<エコ・エコ>
この春まで約1年間、語学研修でドイツに滞在した。3歳の娘は現地で幼稚園に通ったが、遊んだおもちゃを元の場所に片付けないと、先生は徹底的にやり直しをさせる。確かに当然のマナーではあるが、日本的感覚からすれば「そこまで怒らなくても」というほど厳しい。「犬と子供のしつけはドイツ人に任せろ」と彼らは笑うが、なるほど、整理整頓への情熱は並大抵ではない。
ドイツ語の授業で使う留学生用テキストも興味深かった。「文学」「経済」など各章のテーマの中で、「環境」ではゴミの分別の説明に時間をかける。「旅行」では、バッグへの荷物の詰め方、整理の仕方にまでページが割かれる。留学生にとってはむしろドイツ人気質がよく分かるので、文学などより面白い。「環境大国」の根底に、この国民性があるのは確かだろう。
とはいえ、彼らも1950~60年代の高度成長期には日本同様、大気汚染など環境悪化に悩んでいた。当時を知るお年寄りは「ライン川もどぶ川だった」と振り返る。その後、国を挙げての対策が進み、02年には有名な「脱原発」まで法制化した。
だが状況は変わりつつある。地球温暖化が課題の今、発電の際に温室効果ガスの二酸化炭素を排出しない原発に再び注目が集まってきた。留学中に垣間見た昨年のドイツ総選挙では、この問題が争点に浮上。結局、原発運転延長を唱える中道右派が勝利した。
選挙期間中、脱原発は連日議論され、書店にも関連本が並んだ。一通り手に取ってみたが、環境大国も相当悩んでいる。それがよく分かった。
と思って書店を出ようとした時、店員に声をかけられた。「読んだ本は、元の場所に戻してください」
毎日新聞 2010年4月23日 東京朝刊