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発信箱:沖縄の心=三森輝久(西部報道部)

 沖縄の心--。沖縄県民の気持ちを表す言葉として紙面にも度々登場する。139万県民の心を一つにくくる乱暴さを棚に上げて使われるのは、独立王国として栄えながら日本に侵略され、せい惨な地上戦の果てに本土から切り離されて、異民族統治下に入った島の歴史があるからだろう。

 この言葉の内実を、沖縄の新聞記者は歴代沖縄県知事に度々問うてきた。リーダーの解釈に、その時々の沖縄の立ち位置や沖縄人の哲学が表れる、と考えるのだ。

 有名なフレーズは、衆院議員から転じて3期12年務めた故西銘順治さん。本土復帰から13年過ぎた85年、「沖縄の心とは何か」と問うた新聞記者に「ヤマトンチュー(本土人)になりたくて、なり切れない心」と答えた。本土への同質化志向と、沖縄人の自我に揺れる悲しみ。含蓄に、うなる。

 95年の沖縄少女暴行事件当時、知事だった大田昌秀さんは「平和を愛する共生の心」。沖縄戦で鉄血勤皇隊として学徒動員され、地獄を目の当たりにした大田さんの半生を投影する。その大田さんを破って当選した稲嶺恵一さんは「異質な物を溶け込ませる寛容さ」。宮里藍さんや安室奈美恵さんら、スポーツ、芸能界を席巻した沖縄出身の若きスターの登場に、沖縄ブーム。西銘さんににじんだ悲哀はなく、むしろ異質であることの誇りと自信がある。

 そして、現知事の仲井真弘多さん。知事就任直後の記者会見で「うーん」と頭を抱え「宿題にさせてください」。確かに難問なのだ。昨年5月の記者会見で再び問われ「3人の知事さんを足したような感じ」。地元紙コラムは「肩すかしを食わされた」と手厳しかった。期待した普天間飛行場の県外移設が頓挫した今、何と答えるだろう。5月15日は沖縄本土復帰の日。知事、また聞かれますよ。

毎日新聞 2010年5月11日 0時02分

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