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ギリシャの財政危機に端を発する欧州の動揺が世界の金融市場の混乱を招いた。欧州そして先進諸国の協調がようやく本格化したが、危機対策の真価が問われるのはこれからだ。
財政悪化に苦しんでいるのはギリシャだけではない。欧州には他にも問題を抱えた国々がある。それらの国債を大量に保有する欧州の銀行の経営が不安視され、銀行同士が互いを信用できず必要な資金が取れなくなることへの懸念が高まっていた。
世界の国々が協力して危機の連鎖を防ぐのは当然のことだ。それにとどまらず、経済に比べて各国の政治的足並みがそろわないというユーロ圏の構造的な弱さの克服に向けて、この際全力を挙げる必要がある。
ギリシャ危機については、すったもんだの末、欧州連合(EU)のユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)が総額1100億ユーロ(約13兆円)を拠出することが決まった。しかし、市場の動揺は収まらなかった。
そこで、EU加盟の27カ国は緊急の会議を開き、5千億ユーロ規模の基金を作り、IMFの支援とあわせて最大7500億ユーロ(約90兆円)も緊急融資できる仕組みを整え、資金繰り難の国を支えることにした。
これに連動して、欧米と日本の六つの中央銀行は、銀行同士が資金を融通しあう短期金融市場にドル資金を潤沢に供給すると発表した。
2008年秋に米証券大手、リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)したときと同様の対策である。世界同時不況の引き金となったリーマン・ショックの二の舞いを恐れたからだ。
これらの措置は、金融市場や株式市場のこれ以上の混乱を防ぐために必要不可欠だ。この国際協調で市場の混乱を収め、回復しつつある世界景気に水をささないようにしたい。
だが、楽観できない要素もある。市場が短期的な資金繰りの問題だけでなく、ギリシャの支払い能力そのものを疑問視していることだ。
多額の支援を受けてもギリシャは立ち直れず、国債は債務不履行に陥り、元本や金利が返ってこないのではないか。そんな疑心暗鬼が消えていない。ギリシャの政府債務の多さや産業の弱さなどをみると、無理からぬ面もある。それはポルトガルやスペインなどに対する不安にもつながっていく。
この疑念は結局、ユーロ圏諸国が放漫な国をいかに律するかという重い課題に答えを出さない限り、ぬぐい去ることはできないだろう。
EUは今回の危機をきっかけに域内の本格的な財政調整の仕組みをつくるべきだ。それがユーロ圏を一つの連邦にまで発展させていく新たな一歩となる。そうした展望も描いてこそ、世界の危機防止の態勢づくりは進む。
子どものころ、集団で受けた予防接種で注射器を使い回されたことなどが原因で、B型肝炎に感染した人たちの一日も早い救済を進めたい。
全国10地裁で患者ら420人が国に損害賠償を求めている。札幌、福岡の両地裁が和解勧告をしたのを受け、政府は和解協議に応じる方針を決めた。
話し合いを始めるのは当然だ。
注射器の使い回しの危険性はわかっていたのに、1988年に針と筒の交換を指導する通達を出すまで、長期間事実上放置した。
06年、最高裁は患者ら5人が起こした訴訟で、集団予防接種が原因として国の責任を認め、1人550万円の賠償を命じた。今年1月施行の肝炎対策基本法も、予防接種が原因のB型肝炎について「最終の司法判断において国の責任が確定している」とした。
予防接種禍の被害者には何の責任もないのに、発症すれば肝硬変や肝がんの危険にさらされる。亡くなった人や余命わずかな人もいる。その怒りや悲しみをしっかり受け止めて、政府は協議に臨むべきだ。
和解協議の焦点は、救済対象となる患者をどんな基準で認定するか、一時金の水準をどうするかだ。
接種の記録は母子手帳で確認できる。ただ、長い時間がたって手帳を保存していない患者は多い。母子感染でなければ、原因は接種だと推定できる。だが、母親が亡くなっていれば、それを確認するのも難しい。
原告患者側は、予防接種が義務づけられた48年から88年までに6歳未満で、母子感染ではない患者・感染者を広く対象にするよう主張している。賠償額については薬害C型肝炎での一時金(症状に応じ4千万〜1200万円)を基準とするよう求める。
B型肝炎の患者は約9万人、感染者は100万〜130万人と推定される。認定基準をゆるやかにすればするほど、賠償額はふくらんでいく。国は、訴訟で対象の絞り込みを主張しており、原告との隔たりは大きい。
札幌地裁は和解勧告で、「救済範囲を広くとらえる方向で判断」することを求める一方、「合理的な救済金額を定める」とも述べた。
難しい協議になるだろうが、問われているのは、人の命と向き合う政府の姿勢である。ならば、和解内容に一時金だけではなく、肝炎対策基本法などを踏まえ、より手厚い肝炎対策を、総合的に盛り込んではどうか。
早く感染を見つけて、ウイルスをたたく治療を促す。最新の治療法を適切に取り入れる。より効果的な治療法開発の研究に予算をつぎこむ。重症化する患者を減らせば、全体のコスト減にもつながる。
話し合いを粘り強く積み重ね、合意点を見つけてほしい。