財政規律の問題を先送りする選択肢はない/谷垣禎一(自由民主党総裁)、田原総一朗(ジャーナリスト)Voice5月10日(月) 12時28分配信 / 国内 - 政治
◇自民党と民主党はどこが違うのか◇ 田原 自民党では離党が続きました。報道によると谷垣さんは、与謝野さんが離党したときに新党参加者を引き止めなかったそうですね。 谷垣 離党者を出さないように丁寧にやってきたつもりですが、全員を留めるのはやはり難しい。自民党の体質を変えるための生みの苦しみという部分もあると思います。与謝野さんは新党結成の覚悟を月刊誌に発表されてもいた。私も10年前に加藤の乱を経験しているから、与謝野さんに「自分の慕っている人が突っ走ったとき、困る周りの人がたくさん出てくると思いますよ」といいました。すると与謝野さんは、「加藤紘一さんはあのときあそこまで倒閣を言い切った以上、党を出ないといけなかったんだよ」、と。そう言い返されると、慰留する理由がなくなります。 田原 民主党政権に対する国民の失望感が広がっています。本来は自民党への期待が高まるはずなのに、自民党の支持率は伸び悩んでいます。なぜだと思いますか。 谷垣 離党などが相次いだことで、求心力が失われた部分もあるでしょう。しかし、より本質的には、自民党政権の末期から、社会の閉塞感を打破し、こうすれば未来に希望のもてる社会が築けるという処方箋を提示しきれなかった。昨年の政権交代は民主党への強い支持というより、自民党政治に対する国民の批判、不満がそれだけ高かった。残念ながら、まだ失った国民の信頼を取り戻せていないということだと思います。 しかし風向きは明らかに変わってきました。総選挙で敗北した直後は「反省しろ」という声がほとんどでした。それが「徹底的に戦え」となり、最近は地方を回ると「自民党が与党ならどうするのか」という声が圧倒的です。 田原 国民がいちばん知りたいのはそこです。民主党が野党だったときに、僕は菅直人さんや鳩山由紀夫さんに「民主党は自民党とどこが違うのですか」と何度も聞きましたが、ほとんど答えられなかった。逆に、いまこそ谷垣さんに聞きたい。自民と民主はどこが違うのか。 谷垣 まず、政策の基になる現状認識がかなり違いますね。現状認識が違えば、問題解決の方法、道筋もおのずと異なってきます。 外交安全保障からいうと、日米同盟の捉え方が基本的に違う。中国が存在感を増し、軍事力の近代化も強力に進めています。中国を日本の脅威にしないために、日米同盟が大きな役割を果たしています。 そこで日米同盟を弱めてしまうと、言葉は悪いけれども日本は中国から軽くみられる可能性が高まると危惧しています。経済の重要なパートナーである中国とうまく付き合っていくためにも、日米同盟の意義は大きいのです。東アジア共同体という鳩山総理の発想は必ずしも間違っているとは思いませんが、それ以前に外交安全保障の基本である日米同盟の認識が甘すぎます。 田原 鳩山さんは「いままでの日米関係は冷戦のときにできたものである。だから冷戦が終わり、オバマ大統領が登場したいま、新しい日米関係を構築しなければならない」といっています。谷垣さんはどう思いますか。 谷垣 日米同盟ができたのは冷戦のときですが、いまもそのまま冷戦時代の構造を引きずっているわけではありません。2001年9月11日以降、アメリカもテロで攻撃される時代に突入しました。日米同盟の色合いもそこで変わってきたと思うんです。 9・11以降の日米同盟は、日本側も憲法9条の枠内で何ができるかを考え、実態に即して変えるよう努力してきました。さらに日米同盟が東アジア地域に平和と安定をもたらすインフラとして機能していることに変わりないわけです。しかし鳩山総理のいう新しい日米関係は、日米同盟の本質が抜け落ちてしまっています。 田原 もう一つぜひ聞きたい。たとえば仮に中国が台湾を攻めるとする。当然、アメリカは台湾を守りますね。そこで中国が、アメリカの軍艦を攻撃した。その場合、日本はどうしますか。 谷垣 日本にとってはいちばん嫌な状況で、アメリカの軍事行動に簡単にはコミットしにくい。日本は、中国が軍事行動を起こさないようにしていくことが先決ですし、その抑止のために日米安保があると思っています。 田原 もちろんそうです。ただ、何かが起きたときに日本はどうするのですか。集団的自衛権を行使するのですか、しないのですか。 谷垣 現憲法の下では、やはり難しいと思いますが、いざとなれば集団的自衛権の行使も選択できる体制は整えておくべきです。「自主憲法制定」のなかで、集団的自衛権の行使についても検討するつもりです。 ◇社会保障の安心・充実は成長戦略として重要◇ 田原 そのほかに、民主党と現状認識で大きく異なることとは何でしょうか。 谷垣 やはりいまの日本の財政状況です。日本の租税負担率が国際的にみても低い水準にある一方、社会保障費は急激に伸びています。高齢化社会で国家財政がますます逼迫していくなか、社会保障費をどう捻出するか。われわれは小泉政権時代に無駄を省く改革に取り組んできました。次は、さらにその先の段階に進んでいかねばなりません。ところが民主党政権は相変わらず無駄を省くことに執着し、事業仕分けのパフォーマンスで人気取りをしています。 また、産業の空洞化という現実があります。大学を出ても、あるいは高校を出ても就職先がない。厳しい経済環境下でいかに経済を成長させて雇用を創出していくのか。民主党とは異なる現状認識から、自民党にしか出せない処方箋で違いを明確にするつもりです。 田原 たしかに財政再建は差し迫った政治課題の一つです。谷垣さんは当然、消費税を上げるべきだと考えていると思います。いつどのくらい引き上げますか。 谷垣 財務大臣のときは、10%程度は必要であるという表現をしていました。しかしいま、財政状況は当時よりさらに悪化しています。参院選のマニフェストには具体的に明示したいと思います。 田原 谷垣さんは慎重すぎると思う。たとえばイギリスやドイツやフランスは15%から20%ほど、スウェーデンは25%ですね。日本の5%は少なすぎる。10%でも少なすぎると思う。本当はどのぐらいを考えているのですか。 谷垣 現実としては、そういうことも考えておかなければいけないと思います。ただ、いま日本経済は低迷していますから、時期は慎重に考える必要があります。やはり景気が好転してからということになるでしょう。喫緊の政治課題ではありますが、時間の猶予がないわけではありません。いま、これだけ財政状況が悪くなっても、なぜギリシャのような状況に至らないのか。国の国債残高(借金)のGDP比でいうと、ギリシャをはるかに超えているにもかかわらずです。要因の一つは消費税増税の余地が残されていて、政治がきちんと決断すれば、財政規律の問題は解決法があるはずだとマーケットが判断しているからだと思います。 田原 小泉さんは「自分の政権では消費税を上げない。その代わりに思い切って構造改革をやる」といいました。次の安倍政権で上げると思っていたのですが、福田政権、麻生政権でも消費税率を引き上げなかった。なぜ上げられなかったのですか。 谷垣 麻生政権では消費税の増税路線に転換していました。先の衆院選のときに出した「政権公約2009」でも、消費税を含む税制の抜本的改革について、平成23年度(2011年度)までに必要な法制上の措置を講じると明記しました。税制改革は福田政権のころから準備をし、麻生政権でようやく日の目をみるところだったのです。問題を先送りする選択肢はないと断言できます。 田原 もう一つ民主党と自民党の違いを強いて挙げれば、民主党はバラマキ政党、よくいうと「福祉政党」ですね。たしかに福祉も大事だけど、国民がいま切実に求めているのは、景気回復です。経済政策こそ自民党が民主党に対抗して真っ先に打ち出す政策じゃないですか。 谷垣 おっしゃるとおりです。民主党政権は子ども手当など直接給付の方向に傾いていますが、これでは配分した以上の需要や雇用の創出効果は見込めず、ただ歳出が増えるばかり。経済を成長発展させないかぎり、雇用も所得も税収も増えません。 田原 自民党はどうやって経済を成長させますか。 谷垣 やはり企業が発展していく条件をつくらなければいけないと思います。これは二つあると思います。一つは、生産性を上げること。人口が減っていくなかで経済を発展させるために、これは必須です。そのためには、さらに科学技術力を高めていくことが、基本条件になるでしょう。その意味で「なぜ、スーパーコンピュータが一番でなければならないのですか?」という問題意識は、非常に愚かだと思います。 二つ目は、景気が厳しい地方へお金が回る仕組みを創り出すこと。従来は公共事業だったり、米価だったりしたわけですが、もはや国に再構築できる余力はありません。医療、介護、環境などの成長分野で雇用を創出する施策に重点を置くことで、地方経済を活性化させます。 また、解決策のもう一つは、社会保障に対する不安を取り除くことでしょう。社会保障政策は、高齢者が数多く住んでいる「地方」にお金を回す仕組みでもあるわけです。これは消費税とも関連してきますが、社会保障の安心・充実は、成長戦略としても重要だと思います。 ◇普天間問題で鳩山政権を徹底的に追い込む◇ 田原 谷垣さんの話は筋が通っていますが、しかし政治家、とくにリーダーは論理だけではダメだと思うんです。たとえば小沢一郎さんも、小泉純一郎さんも、あえて言葉を選ばずにいえば、ある種の狂気がある。二人とも何をするか読めない。盟友を切る非情さももち、一度決めたら、どんなに批判されても強引にやり抜く。 谷垣 私はできるだけ真っ当なわかりやすい政治を心掛けているのですが、それだけでは足りないと田原さんはおっしゃるわけですね。 田原 怒ったら何をするかわからないというところがない。3月の党首討論でも谷垣さんのほうが筋は通っている。けれども、たとえば鳩山総理は、普天間問題を3月に決めるという前言を翻して5月末の期限を示して「腹案は用意してある」と発言しました。なぜあの場で「腹案がなかったらどうするんだ」「1カ月半で決まるわけがない」と声を荒らげなかったのですか。5月末までに決着できなかったらどうしますか。 谷垣 それはやはり、辞めてもらわなければいけません。 田原 いかに辞めさせますか。辞めてもらうといっても、自民党が辞めさせなければいけません。 谷垣 院内で徹底的にやることも必要でしょうし、内閣不信任案を、どのタイミングで出すかです。 田原 しかし、それは多数決で否決されてしまいます。今度は審議拒否をしたり、あるいは国会内にバリケードをつくって抵抗したりする覚悟はあるのですか? 自民党は先の2月の審議拒否も中途半端でした。 谷垣 しかし、日本は成熟した民主国ですからね。 田原 谷垣さんがそれくらいの蛮勇を発揮すれば、事態は大きく変わるはずです。舛添要一さんは「もっと暴れろ」と執行部批判を繰り広げましたね。 谷垣 もちろん、普天間問題は本当に正念場だと思いますから、火の玉になってやります。街頭活動を行なって、世論に訴えてもいいでしょう。会期末までには党首討論もありますし、徹底的に民主党政権を追い込んでみせます。その余勢を駆って参院選に突入します。今度の参院選は自民党と民主党のどちらが頼りになるかという戦いです。絶対に負けられません。 【関連記事】 ・ 消費者庁vsアップル社 山形浩生 ・ われらが「天下獲り」戦略 渡辺喜美、菅 義偉、 長谷川幸洋 ・ 財務省の破綻論には裏がある 高橋洋一 ・ 日本はギリシャより財政危機? 上野泰也 ・ 打ちひしがれる超大国 日高義樹 ・ 目先の選挙目当てにバラマキ政策を行なう愚 山田 宏(日本創新党 党首)×田原総一朗
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