前原誠司と小沢一郎の不仲は公然の秘密である。先週、高速道路の通行料をめぐって火花が散ったが、ドラマには隠された前編があった。
昨年12月24日午後、首相官邸で首相動静には載らない秘密会合が開かれた。主な出席者は首相、官房長官、国土交通相(前原)と小沢の腹心・高嶋良充民主党副幹事長である。
小沢は、あらかじめ首相に提出した要望書で、料金割引制度の設計を変更し、浮いたカネで高速道路の建設を促進するよう求めていた。言わずもがな、参院選対策である。
会合の目的は党の要望に対する政府の意思確認だった。合意文書案の中に、今後の高速道路整備では「国が高速道路会社に対し支援する」というくだりがあった。不採算路線でも税金をつぎ込む、と読める。高嶋が署名を促したが、前原は拒んで席を立った。署名は官房長官と副幹事長がした。
民主党の公約は「高速道路は原則無料化」だが、財政難には勝てない。部分実施の「社会実験」で影響を探ることにしたが、その実験も予算不足でチャチなものになった。まして不採算路線建設なら「コンクリートから人へ」の看板が泣く。
前原はしぶしぶ、料金割引の財源を道路建設に回すための法改正を準備した。無残に縮小された無料化実験路線の発表が2月2日。「上限1000円」の通行料割引をやめ、「上限2000円」にするという発表が4月9日である。
ドラマの後編は先週21日、小沢が官邸に乗り込む場面から始まった。与党幹部と首相、官房長官との公式協議だ。「値上げはダメだ」と小沢がほえた。前原はいなかった。
自公政権で始まった今の通行料割引は、普通車の場合、「ETC(自動料金収受システム)搭載なら、休日に限り、どこまで走っても1000円」だ。それが6月から「ETCなしでも、休日でも平日でも、上限2000円」になる。
参院選は7月。新料金は、平日の長距離利用で割安感が出る半面、近距離利用は負担が増える。近場で稼ぐ中小のトラック業者の間に反発が広がった。民主党の国会議員が騒ぎだし、小沢が動いた。
小沢の言動は、一方から見れば矛盾しており、他方から見れば一貫している。新料金は「料金割引の財源を削ってでも高速道路をつくれ」という小沢の意向から生まれた。自ら覆すのは矛盾に違いない。
だが、選挙至上主義という点では一貫している。小沢は政権交代を通じてトラック協会を味方につけた。せっかくの仕掛けも参院選で動かなければ意味がない。小沢はその一点だけを見つめている。
ドラマは終わっていない。小沢が官邸を訪れた翌日、前原も首相に会い、「現時点では(新料金は)見直さない」と伝えて了承を得た。「現時点では」と断るからには、いずれ小沢に屈するのだろう、6月の料金変更も見送りではないかという観測が流れている。
高速道路をめぐる混乱は、何も決まらない「鳩山劇場」のサエない新ネタとしてマスコミをにぎわせている。
例外的に果断な剛腕幹事長の選挙至上主義は日本再生の希望か、権力掌握の妄執か。週明けの27日、検察審査会が、政治資金規正法違反事件をめぐる小沢の不起訴処分の当否を判断する可能性がある。政界の緊張が高まっている。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
毎日新聞 2010年4月26日 東京朝刊
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