」 「そうか?いい感じだが、第一に重戦闘車両に乗り込む格好か?」 運転手の彼女なぜかチャイナドレス、それもド派手な、気合い満点、彼女の一族が使う力の指輪と言う特殊な指輪を取り付け、彼女の好みにあった宝石類に指輪、少々大人の感じを出してみましたと言う格好の容姿から十代と丸出し、化粧も控えめ、やや庶民的な社交服姿の少女。 「そのシグッチの格好さえなければ、大人の雰囲気なのに!」 「いや自動車免許が取れない年齢の少女が、偽装した後に思えるが」 「男が細かいことをいうな!」 「毎度思うが、その妙に男を語る癖辞めないか、男ができないぞ?」 「ええバツイチが」 「どうせ結婚できそうにない女ベスト1入り入賞だろう」 「いいのよ、凡流どもは単なる邪魔!」 「そのイケイケな性格も改善した方が、男は寄りつくぞ」 「この、まあ久々に大物だし、どうするの」 「さあな、今回は慎重を期して損はないだろう、無難な所を回る方がいい」 「そうねどうもこの町は、何というか」 「わかる妙な気配を時折感じる、邪気や生気が入り混じる濃密な空気」 「そうなのよ、変な町ね」 「水源鏡は習得したか?」 「アホか、あれは極意だっつうの!」 「やれやれ天才のくせに上達が遅いな」 「うるさいどのみちあたしが当主は決定なのよ」 「オレが十七の頃は現場だったがな――駆け抜けた感じだった」 「ヴィーナスの大バカ!なんでシグッチを引退させるわけ?バカかッつうの」 「オレの個人的な理由だ」 「んなものが理由になるか!」 車が走り出し、ナビゲートで無難な夜店所を回る、主に青年が聞き込む、すでに通達はあり詳しく知る者は、探って消えた男だけらしい、――誰もが薄気味悪いと零した。 あちらこちら周り、判明したのは丁度去年の四月、その頃から時折人がふらりと消える。 噂は多いが、消えるのは無差別で警察や裏も蒸発、夜逃げ、様々な理由が話されるが誰もその者を発見できず、かれこれ月の数人が消えて一年、多いときで駆け落ちが連続する場合もある。 そしてそれを探った者が消えた、極普通の事件から危険性が飛躍的に高まった、警察も慌てて調査を開始、興信所などはすっかり怯え尻込み、裏で賞金の話はあったが、探った者は名前のしれた強者で一応銃器も携帯していた、それが忽然と消えた、薄気味悪い悪意を感じるイヤな事件と噂され、洒落ではなく裏の者も尻込みする一種の怪談の様な扱いで、事件の痕跡はない。 ――とある店で少年と出会した、挨拶し、今の情報を整理し話す。 「サツもお手上げ、探偵どもは尻込み、全然駄目じゃねぇか」 「事件は去年からだそうだ、行方不明になる者が少し増えた感じで、時折駆け落ちなどもある」 「じゃそんな事件で危険なんてないだろう?」 「ないが探った者は消えた、綺麗さっぱり忽然と消えた、今までその手の事件は大抵落ちがある、だが今回は少し考えにくい、理由は探った者は連絡して直ぐに消えた、それも忽然と誰もが尻込みする、第一にありふれた事件から武装した者が消える事件なぞないぞ」 「つうとどうするか」 「下手に探らせない方がいい、少なくてもトカレフなんて玩具では勝てない、ジャベリナを持った男が消えた、そこら辺の安物、ニューナンブなぞではまず不可能だ、SATでも全滅」 「妙な事件なのに被害は小さい、しかも金銭絡みじゃない、性別も無関係、年齢も同じ、無差別に消える事件で探った者が消えた、化け物決定じゃねぇか?」 「それがな、調べたら時間も無差別なんだ、まるで丸一日中稼働中聞いたこともない」 「じゃ何だ?」 「予想でいいか?」 少年が周りをみる、誰もが離れ音も消える、青年がボソリと呟き。 「聖杯の別名は叡智与える器、それも無差別な賢者の石らしい、人間が使えば耐えきれず自我は消える、耐えられない急激な情報量に脳が耐えられず」 「まさか人体実験か?」 「その可能性が濃厚な感じだ、今組む者との共通であるが、強烈な邪気と生気が濃密に時折感じる、こんな現象は伝承にすらない、この町特有の現象だ」 「邪気、生気の説明を」 「邪気は生身の者なら、こう悪意、〈禍々しいもの〉つまり化け物と同じ、生気は逆で人を活性化させる、言うなれば人に影響する〈心地よいもの〉とでも言おうか」 「それは言い換えれば、それが入り混じるのは人間じゃねぇか?」 「人間では持って数分だ気分的な〈もの〉だからだ、強いていうなら雰囲気、感じ」 「じゃそれを可能とするために、人を必要とする人間じゃねぇか?」 「では逆だ、なぜ必要とする?要すれば気配だぞ?」 「そう言う性質は何という?」 「さあな、妙な話なのだ、気配程度の気を配る者はいるが逆だろ?」 「確かに、わかんねぇ、少なくても人の消えた数から後一月もすれば警察も動く」 「警察は無理だ、武装した者が消えた迷宮入り事件を調査するか?」 「つまり、深刻じゃねぇか」 「なお質が悪い、無差別だぞ、いきなり一家族か消える可能性もある、少なくても連続して駆け落ち事件が頻発する頃もある、しかし新聞は?」 「驚いたな、政治圧力かよ」 「つまりだ市長辺りが臭う」 「ほう、やっと手掛かりが見つかったじゃねぇか、しかも選挙前だ。確か二期当選か」 「ある意味政治的判断かもしれないが、新聞まで圧力をかけるのは普通じゃない」 「わかったあんたは探ってくれ、こっちは市長だ」 「いや下手に調べず泳がし、接触するまで待つのが最上だろう」 少年が頷き、事件は真剣なところにある、警察に青年が回り、警察官は青年の緊張する、強面とかではなく、尋常じゃない段階の達人が何の用もなく現れるのは考えにくい、かといって市民を邪険するわけにもいかない、応対は警察官の年長者、どうにかしろと言われたらしく苦しい雰囲気で応対する――青年はボソリと行方不明になった者の名前を挙げる。 「目下の所蒸発でしょうな」 「そうですか、聞けば警察はどうされる、新聞にも載らない事件」 「珍しいことではないからでしょう、よくあることです」 「ではよくあることは調査されない?」 「そう大規模ではないですが、調査は続行されています」 「では担当者と面会したいのですが今すぐに」 「それが休暇中でして、この点事件はどこでもあり、解決しないのが大半です、どなたかお知り合いが?」 「いや妙な話だなと、聞けば去年あたりから起こる行方不明事件、それを探った者は消えた」 「聞き間違いや憶測などでしょう」 「そうですか?聞けばジャベリナと言う大型拳銃を携帯しの話らしいですが」 「そんな銃器類はこの辺りでは密輸でも使いませんよ」 「では絶対にない?」 「調査中ですので詳しくは」 「なるほど警察の真摯な態度はよくわかりました、ではこの事はネットで調査します」 警察官は真っ青だ、そうなればどうなるか目に見えて、火を見るより明らかに大事になる。 「よくある事件でしょうから賞金も出し合えばどうにかなります、では」 青年を止めないといけない、しかし並の装備しかない警察官が調査する民間人に横暴が出来る世の中ではない、どうしようもなく警察は動くしかない、しかしの話、誰も担当は辞任しかねない、判明している大型拳銃所有者が消えた事件を、単なる公僕だからの理由で探るような希有な者は早々にいない、間違えば明日消えるのは自分だ、――青年の一言ネットは怖い、騒がれれば責任問題に発展、本庁がどう処分するか易々とわかる、上も下も我が身可愛さはある。 「普通堂々と警察を脅す?」 車内で盗聴中のチェルが呆れ半分に話す、青年は警察の苦しい立場を思いっきり蹴り上げた。 「よくある事件を、小銭程度での賞金集め幾らでも集まる」 「警察が苦しい立場、それをまあよくも突き上げたなと憎まれるわよ」 「一応選挙権もある納税者なんだが」 「へいへい」 「明日がある帰還するぞ」 「へいへい、しっかし、妙な話よね、そりゃ警察も我が身可愛さはあるわよ」 「悪いが公僕の類は横暴になれる相手次第で変化する、信じる方がちとな」 「そのままラブホはダメよね?」 「生憎少女趣味は卒業した同世代限定」 「なんでかなハートで仕事する男って絶対に手を出さないのよね」 「同世代と青春でもしていろ割といいものだぞ?」 「こういう落ちありなのトホホ」 車が動き、青年の自宅兼店まで戻る、酒も飲まない堅物ではあるが時々ヘビーなタバコを一本吸う――高価なタバコらしく趣味がいいのか、タバコを吸わないチェルも怒鳴りはしない―― 「で大学は?」 「真新しいお上品な輩が多いな、高校が付属な点もあるかもしれない」 「そう、ご友人は相変わらずゼロ名?」 「話が合わない者が多いが全員帰郷中」 「昔から男子には嫌煙される質なのよね、まあその顔で嫌煙するなの方がムリだけど」 「別に居ない訳じゃないぞ、単にチェルが思い描く友人とは違うだけだ」 「生きてるの?」 「葬儀に行った方が多い」 「そう」 「だから引退した、あんな世界で死者の顔を見るのはもうウンザリだ」 それっきり会話はない、彼女にも死別はあっただろう、青年も多かった、それは耐え難いと思う者が多い、早々慣れて平気な顔が出来る天性の者は少ない方だろう。車内から夜景が見える。 移り変わる街並みは煌めき輝く、いい風景かは個人のよる所であるが、平凡な街並みが続く。 青年の店の駐車場に父親の車とあの少年の改造バイク、バーに明かりがあり、車内から二人が出てバーに入る、――趣味なのかジャズが流れる、少年は得意なのか勝手にカクテルを作り、父親はオンザロックのグラス片手に黙々と読書、二人が挨拶し、少年が飲み物を出す。 「警察は動く、しかし騒動中だ」 「警察の臆病腰に、間抜けな所が納税する者の辛いところだな、それで」 青年がカウンターから資料を取り出す、機密の書類が満載、父親が受け取り、酒を飲み干す。 「それで迷い込んだ世界の調査は?」 「今まで四人、内一人は死亡、残る二人は保護、調査中の妙な事は霧雨、新緑の満月は満ち欠け、アニメの塔、おそらく変貌する施設郡がある」 「その上にこんな町か、不気味だな、上は兵隊を寄こすべきか検討中だ、時雨がいるなら安心だが、今回は少々特殊な事柄が連発だ、どこまで対応可能か未知の話だ」 「正直誘う者と出会した、そしてもう一人とも」 「時雨を誘う死に神か、この町は変だ、調べればそもそも埋め立てする理由も、ありきたりな談合話、調べれば調べるほど裏が臭う普通の埋め立て地、それが去年から起きる事件、未知の世界、誘う死に神の二人、こんな事が埋め立て地にあるか?世界有数の謎々のような町だ」 「市長はやり手、企業誘致に成功、外資系も食い込む、発展する街の影に事件がある」 「で父さんが部隊の指揮?」 「その可能性が高いな、今回は並大抵の者なら死に行くようなモノだ、全く死に神に愛された町か、化け物どもが好き勝手にしおって!」 「相変わらずそう言うところが親子そろってそっくりね、小父さんもレベル79なのに」 「化け物一族ね」 「本来なら狩りたてたいが、慎重さ、冷静さは必要だもしかすれば初めてのケースになる」 時雨の携帯が鳴る、あの男の遺族の少女からだ、離れ通話を押す――彼は挨拶し。 「時雨さん、お元気で何よりです」 「声は疲れているな、だが強くはなる、その後に決めろ、すべきことを、負けるなよ」 「はい、今回地元の町が組織のケルベロスが出動するかの騒ぎです、その時雨さんは?」 「今の所調査中だどうも妙だ伝説、別世界、アニメの塔、影の魔物、一年前から発生する行方不明事件、消えた者を知らない、警察もおっかなびっくり、誘う死に神には出会うし、参ったことばかりだ、せっかく店が軌道に乗ったのに」 「今回訓練より調査員として派遣される可能性がありますのでご連絡した次第です」 「おそらく始業式頃だろう、おそらく事件もその頃が危ない、十二分に警戒した方が無難だ」 「はい時雨さんに出会えることを期待します、では」 「元気でな」 携帯の通話を切り、席に戻る、一人の迷い込んだ男の話を青年の父親が語る、結局命惜しさで非情になれなかった男の末路、尊厳ある死、誇りに満ちた満足げな死に顔、青年はそういった者を見過ぎた、時々寂しくなる、時々叶えられたはずの夢すら眩む、陽炎の様だと思う。 「甘さが命取りになる話だな、時雨には耳痛いな」 「父さんなりの言葉かもしれないけどオレは変わらないよ、そうやって生きるのが我が誇り」 「そうか、まあ時雨が選んだ道だ、甘ちゃんには甘ちゃんなりの生き方があるのだろう」 「ひとまずは後手だな」 「ああ情報が足りない、今判断を下す理由はない」 「じゃ飲みましょうか?」 青年が渋い顔で頷き、好きらしい酒のボトルをとり久しぶりにグラスに注ぐ、トクトクと流れる音が店内に響く、いつの間にか音楽はなくなり、それぞれの談話と酒が交わされる。 四月三日。三章序幕。 青年が起きたのは真昼、二人の店員は修行の前に家事に追われ、それ所ではない―― シャワーを浴び私服姿で使い魔を実体化させ、二人と交代、疲れた二人は青年の昼食を囓りながらぼやく、事件の事は警察も大変困っているらしく表向きは静かな街、湾岸もありきたりな波が打ち寄せて返す――警察から依頼という形で青年の事件調査協力が要請されるが、青年がやんわりと断り、警察は何度も食い下がる。そんな時に現在住人化しているチェルが起き、ばたばたと忙しくなり、青年が断り電話を切る。昨日は朝まで飲んだのにチェルは平気な顔。 「オッはよう」 「どうした少女趣味全快の服装は」 桃の色の上着、中の春物の肌色ブラウス、極めつけはフリルが三段のミニスカートにハイソックス、新緑のショートヘアの髪にヘアバンド、普通の十代少女の印象を与える、店員二名が? 「いや昨日は買ったから着てみただけ、さすがにきついわ」 「背伸びした少女丸出しだった」 「言うねぇ葬儀屋」 「お二人さんどうするの?」 「チェルも修行するか?」 「お断り、もちろん遊びに行きますデハデハ」 早速仕事を放棄し、遊びに出は払う、残る二人、怒りはしないが不真面目な遊び人と判決。 「ああ言う性格だが悪い輩ではない、ただ遊び盛りなんだ」 「そうですかなんか腹立つ」 「あの手の人は天才肌が多いのですよね」 「実際天才肌の使い手、幼くして前当主を倒した剛の者だ」 「あんな女が」 「落ち込まない、落ち込まない」 「へこむよ!あんなふさげた女が天才なんて」 「才能なんて人それぞれだぞ?秀才もいれば天才もいる、凡才もいれば、努力しいきなり才能が開花し成長する者も居る、実際オレはそんないきなり才能が開花するタイプ」 「よし沙耶頑張る!」 (扱い易いのか、難いのかわからない性格だな)――青年の指導する修行、基本的にこれを永遠と何年も続け、やっとまとも戦える、武道経験者でも彼の流派は裏方すぎる故に暗流。 青年は初めての弟子の二人をなるべく丁寧に指導するように心掛け、丁重に説明する。 ただ青年も不可能なことはあり、二人に教えるのは男性専用の暗流、本来は女性専用の暗流になるが、彼自身男性専用のみしか知らず、女性専用の暗流砂塵は予想すら不可能。 ――一見剣術に長けるヒマワリが生長すると見えるが、基本的な性格で探求者の瀬川は熱心に学ぶ、真剣な顔は師やヒマワリへの憧れもあるのだろう、無力が他人を死に追いやった悔いも。 一応仕事はしているようで、若者から情報を集めている遊び半分ではあるが、彼女がまさかと思うほどに個性的とは言えない外見、馴染みやすそうな女子高生の様な質、疑われる事はない。 「なんか凄く噂になっているわよ、チミの店」 「いやな昨日から商売が軌道に乗って何とか黒字になった」 「は?じゃ一年間赤字!チミ才能無いよ」 「やかましい、軌道に乗ってどうにか六時から十一時半まで営業中、というか在庫が十一時半までしか持たない、倉庫の関係、それに真夜中まで営業はまだまだ」 「はいはい宣伝しておくよ、それと見かけない学生を見たなんて情報があるわよ?」 「逸樹辺りが探るだろう、昨日の少年だ家名は出すな、それと民間人相手に発砲もするな」 「ありゃバレた?」 「コンシールド・キャリーの銃器大好きなチェルが、持ち歩かないのが信じがたい」 「はいはい気をつけます、しっしか珍しい女の子ね、瀬川」 「うむ、気づいたか。おそらくクリエイターの才能がある、やや特殊なパーソナルを扱う」 「だといいけどね、早々いないわよクリエイターになれるなんて」 「別に絶対とは思わない、ただ確率はかなり高い同じだからな」 「まあそうなのよねピンとくるっていうか、似ているな――なんてね」 「チェル本当に訓練した方がよくないか?チェルはいささか、体力に欠ける、下手すれば」 「そう言うタイプと諦めているわ、体力派じゃないのよ、アタッカーだけど」 「そうかならいいが後で話がある、迷い込んだ世界の話だ」 「了解ッス、じゃアディオ〜ス!」 時雨は知っているがチェルは決して力自慢の体力派でも、強力な具現使いでもない、技巧、知性を駆使した独特な搦め手で倒す、暗殺者のように削っては逃げるを繰り返す、ただその才能は見事に自らの父親と母親を倒し、一族の長すら倒した、それが時雨は知る彼女の昔で、苦労した天才肌の使い手なのだ、もちろん幼少から体力もないか弱い体格のチェルが当主になれると思われなかった、何度も試行錯誤と創意工夫、才能と努力、それを熱心のした結果なのだ。 時雨は昔をいえば体格にこそ恵まれたが、才能がある方ではなかった、だが実戦の初陣から華々しい戦歴、妹より弱いが実戦と言う真剣勝負に強かった。もちろん当人の独特の能力も合わさり、長生きした方だ、100%を四年間続けるのはそれ以外の失敗=即死だからだ。 少年は成長し青年になった、幼い少女は成長し花盛りになった、お互い苦労したなと言い合える少なくなった昔からの馴染み、あの幼き頃は多かった者も随分減った。それが彼女の胸の内。 青年は携帯を眺めていた、時折込み上げる哀愁や感傷、切ないことが多すぎた。 「それが暗流の定め違いまして?」 ヒマワリが話しかける、彼女も暗流と根本を同じとする陰日向の生き方、多くの出会い、多くの別れ、それを繰り返す、人は老い、彼女は変わらず、それを恨むことも嘆くこともしない。 「呪縛から逃げただけだ」 「わたくしも逃げました、騎士の生きる道は戦のみと思う事なかれと思い」 「それで見つかったか?」 「そうですわね。この遙か東の果て移り変わる時代、変わっていく人々、時折時雨の様な人」 「瀬川のような子もいる――チェルは単に苦手なんだ、そういった騎士道が」 「それであんなに邪険していたのですか」 「武士道も苦手でも、そういった類の者とは相性が悪い、どっちかというと任侠系」 「そうですかでも深く時雨を思っています、初恋でしょうか」 「初恋は叶わない法則なんだ、あの子は強がりでそれ以外なかった」 「そうですか、単に生き方を知らない子供と思いました」 「そうかもしれないな、結局分かるのだろう呪縛から逃げたいと思う気持ちが、妹にはない」 「人にはそれぞれ生き方なりやり方なりがあります、それは不器用なモノです」 「かもな・・・難しいことを大学で教えるが、知ると刻むは違う」 「そうですか、好きな人からすれば良いのでしょうが、異なる者は違うのです事を知らない」 「まあな分かっているのか、それがわからない坊やに嬢ちゃんの大学だ、俗に言う箱入りだ」 「さてと剣の会話」 「語る前に交えよ」 青年は珍しいことに本領の品を使う、大鎌、深紅の鎌先――まるで日本刀の刀のような刃身。 「どこで習いました、その失われたはずの死に神のすべを」 「さあな、握ればこれだけは常に勝てからかな」 ブラッティクラッシュソウル――血塗れを砕く魂、彼女の剣の名、古いルーンで刻まれた吸血鬼の剣、片手用であり両手でも使えようにバスターになる柄。細身剣の様な丸いガートの鍔。 彼が握る大鎌の名――金色を告げる者、彼の一族で言う夜明けの意、二人ともに古く永い流派。 彼女が両手を使い握る、断ち切る原理の半身もある剣身、彼が握る大鎌は引き斬る、断ち切る、氣の術で打ち砕く、彼と言う使い手によって本来の選択肢を増やす。 三時頃の昼時、彼女が突きの構えをとる、今度は二倍、さすがに彼も防ぎきれるとは思えない。 大鎌に氣が走る、一瞬の閃光で鎌先が彼女を薙ぐ、それを受けず反転し流水のような鋭い突き 彼の鉄甲の指先が切っ先を握る――暗流雷掌、通頸後に雷撃が剣に流れる、しかし剣は雷撃を吸い込む、彼が刹那で反転し剛力の突きが突き刺され、直ぐに引く―― 「何だそりゃ?氣を食っただと」 「ええ元々対仙術用の剣ですし」 「太公望かよ」 「しかし時雨には驚きます、避けますか?」 「速いが軌道が正確無比だ」 「時雨の欺く剣とは違う誠の剣です」 「知っているが使い道が少なく使わない」 ニコリと笑い突きの連撃、恐ろしく速く正確で力強い、青年でなければ気づかずに刺殺―― それを青年は完璧に弾く、青年はもはや人が追いつく速度ではないことは知っているが、青年の流派の男性専用武器版は防御が10、攻撃は0の防御専門、それを鍛えるために日本刀を使うにすぎない、素人の瀬川は呆然と神速の突き、神業の弾きを見る、どちらも押して引いてを激しく繰り返す、鎌先と剣が重なり金属音が悲鳴のように響き渡る、火花が幾重にも散る。 「全く刺殺の達人か?」 彼女は刹那で引く、一瞬で攻防が入れ替わり、いつの間にかに彼の拳が剣に触れようとした。 鎌先で防御、上半身の拳での攻撃、鬼神のごとく神業の領域で二人の攻防はいつの間にか彼が押し始める、鎌先を弾きに使わせなければ彼女は両手の攻撃で負け、それ故に二人は拮抗する。 一番に警戒するのが彼の拳だ、当たれば暗頸、寸頸と同類の効果を生む、柔体に対し最大限の攻撃力を有する一撃で即死もあり得る凶悪の一撃、ただもっと怖いのは彼の下半身だ。 上半身のみでの攻防、完璧に体重移動を可能とする下半身、二つが組み合わさり無類の強さ。 煌めきの火花が幾重にも二人の周りに散る、それは幻想的な光景にも見え、あまりに速過ぎて攻防がぶつかる瞬間だけに火花が散る、神速の突き、神業の弾き、凶悪の拳、すべてが幻想的な美の様な世界、乱舞する火花、重なる金属音、二人の拮抗、次第に彼は距離をじわりと詰める、彼女は最低限の動きで前進、後退、反転、回転、旋回を繰り返すが次第に火花の量が増加する、どうみるかではなくどう捉えるかの領域、もはや視るなど無意味、音、光、あるすべてから見切るしかない、その上で二人は圧倒する金属音と火花の絢爛乱舞―― 「ちいと馬力上げるぜ」 大鎌を握る手が両手になる、彼女はバックステップで刹那に後退する。 「ここまでの達人が今いまして」 「いやな元々両利きだ」 「うへぇーん」 ヒマワリが号泣する、それはそうだろうここまで鍛えたのに、二十年そこらの若造に負けた。 「ヒマワリ頑張ったのにぃ〜」 「つうか努力はあるが武器がな」 「西洋人だからって差別するぅ」 「してないって、動きはいいが武器がちと粗悪すぎる」 「お師匠様の忘れ形見!」 「いやどっちかというと体格に合わない、それに当人が体術ド下手では」 「鈍くさいと馬鹿にするぅー」 「そう言われても鈍いし遅いし、動きは単純だし、防ぎやすいなと」 「うぇーん!」 「要すれば基礎ができていないで戦う見習いレベル」 「ええぇ!マスターその」 「この程度なら幾らで居るぞ、いいか瀬川にしろヒマワリにしろこれからだ!限界を思うな」 「そうですか頑張ります!」 「うんヒマワリも頑張る」 「早々本当に合う武器なんてないぞ?これから見つける物だ」 「じゃヒマワリの武器は?」 「使い方が間違ってりゃ強いはずもない」 「ええ?・・・え?」 「それな吸収した後に返す鏡の盾なんだ、武器じゃない」 「ふぇぇぇぇぇ!」 「え?じゃマスター吸血鬼の武器にも詳しいの?」 「まあな古書に載っているからな」 「ふえ?」 「いやな、実家の一族の趣味で、世界中から兵器関係の本があのよ」 「じゃ何千年と集めたのマスターの家って?」 「つうか元々は本屋だ」 「は?」 「元々は本屋で裏家業は修行、俗に言う古本屋の家系なんだ」 『えええぇぇぇぇぇぇぇ!』 (まあ普通驚くよな、本屋に必要じゃない時代だからな、ご先祖様はやっぱり変人か) 「いやな昔は本が貴重で、持っているだけで襲われる何てあったモノだからご先祖様はひねちゃって、忍一族になったわけ、いや先祖代々妙だなと思って調べた結果」 「本屋に負けた?」 騎士のプライド木っ端微塵だろう、本屋がこんなに強いのは納得そのものがいかない、と憮然としたヒマワリが無言で問いかける、しかし偽りの無い内容で彼は「だよな」と呟く。 「始まりなんてそんなものだぞ?」 「時雨のバカァ!」 「んなアホな」 「仕方ないだろう、そう言う本当本屋迫害の歴史がこの国にはあるだろう、中国にもあるぞ?」 「ある確かにある」 「うん西洋にもある」 「そう言うわけ、だから家の一族は代々修行にでたわけ、戦後にヴィーナスの下級幹部や上級幹部を排出する名門になったのは、まあ隠れて修行するには丁度よかった」 「いつか絶対に勝つ!」 「凄く前向き、というかあれは圧巻だったよヒマワリ」 「お師匠様はもっとでした」 「つうとそのお師匠様もまさか鏡とは思わなかった訳か、だよな普通は知らない」 「と思います」 「じゃ修行開始」 (要すれば本を持つのは殺されると思った、思い込みが激しい一族なだけなんだよ) 言えない、一族がそんな事を言えばヴィーナスは大激怒間違いなし、他にも破れた者は悔しくてやっていられないと激情すること間違いなし、普通に考えれば舐められている云々以前だ。 つまり修行にためにヴィーナスに所属するが、いつの間にか本屋よりはいいかと鞍替えした。 すり替えたのは致し方ない理由もあるだろうが、調べれば子孫が激怒すること間違いなし。 ちなみに建物の裏で言うなれば裏庭で、ビル街の沿岸部でもビルの人はいるわけで、話は聞こえなくても、しっかりと視認できるビル内部に人はいるわけで、あり得ないレベルの達人同士。 撮影なんかすればどうなるか、非常に分かり易い外見の青年にそんな者は居ない、隻眼の死に神と噂された、桁違いの領域で舞踏乱舞する剣戟――惜しみない拍手より唖然。 そんな事を青年が気にするわけもなく、超有名人化、いっそ観光名物と呼んだ方が適切。 一人瀬川は熱心の励む、いずれ師に追いつくために、同期の弟子に追いつくために。 ヒマワリも熱心の学、赤っ恥とはいえない、ただ両手を使った彼に追いつくのは途方もない。 青年も気づいているが暗流の技は、大鎌が相応しい防御し易さがある、ただ攻撃技がない。 修行が終わり夕飯、青年の手料理が二人の体重を左右する、それなりに気を配るが二人はお構いなしに食べる、元々大柄とはいえない小さな二人のために、明らかに分かることはない。 「やっぱりエフエフよりクライ?」 「そんな感じです、と言うか本当に実際に見るのは迫力がありました」 「一応大鎌ならある程度の銃弾も落とせる」 「鬼神?」 「いやある程度だ、さすがに高射砲は無理だ」 「マスターそれ砲弾」 「まあ要は修行かな。師は砲弾を抜き手でぶった切る」 「人間じゃない」 「たぶん仙道の人」 「というか体術の方は酔拳のようなもの、同拳にも近い、欺く幻惑なり」 「じゃ教わったのは?」 「攻撃技、家の一族攻め手が無い護身術が元だから」 「と言うかあれを護身術とは言わないと思います」 「言わない、当たれば即死か、失神間違いなしの攻撃があるし」 「そう言うわけ攻め方を習った方だが、どうも下手でな」 「下手?というかその基準が」 「途方もなく強い人が基準のようです」 「どうも師や一族が基準的に間違いなぐらい強いわけ」 食事が終わり、開店準備その頃に遊び疲れたチャルが帰り、カウンターに突っ伏し――愚痴る 「ガセネタばかりッス」 「つうか店手伝えよ」 「このあたしをこき使う気?」 「と言うより十一時半までの仕事だ、給料でるぞ?」 「じゃウェイターかウェイトレス」 「わかったレジ係新米はそうなる」 「おい?」 「いやな弟子が店を切り盛りする、オレがカウンター担当、ヒマワリが案内役、瀬川がウェイター、必然的に残るレジ、後コスプレアンケート配布、そうそう新入りが入ればウェイトレス」 「へたれ」 「瀬川は才能がある、ちなみに客層は結構偏るから」 「何で?」 「裏庭で広報活動」 建築物に設置された監視カメラにばっちり写っている、それで青年が分析し攻撃技を模索する。 その映像はチェルが絶句、ハイレベルとか言う段階ではない神業と神速の領域―― 「いゃぁ十分化け物っス」 「イマイチ攻撃技が掴めないので使用する」 「今時、ここまでの白兵戦を展開する師弟もすごいわ」 「家は割とこんな感じ」 「いや化け物中の化け物の称号は暁家ね」 「ちなみに弟子も初めてなので門下生は募集しない」 「へー、まあこれを見て喧嘩しようと思う馬鹿は皆無よ」 「公開はしない」 「ああもったいない、この落ちあり?」 「どこまでも創意工夫のために設置した結果だぞ」 「コラ新入り」 「へいへい、レジ担当ね、あんたも目指すわけあの化け物の領域?」 「絶対になる」 「まあいいけどね、でもチミは自前のレベルと相談した方がいいよ」 「い、いつかなるものよ!」 成長したいつもなら落ち込み、どう考えても自虐ネタ連発で丸くなる、瀬川は熱心に今回の配置やら何やらの変更、案内役決定のヒマワリは定番の衣装で合う武器をネットで探索中。 開店前からバーの前に仕事帰りのコスプレ好きや、武術好きが集まり、毎日通う少年と集まるライダー、強面のマスターではあるが凄い武術家、白人系のお淑やかそうな案内役も凄まじい剣士、この二人の試合を楽しみにする客も多い、ある意味話題性抜群の効果を生んだ試合。 気配に聡いチェルは参った顔でオロオロ――多すぎるからだ、店内は広いが満員に近くなれば在庫が無くなるのも早い、必然的に閉店時間に間に合わない。 「どうしたのチェル?」 ヒマワリが心配そうにチェルに優しく話しかける、チェルは迷ったが切り出す。 「無茶苦茶客が待っているわけ、満員確実、とするとさ会計なんて間に合わない」 「えーと、何で?」 「あの試合ビルから見えたらしく」 「片手なら何とか」 「いやチミそこじゃなくて、見たさに客が集まっているわけ」 「いや減るモノではないし、いいのではないですか?」 チェルは硬直した、こんな剣士は少ない、それ以上に青年が弟子に入れたらしい理由は、この暖かい性格だろうと分かる、軽く泣けたらしく「ゴメンね」と謝った。 ――青年のマスターはへとへとだ、あれをもう一度といわれたら勘弁してくれと返す。 両手を使って初めて勝てる相手なのだ、片手で勝とうなど甘い、レベルが違いすぎる、無慈悲なほどに体力の根本が違う、本当の吸血鬼が夜に強いなら勝てる理由が見あたらない。 要すれば青年のはったりで勝利、その手は青年のあだ名詐術使い、異名通りの詐術で勝った。 一応自己回復の氣の術で癒すが、勘弁してくれと言いたい――青年が密かに拳銃型特殊機材を起動させ、忍ばす元々そういう道具。日本刀で勝とうなど千年早い。吸血鬼と同等に戦った青年の変態ぶりはかなりの領域、それに店員は気づかない、しかも再戦を言いたげだ。 青年は気づかない事を悟らせず、黙々と作業に没頭する、夜に吸血鬼と戦うのは正気の沙汰じゃない、それはいくらでも伝説に聞く、夜勝とうなぞお馬鹿さんと同じだ。 「マスター」 師匠を尊敬してやまない店の大黒柱、瀬川は大きな碧眼の切れ目、猫の様な瞳で訴える。 「瀬川、オレに死ねと?」 「だって夜吸血鬼の本領発揮じゃないですか、やっぱりVSは夜に限ります」 「瀬川、夜吸血鬼と戦うお馬鹿さんは居ないぞ?」 「いやいや是非拝見したいのです」 (下手に知恵を育むよりはいいか?)青年の凄まじい葛藤の末に一応頷いた。 開店と同時に整理券を配られた客が入る、即刻に満員、注文を受け青年がこなすが、ますます客は見物の価値あり、何せマスターがまともな包丁で切っている――本気かと 「つうかよとっとと試合してくれねぇか?時間があるんだ」 「年配者を労れ、もの凄く疲れるぞ?」 「なるほどね師匠の方が歳か、しっしか火花が散り白兵戦なんて滅多にないぞ」 「両手で受けなければあれは即死だ」 さすがにただ者ではない少年だけに恐る恐る片方の案内役を視界に入れ観察する。どうみても160にも届かない低い高校生程度体格、体重も重いはずもない、とても剛力には見えない。 「何者だよ?」 「高校生だ」 「いやそれは有りか?隻眼の死に神より若くて、馬鹿のように強い弟子なんて」 「真っ向勝負に滅法強い」 「笑ええねぇ、つうか化け物同士の試合じゃねぇか」 「片手が使用不能になるかと思った、単なる馬鹿力かもしれないが、弾きだけで限界だ」 「あんな女の子が?」 「天性の化け物級素質」 「人は見かけによらないか」 「一応言っておくが化け物と真っ向から戦うな」 「試合次第だな」 料理、カクテルを作りウェイターの瀬川が運ぶ、試合になる、下手なストリートファイトよりレベル違いの達人級の試合が昨日だ、そこら辺の武術家とは桁違いのバトル。 時雨は隻眼、長身は180を超える、体重も重い日本人離れした体格、筋骨隆々の逞しい巨躯。 対するヒマワリは160にも届かない、体重も軽い、しかし握る剣の構えから何までが一流。 剛と思える時雨、柔と思えるヒマワリ、だが二人は正反対のことを熟知している。 少年――逸樹がコインを弾く、ピンと鳴りその瞬間に激突する。 すでに視認できない速度の連続した突き技、それを青年の大鎌が弾く、それは一瞬ではあるが幾重にも金属音が響く、そして火花が幾重にも二人の真正目に現れる、そして引く。 一瞬の攻防、二人のみが可能とする、それは信じがたい速度の激突、速さの領域ではなく、瞬間的にすでに連続した攻防、それを青年は完全に防ぎ、少女は完璧に引いた。 そして少女が崩れる、両手が痺れているようで顔は真っ青だ、剣を落とさないのは意地だろう。 「強ぇ・・・」 「なぜ三弦を使わないヒマワリ」 「奥の手ですから」 「馬鹿な相手の力量をはかりきれなかったのか?未熟な」 「のようです、弾くがまさか攻撃とは」 「本来なら両腕は破砕だぞ」 「修行します」 「未熟なところが多い弟子か」 「さすが東洋奥深いですね」 青年が癒し、麻痺は治り、試合は一応終わった、観戦どころか一瞬で攻防が発生し終わった。 青年の腕も厳しい、完璧に弾いたが両手で無かったら弾きが成立せず、鎌先が逆に弾かれた。 「いてぇ」 「だろうな、人間が持つレベルじゃないぜ」 「あれで武器が変わればどうなるやら」 「・・・反則じゃないか?」 「あれは武器じゃない一種の鈍器だ」 逸樹はもはや言うことはない、化け物と戦うレベルは人間が易々と到達する領域ではない。 そう言う化け物と本当に戦うレベルが、青年と少女のレベル、圧倒的で当たり前。 客はやっと落ちたコインの音に気づく、今更の音、その一瞬ですらない刹那に終わった。 感想はどうかと瀬川が話すが、唖然とする話だ、実際に剣戟を混じる歴史にすらない試合。 天性の才能なしには話にならない、どこまでも才能と研鑽を積んだ後の話――瀬川は素人とわかる、一応弟子ではあるがあれ程の領域に到達するとしたら、とんでもなく強い。 「と言うかもう料理は作れない、両腕の痛みが引かない」 「うわ・・・珍しいマスターがそんな事を」 「と言うより瀬川あれで普通なんだ、あれが続く」 「どうにかします」 「努力なしでは絶対に才能は開かない、だが才能なしには伸びないのも現実だ、それを補うなら自ら創意工夫を詰め、己を磨き、己の術を得るのだ、それ無しに敵う相手はいない」 「はい医者は呼びます?」 「俗に言う痺れだ、重すぎた一撃を完璧に逸らせなかった、己の未熟」 死に神に未熟と言わせた弟子も素晴らしい才能でもある、これからが二人と言ったのはそういった理由だろう、二人は学ぶ、平凡とすらいえる瀬川、天才というしかないヒマワリ、二人を苦笑しながら見守るチェル――違うのだ、時雨の本領はそこにはない、見事に隠し通した本領。 対峙した少女の様な吸血鬼は、底知れない青年に心底警戒した。奥の手を出す事を躊躇わす程 普通に金を払い観られる試合ではない、一瞬にすべての攻防が成り立つように、すべてを用意して望む――それですら並では無理、達人でも捉えられるかのレベル。 少女の剣士は真っ青だ、完璧に攻撃が見切られるレベルではない、それを全部防いだ。 あの一瞬、確かに幾重に音、火花が散って舞った。それは共に全力、しかし青年は痛み程度。 もし真剣勝負ならその後に敗北し死が待つ、甘ったれた覚悟では試合などできない、しかししなければ技量がはかれないそれが未熟と言う、ではその一族なんだと思える。化け物と戦う為に作られた流派とは思えないが、少なくても想定する相手の範疇と認識する異質すぎる。 「ヒマワリ、ちと」 「はい時雨」 「両手は使うな、二刀流にしておけ」 「はいやってみます」 「それと動くなら、一撃のかけるなら一撃で決めろ、連撃は見事でもなるべく一撃で倒せ」 「少々難しいです、全力でした、それが」 「実際オレも見切れはしなかった、ただ分かるのだ」 「どういう意味ですか?」 「実力を計った後の癖だ」 致命的なことだ、それを直そうとすればどれほどの年月がいるか、癖すら見切った、それはよほどの経験、段違いの才能、それを習うことができるのは貴重を通り越し、至高とすらいえる。 「誰でも癖からの太刀筋がある、それを見切ればそう難しくはない」 「それを二十年?」 「元々隻眼だ、視力には頼らない」 その事実は衝撃的な試合の後、その再三の衝撃、ではどう見切る?素朴な疑問が浮かぶ。 「あり得ない、視力に頼らない?」 「ああ流れで読む」 「つまり読む?」 「ああそれだけでも全然違う、ヒマワリは五感に頼るが、感じの流れを理解していない」 「修行します時雨」 「後氣の術も教えているな、それを忘れるな」 「素晴らしいこれこそ武です」 「さあなオレ自身が未熟、完璧に流せなかった、下手に弾くの専念した事が裏目に出た」 「こんな時代に生まれなければ」 「別にいいんだ人には人の流れがある、それを掴めばそう難しくはない」 圧倒的身体能力を、圧倒的な読みで見切り反撃すら行う――神話級とは伊達ではない。 ハンデは青年の才能を磨いた、不利が活路を作った、それは末恐ろしいことだ、それは流派の発展そのもの、脈々と継承された使い手が失って起爆させた、あり得ないことだ。 もっとも恐ろしいのは攻防そのものがすべて表裏一体の受け流しからのカウンター、技殺し。 攻撃と防御を分けるのが王道だ、邪道でもない決してまやかしではない技殺し、圧倒的な術だ。 並大抵の者では気づけない、深い領域に青年の技はある、盗むのはまず不可能、学びそのどれ程を受け継ぐかの問題としかいえない桁違いすぎる、それでも全力と言えない――武人の誉れ。 無数の術があるとしても、青年は武器一つでこのレベル、強さはもはや人中にない。 「恐れ入りました」 「まあどっちかというとよく奥の手を使わなかった」 「教えてください使えばどうなりまた?」 「おそらく一撃の最中で武器が弾かれた――強さが裏目にでることもある」 「それを昼間で読んだ?」 「まあそんな所、しかしオレが伝えるのは片方の流派だ」 「ふぇぇぇぇぇぇぇ!」 「もう一つあるそっちが女性専門」 「奥深すぎる何なんです?」 「さあ」 「恐るべし東洋」 逸樹が挨拶する、そして日本刀を抜く、少年の顔には強い者と戦う歓喜の満ちている、時雨が笑い、大鎌を握る、もちろん客もわかっている先程のレベルではない凡人のレベル。 「俺は何十年たってもあんたを倒せないだろう、だが戦う技は磨くそれが剣士だ」 「いいだろう一手指南してやろう、それと単に顔出せ色々教えてやる」 「よっしゃあ」 逸樹の年齢にしては凄まじく速く鋭い斬撃、青年の大鎌が易々と片手で弾く、そして逸樹は崩れる、両手が震え、顔は苦痛に満ちる、客もわかった、弾くを通し腕を使用不能にする技。 「技殺しという」 「強ぇ、これが神話級――凄ぇ」 「慢心するな、自らを常に未熟と思え限界を思うな、戒めよ精進しろ」 「ああ!」 武術系の客はもはやいう言葉はない、極めようと思ったにしろ、それに限りなく近い武人が目の前にいる、それは己を未熟というそのどこまでも高見を目指す、いつかあの場所にと思う。 時雨を客は武聖と呼んだ、もはやその技一つ一つが神技の領域、滅多に見ることはできない。 時雨が今日は閉店として一回で客も終わったが、客は素晴らしい試合だったと、生きている限り見続けたいともいった、レジ担当のチェルはそう言う男だと返した、あれ程の武人が現代にいるのが信じられないほどに極みを垣間見る、あの一瞬に剣士の剣のすべてがあった。 「これでもシクッチの全力じゃないのよ」 「凄かった、もう完璧といいたいけど未熟だし」 「説明するがオレの流派は極められない、そう言う極みとは違う最後の極地の流派だ」 「たとえ千年生きても、時雨の様な武人と合間みるのは無いでしょう」 「だがな家の一族はこの程度じゃないぞ」 「武聖の一族か」 「後な技は無数にある」 弟子の二人は顔を見合わせた、あれ程の技がありまだあるという、一生涯精進しても無理。 「だが使わない技が大半だ、自分にあった武器、合った技かな」 「そう言う無節操な流派も、いい迷惑ね」 「まあそう言うこと、武器一つ一つに技がある、それをどう組み立てどう応用するか」 「基礎の体術、剣術、射術、具現、降喚、それに氣」 瀬川の読み上げた大系だった覚えること、ヒマワリは泣きそうだった、それを後時雨が年老い老死するまでに覚える、毎日修行だ――それを組み合わせた応用する領域は途方もないレベル。 「いつか時雨の実家で修行する」 「辞めた方が健康のためだぜ?あんな毎日だと死ぬって」 「ヒマワリは武聖になる」 「遠い未来かな、つうか体術が、後氣が下手、やたらと体だけが先走る」 「うう、遠い」 ヒマワリで遠い、瀬川は泣きそうだった、目指す領域が千マイルほど長く幅広く続く。 ――心技体、攻防一体、表裏一体、その上に大きく六種の分かれる、それでも男性限定、女性を含めれば十二、それを組み立てれば途方もない千年でも足りるか謎だ。 僅かな営業時間かもしれないが、もし武を志すなら一度は来訪し、一見の価値ありと客言った。 逸樹は街でも名前の知れた剣士だ、それが易々と軽々とあしらわれた、その店がコスプレバー。 武聖の店は新聞などには載らなくても、業界で噂になった、神技の流派、そのたった一つですら並の者では勝てない、それがわずかな金で見物できる、それは破格だ―― 店を一躍有名にさせた試合ではあるが、学校の剣術系総ナメの逸樹が並、天才が並、噂になる。 すでに並じゃないレベルの才能を持って修行する領域のマスター、何者と様々な憶測が飛ぶ。 弟子の二人は武聖から習う、逸樹が並の基準、そうすると想像を絶する化け物の素質、と思われるのは致し方ない、目下楽しみにする客は多い、将来どこまで武聖に並ぶか。 その弟子の二人は途方もない流派に弟子入り、瀬川の実家から電話がかかるのは易い話だ。 瀬川は実家に高校卒業まで住み込み決定と伝え、実家は帰りなさいと激論が続く――瀬川がまさかコスプレバーに弟子入りしたはずが、街随一の剣士が軽くあしらわれる武人に弟子入り。 ――実家からすればいつ帰るか気が気でない、並の女の子が習う凡流じゃない、反則的だ。 あの裁縫好きの瀬川は、今は違う、色々あり決意を持ち、落ち込むと悪癖がでる少女から、成長し真に武を目指す、己の目指す師の領域――天才が並扱いの師を心から目指そうとする。 瀬川は素人だ、喧嘩も経験しない箱入り、だから時雨は弟子にした、白紙ならば受け継ぐと。 弟子も熱心なら師も同じだ、初めての弟子を本当に育て導けるか、時雨も毎日が精一杯。 今は瀬川に易々と勝てる者が圧倒だろう、だが一年後、二年後、勝てる者は随分と減る。 閉店後の仕入れから何までを行い、一応コスプレのテーマから住み込み弟子入り二人は呻吟する詩人のように、これだといえるテーマが見あたらない推古、試行錯誤、創意工夫、――一人チェルは調査中の事件を整理する、時雨は休む、あの一瞬の攻防で両腕が凄まじく痛む。 目下調査中のことと町の噂を纏めても犯人は割り出せない、ただ特徴的な気配は確かに手掛かりになる、だが濃密な気配が易々と隠し通すのは、その手口の達人が可能とする、つまりかなりの達人の、殺しの専門家、忍びの流れ、軍隊経験者、それもかなりの上、だがそんな者が居るかと言えば暁ぐらいだ――そんな者が行う事件でもない、さっぱりの事件。 「家の兵隊は一応武装させるが、深刻だぞ、そんな化け物に狙われて忽然とパな落ち」 「最も怖いのは真昼でもだ」 「まあな、警官もすっかりビビっている、興信所なんか一時的に逃げ出す者までいる」 「この手の事件を専門の行う一党もあるが断られるのが落ちだろう、普通なジャベリナの様な大型拳銃が効かない相手は=銃器類無効化タイプか、物理遮断系、特殊な分類だ」 「しかも知恵がかなり回る、おまけに伝説の秘宝、ますます不気味だ」 「化け物に弱点の落ちは絶対の法則じゃない、攻撃そのものを遮断する封じのみも居る」 「あのチェルか、一応戦力には申し分ないが、言い換えれば二人が敗れれば」 「ヴィーナスが狩るだろう、危険すぎる、そんなレベルの化け物が増えたらどうする?」 「なら安心か、だがイヤな事件だ、証拠も共通点もないしかも無差別、質が悪い」 「まずないとはおもうが、夜逃げの類ならいいのだが、それは隕石落下並にない」 「ないだろうな、第一武器を持つ奴が何故消えた?説明がつかない、別に家は薬で儲けている訳じゃない、それにだ、でかい組織と喧嘩する連中が、そう簡単に捕まらないのはどう考えても異常、そんな連中が発砲すら許さずに連絡後消した魔法か?」 「だな、どう考えても異常すぎる、しかし困ったのは数だ月に数人」 「わかんねぇぜ、探った奴は消えた、つまりあんたが消える確率が一番高い」 「だといいが、そう言えば月の満ち欠けの話がある」 「ああ迷い込む世界か、実際に死んだ男、傷は刃物、それも筋のいい歪な刃物、普通じゃねぇ」 「今日あたり探る、施設郡のことだ、しかし妙なことに月は欠けて下弦の月だ、時折降る霧雨」 「それなんだがアニメの塔はどこだ」 「ヒマワリが見かけたそうだ、しかし何かあるのかこの町は」 「長い話だが、元々は裏話で作られた、だがその時の市長は落選し、今の市長、まるで操り人形の舞台劇のようだ、言い得るならカラクリがある町、きな臭い」 「奇妙な、まるで主でもいそだな」 「今の市長はもしかすれば傀儡かもな」 「どっちにしろ四月には誰かが消える」 「占い師辺りも怯えて夜逃げだ、この事件、もし解決しなければ資本は消えかねねぇ」 「一応調べているが真昼に町中から人が消える、もしかすれば迷い込んだ世界かもな」 「ならある意味終わっているが、それがあり得るとは考えにくい、具体的にいえば武装した者と非武装の者の共通点は、いきなり無差別に世界に迷い込む、ならなぜ月の数人?」 「何か法則でもあればいいが」 「最低限塔の場所だ、それを通常の時間で探る何かある」 「最悪な話だが塔が水上にあれば?」 「ダイバー雇ってあら探しさ」 「問題は化け物だ、逃げ切れなければ」 「諦めのは論外だ。逃げるのを徹底する確かに一人なら逃げるのは難しい、なら複数なら、分散するなら確率は飛躍的に増える、そうすれば判明する今が堪え時だ」 「もし知恵があるなら単独の者を狙う、そう今日あたり帰りは一人だ」 「何か用意する物は?」 「周囲から人を減らしてくれ判別しやすい」 青年が帰るまで人を減らした、極普通に帰宅する時間まで青年が居座ればいい――少年が見送り、十一時の丁度客層が変わる頃ひっそりと裏口から出る、青年は大鎌を握り、起動させた道具を忍ばせる、自らを囮にした作戦に食いつくか、難しいところだ、用心深い相手なら慎重に動く、だが人気のない裏道、逆に襲う者を判別しやすくする。月明かりの裏道を歩む。 黒衣の青年は闇の紛れる、元々そういうセンスの服装がかえって迷彩になる、深紅の大鎌が月明かりで不気味に輝き、青年のタトゥーだけが煌めく――蠢く影、青年がパーソナルを発動し閃光弾を放つ、煌々と輝く証明の元に現れた影の魔物、歪な武具の骸骨の姿、それが幾重にも青年を囲む――青年が嘲笑うかのように笑い声を発する、傲慢とすらいえる嘲笑が鳴り響く。 通り――あちらからこちらに現れる者が引き起こす、しかし青年は攻撃しない、どこまでも観察する、幾重にも包囲したなら指揮官がいる、そう必然的に知性ある人、それを読む。 「なぜ戦わない」 いつの間にか誘う死に神が裏道の彼の背に現れていた、囁くように呟き問いかける。 「そうだなこいつらは兵隊だ、必然的に指揮官は?」 「遠くから指揮がベスト」 「禍つ亡者の兵隊さんは単なる雑兵だ」 ――だが幾重にもある、禍々しい武具を纏う雑兵は包囲を堅くする、隙間なく剣が並ぶ。 「まさか作り替えているのか?」 「さあな、どうせ聖杯を追った者の相手だろう、邪神の手先め」 「まあどっちにしろ歪みがある、入れるか?」 「辞めておけ罠だ」 「そう言う口かじゃなんだ、探った者を全員か」 「おそらくな、そう言う自動的な者かもしれない」 「ここは埋め立て地何があった」 「さあな人の問題と魔の問題が絡むとは、必ずではない」 「しっかし、慣れているね、白兵兵隊さん好きか、いやな相手だ」 ――数歩まで詰める、手慣れた確実な包囲網、それも無音、ひっそりとじっくりと倒す目的。 こんな数に用心深い手慣れた用兵――軍人でも逃げ切れない、確実に始末される。 現代装備の弱点である消耗を強いる、銃器類対策万全の包囲陣、相手は斬り込まない。 「なるほどねそう言うことなら」 青年の道具、拳銃型特殊機材を操作する、登録された発動型のスキルが発動する―― 終わる桜花乱舞の月夜の五月雨――具現化した死に神が発動し、幾重にも光槍を作り、それが圧倒的な量に達する、一種の誘導弾のように山形に解き放たれ、名付けられた禍つ亡者を焼き払う、それも爆発ではなく、青白い煉獄の炎、食い尽くそうとする炎に骸骨の抵抗するように力を発動するが、まるで狂ったように同士討ちを始める、その後にも発動し続けるスキル。 「人か貴様?」 「別に単なる本屋だよ」 初めて誘う死に神が困惑しながら黙る、どう返答するのかがわからないようだ。 「炎に触れるなよ、狂う」 「性根が悪いな貴様」 「こういう化け物と戦うことが多かった、昔話だがな、まさか使うとは」 炎に食われるか、同士討ちで果てるか、それで終わり影に戻る、イヤな兵隊作りに手慣れた用兵はかなりの強者でも苦しい、探った者が殺され引き込まれたのはいうまでもない。 「証拠の映像も納めた死に神、あまり戦いに拘るなよ」 「臆病者が」 「勇猛だけが強さにあらず」 死に神が消える、彼の閃光弾で人が集まる、罠に引っかかった相手の映像は並の神経の者は吐く、その見た目を裏切る数に装備、そして影に戻る後始末、悪夢の化け物と同じだ。 「やっぱり化け物じゃねぇか!スケルトンだと!」 「訂正しよう、武装したスケルトンソルジャーの集団だ」 「銃器類なんて」 「効かないな――効果的なのは棍棒のような鈍器だな」 「死ぬな、勝てねぇ化け物専門でも無理だ」 「ああ圧倒的な数を用意すればいい、その後に質」 「何なんだよこんな事件なんて」 「聖杯を追った者の相手だそうだ、死に神から聞いた」 「じゃヴィーナスは経験があるわけだな?」 「あるだろうなケルベロスでも十分可能だ、ただそうするともっと数を用意する」 「やれやれ、じゃ全員が追って始末されたか」 「都市伝説と思って探り始末された」 様々な事柄が判明した、それで伝説を追うなと指示が飛ぶ、始末された者はそういったトレジャー気分で殺され、死体は影の中、判明しない理由もよくよくわかった、問題はそこにはない 要すれば何故この街に都市伝説の聖杯伝説が存在するか、まるで囮、食いついた者を狩る罠。 帰宅した青年が話す、事件のある意味の落ち――では迷い込んだ世界、毎日訪れるタイムの一日は何か、目下の所謎である、要すればチャルは帰る――そんな事であるが時雨より頼まれ一夜居残り、二人に指導する、彼女も優秀な使い手、確かに一撃離脱が信条であるが、恐ろしく強い、何よりも用心深く思量深い、やたらと知性を使いたがる性格ではないが才能ある使い手。そんな訳で四人にこの街の調査を父親が依頼した、その結果。ヴィーナスから報酬で盗んだ品物はチャラ、普通は返品しろと兵隊を寄越す。上は大激怒だろう。 「やれやれケルベロスの出番かと思ったぞ」 父親も屈指の使い手かもしれないが、長年の経験から化け物と戦うのは戦力の消耗=死者の事。 「しかし余計に怪しむな、市長からの政治圧力」 「下手に探れない逸樹から依頼だ、市長を明日あたり訪問してほしい、探りは得意だろ」 「傀儡の筋が怪しいね、そもそも裏業に通じた前市長をけ落とし、二期当選」 「しかし自動的に始末する魔物とはな、聞いたこともない」 「つまり改良された、要すれば人が荷担する最低二人」 「時雨本当に戻らないか、お前ほどの武人は組織でも貴重だ、今回で上も検討するだろう」 「父さん、また降喚の話」 「それさえもてば完璧ではないか?お前は詰めが甘すぎる」 「父さんの理論はちょっと使い勝手が悪い」 「お前な、第一に降喚の部門の劣等生ではないか?具現の力押し一本勝負」 「あのうこれ以上強くなられる弟子が困るのですが?」 「親子の問題だ!」 「いえ影響の問題です」 「まあいいしっかり学んでおけ」 父親が帰り、ある意味納得する親子だ、正反対に成長した後なのだ、父親は降喚でのし上がり、息子は具現で生き残った、ある意味極端な成長でもある、つまり組織は父親こそが指揮官として優れており適切であると判断した、息子は指揮能力を期待しない、何よりも情が深すぎる。 「昔からああなんだ不利になると」 笑うのは瀬川一人、残りは笑えない、どれ程強いかそれ位見抜けるからだ、笑えないほど強い上に兵隊を駆使する指揮官タイプ、最悪な戦闘員、時雨の方が組み易いと思えるほどだ。 「父さん自身強いのだが」 「兵隊を使い倒す性格、もの凄く知性的な父親ですね」 「そうなのよ、頭が切れる、趣味は兵隊の理論作り、ヴィーナスでも屈指よ、だけどその息子は、父親の才能が受け継がれなく小間使い扱い、そりゃもの凄い親子喧嘩よ」 「笑えないです、使おうとすれば」 「間違いなくキレる、そういう小父さんなの昔気質というか」 「両親は降喚士、その兄妹はそろって具現士、怒られたよ昔」 「でもね親子というか、小父さんなりに二人をどうにかしようと熱心に奔走したのよ」 「家さそう言う親が具現なら子は降喚なんだ、代々そう」 「マスター、それって兵隊使った方が早いと思うか、自分で戦った方が早いと思うかの違いでは?いやそう見えて」 途中から弱気になったのは師匠の目線が黙れ、もの凄く怒るような瞳。 「軍事的には違うのよ、小父さんは主力と考え、シグッチは予備的な切り札に使うわけ、確かにどっちも正しいわけでもあり、どれが悪いとはいえない、実際小父さんは暁家の当主だし」 「嫌みな一族です・・反則的に強いじゃないですか!?」 「あのね軍事的には決定的な偽装なの、シグッチは真っ向勝負に見えてダーティな詐術を使ってえげつなく始末する戦闘員だし、父親は真っ向から数を持って瞬殺するわけ」 二人の弟子は師を凝視する、少しして最初の頃を思い出したヒマワリが怯え、被害者意識が強いために距離をとる――悪癖を持つ少女は信じられないといった顔で硬直。 「偶に思うが、そこまで師を信じない弟子は怒るぞ」 「え?ええまあ」 「ダーティ隻眼」 「妙なあだ名を付けるな!」 「ダーティは騎士道に反します!」 「やっかましい!真剣勝負に汚いも無い!第一にスポーツじゃない」 「道理で忍ぶ一族ですかマスター」 「最終的に生き残ることが生還の理由だぞ、死んだ後に汚いというか?」 「正しいですけど」 「あのですね、生き残るために何でもするは正しくありません!」 「甘ったれるな!」 「最低限のモラルです!」 「まあ死んだ奴が、汚いとは言わない業界だし、死者に口なし?」 「うわ、ダーティ」 「酷い」 「だから普通は性格が荒むわけ、だけどシグッチは真剣勝負さえ除けば善良じゃない、だから余所の組織から慕われていたわけ、時々見逃してやったりするから恩に思う人も多くて、小父さんも無駄は大嫌いだし、少ないのよ?そういった殺戮を行わない使い手は」 「絶対入りたくない組織ですね」 「うん」 そう言ったモラルのある表からすれば卑怯且つえげつない戦い方を平気でする組織、ただ後が面倒なのでそこまで悪いことを徹底することはまずない、必要最低限で終わらせればに尽きる。 青年もやはりそう思い引退した一面もある、ド卑怯すぎた―― 別に殺し屋の組織ではなく技術泥棒と妨害の組織だが、基本的に大手さん。 割と性格の良い組織ではある、それでもド卑怯、余所はもっと汚い、そんな業界で弱ければ間違いなく始末される身で、必然的に強くなる毎日、構成員も大変だ。 だが実際に古巣にそこまでいわれると、所属していた青年は落ち込んだ。 タイムまで談話して過ごす、その時間になる―― 「まあ今日はアニメの塔調査だ、二人の具現能力からそこそこ役立つ」 具現能力で――ヒマワリの継承は英霊系の剣技系等の剣士技と回復治療系。影響は防御支援系、自動回復系、耐性系。発動は大アルカナの戦車系、物理攻撃、アップ系等の能力、極普通の能力。瀬川の継承は女神系の仙術系、影響は仙術等で消耗するエネルギー回復系の防御支援、発動は大アルカナで愚者系の妖の武具は時雨も持つ――鎧、剣、小手、具足の四種、鎧を除く武具は敵を吸収しステータス等の+しスキルを得る、一風変わった具現能力。 「降喚は使用するな、理由は二人が不慣れだ逆に仇となる場合もある」 「はい、そのマスターの具現能力はどんなものです?」 「継承は戦技、回復、治療、アップ、ダウン。影響は二種類の自動回復系、状態異常耐性、発動は人為的に変化させる段階のウェイカー、まあ一つ瀬川と同じ妖の武具がある」 瀬川にはピンとこないらしい、瀬川の一風変わった具現能力は珍しいケース、普通はやたらと体力などに訴える力、ヒマワリの能力などはそういった力に訴える。瀬川は素人には難しい力。 「ちなみにスキルは消耗するのが一般的だ、体力などのHP、SPなどのスペシャルポイントを消費する、決して乱用するものではない、なるべく戦闘は避けろ、後瀬川の能力は少々変わっていてな、普通は極端に困難の能力はない、弱い時は使えないそんなケースは少ない」 「極端ですか?」 「ああ極端、極端に消耗が激しい、使えば一撃で衰弱する可能性もある」 「そうすると強いかもしれないが、消耗から一発のみの方が適切ですかマスター」 「それもある、むしろ仲間を巻き込むような能力だ、使い手に相当の修行を要求する」 「ではどうやって戦うのですか?」 「発動の妖の武具のみで戦えばいい、妖の武具は二択だ、ステータス系、スキル系のどれかを重要視し、使い続けることになる、スキル重視がオレだ」 素人の入門三日目の瀬川は完全に理解できず「はあ」と気のない返事――当人はそもそも能力のついての詳しい知識がない上に、ネットなどに乗っている情報でもない困ったと顔に出る。 瀬川の白人系の外見、ただ直情型の上下が激しい性格の求道者、コスプレ衣装などの職人気質。 女子高生の生活から随分変わったかもしれないが、戦闘的な性格ではなくとても好戦的ともいえない、確かに追求する性格で徹底する質、ゲームなどでは真剣勝負は正直実感が沸かないだろう。古い生まれのヒマワリは長年の生活や生まれから、戦闘を割り切れるそういう時代の生まれ、ただ現代で紛争地域、内紛地域でもない限り瀬川の方が当たり前の一般的――青年は少年の学生時代から犯罪組織に所属したために慣れた方だ。本当の事を言えば瀬川は戦闘に関わらない方がいい、慣れずにストレスで倒れかねない。意外に能力は強くても内面が柔な者は居て、瀬川はそういう真剣勝負を知らないし必要でもなかった。裏を返せば平和的に生きてきた。 平和的に生きてきた者が、極端な世界では適応できず倒れることは多い、訓練などで慣れていくしかない――剣術などはそう言った心構えを伝えるが、喧嘩でも人は焦る、真剣勝負なら焦りすぎて何もできずに倒されることもある、そう言った者が瀬川などの素人、最初から強い者は珍しいもので、瀬川の方が普通なのだ、そんな瀬川も背負ったものがあり、刻んだ事もある。 ――(どうしたものかな。早熟型に大器晩成型、逆な性格なのに) 「お悩みですか時雨」 ヒマワリはさすがに古くからの生。分かるのだろう瀬川の不慣れからの欠点が。時雨の黙した。 「瀬川さんなりに出来ますよ」 お淑やかそうな微笑みに、暖かい声――年長者らしい気配りだ、青年が苦笑する。 「ヒマワリ、出来るって何が?」 「初陣だからです――初めては難しい失敗が付き物、それから成長するものです」 「ああ、そっか・・・」 彼女、瀬川の知らない現場、世界とも言う、幼い高校生程度の学生が訓練もろくに受けず実戦に出るのは、軍隊でも止める、理由は味方を巻き込みかもない、簡単に死にかねない、よくて怪我し仲間に負担をかける等々の悪い一面も多い、普通大人でも実戦は怖い、実戦の為に訓練する警察官や軍人でも、初陣の実戦で嬉しがる者はそう多くはない、仕方ないとか割り切れるものではないからだ――いつ死ぬか分からず実力を発揮せず竦み逃走する、別に少ないわけではない、訓練などで自信を持ち言うなれば士気が保てる様になりやっと戦える。真剣勝負に怯えない命知らずは少ない。そういった覚悟を理解させ初陣を飾るのが普通―― 瀬川は致命的な悪癖が多い、直情型は言い換えれば感情に良くも悪くも左右される。 「まあ瀬川が一人で戦うわけではないからな」 「はい経験者が戦うのですから、傍観するだけもあります。よくありましてよ」 「と言うか実感が沸かないです」 「ようは習うより、慣れよ」 「はい」 「では出発です」 ――ヒマワリの案内で向かう、相変わらず新緑の月に月明かり、満天の星空、町並みは変わらない、時折風が舞い唸る、獣の咆吼が響き、それ以外の音は三人の足音。 「あの、何で影の魔物は居ないのでしょうか」 「そう言われると妙ですね、コンビニには居た、路上にも居た、でも二日目から出ない」 「しかし今日は現れたぞ?」 「ですよね。おかしいな、前はコンビニで待ち伏せだったのに」 瀬川がおかしいいと言いながら向かう、そこは確かにアニメなどの戯画化された塔、近くの地下鉄は迷宮化している、彼は不味いと判断し二人を引き離す、案の定現れた。 人のなれ果て、吸血鬼と化した人々、獰悪な笑いを浮かべ、狂喜の高笑い、彼ですら笑わない。 「時雨さん瀬川さんを連れ引きます」 「ナイス、行け!」 瀬川は恐怖に竦みガチガチと歯がかみ合わない、それをヒマワリが抱きかかえ引く、それを吸血鬼達は襲わない、彼らの関心は時雨、彼にある、それぞれが狂気の剣を振り翳す。 考えてみれば吸血鬼にとって新天地のような世界だ、常に夜、危険だと彼の本能が告げる。 「おい人間、まさか俺様達吸血鬼に勝とうとか思っているのか?」 「人間でもいられなかった、化け物になれ果てた者が言う台詞じゃないな、力に溺れし者よ」 吸血鬼達の笑いが止まる、重い雰囲気の中、青年の大鎌が新緑の月明かりを浴び禍々しく輝く。 「貴様らは逃げただけだ」 それが吸血鬼達を突き動かした、一斉に禍々しく鈍く光る狂気の剣を振り翳し、襲い掛かる。 それは美であった、幻想的な剣戟の舞、吸血鬼達の剣は彼の大鎌により全て弾かれる、その時に吸血鬼達の腕は破砕し、血塗れの者達が苦痛の呻き声を上げる。彼は静かに立つ。 「トドメは刺さない、逃げろ」 「いやそれには及ばない」 幾壮年の吸血鬼、彼は知っているが――吸血鬼は闇より生まれ落ちる、そういう自然発生の者。 「一族の者が悪事をしたことは詫びよう、しかし我らにも誇りはある」 「暁時雨」 「アシュレイ・ブフ」 「今は語るときではない、お相手しよう」 玲瓏とした吸血鬼達の主は剣を構える、それで時雨は戦慄した、癖がない、長い修行の果てに到着する達人――時雨も構える、それで相手、アシュレイは感嘆の声を上げ、分かるのだろう。 アシュレイが斬り掛かる、その神速の域を超える、刹那の斬りは変化し突きの流れる、それを時雨の大鎌が弾く、だが紙切れのようにゆらりと衝撃を逃がすように剣は流れる、時雨は二度の戦慄を覚えた、技殺しを防ぐ者などあり得ない、時雨が引く―― 「もしかして必殺の弾きかな?」 「伊達に年をとっていないようだ、オレの弾きを防ぐとは」 時雨が拳銃型特殊機材を取り出す、相手は一歩後退し、時雨を凝視する―― 「別に攻撃に使う訳じゃない、あんたほどの者に生身で挑むのが馬鹿だった」 「気が合うな、実は今の試合を愉しんでいる、これがもっと続けばいいと思えるほどに」 「ちと汚いが使うわ」 「全くかまわない、そもそも人間が夜の世界の吸血鬼と、真っ向から戦うのが愚かなのだ」 「あんた凄げぇよ、オレが知る限り最強だ、完璧な武といえる、だがオレは人の身、済まない」 「なんの、ごゆりと語ろう」 正直な話、時雨にもプライドはある、それは武人としての誇りともいえる、それが道具を使い戦うのは恥としか思えない、躊躇いがある、しかし使わねば拮抗するどころか足元にも及ばない、それほどの高みを時雨は初めて知った、強いとか弱いとかそうではなく武に生きた者の誇りが、この吸血鬼にある、それは古風かもしれないが、時雨の一族の者が愛した武――だから彼は躊躇いながら、使った、弱いではなく並ぶために、それが最低限の礼儀に思えるからだ。 「驚いたなんだそれは?そもそもお主、いやしかし、剣の会話後聞きたいことがある良いか?」 「まあ色々なんだわ、話せばちと長い、始めようか」 非常に珍しい事に時雨が大鎌を真上段に構える。それにアシュレイは驚愕の表情で「バカな」と漏らす、今まで落ち着いた、剣士などの最後、明鏡止水の顔から、真剣みを帯び、片手に剣を持ち、それを水平に構え、片手で剣を支える、それが時雨に今の構えに応じた構え。 時雨が真上段から一気に駆け寄り、大鎌を振り落とす、だが直ぐに変化し、いきなり水平に頭上を薙ぐ、もちろん当たりはしない、相手も分かっているようで、構えを崩さない、時雨の構え殺しを知らずに破った、構えを崩しそこを突く、汚いとはいえない、構えをいかに崩すかそれはどこでも同じだ――刹那大鎌を離した時雨の両手が、剣を掴み取る。 暗流双雷掌――雷掌と同じ、真剣白刃取りに見えて、絶対な一撃、雷撃が±で剣を通る。 爆発的な電撃が、武器を伝導体に握り手を通り、全身を駆け巡る、受けたアシュレイは電撃でかなりの打撃を受ける、その瞳はもはや出し惜しみする者ではないと判断し吸血鬼の力を使う決意が宿る――時雨の繋ぎ離れた大鎌を握り感電中のアシュレイに絶対の一撃を放つ。 アシュレイの捨て身の一撃、時雨の絶対の一撃、それは僅かにアシュレイが上回り突き刺さる。 服を突き破ったが皮膚で止まる。アシュレイの顔に驚愕の念が過ぎる、そして鎌先を自らを霧に変え一瞬で離れる――時雨がゆらりと大鎌を構える、アシュレイは真剣な顔で呻吟のする詩人のように迷いに迷う、時雨の硬氣功は氣で武器を通さなくする防御技、それを破らねば打撃を受けない、それは殆ど反則的な技だ、しかし癖すらないアシュレイに絶対な一撃を加えるは時雨にとっても難問中の難問、そして動きがヒマワリの様な素人臭い読める動きではない。 「並ならぬ者か――お主仙術を使い、まさか仙道を歩む者か?」 「単なるコスプレバーの経営者さ」 「コスプレバー?」 時雨が吹き出す、それはそうだろう、知るはずもない、そんな店は日本程度だろうし、近年の店、まさか大昔から生きる者が知るはずもない、むしろ知らないのが当たり前―― 「まあ最近の店」 「ふむ、しかしそんなに物騒な店なのか?」 「いや単にオレが使い手なだけ」 「つまり最近の店を構えるお主ほどの武人が店?うむむ。面妖な、まさかお主暗殺者か?」 「後で話す。続けようか」 「少し待たれよ、使う武器が悪い、お主の技を突き破る術がない」 「まあ別にいいぜ」 時雨が道具を使い、発動スキルで周囲の者を完璧に癒す、破砕した腕がいきなり再生する―― それを視たアシュレイは両目を大きく開き、口は何かを言おうとするが、パクパクと、最後に自らの住みかに一度戻る、吸血鬼達は訳がわからず、何なんだと言いたげだ。 「何なんだよお前、人間だろ?」 「色々あるんだよ」 「色々でわかるか!」 「後で話す」 「今話せ!暇だろうが!」 「全くせっかちな、常世の祈りと言うオレのスキル」 「分かるか!」 「吸血鬼の癖に細かいことを」 「そりゃ吸血鬼差別だ!」 「本当に世の中は広いんだよ」 「そうだなてめぇのような変態もいる」 「おいコラ!癒してやった者を変態か!一応な疲れるんだぞ」 「あんな誰がどう考えても変態だ」 吸血鬼達は口々に変態だと言い続ける、変態呼ばわりされた青年は舌打ちしながら黙る。 その主が戻る、時雨は絶叫しそうな顔で「正気か」と零した――双振りの双刀、刀身が上下にある、それも傷口を広げるために波状に作られる、それが二本を握り、刀身は四本。 「こういう武器が好みでな、吸血鬼の鍛冶屋が作った、安心しろ別に毒を塗ったわけではない」 「ああ、その帰っていいか?」 「そういうなあまり使ってない」 「あんた相当汚いとかいわないが、反則的な武器じゃねぇか?」 「いや好みなのだが、槍の方がよかったか?」 時雨はもはや言う言葉がない、槍の方がどう考えても悪化する。もちろん反則とはいえない。 時雨が知る限り癖のない達人が双刀の二刀流、誰が作ったかどう思われるかは別として卑怯。 時雨が大鎌を見る、極普通の遠慮がちな一本の波紋を持つ刃身、節操のない相手は参った。 「オレの一族は保守的なんだな」 「そうか?」 「いや汚いで賞ベスト一位決定戦で王冠はあんただ」 「戦いに卑怯も汚いもないと思うぞ?」 「いやいやその波状の四本、オレの武器は保守的だわ」 「そうか?」 「むしろ慎ましい」 「先ほどの戦いで剣を受けた者が慎ましい?」 「いや始めようか」 「ちょっと待った!」 瀬川の声が響く、吸血鬼の誰かが「あ、チキン」と言う。 「誰がチキンだ!」 「いやだって」 「変態+チキン&お花畑?」 「この、ええい、違う」 「いや素人か何か?」 「調べることがあるのよ暇人吸血鬼」 「そうかでは始めようか」 「違うっつうの!マスターなしに調査不能」 「では後日改めて始めようか」 「人の話を都合よく変えるな!調査が先」 「お嬢さん、よくよく考えてくれ、私が勝てないと思えるほどの相手を易々と見逃せと?」 「うるさい!やることが優先だっつうの」 「何というワガママな」 「所で瀬川、ヒマワリは?」 数秒の沈黙、誰もが気まずい顔になる――仲間を忘れる鬼のように酷い。 「まさかお嬢さん仲間を忘れたのか?」 成長した瀬川であったが、自分の致命的なドジに衝撃を受けドンと落ち込み、へなへなと座り込み、超後ろ向きな自虐ネタを口にする。吸血鬼でもうわ、アシュレイは珍しく何なんだと凝視する、それはもう立派にそこら辺の暗さを超越し、根暗いレベル最高峰。 「弟子なんだ」 『えええぇぇぇぇぇ!』 時雨は嘆息する、吸血鬼達は二人を見比べる、どう考えても無理がある、相手になるアシュレイも複雑な顔で微妙に「イヤだな」と呟く、吸血鬼も超越した天性の暗さ、ヒマワリ無しに再起不能な為、仕方なしに時雨がどうにかしようとするが、近寄るたびに自虐的な笑いになる。 「お主、弟子云々の前に、すでに人としてどうにかした方が」 言い返せなかった時雨も落ち込む、それで瀬川はよけいに自虐的になる――誰もが引いている。 仕方なしに携帯電話を試す、やはり使用不能で、仕方なしにヒマワリ到着を待つ、誰もが瀬川のそのかなり見ることもできない笑いに引きつる、まるで裏話云々の前に怪談ネタ。 「試合は後日、どうも人としてすでに更生不能領域でのお嬢さんだ」 すでに前人未踏の自虐的な笑いを浮かべる瀬川、へこむ事を連発されちょっと人生について悩み始めた時雨を残し、吸血鬼アシュレイ・ブフ一家は去る、どちらかといえば足早に――吸血鬼を退散させる、その暗さは凄まじい伝説になるが、誰もが話さないだろう。 エイプリルフールタイムが終わり、自虐的な瀬川、落ち込んでいる時雨、周囲はどこかの学園のようで、直ぐにヒマワリからメールが届き、返答し、直ぐに到着する。 「何でだろう?」 「何が?」 「言わない方がいいかな」 青年の方が遙かに明るい、少なくても人としてまだ普通の人だねと云える。瀬川は廃人寸前の更正不能、再起不能なレベルまで自虐的、ヒマワリは全く気にせずにニコニコと穏和な笑いで。 店の大黒柱、メガネを着け知的なクールな風貌、魅力的な容姿にスタイル、店に出入りするなら笑顔になるような健気な少女――現在は語り継がれる事すら、人ですら嫌がるどん底の笑い。 時雨、ヒマワリもどうにかしようとする、言い換えれば交流可能、極普通の男子なら一目でサヨウナラと音速で別れる、その笑いは闇夜の吸血鬼ですら嫌がる相当根深い暗さ。 ――人気のない場所に永遠と自虐ネタを連発する、容姿端麗&スタイル抜群の少女、正直怖い。 師匠は困った、誰にどう相談するか、それ以上に見たら百年の恋も冷める、それも音速で。 ポジティブな吸血鬼のヒマワリ、ネガティブな人の瀬川、一般的に逆と思える師。携帯が鳴る。 「暁、判明したか?」 「判明したが今はこない方が無難だ、トラウマになりそうだ」 「は?」 「謙虚に話すが、瀬川がどん底の笑い」 「噂には聞いていたが、瀬川の自虐ネタか、見ない方が無難だな」 「タイムの世界で行方不明になった者を、一応発見した」 「死体か?」 「ある意味そうだろう――吸血鬼になっていた、そして主人も居た、ただ瀬川の笑いで退散」 「へ、へー、ああ再起可能か?」 「ヒマワリなしには不能」 「色々変な店だが、やっぱり超根暗の瀬川は本当か」 「吸血鬼でも嫌がる」 「裏って色々あるが、瀬川は共学の学園で最初だけは男子にもてた、まあ後は知っての通り」 「今の所人類ではヒマワリが可能とする」 「ビジュアル的には人気が出そうだがな、あんな笑いの女の子を彼女は」 「道理で男子が寄りつかないわけだ」 「なあ幻想って大切だよな」 「真実は大抵酷い落ちだ」 「改善できか?」 「成長した方だ視認可能になったら連絡する」 ――店のお客さんが知ったら引きつるだろう、アナーキーな青年、ネガティブな少女、知らない方が幸せなことも多いだろう、そして極めつけは吸血鬼のヒマワリ、ある意味完成された。 天性の二人は本当に好いコンビだ――再起可能になった瀬川は少し自虐的な薄笑いでへこむ。 「なあ瀬川、少し聞くが成長した方だよな?」 「ええまあ」 いつもの声は透き通りような心地よいが、今は陰気な響き、暗さ断トツ、ヒマワリは貴重だ。 「学園生活はどうだ?」 「まあ楽しいですよ」 「そうか将来デザイナーか?」 「ええまあ」 「物事は失敗が付き物、フォローや反省が重要だ」 「そうですね」 多少明るさが戻る、元々直情型だ、それが良くも悪くも個性的な性格なのだ。ヒマワリが柔和な微笑みで頷く、そうすると明るさが戻り、その激しい凹凸は凄まじい。逸樹にメールする。 逸樹がバイクで現れ、兵隊が車で到着する――青年が指さし、それで全員が困惑する。 極普通の一貫制なりの学園、名前も書かれているが、別に何があるわけでもない、ありふれた私立の学園、何より警備員が巡回する、別に噂されるような学園でもない、平々凡々の学園。 「つうか俺が通う学園なんですけど?」 「そう言うタイムのみ話らしい、戯画化した学園の塔と言うべきか」 「別に何もないぜ?」 「施設は無差別かもな」 「そうかもな、参ったな」 「今の所ここだけだ」 「参った」 それぞれが帰宅する、自宅で時雨以下適応者三人とチェルが夜食を食べながら話す。 「なるほどね人間からヴァンパィアね、確かに夜だけの世界なら問題ないわね」 「知りたいことが多いが、それ程長年と言うわけではないらしい」 「本当に二転、三転する事件ね」 「チェル初陣の時どうでした?」 「雑魚だったから呆気ないなと言うヤツ」 「へー、沙耶の場合は吸血鬼」 「あのね、初陣でまさか」 「逃がして戻って、まさかの落ち」 「ある意味活躍した」 瀬川は微妙な顔だ――碧眼の瞳ははて?口元はそうかな、顔で相当読みやすい。 「まあ場数踏まないと大抵大変よ、失敗なんて当たり前よ」 経験者からの言葉に瀬川はホッとした、少し考えた後に話し始めた。 チェルは聞くごとに困惑の色合いが強くなり、本当かと言いたげな時雨を視る。 「感情が激しい方なんだ、上下左右に」 「そ、そう、普通に考えてヴァンパィアが逃げ出す落ちはないわよ?」 「世の中、それなりに破壊力はある――あれを見たら彼氏は音速でサヨナラ」 「根性無し、へたれ、単なる外見重視のガキには良薬よ」 「そう思います!」 「うんうん」 女性陣は共感するが、婚姻経験のある青年は表に出さず――(あれで逃げない方が変人だ) そこら辺の少年が声をかけるが、その後はサヨナラ間違いなしのへこみ具合、良くも悪くも質。 極端な弟子に師匠はどうするか真剣に悩む――アップダウンが激しすぎる素人の弟子、いつもニコニコとした最年長の不器用な弟子、青年はここまで極端な者は知らないので困った。 二人が眠り、チェルは嘆息する――師匠は出来た好青年、容姿こそである人柄も親しまれる。 「瀬川は希有な子ね、あれじゃ男子が寄り付かないわ」 「同性でも交流する者は少なそうだ」 「そうね君の手腕一つ、そしてヒマワリと常に組ませることね」 「しかしオレの性格の方が平凡なんだな」 「そうね平凡と言い切れるかは別として、まあ好青年ね、それで居残って欲しいと言った訳か」 バーのドアを少年が潜る、私服姿のセンスが光る着こなしの好印象――挨拶し。 「色々調べたが、極普通の別に何もない新しい私立学園だ、資本も表」 「全く訳がわからない、何なんだあの世界は毎日訪れるわ、吸血鬼が住み着いているわ、化け物はでなったりでたり、平々凡々な私立学園が戯画化した塔になる、新緑の月、霧雨、全く」 「正直お手上げだ、今回の事件去年からだ、つうと去年から出来た訳じゃない、妙な」 「並の者なら最初に出くわす化け物で死亡だろう、逃げたとしても体力が削られ終わり」 「少なくても――根気よく三人で調べるしかないわね」 「一応四月一日からなのでエイプリルフールタイム、略してタイム」 「この事件は並大抵の者でも、強者でも無理だ、刹那タイムの世界」 「丸一日で歩ける距離は限られている」 「しかし何で都市伝説がある?謎だぜ」 「探ればスケルトンソルジャーの大群と、お会いできるセット付き」 「まあ専門家でも尻込みする事件の落ち、それが今度は吸血鬼化、こりゃ当座下手はできない」 「少なくても一つでいいから、対処法がなければ終わりの事件だ」 「全くだね、今回の事件、特殊すぎる」 「まあ一応収穫はあった、しっしかそんな世界で何故建物は戯画化する?謎だ」 「三日前に見つかった世界でもある、まだまだ序の口だ」 揃って途方もない話だと愚痴る、常識がまるで通じない世界での話、今更どうなるか予想すら出来ない、下手なことは身を滅ぼすことになる、そんな噂が立つ――事件は二転、三転する。 四月四日――一幕。 朝方の朝練をこなし、朝食をとる、食べ終わると、それぞれの携帯装備を確認する―― マスター、青年の暁・時雨の装備は大鎌から模擬刀、忍ばせる拳銃型特殊機材、通称ガンモバイル、これは上級者向けで標準からカスタムされるのが通例。朱鷺瀬川・沙耶は携帯装備に降喚携帯、拳銃型具現器の二つ、長い名前のヒマワリは瀬川と同じ、ただ帯剣はする。 今日帰る吉岡・チエ、通称チェルは連絡先を伝え、車で帰った――ヴィーナスも対魔物機材、装備を回収し、この事件はこの店――今時金色の虹に託された。 逸樹が朝から押しかけ、青年から指導を受ける、今の所弟子入りする訳ではないが、向上心がとても強く、また才能があり飲み込みが早い、弟子の二人があっと言う間に追い越される程だ。 「逸樹さんお上手ですわ」 「うんうん天才」 それに逸樹が首を振り、二人は怪訝な顔になる。 「天才と言うが時雨並か?あれが化け物と戦う腕前だそれ以下は単なる力自慢だ」 「いや真剣勝負はわからない、そもそも相手をよく知る勝負など最もない」 「確かに、少なくてもスケルトンソルジャーを倒せる位強くねぇと、この町じゃ狩られる側」 「あれか、一応倒せなくもないだろうが、数を揃えられれば」 「つまりそう言うことだ。それ位で看板背負うわけだ」 逸樹は甘ったれた世界とは、学校を除けば縁のない少年――強くなるしかない側なのだ。 「キッツいよね、あれだけを相手にしろは、軍人でも勝てそうにないわ」 「そうだ、この町で生きるってのは、そう言うことだ、並じゃ狩られる」 「厳しいです。素人は殺されるのを待つようなものです、まるで死に神に愛された町」 「別名にしては怖い落ちさ、本当に現れるのだから」 それぞれの訓練、時雨はそう言った側面からすると優れた師と言え、物腰柔らかな丁重な指導。 午前中はそうして終わり、裏庭での四人の訓練、昨日あった剣戟に時折ビルから覗く者は多い。 逸樹は相当忙しいようで、時間を見てバイクでどこかの仕事場に向かう――ああいう忙しい時代を過ごした青年からすれば懐かしい感慨深げな話、それ故に伝えるわけではないが、ただ逸樹は我流だ、自己流でここまで成長した。並ならぬ努力が裏にはある、技一つに対しての意気込みも二人とは違う、一つを完璧にこなしても自分なりに工夫する、そう技をものとする領域。 ――昼食、青年が作り、珍しく手軽なハヤシライス、それが二人には大変美味しかったらしく。 「と言うかマスター料理上手、プロ並みだよ」 「いやな将来自炊するだろうからと、両親から教わった。強いていうなら家庭の味だ」 「基本的に裏家業でも家庭的なご両親ですね」 「逆かな、家庭がストレス発散だ、二人とも怒らない質だから」 「なるほどなー」 「女房も妹のことで相当参っていた時期もある、大変な三年間だった」 「そうでしたか、誰にも苦労はあるモノですね」 「一応裁縫中はクライの主人公、ヒマワリのはファンタジー系かな、私のは現代物」 「テーマは?」 「店との色合い?」 「デザインと調和の両立か、難しいな」 「うんだけどそれが仕事だし、学ぶことはいっぱいある」 基本的に時雨も思うほどに極普通の女の子、裏家業の世界からすれば平凡な少女、だが背負ったものがある、刻んだことがある、それは時雨が多い得て、多く失った話、あの頃に戻るたいとは思わない、しかしあの頃を思い出す、時雨は歳を取り大人になった、だからこそかもしれない、昔を話す相手が居なくなる世界から去ったのは、辛すぎる世界でもあった。 彼女は仲間を得た、そう片割れの彼女も同じ、仲間を得た、別れた者も居る。 そう易々と手に入るものでもないし、その時は気づかないことも多い、青年は何も言わない。 ――“桜花乱舞の桜舞う季節は巡った。巡ったは紡がれる散りに行く定め”そう喩え者。 散るならば散らせずに終える道を選んだ青年、散りに行く者は幾らでも居るだろう。 だが青年は思う、誰もが巡り、誰もが巡った後に気づくことだ。散らせない者は青年の意志。 未だ多くはあるだろう、知らないことは多いだろう、知ることが多いだろう、青年は恐れない。 恐れてはいい、だがそれに屈するのは好くない、屈すれば永遠と屈することになる、屈してはならぬ事も青年は知っている、罵られても屈してはならぬ最後の果てまで通すべきことはある。 いつも笑顔の彼女は暖かく心優しい言葉、だが彼女からすれば刹那の時かもしれない、ほんの少しそれが貴重かは、青年は知らない、知る必要もない、彼女なりに居る理由があるのだろう。 青年からしても瀬川は輝いている、夢や希望を語る時の者、そう彼女の時代だ。もう一人の彼女は永遠と時の果てまで生がある、それは青年では知るよしもない、知るすべも無い話。 人にとって主人公は当たり前だ、それが終わりまでそうだ、しかし最後まで重要人物かは別だ なぜ巡ったかは知らないし、興味もない、むしろ巡った今を大切にする、それが今だから。 そう考えれば彼女は花盛りなのかもしれない、そう時が定め今を永遠と歩む、闇夜であっても確かに代え難い大切なものとは出会うのだろう、彼女がたいせつと思える居場所は大切なもの。 いえば消え去りそうな陽炎の時代、だが今は違う、今こそが師が伝えたすべなのだと思う。 ――巡り会うこと、それは彼の初めて、それを大切にすることが大切に思える。 「ヒマワリ、高校に通うか?」 「あ、じゃ私の」 「それもいいですね」 「いやあの学園に転校だ」 「ああそっか、学生なら問題なし」 「それに何かと都合がいい、何よりタイムまでは安全だ」 「よろしいのですか瀬川さん」 「うんいいの、別に近場だし、それに色々あってね」 「そうですかならよろしいです」 「瀬川」 青年が珍しく大真面目に改まって話すので、瀬川は畏まる。 「自らしかない場合もある、頼れる相手がいる場合もある、技はそう応じて気づく、もし瀬川が限界と思ったら色々と変えるといい、様々条件が様々な技を目覚めさせ、ヒマワリも同じく」 「師匠どういう流派なんです?」 「暗流ならでは、の技法でしょうか」 「珍しい方かもしれないが、そういう仕込み、逸樹が理解したのは明流、そう気づけないもの」 「へー」 「午後からは自由時間だ好きにしてくれ、オレは市長と会ってくる」 「はい」 「はいです」 食事を終え、片づけ、正式なスーツに着替えタクシーで向かう、市役所で市長と逸樹からの紹介で面会する、市長は極普通の初老の男性、肥満気味の男性でもある。 「市長の驫木です」 「暁・時雨です」 「そしてどの様なお話ですか」 「去年から続く事件、今の所二転、三転しております、しかしなぜ新聞に載らなかったか不思議でして、噂では市長からの介入があったそうですが」 「それは事実無根です、事件は表沙汰にならない特殊な事件と聞きますが」 「では一年間全く新聞に載らなかったのは、単に事件性がないからですな?」 「ええその通りです」 「それでは、雑誌などに取り上げられても全く困らないわけですな?」 先ほどまでの柔和な笑顔に冷や汗じみた滴が浮かぶ、青年は傀儡と判断し、適当に誤魔化し去った、逸樹にメールで伝え、合流する、分かり易い市長のために傀儡説が現実味を帯びた。 「やはり傀儡か」 「あれで政治家とは笑える、底が知れると入ったモノだ」 「よけいに事件は謎々だ、去年から何があった?」 「それを追うことになるわけだ」 「まだまだか、やっと突破口が開けたと思ったが、甘かったか」 「まだまださ」 ――黒衣の者が蒼穹と呼んだ、誘う死に神が現れた、逸樹は非常識な現れ方に引きつる。 「苦心しているようだな時雨、我が名蒼穹・アセリナ」 「何だ死に神ヒントでもくれるのか?」 「名乗ったはずだが?」 「へいへい蒼穹ちゃん」 「日本人の悪い癖だ、外見で名前に+をするな」 「はいはい蒼穹、で暇か?」 「貴様が戦わぬので大いに暇をもてあます」 「じゃ仕事しないか?」 「いかがわしい店で働けと?」 「少しまてやコラ!無節操すぎるぞ、本物の死に神が働く店なんかに出入りできないだろう」 「うるさい小僧だ」 「うるせぇ、こちとら生き死にが、掛かってんだ!」 「まあ楽しいと思うぞ青春と言うヤツかな」 蒼穹・アセリナは初めて懐かしそうにとても愛らしく微笑した、逸樹は言葉がない、惚れたとかではないだろうが、時雨は死に神すら動かした、それが少年にとって武と人を従えるのではなく、言と心をもって人を動かす、それは武を上回る――少年が土下座し真に時雨に頼んだ。 「こんなんで悪いが、教えてくれ、俺は看板を背負う、だが武以外で人を動かす術を知らない」 「逸樹、お前に言葉を教えるほどオレの言葉はありふれている、それにお前の毎日は素晴らしく美しく尊い、それが逸樹の素晴らしい人柄と思う、オレの子供の頃そんな者に憧れたものだ」 「つまりだ頭を上げよ、少年よ、お主の行いはしかと見た、生きろ、精一杯生きろ」 逸樹がいつもに戻り苦笑いを浮かべる、蒼穹の彼女はいつもの無表情、時雨は一別もしなかった、それが武に生きた少年時代にあった故に、父や母とは違う道を説いた祖父母に同じだった。 「私も探ったがどうもおかしい、そもそもあの化け物共がいきなり成長するか?面妖な」 「では改良された?」 「おいおい勘弁してくれよ、まさか実験場かよ!」 「最悪だ!」 「事を急ぐな、しかしもし改良され続けられるのなら聖杯は誠」 「おいおい時雨?」 「ああ最悪だ」 父親に事を伝えた、珍しく父親の声に力がない、最悪のパターンだ、ヴィーナスは危険地帯として切り札のケルベロスを投入決定、裏ではいよいよ危なくなった、伝説の秘宝が実在する死に神に愛された町――逸樹も大慌てで自らの組織を動かした、それが知れ渡り警察もいよいよ最悪のパターンを想定し始め、裏表は緊張しながら事を探ることになった。 ケルベロスの隊員は太々しい面構えで店に集まり、ドンチャン騒ぎ、時雨がいるなら死者はゼロこりゃ楽だと店員三名になった店大忙し――父親は蒼白な顔で、初めて古傷が痛む様な顔。 実際ヴィーナスの精鋭部隊からの、絶対的な信頼は相当揺るぎない厚み――古強者すら時雨には戻れと引きっきりなしに話す、戻れば父親の跡を継げとかヴィーナスの双璧とか言われる。 ケルベロスの平均レベルは60、化け物と同類の強さ、下回る時雨ではあるが、誰もが格が違うと話、弟子の二人と新入りの死に神はますます困惑する、レベルの問題ではない実力とはと聞くが、それが分かれば一人前だと話す、ますますどれ程頼られていたか窺える。 時雨の別名は奇跡に愛された創造者、伝説がごろごろするような現場のみの専属、組織が引退させた理由は上下で相当差がある、上は厄介払い、下はちょっとした長期休暇扱い。 町の裏を仕切るマフィアの組織から、逸樹が相当量の部下を従え、重武装の上に時雨の父親と話す、こうなるとぶっつけ本番のサバイバル、今更どうこういおうとも事件解決こそが何よりも優先される、今更法律がとアホを抜かすバカはいない、警察ですら震え上がる。 最悪な事件展開に手を出そうとした組織は軒並み手を引いた、死に神に愛され縄張り。 今回の事件を整理し、危険と判断された噂や伝説は、軒並み裏からの圧力で封印、喋るな、話すな、探るなの三拍子、本当に始末された者の事から町は不気味な雰囲気だ、裏方の者を見れば一目瞭然の事件展開、早々に何かしようとする者は、むしろ避難を考えるだろう。 警察では必死に本庁と掛け合うが事件の特殊性からあり得ないよの一言、現場は絶望的な悲壮感すら滲む、持っている装備が笑えるほどの小物、町を警邏し時折要所に人を配置するマフィアの方が遙かに潤沢な装備、投入された裏組織の精鋭部隊が希望といえる。 一番危険なのは当たり前に夜で、本格的な調査が行われるのも夜、警察からは非公式に事件を託された、警察の装備で挑めば殉職者を出すようなものだ、第一に銃器しかない。 時雨店、今時金色の虹より人が去り、疲れ果てた経営者以下従業員は納めの夕食なのか、疲れと悲壮感が漂う町に、それぞれの意志で武器を握る――最悪なケースの事件。 「マスター、いくら何でも実験場って」 「つまりだ化け物共の主も学習したわけだ、兵隊を強化し対抗する事を」 「最悪です、それは常に改良される兵隊と戦う意味です、むしろ主を倒さねば終わりです」 「問題は何を強化しているかだ、それを調べないことには対応が難しい」 「しかし手掛かりはあらんぞ?」 「あの歪みだ」 「しかしどう考えても罠だ、むしろ我々のような者を狩ろうとしているのでは?」 「死中に活有りです」 「では出られなくなったら?」 「それがあるが、引っかかるのも一つの手ではある」 「相手の罠を逆に逆手にとる対応策です」 「今はタイムを待つのみだな」 「そうですね」 「致し方あるまい、少し我が力を与えよう、かなり使える」 蒼穹の彼女が腕輪を作る、それを三人に配り、三人が受け取り填める、珍しいことに継承する力、言い換えればスキルを継承させる、今ではヴィーナスなどが上級者向けに支給する品だ。 「攻撃技が一つ、攻撃スキルが一つ、サポートを封じるスキルが一つ」 「つまりサポートを言い換えれば、オレが持つガンモバイルなどの影響を封じる?」 「ああ一切の影響を排除する、もっとも誰もが影響を受けるかはやはり別だ」 三人が腕輪を返却し、店に客が入る、今日はもしかすればと話、出来ることなら試合を最後に見学したいと申し出た、客も薄々分かるのだろう、異常すぎる現在発生中の事件、この町で生きるとはつまりそれ相応の覚悟がいる、生半可な覚悟では最後を遂げるのみ、時雨も肯いた。 試合はトーナメント戦、蒼穹VS瀬川、時雨VSヒマワリ――最初の試合の二人がバーの広場で剣を構える、蒼穹は真正面に構える青眼、瀬川は剣を垂らすように夢想の構え―― 蒼穹が軽く斬り掛かる、それを瀬川はゆらりと避け、一瞬で反転しながら足払い、その上に剣が薙ぐ、これを蒼穹は半歩下がり避ける、攻撃技がない流派であったが、時雨の創意工夫で作られた、今のは防御技の揺らぎと返し技の斬、それに瀬川は足払いを加え、蒼穹を引かせた。 「ふむ、どうしたものか、見事に師の技を受け継ぐか、まさか技殺しを習得したか?」 「あれはまだまだです、でもねアセリナ、沙耶も短いけど色々あったの、戦うことがすべてではないけど、必要なときに何も出来ず、無力の徒になるのはもうイヤなの」 「そうか沙耶なりに覚悟はあるか、次にいくぞ」 瀬川の攻撃、それは一風変わっていた、攻撃ではある、そうタックル、意表をつく体当たりに蒼穹は慌てずに避ける、それが瀬川の狙いらしく剣で全体重を乗せ巻き打ちを行う、それを蒼穹が受け、簡単に鍔迫り合いに打ち勝ち瀬川の剣を弾く、その離れた瞬間、瀬川の振り下ろし。 突き刺さる様な鋭い突きを瀬川の剣が打ち落とす、それが瀬川の読み――蒼穹の二手が続く。 突き刺さるような連続した突き、その次の切り落とす、その最後に回し薙ぎ、瀬川は全て受け。 「終業が足りないな沙耶」 「うん、マスターの様に攻防一体じゃない」 「分かればよし」 蒼穹の決めらしい真上段からの恐ろしく速い斬撃、それを瀬川は刹那で受け流そうとする。 受け流そうとした剣が断ち切られ、蒼穹の剣が瀬川の額に寸止めされる。 「出直せ」 「うん」 二人が下がり、二人が立ち会う、大鎌と二刀流の剣、それぞれに名が刻まれる―― 黒衣の青年の手にある深紅の大鎌が、刹那で霞む、いや対峙する彼女の二本が神速の鋭角な上下突きを弾いた、無音で攻防が成り立った事に誰もが耳を疑う、攻撃の力を完全に吸収した技。 金色のロールは揺れすらなかった、見事な攻撃、しかも同時に別々の、だが見切られた。 「これです!これこそが武の極み!壮麗なり」 「未熟者がそう易々と語るな、剣で語れ」 「今こそ」 希有な移動法、彼女はステップのみで軽々と早々と、刻むように後退する、青年の構えはいよいよ深みに至る、鎌先を背後に回し、握る片手、もう片手はただ垂れる―― それは円舞、ワルツのようなステップと攻撃が重なる、それも速く、鋭く、重く、二重で、全く違う方向から違う点を突くに突き、それを大鎌が弾き、もう片手はただ垂れる、そう間合いにはいることを待ちかまえる囮のように、次第に激しさが増す、次第に散るようになった火花。 だが無音、攻撃を完璧に読み弾く、もはやどう力を持っても打ち破れない壁の様に大鎌と二本の剣が剣戟を演じる、瞬間的に発生する火花はまるで円舞を飾る華、狂乱に咲き誇る無音。 観る者は音を聞く、それは自らの鼓動、見守る者も同じく、紅、蒼、朱、碧、散って、咲いて狂乱に咲き狂う剣戟の試合、無音だけが店内の音を表現する、激しくなる剣戟の火花。 静寂に抱擁される店内の試合、それは観る者は言葉がない一つの極み、壮麗とも、壮美とも。 いつしか咲き誇る火花は満開の華に変わる、絶えないのだ、それは発生し散る刹那かもしれない、今の試合はそれが永遠と続くように生まれては散る、を繰り返すその速さは止まらない。 一瞬の攻撃、二本が上下から斬り付け、直ぐに突く、それが薙ぐに変化する、それを大鎌が優しく受け流す、そう優しい技、二人はその瞬間を愉しむかのように嬉しそうに笑みを浮かべる。 無音、永遠と続く華、優しい受け、激しい攻め、咲き誇る満開の華、狂乱の火花は絢爛舞踏。 「いやはや、そう優しい攻めだと、攻める気になれないな」 「あらら、激しくてよ」 「力がこもらない一撃は、単なる牽制だ」 「少し変えますわ」 二人が下がる、満開であった華が散るに消える――それは一瞬、時間にしては秒にすら入らないその一瞬で二人の武器が鍔迫り合いになる、重々しいギン!と鳴る。 だがそれだけで十分な攻防であった、二本を握る両手は痺れたらしく力無くだらりと下がる。 「愉しかったが、まだまだ」 「愉しかったです、何というか子供の頃の、夢のようでヒマワリの想い出です」 次の試合、日は暮れ闇夜が深まる頃、一人の黒衣が店内に入る、蒼穹と挨拶し、腰に帯びた背丈ほどもある長刀――名のある刀と思える程に美しい装飾が施され、人に刻むような造形美。 「まるで夢物語のようだな」 「一夜限りの華」 「何というかあれは一夜の夢幻のような、そんな感嘆すら許さない至高だった」 「そうかよい夢だったか?」 「いや、我も思うような懐かしさや、忘却の彼方すら合間見なかった、何というか古き想い」 「では始めようか詩聖の蒼穹よ」 「そうだな深紅の黒衣よ」 もう一人の黒衣がピンとコインを弾く、試合に臨む二人はまるで古くからの馴染みのように懐かしむ、そんな顔は安らぎや安息の笑い、それは二人だけが知ることなのだと思える。 大鎌の鎌先が霞む、離れた彼女の剣が揺らぐ、その一瞬が舞うような動きで、音はなく、火花もない、共に競うとかではなく、笑いあう談話の様な会話――攻防が揺らぎと霞、それを捉える者は居ないようで、二人の手元が唯一の証のように激しく、烈火の様に激烈、心地よい試合。 最初の試合は観る者に成長を魅せたような試合、次の試合は優しさや激しさの絢爛舞踏。 今の試合は心地よい、見ると和む、争いの試合が談話するように成り立つ、それは武のはすがまるで談に変わったような試合ではあるが、想う、人を魅了するような試合ではないが、安息 深紅は霞、鈍色は揺らぐ、音もなく、華もなく、見えない攻防が続き、青年がニコリと笑い 幼そうな少女は満面の笑みで、争うはずのすべが、会話するすべになっている試合はもう試合ではないような思い、いや試合ではあるが二人が使う技は共に優しく、談話するために使われるような、そんな変と思うが当たり前のような、想い出というのか、心地よい試合。 「いや何とも懐かしいな蒼穹よ」 「久方ぶりの剣の会話よ」 「ああそうだこれが剣であった」 「そう、古いな我らは」 「確かに古い、何となく幼き頃を思い出す、あの頃の剣は話すことがなかった」 「古いな、そう懐かしい幼き頃よ」 「ちと表現を変えるぞ」 「望むところだ」 ――先ほどまでの霞と揺らぎから、共に両手を使い握るそれぞれの武器が激しく重なる、だが直ぐに別れ、違う場所で激しく重なる、無音、火花が散るすら許さない領域の連歌の詩聖。 激しい衝突、攻防の一手はすでに重なり、共に熟知した軌道のようでお互いに理解する会話。 何十年と試合を望み、幾、何、そんな幾度も試合を演じたかのような想い出の会話。 ――知っている故に競わず、使う故に理解する、分かち合う剣の会話は古い。 激しいが優しく、優しいが激しく、互いに知っているから成り立つ、もはや二人の追憶の様だ。 二人の試合を観る者は剣を言い表す、二人はそう懐かしい間柄の会話の相手、古い。 二人の会話は次の時代に移る、そう時代を再現するような二人の会話は、幾度だろうと望んだ。 欺かない試合、誠の一手が幾度も重なり、幾度もぶつかり離れる、それから激しさに技巧が加えられる、フェイントが互いに出し合う、欺くことを理解した頃の試合、二人の激しく常に変化し、相手の一手を読みそれに一手を加え解った上での欺く一撃――激しく軌道が重なる。 二人の切っ先が幾度も変化し、幾度も防ぎ、幾度も欺こうとする、それは攻防であり戦い。 ただ抱擁する静寂、重なり音を立てない二つの武器、激しいはずが、激しいのはその衝突。 「やれやれ失敗するはずだな」 「ああ下手くそだ」 「遠慮がちな攻防だ」 「確かに」 二人の武器は凄まじい速度で鍔迫り合いを開始する、ぶつかり押し合い引く、その一挙が二人の余裕の剣、流れるような動きとは違う、愚直なメリハリもない、泥仕合の様に緩慢な試合。 二人の足下は違う、握る物が重なる時、全身全霊の一挙、一撃も重々しく重なるごとに二人は離れる、確かに動きは鈍いが成り立つ武器の鍔迫り合い、鎌先と切っ先が幾何と重なり離れる。 今度はピートが変わる、小柄な幼子の彼女の剣は真っ向から、相手の剣を破り相手に触れようとする――違う青年の鎌先が衰えた、長い戦いで疲弊し押され始めた。 呼吸は乱れない、動きも同じ、しかし明らかに青年の大鎌は攻める回数が減った。 否、彼女の攻めで防がざるに追いやられた、真剣な試合になり二人は激しいメリハリの動きで相手の一手を打ち破ろうと、防ぎきろうとする。青年の鎌先が幾度も変化し流れ、打ち破ろうとする剣の切っ先を防ぎ、剣は変化し別の点を突き青年の鎌を破ろうとする。 音がなかった試合は次第に、鈍い金属音の低い音が鳴り響き始める――試合は移り変わった。 激しい金属音が幾重にも店内に響き、波紋のように鈍く光る二つの武器は常に押し引きを繰り返す、それが試合の中で真っ向からの戦い、また移り変わる。今度は完全に攻防が別れた。 青年は攻撃を止め、両手で大鎌を操り、神雷の斬撃を飛燕の防ぎで押し返す。 幼い彼女は汗一つ、呼吸すら乱さず真剣な顔で雷のような一瞬の斬撃を繰り出し、圧倒的な攻めを見せる、それを防ぐ青年も真剣みを帯びた顔。峻烈の光刃、煉獄の烈火が幾重にも現れる。 互いに引かず、真っ向からの斬り合いを続ける、彼女はこの場に及んでも斬り以外を使わない。 彼も同じく攻防一体の技を放たない、防ぎきる深紅の大鎌、攻め続ける鈍色の直剣。 ――変化する試合の終焉。青年の鎌先が動かなくなり、必要最低限の動きのみですべてを鳩首する、ある意味ここに到達する領域は凄まじい剣の士、攻める彼女はその顔に汗が滲み、疲労の色が現れる、全力の一撃を完全に読まれ防がれる、それを一回ごとに変化するが、相手は完璧に読み切り、防ぎきる、彼女が初めて間合いを取らず捨て身の一撃を繰り出す。 緋乱桜花、一瞬の捨て身が、幾重の緋花、それが剣の軌道だけ存在する、青年の大鎌が攻撃すべてを完全に殺しきれず、武器そのものがヒステリックな絶叫を叫び続ける――初めて青年の大鎌が弾かれる、それを破り剣が青年の首を絶たんとする、一瞬の指、それは金属に包まれた攻防一体の武具、それが完全に防ぎきる、そして弾かれた大鎌が相手の頭上にスッと。 「うむ、我が体術の至り」 「貴様、本当に人間なのか?」 「あのな、攻撃を段階的に弱らせ、弾かれたと見せかけ片手で受ける、もう片手は相手に」 「うむむむ、確かに弱まった一撃なら」 観客が一斉に拍手喝采、最後の試合の最後は見事に青年が読み切った誘い、それを見抜けなかった彼女の至らなかった一撃、共に素晴らしい剣士の試合――ただ青年も大変武器は壊れてもおかしくない、彼女の武器が優れていた、幸い武器は壊れず、青年はホッとした顔。 別に優勝賞金はないが客は食事を終え、酒を飲み交わし、それぞれ帰路についた。 いつの間にか黒衣は帰っており、蒼穹が試合を言いたそうな顔で探していた。 「全く漆黒め」 「要すれば見届けにきたかもしれませんね、選んだ者と選ばれた者を」 「なぜだ斎賀」 「そうですね、漆黒の方なりに一つの思い出話でしょうか」 青年も苦笑するしかない程に幼い死に神、これで逸樹が通う学園に転校すれば、どうなるやら。 ――そうヒマワリは気づいた、死に神の使命以外を行う、それは長い休暇のような日々だ。 「おやおや」 ――生気の感じから、邪気纏う〈もの〉が近寄る、マスターは大鎌を握り片手にガンモバイルを握る、それで弟子の二人も武器を握り、三人の前に蒼穹が勇敢に踏み出る。 轟! バーのドアが開き、同時に濃霧が内部に進入し、直ぐに満たす、充満した濃霧―― 二人を掴み青年が上階に上る、蒼穹も同じように瞬時に退く。 二階から周囲は深い濃霧で覆われ、海から濃い霧が風に乗り流れ込む、そうであるが霧の包まれた沿岸部のビル街には人気がない、元々時間から多いわけではない、だが残業する位は居る。 「おい」 「邪気に濃霧、次は化け物かな」 「電話が通じません」 「ある意味理想的な登場?」 獣の咆哮が木霊する、ある意味定番、伝統的な演出とすらいえるが、籠もるしかない四人にとって参った話、下手に打ってこず、出し惜しみするイヤな手口、陰険とかいうより性格破綻。 「使い魔を降喚する、二人は使用するな、元々相当な訓練期間がいる」 時雨のガンモバイルから実体化する鬼神化使魔、動物の姿を借りた十二体、カスタムの激しい使い手によって同時使用が、十二まで跳ね上がった――使い魔が三体ずつ上階に向かう、退路を確保同時に斥候役、こんな場合に役立つ兵隊さん、知性が高いので相当役に立つ。 「ひとまずは安心か」 主のモバイルに斥候から安全を確認される、危険はないと意思表示がある。 屋上に到達した斥候から危険なレベル表示、強いていうなら時雨より下回るが苦戦するレベル。 「定番というか、保守的な伝統派というか」 「どうした?」 「屋上にレベル45前後の反応あり。ちなみにオレが50」 「戦力分散だろう」 「一応五階、四階、三階に三体ずつ配置、二階にも三体が配置、休もう」 「便利な道具だな」 「確かにな。ただ相応のレベルが要る、低ければ一体すら可能か」 時間を確認し、仮眠に入る、知性レベルが高い使い魔は各階で見張りを行い、必要最低限の報告で済ます――相手は攻勢に出ず、タイムまでの仮眠時間が過ぎる、やや欠けた月夜の曇り空。 子猫の使い魔に起こされ、日替わり時間前、主たる時雨が使い魔を帰還させ、それぞれがタイムに備え、各々の武器を確認する、外部と連絡を寸断された現在、外部を知るすべはない。 海から綺麗なソプラノの歌声が響く、こんな場合のために全員が怪訝な顔で、瀬川が呟く。 「歌が聞こえるなら音が届きませんか?」 「試したいが屋上にはレベル45、それにタイムまで時間はない」 「それにいささか都合がよすぎる」 「惑わす小技かもしれません」 「そうなら何故ソプラノ?」 「さあなタイムアウトだ」 エイプリルフールタイムのスタートの時刻、豹変する世界、曇り空から晴れ晴れとした新緑の月空、やや欠けた月、満天の星空、月明かり以外をすべて失った世界、三人と蒼穹が同じ場所に存在する――タイムスタートは合計24時間でアウト、刹那の一日の始まり。 濃霧は消え去り、歌声も消えた、邪気だけが妖しげに漂う。 「ふむ妖しげな霧は消えた、歌声も消えた、残る邪気の元」 「さてどう対処するか」 「ヒマワリが確認しますわ。いくらなんでも最初から全力は、癖から無いと思いますし」 「まて三体を付ける」 「マスター、私に機会をくれませんか?」 「策か?」 「ある意味相手一人です、しかし影から幾らでも作れるのなら、なぜ今使わないか?疑問です」 素朴な疑問のように瀬川が話す、三人は確かにと肯く、言い換えれば使わない理由がある。 「相応の理由があるとするなら、それを探るのが優先すべきことに思えます」 「どうやって?」 「はい、方法は降喚携帯です、ああ端折りましたけど、弱い使いを使い相手をはかります」 「価値はある、やってみてくれ」 瀬川のレベルは1、一番低い数値、ステータスも平均的な成人を下回り、査定結果の評価は出直せとの評価、実体化する使いもレベル2、最低の弱さ、弱いなんてものではない、その使いがヒヨコの外見でヨタヨタと階段を下り、邪気を放つ的に向かう――相手からすれば?の使い。 「標的発見戦闘に入ります」 前書に上げたようにレベル2、成人より弱い雑魚中の最下層独走、何のスキルもない、要すれば相手にされない雑魚、むしろ攻撃と思われるか謎、それ程に弱いヒヨコ、相手は攻撃を受け一応敵に認識し、殴って倒した――瀬川には何の打撃もない、むしろ次の使いを吟味する。 結局瀬川のストックの五体が、ぶつけられたが反撃で倒され、相手は反撃するたびに何となく苛立つようなそんな気配、邪気に怒気が混じり、苛々と気配そのものが揺らぐ。 「じゃ次はヒマワリが」 「瀬川さん、意外に策士な性格ですか?」 「いやね。ゲームとかでこうやられるとイヤだなと思う手口」 瀬川の白人系の容姿に別に害のない性格、知的なクールの容姿端麗&知性派の指揮官タイプ。 「別にさ消耗しても、こっちの手駒に関しては――どのみち価値はないし」 「そうですね。別に兵隊さんが主力な訳ではないですし」 「そうどのみち戦闘には無関係だし、使い捨ての手駒かな」 「ではぶつけます」 初心者用の為にストックの五体、ヒマワリのレベルは相応に高いではあるがレベル35程度。 査定評価未熟な戦闘員、一応戦闘員扱い、ただ武器の評価は瀬川と同じ、要すれば強いが優れているわけではなく、さほど苦戦するタイプの使いではない――獣の外見の使いが実体化し、命令通り倒しに向かう、もちろん返り討ちされても毛ほども痛くない、そもそもヒマワリは降喚を重視する戦闘家でもない、使用方法も瀬川と同じ、単純に躯で攻撃するだけ。 相手は苛立つを通り越し逆ギレ寸前、むしろ瀬川の性根を疑われる策に嵌った感じだ。 「相手は相当真髄の頂点らしいぞ」 「ヒマワリが終われば別に手段です、と言うより正直バカにされたと思うでしょうね」 誰もが言わなかった、性格悪いよと、嫌がらせに近い攻撃が十回続き、相手はついに痺れを切らしたズカズカと建物に入り、乱暴に銃器を乱射し、地下からのバーで暴れる。 「そりゃ怒るわ」 「強いていうなら、真剣勝負に堂々と捨て駒を使われ、おまけに強いとすら思われない、それは一般的にバカにされた挙げ句に相手にされない、言うなれば出直せと言われている様なもの」 「実際キレているし」 「さすが、吸血鬼を退散させる少女」 青年が誉めたはずが弟子はぶち切れて、蒸気は出ないがクールな風貌で――真っ赤な顔でブツブツと愚痴る。ヒマワリがニコニコとあやし、蒼穹が?の困惑で微妙に視線が泳ぐ。 ――(あれ?誉めたはずだけど、何故に怒る?) 「どういうことだ?」 瀬川の顔が真っ赤からもはや深紅に限りなく近い赤面になる、このままだと失神、ヒマワリが頼みだ、青年は「なるほど」と納得し――蒼穹に聞くなと視線で語る。よほどの理由と納得する素直な性格のために問題なく、むしろ散々バカにされた邪気をばらまく相手の方がキレ具合は頂点を超え、深刻なほどに建物を破壊する、相手は一人だったが痺れを切らしたもう一人が現れ、二人で破壊する、その折りに放火し、瀬川も性格が悪いが相手は真剣に挑み、散々バカにされた挙げ句に現れもせずに二階にとどまる。放火されたが耐火性からなかなか広がらない。 よほど腹立たしい扱いだったらしく、支柱に爆弾を放る、爆発するがそう易々と壊れない。 「なあ、相手完璧にキレているぞ」 「ええまあそういう作戦ですから」 「ああ我が家が壊れるが?」 瀬川は硬直する、被害を考えていなかったらしく複雑な感情が渦巻き、その顔は泣きそうになる。時雨は弟子と同じく泣きそうだった、買った建物、新築の店舗&ビルが破壊されかけ。 「あのぅ、真剣なお話、このままだと帰りそうですけど?」 「この恨み晴らさずにおくべきか!」 (ぶっ殺す!)――青年は完璧に自前の事を綺麗サッパリと忘れズカズカと降りる。 ヒマワリと瀬川が残り、哀れむ様な蒼穹が降りる――相手も完璧、時雨も完璧に頂点を突破し。 相手は二人、一応人らしいが名残程度の醜悪な外見、むしろ化け物と同じようなキメラ。 やっと降りてきた時雨は性格を疑われるような攻撃に出る――RPG―7、メジャーなロケットランチャー、完全にキレている時雨のモバイルで、具現化したパーソナルが相手に向け放つ。 相手はキレ具合が酷く、飛んできたロケットに重火器で応戦する、ド派手な銃撃戦。 作戦もあったものではない、相手はロケットを重火器で迎撃しようとするが爆発し、大爆発。 酔いも褪めるような大爆音、大爆発、業火が店舗の外で渦巻く、やっと正気になった相手には次のロケットランチャーが撃ち込まれる、正気の沙汰ではない、機関銃程度の装備や爆弾の次元とは格が違う本当の戦争用の軍事品、それが堂々と撃ち込まれ――逃げた。 「ザアマアみろ!」 時雨の高笑が高らかと響く、嘲笑うというより笑うしかない、店舗は改装より立て替え。 ――怒りが冷め、冷静になって時雨は泣きそうな顔で、隠した金を掘り出していた、愚痴りそうな顔で、涙すら零さず瓦礫の店内、その中から盗金&貯金を掘り出し。 「大丈夫か?」 「新居に引っ越す」 ――破壊された跡のようで、戦争後の瓦礫の店、誰が悪いとは言えず、青年は新店舗を探すためにふらふらと千鳥足で町に消えた。蒼穹は心底、作戦としては良かったが、被害の結果は酷いもので、二階で二人は泣いていた。事件の被害者は別として、被害を受けた建築物は酷い。 早々見つかるわけもなく、途方に暮れた青年が戻り、新居候補のネットチェックは出来ず。 「なあ」 「ごめんなさい師匠!」 「いや壊れた物に、どうこういっても遅い訳よ」 青年は深刻に厳しい懐を話した、この沿岸部で店舗+住居+庭付きが安い訳もない。 「一応保険には入っている」 「あの現場で保険金が下りる?」 「エイプリルフールタイムのはずが」 泣く瀬川、泣くヒマワリ、悲しい財布、給料の支払いがあった分マシな方だ。 ――好転した店舗経営、あれ程の客か入る店舗は早々にない、賃貸としても相当金額を支払う。 「そこで沿岸を買おうと思う」 「要は壊れても再建可能の、店舗兼住居の建設現場確保」 青年が頷く、要すれば土地がなければどうしようもない、沿岸でも浜辺でも購入し、後々に破壊されても、再建可能な、少し不幸な想定の建築物建設する――建築は期間が要る。 幸い沿岸部はビル街で、浜辺なども物件扱い、ただ壊れる想定だと建築費用から何までを切りつめるしかなく、必然的に壊れる前の購入一年少しの、建築物のような立派な建物は無理。 事件最大の被害者は暁時雨、また建築物の道路破壊者、その道路がなければ交通不可能。 「あの連中は確実に葬る」 「いやその、あの爆発地は?」 「店舗破壊事件関係者」 「貴様、まさかなすり付ける気か?」 「恨みを込めてバッチリ」 「マスター、それは歴としたテロ事件になりませんか?」 「相手が悪い、そもそも店舗を破壊した悪党だ」 「ダーティ隻眼」 「それは辞めろ!」 「と言うより事件は?」 気まずい沈黙、忘れられた事件に瀬川の顔が真っ赤になり激情寸前――大人の青年は複雑な顔になる、それはそうだろう、事件の最大の被害者、それを使命感から激怒するのは人情味に欠ける――ヒマワリは指さす、軽い財布、銀行を信じなかった青年の貯金。 ブルーな雰囲気、事件の被害は経済的に酷い直撃、収入の店舗は壊滅。 「一年前から四月一日まで赤字だったんだ」 よけい暗くなる、弟子兼住み込みは複雑な顔で好転した財政、破壊された店舗。 「オイチャン少しぐれそうだよ、せっかく軌道に乗った店が」 「マスター、今のうちにお礼参りに」 「逃げたよ」 「なんか貧困に愛された店のよう」 「保険降りてもね、経済的な打撃は厳しい、本当に見納めの一日だ」 「大丈夫なんとかなりますよ!」 あの吸血鬼すら退散させた瀬川が、堂々と力強く言い切った――一同頷く。 ――(成長が早い?)時雨は素直に瀬川を見直した。あの日から毎日を己で作った。 「わかった瀬川を店長にする」 「駄目です、師匠だから多くの人々が最後に来た、私ではダメなんです」 「違う、次の店だろ?それなりの工夫がいる」 「つまり新しい店舗に工夫を添える?」 「ああ、つまり店を本当に仕切るのは店長だ、ただマスターはオレ、会社で言えば会長と社長」 「それはその都合的に無理がありまして、裁縫の」 「そっか、裁縫があったか、困った」 「それに基本的に時雨さんがどのみち経営者ですし、今下がるのはよくないかと」 「そうか?まあそうなら店舗を設計からしないとな」 「まあ当座は休暇ですね」 「いやすることがない」 「すべきことは自らで見つけるものです」 「そうか、うむ、何をするか」 (さてはて、何とか誤魔化せたか)――青年の攻撃で見えなかった相手。 深刻な話ではなく、むしろ内部問題、明らかに武装したチンピラに生物強化。 ――要すれば逸樹の組織問題と絡んだ事件、きな臭い裏方のお家騒動、それに伝説。 論より証拠はロケットから逃げ、重火器で応戦した、化け物が行う行為ではない。 問題は相手の居所ではなく、内部抗争を抱える組織の問題で、要すれば逸樹は策士。 ただ逸樹がどこまで絡み、組織内部の抗争をどう処するか――少なくても逸樹はまんまと相手を完璧に化け物に仕立て、まんまと正義の味方扱い。大義名分も警察から提供させた。 ――(小僧か、やはり内部抗争の口か、何をするやら) 逸樹はすでに色々と知っている、証拠もある、様々な画策ではないかもしれないが才覚ある。 妙な話ではない、縄張りを狙った相手は軒並み引いた、逸樹は最低限の行為で最大限の効果を作り、悪いことは全部相手になすり付け、さてさてどうしてやろうかの準備万端、ヴィーナスとどう取引したかはわからないが、父親が組織に引き込む手口にも思える。 二人の利害一致、逸樹、父親の二人は御せると判断したのは時雨が、実はキレやすい性格と知ってのこと――裏のことに全く詳しくない者は最初から脇役、組織に復帰させる口実、内部抗争を大義名分付きで取り締まる逸樹の組織、要すれば本格的に追い詰められた相手―― 頭の切れる少年が逸樹の本領、それは笑えるほどに大儲け、踊らされた今時金色の虹。 (漆黒か食えない) 時雨、その選択肢は常に己で切り開いて、常に守り通すものを守ってきた。 笑えないストーリーはエイプリルフール、巻き込まれた二人、誇りある最後を遂げた男―― 時雨はキレやすいが、性格は妹並みに悪辣な一面から、妻に相当教育された三年間がある。 時雨のもう一つ裏を読んだ、市長の思い描くストーリー、裏方が描くストーリー。 一人店舗の瓦礫を掘り出し、ヒントを探した、食えない性格らしい漆黒は巡ったと巡らされた裏表のお話をしただけにすぎない、コイン一つで意志を伝える、相当な裏に慣れ親しんだ者。 世の中の鉄則は知らないことが幸せ、腹は立たない、別に好いやり方だ。 舞台の脚本家、役者様々な人々、手の平で踊らせる票が欲しい者、取り締まりたい者の攻防。 「コインを探しているのか時雨?」 黒衣の漆黒が笑いをかみ殺しいつの間に、かくすくすと獰猛な笑いを漏らす。 「好きなお家騒動のストーリー、笑えるほどに単純なお話、しかし笑えない店内だ」 「知っているか?お利口さんとよい子は常にバカをみる役者にすぎない、蒼穹などがあげられる、お前は笑えるが経験豊富のようだな」 「いやはや笑えるラブストーリーだ、いっそ完璧なお話、ほんのお伽噺さ」 「そう言うことだ、お前若い頃騙された経験を忘れるか?」 「いやいや好いストーリーだ、そう好いストーリーはやはり完璧に完結しないと」 青年は爆笑する事を押さえ、代わりにお礼をプレゼントする、そうお礼、裏の者はどうするか。 「いやいや面白い掘り出し物が満載だ、お礼はやはり派手に打ち上げるか」 時雨の切り札、兵器再現能力、完璧にお礼を送り返す、そう227ミリロケット弾の雨。 性格が悪辣の所は別に兵器は関係ない、ただ惜しみなくお礼参りとお礼の贈り物可能タイム。 心底アホなストーリーに、わざわざお花を添える――大爆発の多重奏、悲しい事に過激な性格。 八つ当たり+お礼参りの結果、対地ロケットが雨矢の様に逸樹の店をピンポイントに爆撃する。 (世の中、深刻に笑い話を精々作っていろ!) 極めは戦車、そう90式の痕跡、砲弾を適当な逸樹系統組織の建築物に放り込み完璧。 大人は色々らしくに精鋭部隊は潜む、つまり拠点に籠もらなかった。 「いやはや完璧な挑戦状がお礼金+で来訪かな」 ついに堪えきれず爆笑する、それは完全に嘲笑う嘲笑、分かり易くシナリオ変更、これで警察も気づく、誰もが分かり易く笑い話の落ち、要すれば単なるお家騒動。 唖然と傍観する三人、青年と共に高笑する漆黒、それはもう凶悪な図柄。 「この落ちは分かり易いだろう?」 『ええぇぇぇぇぇぇぇ!』 「お子様の幼稚なお話だが?」 「オイチャンね、なかなか笑えるお話だよ、ラブストーリーは常に破局だ」 「ラブストーリーはお話を繋ぎ合わせて完成するぞ、じゃ」 「じゃオイチャンは寝るよ」 三人はサッパリの顔で事件を最初から話す、時雨は寝室で眠り、タイムアウトの時にもう一つの貴重なお礼をプレゼントする、性格破綻具合満点――悪辣な紹介状。内容は推して知るべし。 タイムアウトの瞬間に送られた紹介状、どうぞご来店あれとタイトル名――青年は計算した結果、利子に+を加算し、一桁増やし、満面の笑みで支払金を書き記す。 「ああ逸樹君オイチャンお話があるよい子はそろそろ品切れだ」 「てめぇやりやがったな!」 「もちろん示談に応じるよ」 携帯が切れる、心頭に達する一家、ようやく事が理解できた警察、笑える落ちに父親は察知し逃走、ケルベロスは慰安旅行から帰還、事件は警察が捜査を開始、今更隠せない様々な武器。 嵌められた、嵌めた、お礼参り&逮捕状の落ち――警察VS裏方一家。 四月五日――終幕。 裏方一家はお利口に納め、警察はやっと嵌められた事にお礼をたっぷりと置いていく。 ストーリーの脚本家のお話から逸樹はかなり怪しまれたが、堂々と少年法、弁護士の御セット。 警察からの調査、青年は堂々と大手を振って無罪、警察も青年がやったと証拠もなく、また必要もない、それに嵌められた当人をわざわざ捕まえる必要もなく、ご不幸をお悔やみします。 テレビでやっと三人が理解した事件の真相、激怒しない青年は笑顔で請求書を書き上げている。 「やあ逸樹君、請求書が貯まっているが?」 「誰が払うか!」 「おやおや電波が悪いな、早々お話だが浜辺全部と建設費用、後仕事料金、もちろんお心添えを分かっているお話だよ、市長がどう転ぶか、よくよく考えて足し算、引き算を行うといい」 「おい待てよ、いくら何でも高すぎる!」 「いやいや地上げを食らったオイチャンはキレそうだよ」 「この野郎!」 「オイチャン市長とお話ししちゃうよ?」 「店は潰れ、挙げ句に」 「オイチャンね、キレる寸前や突破すると落ち着く性格でね、請求額が払えなければどうなるか少し時間があるそう一日が変更される時間まで、いや真剣に考えないとオイチャン暴れちゃうよ?」 「鬼よか鬼!」 「いやねオイチャンの店を一年間も地上げしてくれた、お礼が本当はしたいんだ」 「いやそれは色々ありましてもう少しお安く」 「いやねリゾートのお話で――銀行からどれ程の扱いを受けたか切々と語る示談のお話?」 「酷い、払える金額を」 「オイチャンね、もうちょっと都合をつけて欲しいお話があるのよ」 「え?」 「オイチャンね当座休業なんだ、そこで店員が暇なわけ、それはやっぱり学園じゃないかな」 「お安ご用です」 「後戸籍その他諸々ね、一応警告だ、家に手を出した後片づけろや」 「へい」 携帯を破壊する、相手には破砕音が響く、完全にキレかかる状態、店員は本当の裏顔を拝見し。 「世の中そう易々と収まるものかな、オイチャン本気でキレる寸前だよ」 かなり怖い顔、迫力満点、おまけに大鎌を握らず、必要になる請求書が力一杯で押し潰される。 「さすが元裏」 「ええ堂々と揺すりました」 「ああ、そのどういう?」 「早い話が裏のお話です、シナリオ変更後のお礼がこれでは済まないな、という恫喝こみで」 「オイチャン用事がある、お礼する相手が複数いてね」 「お礼とは反撃のことです」 携帯の代わりに家庭内電話、相手がとり、かなりの間を置き 「いやチャル」 「小父さんに協力してくれってだけでして」 「君は何か戦友を堂々と嵌めた訳か?」 「色々ありまして資金的に苦しく」 「ほーう、そうオイチャンキレたらどうなるか熟知しているよね」 「ごめん!」 「オイチャン地上げかっ食らった挙げ句に片棒だよ、君はよくよくお礼のお話、逸樹君とお話しした方が無難だよ、分かるよね?」 「はい全くです」 「オイチャンね、色々とか様々とか極簡単に言う人一番疑う質なんだ」 「その話すとかなり不味く」 「へー、ああそう別に好いんだよ、君の一族郎党のお家が全焼しても」 「勘弁してよ!」 「ならねぇ!いいか一年間赤字食らった挙げ句に単なるお話で済むと本気で考えるか?」 「話したら資金がなくなって」 「ああそう、そういう落ち、そうか、いやね家ちょっと苦しい状態でね、家どうするか?」 「全力を尽くします」 「これは警告じゃないぞ、次は分かるだろう?」 「へいたっぷり」 「もう一つお話ししておく、市長のお話どこで?」 「いや小父さんが」 「そうかいわかった一応借りの二乗だ」 「酷い!」 「ふざけんなよ、本当に殺されたくなかったら、マシなお礼用意しておけや!」 今度は電話を思いっきり破壊する、本当にキレる寸前、もの凄く剣呑な顔つき、元々の強面で完璧に裏の顔に戻り、別の電話でお家に電話する。 「オッサン、少々お話がある、本気でお家炎上ショータイムになりたくなかったら店こいや」 それはもう獰猛な犬でも逃走する凄味たっぷりの上塗り、カンカンに激怒中。また電話を破壊。 古巣から示談のお話が道具に届く――ご不幸お悔やみします♪とタイトル名。 彼はマシな性格の方だ、返答に挑発に要すればそんなに戦争が好きなんだなと返答し、お礼参りの準備を開始――完璧に怒ると温度が冷却され、温厚な笑いなど消え去り、氷並の冷たさ。 後始末の方々は参上し、片づけ中、払える金額が運ばれ、完全にキレて頂点を突破した青年。 おっかないというレベルは超えた、完璧に暗殺者真っ青の凄味のある裏方――ブチリと聞こえそうな破砕音後、瓦礫の中から金庫が現れる、その中身――青年の過去の証拠。 青年ガキだった頃、奥さんは裏に通じたエリート、当然夫に仕込んだ。 完璧な証拠を持って市長の所に向かう――慌てたのは古巣、まさかのご用意。 毎度――担当者は死か出世かの二択、心臓に悪いために医療スタッフ、今の青年と本気で戦う少し知性の面で発育が足りない者は、表にもあまり裏にもおらず、希少な凄腕が立ち会う。 「おい、払えるか?」 「はい」 「一応次ぎの場合は想定する方が良いか?」 ――苦しいもので、いえば死、言わねば次のお話。凄腕も毎回のお話でウンザリ。 「坊主、そう脅すな」 「そうか?」 「悪いが暁の休暇扱いだ」 「ぶっ殺すと言う単純な言葉が必要か?」 「父親を殺すなよ」 「毎度にお礼の粗品か?」 「帰って跡を継いでほしいだけだ、親心というヤツだ」 「ほう親心、そうか息子を嵌めることか?」 「あのな、組織を使って親子喧嘩をしないでくれ迷惑だ」 「口の上手い奴だったか?まあ今回は勘弁できるお淑やかなお話だ」 「全く代々迷惑な喧嘩を繰り返す一族も参った」 「あのオッサンに言っておけ、弟子前に現れたらぶっ殺す」 「こぇガキだ、何でかねぇ親子代々話すのは」 受け取る物を受け取り帰る、担当者は崩れ落ちる、怖いと言う凄腕すら零す。 ――お淑やかで終わった事件とは到底思えない片づけ中の方々、一言も発しないのは温厚に戻った青年が本気で怖い、笑顔でニコニコと納める、税務署がみたら喜ぶ前に軍隊を呼ぶ。 そう言う業界なのだと納得するしかない、戦争の後のような町。 本気で古巣からごめんねとあり、父親に処罰はない、家庭内問題、よくまあ父親と言える。 弟子を裏庭で指導し本当に人気の店なので、いつ開店するかの問い合わせが多かった。 弟子の二人も分かった怒ると怖い質、店員の蒼穹も分かった、使命云々の前にあんな毎日だと。 ダーティ云々の前に、あんな親子喧嘩に巻き込まれたのは、単なる不幸だろう。 店舗以外住むには十分な建物で、朝食から昼食まで青年が作る、それはもう穏和な微笑みを浮かべた、好青年ではある、ただ怒るとかなり怖い、都市伝説の前に迫力満点。 「マスター、怒ると怖い質なんですね」 「まあねあんな業界にいると、色々と悪いものをみてね」 「まさに裏の顔でした」 「それはね人は感情がある生き物だからだよ」 「迷惑な親子喧嘩です」 「父さんも色々あるんだろう、まあ二度とこないけど」 「着たら喧嘩だな何という一族か考えさせられる」 「だが事件は終わってないよ」 『ええぇぇぇぇぇぇぇ!』 「タイムの時に活動するチンピラ共が居るからね、片づけないと」 ――もちろん青年の怒りは収まったが、お礼参りのお話は終わってない訳で。 青年は鬼と呼ばれた、本当に地獄に仏の好青年だが、怒ると手のつけられないキレ具合。 三人で遊んでこいと金を渡し、遊びに行かせ、青年は大鎌を握りお片づけ中の方々のボス二人。 「いや本当に色々あるようだね、所で君達」 「勘弁してよ」 「いやねチンピラ共はどこ?」 「いやお手上げで」 「そうかショータイムのお時間はお仕置きの時間だな」 「もちろんチンピラのお話よね?」 「うんまあね君達なりの誠意の方はわかったから、二度目は棺桶持参だよ」 笑顔で言われた、怖いと言うより本当にその通りなのだろうと思える、二人は思いっきりカクカク、いやガクガクと首を振る、本気でやりかねない男が時雨だ。 「まあ子供なりに色々あるのだろう、この変でいいよ帰りな」 感謝の言葉の前に全員が一斉に逃げ出した、そうあの表情がよい人の印象に変わるかは別問題。 そこら辺の悪が一丸になっても足元にも及ばない、悪鬼に限りなく近いマフィアも真っ青青年。 関わらず生きるのが人生の良薬かもしれない、あまり関わると人生脱落かゴールイン。 本当に武聖の試合を見たいと言うお客は多く、特に武道系は毎日みたいというほどにニーズ。 逸樹に可哀想なので資金を提供し、代わりに湾岸工事、その他諸々の仕事を注文した。 店員の少女三人に色々とお話ししたい男性は居ても、裏を仕切るマフィア真っ青のマスター。 ある意味関わるのはハイ&ローを沢山味わえる、心臓には悪いが、健康には正直よくない。 喧嘩を売った可哀想なチンピラ共はどうなるか、易々と分かる、素人が聞いても予想できる。 熱心に大鎌に手入れをする隻眼の青年、夜逃げしていたらある意味正しい生存法と言い切れる。 やはり賢明なのか新聞などの報道組織は取り上げなかった、下手にトラブルよりマシだろう。 この町に手を出そうとした裏方は事件の展開で、やはり死に神の愛された町は正しい別名。 本物ではないが、本物より質の悪い隻眼の死に神が、暮らす町で下手なことはできない。 不幸中の幸運は市長だ、下手に関わらなかったので青年のお礼参りがない、ホッと一息。 ――親子喧嘩に巻き込まれた組織は不幸中の不幸だ、だがそれ以上に青年の裏側を垣間見た。 市長から電話がかかる、傀儡かもしれないが、下手したら明日生きている保証はない、保身。 「お悔やみします暁さん」 「いえね不幸なお話でして、近々お礼参りに向かおうかと、しかし市長さんも悪いですね」 「いえ全くの身の潔白です、今後この様な事がないよう、全力を尽きさせてもらいます」 「まあいいですがね、オレには政治は関係ないですし、ただ火遊びをすると全焼なんて事が」 「全く怖い話です」 「それで本題は?」 「その電話では」 「では後日、少なくてもチンピラとは関係ないですよね?」 「ええ絶対的に関係ありません」 「結構、では失礼します」 市長は安堵しただろう、命の保証が後日になった、悪いことに利用した組織はどんな目に遭ったか――ピンポイントで爆撃された逸樹の店、戦争後のようなビル街の店舗前。 もし店員がいれば、怖いよぅとでも言っただろう、本当にダーティな一面盛り沢山。 かなりの強面ではあるがいつもは温厚、キレるとそこら辺の悪い真っ青、それを超えるとそうみることができない死に神真っ青のダーティ、悪と言うよりそれを超えた一種の劇薬。 残るチンピラ組織はガタガタと震え上がる話だろう、銃ではなくロケットランチャー、少し脱走しても悪くはないと思う、少なくても生きられるからだ、銃でロケットと戦争はできない。 ある意味超危険な店、極普通のコスプレバーとはとても思えない凶悪犯を易々と超克する。 夕暮れ弟子の瀬川、ヒマワリ、住み込みの店員蒼穹が帰る、いつもの穏和な笑顔、ただ手放さない拳銃型特殊機材、ニコリとした本当に好青年なのだが、怒るときの凶悪さは聞きしに勝る。 「時雨、本当に何があった?」 「うん?まあ不幸と幸運のお話さ」 「いやあれを見て豹変と言うより魔物すら可愛く見える」 「酷いな、言葉の暴力か?いけないなこれから女子高生だろう」 「うむ、しかしあれは心理学でいうトラウマ?」 「色々ねダーティな業界で、右往左往していた時期があってね、まあ昔の話だ」 「なぜでしょう?ここまで好青年なのに」 「好青年?ヒマワリ、それはちょっと」 「人は極端な生き物ではありません、色々と抱えるモノです」 「うーん、本気で裏家業はしたくないわ」 「まあ悪い人々には良い薬です」 「うむそれは確かに」 「なんか良薬口に苦し?」 「正直ね悪さはしないほうが無難、大抵ろくでもない結果だから」 「重みがあるなぁ」 「ある意味悪くない経験かもしれませんね」 「ある意味の点だけね」 「賑やかな夕食か――久方ぶりだな」 「まあ今日から休暇だ、好きに過ごせタイムはちょっとした冒険かな」 「冒険それは少年を強くし、少女を輝かせると言う落ちのストーリーが」 「どのみち過ごすわけだしね、それなりに調べておく必要があるわけ」 食後は賑やかな談話、怒らなければ温厚な穏和、そんな青年のために話す三人もある意味安心。 ――決して悪くない時間が過ぎる、タイム前に眠り、タイム前に各自の部屋で置き装備を確認する、その後に携帯ではダウンロードし、いつも集まる二階に集まる。 「ショータイムだ」 時間になり四人が刹那の時間に入る、相手は喧嘩する相手ではないことに示談のお話、ペコペコと頭を下げ、これから駆除に向かおうとした青年と話し合い、チンピラ一同は町から消える。 「さてといよいよ困った、あの影の骸骨はいったい」 「うむ、参った連中ではないなら、誰が」 「と言うよりあの連中のところに行きませんか?」 「え?いや瀬川」 「師匠、何ですかそのえ?って!」 「いやあれを見た後に近寄られても現れるか」 「この!」 「まあ試しにいってみましょう」 「いや必要ない、またお会いしたな暁時雨」 窓から霧となり室内で具体化する吸血鬼、アシュレイ・ブフ、紳士そうな服装に気高そうな気品ある顔つき、時雨とは違ったやや古風かもしれないが男映えする美男子、時雨が気まずそうに挨拶し、飲み物を出す、ソファに紳士が座り、困った顔で一枚の招待状を取り出す。 「色々一族の者と話し合ったが、出来れば我が一族に加わらないか?」 「出来ぬ相談だ」 「残念だなお主がいれば、こんな世界でも楽しめるのに」 「たまには店に来い」 「うむ、噂では裏から土地を押さえ商売を発展させる気らしいな、さらに噂では武器を持ったトーナメントがあるそうだな、そこでだが私も参加していいか?」 「ああ大歓迎だ!」 「うむ!この様な辺鄙な土地でも暮らしてみるモノだな面白い、そこでなのだが我が一族から吸血鬼の服を購入しないか、一族が増え何かと物いりで」 「是非!」 「ただ一つあの少女だけは」 紳士の美男子が若干怯えるような顔、それに乙女のハート木っ端微塵の瀬川、ヒマワリが「あ」 「いやもちろん失礼とは思う、しかしあれをもう一度やられたら我が一族は逃亡しかねん」 「ああ、瀬川そう言うわけであれは改めろ」 瀬川はドンと落ち込み、自虐的な笑いではなく、悲しみに暮れ、ポロポロと涙する、ヒマワリがあやし、吸血鬼でも恐れる瀬川の自虐ネタ、破壊力抜群、青年は引きつった。 「済まぬな、我が一族も西方より追われた身」 「何か?」 「古の地で戦に敗れ落ち延びたのだ、そこの斎賀の様に流れたわけではないのだ」 「苦労したな」 「古い話よ、しかしかえってよかった、この地で夜を見続ける我々の幸せだ」 「そうだな永遠の夜、そうか吸血鬼の世界だったのか」 「ああ太陽におびえる生活もない安住の地、そう新天地だ、至宝とすらいえる」 「ええ!太陽さんが何か?」 「吸血鬼は太陽光を浴びれば灰だ、その斎賀の剣が太陽の剣、太陽の加護を与える伝説の聖剣」 「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「うむ普通はそうだ」 「そう言うモノだ」 「へ、へー、じゃここは吸血鬼の生地?」 「分からぬ、長きに流離い調べたが分からぬことだらけ」 「うん?ということはどこまで続く?」 「知らぬ、おそらく地球すべてと予想される」 「じゃあの骸骨は」 「骸骨?何の話だ」 (バカな!知らないだと!)――青年が初めて困惑と戦慄、それに全員が戦慄した。知らない為に大変な間違いが存在しかねない別世界でもあるのだ、それは言いしれぬ恐怖にもなる。 「そういえばヒマワリの場合、骸骨さんは出ませんでしたわ」 「何だと?何かここは本当に吸血鬼の世界なのか!」 「もしかすれば聖杯かもな、叡智を持ってこの世界を生み出した魔神」 「バカな、聖杯などまやかしの虚像にすぎぬ、真に忌む破壊神の復活のみに意味する物」 「そうか知らぬか、話してなかったが確かに神は闇に落ちた、しかし人を愛した、分かるだろう、神を捨て人となった、それ故に感情持ち戦に望んだ、それは人と神の戦、父なる神は」 「そうかつまり光こそ神、闇こそ人の世界から来訪したか」 「正直好きになれぬ、そもそも人も神も何の差があり光闇と言う?」 「本音を言おう、そういう者を都合よく排除する方便ではないのか?」 「かも知れぬな、今となれば分からぬことだらけ」 「たぶん、完璧な世界に生まれる異分子ではないですか?」 「かも知れぬな、今となればか、切ないな」 氷のような少女が初めて大粒の涙を流し、声を上げず崩れ落ちた――分かってしまえば単なる追放劇、単なる厄介払い、それを見抜く漆黒のみ強かに生きていた。 「蒼穹よ、人、魔、神、確かに違う、しかし季節は巡り、人は老い、魔は疲れ、神は抜け殻となる、移ろう時代、移り変わる人、時代、季節、そう時は流れから多様に変わる、永遠の旅人もそれを見続ける偽りなき涙なのかもしれぬな、痛みを知り、人を愛す」 ――泣き崩れる少女はコクリと頷き、少し時は流れる、涙した少女は少し微笑む顔の瞳の感情が僅かに宿る、そうやって生きる者は永遠の旅人、永遠の旅路、巡り会った者―― 四月七日。紡がれる一日――巡り会う季節の始まり。 ――湾岸を購入し、建設中の施設、四人で切り盛りするために大きくは作らず、様々な商売を行う青年のマスターの為に建築家も悩んだが、そう愛想の悪いコンクリートから、愛嬌のある木材、それに真新しい素材を加え、軽い公園の様な浜辺を完全に解放する前提の、そう極普通の自然的な何とも嬉しい憩いになる、青年の商売から武の試合までの一つの施設。 ――青年は暁・時雨、良くも悪くも引退後の生活を興す青年、二十歳を過ぎ二十一歳、十六歳からの裏家業、二十歳で辞めた少年の成長後、平凡な人ではないかもしれないが、平凡な昔を懐かしむマスター、荒々しく、厳つく、隻眼の上にタトゥーは煌めく、体格も大きい――人並みの幸せを求め、ただ当たり前の生活を送ろうとする極普通の少年の後、変わったのは少年ではなく、少年が当たり前に送るはずだった今だったのかもしれない。故に青年は笑うのかもしれない、そう過ぎ去ったかもしれないが今はあり、青年が食卓を共にする者が居る今を大切に思い、大切に守りきった事件の後、極普通の人並みに荒波の過ぎ去った後―― 巡った者の共にする者は、今は日常的な生活の世界にいる。極普通の学園生活――青年にはなかった平穏な暮らし、ただそれ故に巡り会った三人はそれぞれ日常を重ねる。 ――桜花乱舞の桜舞う季節は巡った。巡ったは紡がれる散りに行く定め――青年はそれを変え 変えた日常は今紡がれる、それは青年が知れない、しかし知る者は居る―― 一人の人間の少女、一人の吸血鬼の少女、一人の詩聖の少女――そんな隻眼の青年が見送り、彼女達の始まりが始まり、隻眼の青年が待つ側になり、一つ青年は描いた日常の断片を飾る。 「やれやれ」 ひと騒動が終わり、青年は致し方なく出店から始める、そう片づけられた店舗はあり、また一からやり直し、たが笑う顔は爽快な笑顔で心地よさそうな波音、それは一つの始まり。 青年はある想い出を思い出すすべてを捨て愛した人、その人はたった少しの間かもしれないが不器用にもある結論を青年に告げた、すべてを捨て、すべてを失い、その上でまた出会うと。 不器用な生き方の者、青年はただ生活を送り、ただ待ち侘びるその日。 ――僅かな時,ほんの少し幾年と続いたお伽噺の一つが終わった。蒼穹と青年は巡り戦う日々を少し笑い、少し変えた、ただ変えただけで二人は変わり、待ち侘びる青年、紡ぎ始めた詩聖の蒼穹、それは昔からの馴染みが足を洗うにとても似ているようで、黒衣の漆黒が伝えたかった思いとも青年には思える、あの少女は直情的に行動するかもしれないが、それはとても懐かしい青年の昔で、彼女は常に怒り、そんな日々がどうも好きだった――出会うそれを待つ日々。 |
宮城信太郎 softbank218113235036.bbtec.net 2009年04月26日(日)15時30分 公開 ■この作品の著作権は宮城信太郎さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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