金言

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金言:第2ラウンドに注目=専門編集委員・西川恵

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 来月3日から米ニューヨークで核軍縮と核不拡散の実施状況点検のための核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。昨年来、オバマ米大統領が打ち出してきた核イニシアチブはこの再検討会議で第1ラウンドを終わる。

 昨年4月、大統領は「核なき世界を目指す」と表明したプラハ演説で核イニシアチブの口火を切り、1年後の今月6日、「核態勢見直し」(NPR)を発表して核の役割を縮小した。2日後にはロシアのメドベージェフ大統領との間で新核軍縮条約に調印し、12、13両日、47カ国首脳を集めた核安全保障サミットを主宰した。

 米国のルース駐日大使が昨年10月、広島の原爆慰霊碑に花を手向け、原爆資料館を見学したのも、この脈絡の中で解すべきだろう。

 プラハ演説は核廃絶の長期的な道筋を示し、NPT再検討会議は現実的な核拡散問題に取り組む。NPTを軽視していたブッシュ前大統領は05年の前回会議は局長級の国務次官補にとどめたが、今回はクリントン国務長官が送り込まれる。オバマ大統領の意気込みがうかがえる。

 他の核保有国は核廃絶の理念に表向きは反対してない。英仏は「米露には圧倒的数の核弾頭がある。相当レベルまで削減したらこちらも減らす」というのが公式的立場。ただ内心は複雑だ。仏ルモンド紙(4月16日付)は「核廃絶は米国を利することで専門家は一致している。巨大な産軍複合体を抱える米国は、通常兵器では圧倒的優位にあるからだ。他の核保有国、特に中国にとって核廃絶は何の魅力もない」と書く。

 しかしオバマ大統領の核イニシアチブは世界の世論を引きつけている。そしてこれは米国の信頼と正統性の回復に大きな外交資産になる可能性があると私には思われる。

 戦後、西側世界にとって米国は世界秩序安定の最後のよりどころでもあった。暴走もあったが、全体として見れば自由と民主主義の深化と拡大のために米国は行動していると信頼し、その役割に正統性を与えてきた。

 しかしこの10年、その信頼と正統性が揺らいでいた。前政権の単独行動主義とイラク戦争、さらに米国発の金融危機。世界を不安定にしているのは当の米国ではないかとの思いだ。ただ大統領の多国間主義への転換に加え、核イニシアチブは米国のイメージを刷新する力を秘めている。それが冷徹な国益に基づく主導力だとしても、だ。

 大統領が第2ラウンド以降をどう展開させるか注目しよう。恐らく広島訪問も念頭にあるはずだ。

毎日新聞 2010年4月30日 東京朝刊

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