木語

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木語:沈まぬ中国潜水艦=専門編集委員・金子秀敏

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 中国の艦隊が沖縄と宮古島の間の宮古水道を通過した。潜水艦2隻は浮上していた。日本では、中国が日本を威嚇したと見る報道が多い。

 「(潜水艦は)浮上航行し、誇示するように赤い中国国旗をなびかせていた……外洋で潜行する潜水艦が姿を見せるのはきわめて異例……『庭先』で中国の海軍力増強を見せつけられた日本。中国への抑制姿勢を変えつつある」(毎日新聞4月18日朝刊)などだ。

 この艦隊は中国海軍の東海艦隊(司令部・浙江省寧波)に所属している。母港は上海に近い舟山列島。駆逐艦、護衛艦、補給艦8隻と潜水艦2隻の計10隻が、年次計画の遠洋航海のために編成された。

 艦隊は、東シナ海から宮古水道を抜け太平洋に出ると、そのまま直進し、沖ノ鳥島周辺に達した。そこで演習をして、同じルートで帰投した。

 グーグルアースで航跡をなぞれば演習の目的は一目瞭然(りょうぜん)だ。寧波-宮古水道-沖ノ鳥島は一直線。その延長線上には米軍基地の島グアムがある。中国艦隊は最短コースでグアムを目指したのだ。

 宮古水道は日本の排他的経済水域(EEZ)だが、中央部は領海ではない。どの国の船舶も自由に航行できる公海である。

 たとえ領海でも、すべての船舶は「無害航行」の権利がある。ただし潜水艦だけは「領海においては、海面上を航行し、かつ、その旗を掲げなければならない」(国連海洋法条約第20条)というルールがある。

 潜水艦が浮上して国旗を立てるのは無害通航のサインである。無害通航の条件を守っている外国船舶が領海に入ったとしても、沿岸国は「無害通航を妨害してはならない」(同24条)のだ。

 中国海軍が東シナ海から太平洋に出るには、日本本土-沖縄-台湾という「第1列島線」を通過しなければならない。中国紙によれば、中国海軍が太平洋に出る国際海峡は「大隅海峡、宮古水道、横奄水道、与那国島西海峡の4海峡」。なかでも宮古水道が一番通りやすい。

 3月には北海艦隊(司令部・山東省青島)所属の遠洋艦隊がやはり宮古水道を通過し、台湾東岸の沖合を南下した。さらに南シナ海に入り南沙諸島を経てマラッカ海峡の手前まで遠征した。

 今後、宮古水道は中国艦隊のゲートになる。中国潜水艦がほんとうに国旗を誇示したのだとすれば、見せようとした相手は自衛隊ではなく太平洋の米軍だろう。中国艦隊はなぜグアム方向を目ざしたのか、なぜ台湾の東側に出たのか、考えれば答えはすぐ出る。

毎日新聞 2010年4月29日 東京朝刊

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